ホントウの勇者

さとう

憩いの町ポートレード⑤/仕事の辛さ・恐竜肉



 最高級フルコースの翌日。俺はまだ夢見心地だった


 リリの歌を聞いてから心がフワフワする。まるでヤバい薬でもキメたかのような浮遊感


 「······リリってスゴいな」
 「······確かにね。まさかあそこまで人を惹き付ける歌を歌うなんて、ある意味恐ろしいわ」


 ベッドの上には氷寒のみ。あとの2人は別の部屋で寝てる
 酒も入っていたし、リリの歌が子守唄になったのか、帰っで来るなりすぐに寝てしまった
 氷寒は酒に強く、しかも眠くならないタイプ。きっちりと夜の相手をしてくれた


 「今日の予定は?」
 「······今日は自由行動、黎明はリリとコノハとお買い物。虫菜は遊技場、私はここで読書してるわ。あなたは?」
 「俺は冒険者ギルドに行ってくる。昨日のウミヘビの甲殻の料金をもらってくるわ」


 買い物、遊技場、読書、ギルドか。見事に別れたな




 さて、今日も1日のんびりするかね




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 「え〜っと、ここか」


 俺は1人と2匹でこの町の冒険者ギルドへやって来た
 全ての町の共通なのか、町の中心にギルドは集中してる。素材の買い取りは商人ギルドだが、討伐報酬も出るのでまずは冒険者ギルドへ


 「お⁉ 我々の英雄が来たぞーッ‼」
 「冒険者ジュートだ‼ みんな冒険者ジュートが来たぞーっ‼」
 「【灰】の伝道師、冒険者ジュートだーッ‼」


 なにこれ。ちょー熱烈な歓迎なんですけど
 俺は冒険者グループに引っ張られて受付へ。クロとシロはギルドの外で待ってた


 「あ、あの······これは一体?」


 受付のお姉さんが苦笑しながら事情を説明する


 「え〜っと、あなたが昨日討伐して寄付したSSレートの食材がもの凄い高額で売れてね······あなたの言葉通り、傭兵団だけじゃなくて冒険者や商人なんかも交えて大宴会をしたのよ。この町はみ〜んなあなたに感謝してるわ」
 「えぇ〜······」


 最高級フルコースの裏でそんな出来事があったのか


 「SSレート、〔コバルトブルーシーサーペント〕の討伐報酬です。こちらにゴルドカードをお願い致します」


 受付のお姉さんはカードリーダー式魔道具を俺の前に置いた。俺はカードをスキャン、入金が終わった


 「報酬は1億4000万ゴルドとなります。ご確認しますか?」
 「い、いえ。大丈夫です」


 わかっちゃいたが大金だ。Sレートでも2000万とかそんなモンなのに、いきなり金額が跳ね上がった


 休んでばかりだと体が鈍る、せっかくだし依頼でも見ていくか


 「討伐依頼でもないかな······っと。お、見っけ」


 〔グレーディノレックス〕・S+~レート 討伐報酬3400万ゴルド
 『ポートレード周辺に出没するモンスター、街道の魔導車や冒険者を襲う。警戒心が強く、なかなか姿を現さないが、一度現れると凶暴なまでに暴れだす』


 よし、コイツにしよう
 シロがいればどんなに上手く隠れてもすぐに見つけられるし、久しぶりにいい運動になる
 ちなみに+が付くのはS以上、SS以下ってことだ


 俺は依頼用紙を剥がして受付へ、再度お姉さんにお願いする


 「あの、依頼を受けます」
 「はい。それではドッグタグの確認を······はい。冒険者ジュート・S級冒険者ですね、間違いありません。それでは依頼の確認を」


 ここでお姉さんが依頼を確認し、俺に最終的な確認をする


 「それではこちらの依頼を受理します。お気をつけて」
 「はい、行ってきます」


  
 さて、運動がてら狩りに行くか




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 俺は1人で狩りや討伐依頼をこなしていたからピンと来ないが、本来ならSレートのモンスターは集団で討伐するのが当たり前だ


 俺は〔神の器〕だし、【銃神ヴォルフガング】というチートな神様のおかげで全く苦労を感じない


 このSレートの報酬は3400万ゴルド
 普通の冒険者や傭兵団なら10人以上は欲しい


 仮に10人の傭兵団でこの依頼を受けたとして、事前準備として薬や〔治癒薬ポーション〕を買い、モンスターの特性に合った装備を整える。例えばこの〔グレーディノレックス〕の場合なら、鱗が固く弓矢は通らないので、大剣や斧使いの装備を買い揃えたりして準備する
 モンスターの位置が分からないなら周囲を探しつつ、何日もかけて探す。この間には食料なども必要だ
 いざ戦闘・討伐を終えると、怪我人も出る。重症なら【白】魔術師に依頼したり、病院で大量の薬で治療する
 そして報酬を貰い、モンスターの部位は換金。傭兵団に給料を支払い、装備を新調したり、打ち上げなどでもお金はかかる
 残りは傭兵団を維持する貯金に回し、新たな依頼を受ける。その繰り返しだ


 俺みたいに数時間でSレートを探索・発見・瞬殺する人間は、きっとこの世界にはいない
 ほんの数時間の苦労で3400万、楽だが罪悪感もある




 そんなことを考えつつ、俺は1人で町の外へ出た




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 「シロ、頼む」
 《任せて、モンスターは······くんくん、こっちだね》
 《ま、アナタなら楽勝ヨ。頑張ってネ》


 シロの案内で町の外へ、街道外れを歩いていく
 海沿いの先に森があり、どうやらそこにいるらしい
 早すぎる、町を出てまだ3時間ほどだ


 「シロの鼻はスゴいな、さすが犬」
 《犬じゃなくて【九創世獣ナインス・ビスト】だけどね》
 《ワタシも猫じゃないワヨ》


 どうやらこだわりがあるらしい。でも白いワンちゃんにしか見えないけどなぁ


 《あと1時間も歩けばぶつかるよ。どうやら······うん、食事中だね》
 「そんなことまでわかるのか?」
 《まぁニオイでわかるよ。昨日ジュートが交尾した人間だってニオイでわかるし》


 おいやめろ、プライバシーの侵害だ
 そんなことを女子の前で言ったらマズい。もう出来なくなる


 《さ、気を引き締めなサイ》
 「わかったよ」




 俺はナイフを抜いてゆっくりと進む




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 「お、あれか」
 《だね》


 俺は木の上を移動しながら、ついに見つけた。目の前でモンスターの死骸をグッチャグッチャと貪る巨大な恐竜、〔グレーディノレックス〕を
 強固な鱗に覆われた灰色のボディに長いトゲがついた尻尾、腕は太くまるでゴリラみたいだ
 顔はトリケラトプスみたいで、全体的にアンバランスだった


 「さて、気付かれるのもアレだし」
 《お決まりだね》


 距離は約20メートル。十分射程内だ
 俺は【灰】属性ってことになってるし、怪しまれないように【灰】属性で倒す


 「【灰】の上級魔術・【激戦鉄斧ギガンティック・アックス】」


 〔グレーディノレックス〕の真上に巨大な鉄の斧が現れ回転しながら落下、キレイにスパッと首を切断した
 即死。首の断面から勢いよく血が噴き出した


 《あっけないワネ……》
 《今のジュートならSSもSSSも問題ないね》
 「うーん、運動にならなかった。でもあんな恐竜と生身で戦いたくないし……ま、いっか。帰ろうぜ」


 俺は魔術で鎖を出して〔グレーディノレックス〕をがんじがらめにし【アウトブラッキー】に接続、そのまま町まで引っ張ることにした




 今度は生身で戦えるサイズのモンスターを探そう




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 町の入口は大騒ぎになった


 まぁ当然だ、魔導車が首のないデカい恐竜を引きずって来たんだからな
 町の傭兵がなんだなんだと集まり、冒険者や観光客まで現れた。ヤバい、目立ってる


 かといって今さら〔セーフルーム〕には収納できない……どうしよう


 「おーいそこの冒険者ぁっ!! 出てこーいっ!!」


 魔導車に向かって手を振り回す男性……どう見ても俺を呼んでるな
 取りあえず降りて男性に近づく


 「たまげたなぁ、この〔グレーディノレックス〕はお前が討伐したのか」
 「はい、その……お騒がせしてスミマセン」
 「いや気にすんな。おっと、自己紹介がまだだったな。おれはこの〔ポートレード・冒険者ギルド〕のギルドマスターのキンタローだ。よろしくな」
 「俺はジュートです、よろしくお願いします」


 キンタローさんは恰幅のいいオヤジって感じだ。マサカリを担いだらスゴく似合いそうだ


 「さて、コイツはここで預かろう。町中まで運んだら騒ぎになるからな、ここで少し解体してギルドに運ぶ。まずは依頼完了の報告に行こう、ついでだしギルドまで乗せてくれんか?」
 「わかりました。どうぞ」


 俺は鎖を外すと、キンタローさんが連れてきたギルド職員に恐竜を渡し、切り落とした頭もちゃんと渡した
 キンタローさんは助手席へ乗り込み冒険者ギルドまで一緒に行く。まぁ10分くらいだし問題ない


 ギルドに到着すると、そのまま応接室へ通された
 柔らかいソファに座ると、机の上にカードリーダー式魔道具が置かれる


 「さて、まずは依頼完了だ。報酬を支払おう」
 「はい」


 俺はカードリーダー式魔道具にゴルドカードをスキャンさせる。するとキンタローさんが身を乗り出して俺にお願いをしてきた


 「相談なんだが……あの〔グレーディノレックス〕の素材を商人ギルドじゃなくウチで買い取らせて欲しい」
 「え? 何でですか?」
 「いや、昨日は商人ギルドにSSレートモンスターの素材を卸して、今日はSレートモンスターの素材だ……こんなこと言いたかないが、商人ギルドばかり儲けるのは癪でなぁ……」
 「はぁ……」
 「頼む!! 〔グレーディノレックス〕の素材のキバとツメと鱗……この冒険者ギルドに卸してくれっ!!」
 「いいですよ」
 「そこを何とかっ!!………え?」
 「キバとツメと鱗ですね。まぁ確かに商人ギルドばかりじゃ他のギルドは面白くないですよね、値段はお任せします。時間がかかるなら明日来ますが……」
 「えっと、いいのか?」
 「はい」


 まぁ正直どうでもいい
 売れるならどこでもいいし、お金には困ってない。贈呈してもいいくらいだ


 「お、おぉ……ありがとう!! さすが【灰】の伝道師だ!!」
 「は、はぁ」


 その呼び方は何なんだよ。別にいいけど
 値段をお任せして帰ろうとすると、キンタローさんが忘れたように言う


 「そうだ、肉はどうする? 〔グレーディノレックス〕の肉はステーキにすると絶品だ」 
 「肉……どのくらいですか?」
 「うーん、軽く見ても1000食分はあるな」
 「千……うーん」


 当然ながら食えるワケない。売るのもいいけど……お!!


 「じゃあ、みんなでバーベキューしませんか? 冒険者や傭兵団を呼んで、みんなでパーッっとやりましょう。肉と酒で盛り上がるってのはどうです?」
 「おぉ、そりゃいいな。よーし、肉の準備があるから明日にしよう。他の食材や酒の手配、冒険者と傭兵にはおれが声をかけておこう」
 「はい、お願いします」




 よーし、明日の夜はバーベキューだ!!
 

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