ホントウの勇者

さとう

憩いの町ポートレード④/ご招待・銀の歌声



 「黎明、治せるか?」
 「あんま期待しないでよ、【白】は中級クラスなんだから」
 「この世界じゃかなり重宝されるけどな」


 戦いが終わり、俺たちは残務処理をしていた
 【白】属性を使える黎明が傭兵たちの怪我を治し、俺はひたすら傭兵の質問攻めを上手く躱した
 〔コバルトグレーシーサーペント〕は、俺の魔術でがんじがらめにして船に括り付けてある。傭兵がしつこいから仕方なく持って帰ることにした


 「おい兄ちゃん、ウチの傭兵団に入らねーか? 兄ちゃんなら直ぐに団長クラスだぜ?」
 「いや、俺は冒険者なんで……」
 「そうかい残念だ。まさか単独でSSレートのモンスターを退治するとは……恐れ入ったぜ」
 「いえいえ、あはは……」


 傭兵たちはひっきりなしに俺を勧誘してくる。正直疲れた
 すると、1人の傭兵団の団長が興味深いことを言い出した


 「兄ちゃん、コイツをどうする? 全身の甲殻は防具の素材になるから売れるが肉は高級品だ。よかったら町の宿屋に卸してくれねーか? よかったらツレの仲間たちを知り合いの高級宿に招待してやる。さらにフルコースでもてなしてやるぜ?」


 これは魅力的な提案だ。俺は女子たちに確認を取って返事をした


 「じゃあお願いします。タダじゃ申し訳ないんで、甲殻の料金は頂きますが肉は傭兵団にプレゼントします。それでいいですかね?」


 全部あげてもいいけど、それじゃ流石にヤバい気がする。だから金を取りつつサービスする


 「ほ、ホントにいいのか!? SSレートのモンスターだぞ!?」
 「はい。その代わり、最高級の料理とコースでお願いします」
 「あ、ああ……肉だけの料金でこの町最高のフルコースが千回は食えるぞ。ははは……」
 「いいんです。傭兵団の皆さんで美味い酒でも飲んで下さい」


 俺がそう言うと、復活した傭兵団に胴上げされた


 
 まぁとにかく、今夜は最高級のフルコースだ!!




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 船着き場に戻ると大騒ぎ、さらにモンスターを見て大騒ぎ、港に待機してた傭兵団は俺が肉をあげたと知って大騒ぎ。かなり疲れた


 傭兵団のリーダーはさっそくこの町1番の高級宿を手配。切り分けたウミヘビの肉を持って行き、とにかく最高のもてなしをしろ!! と怒鳴り込んだそうだ
 俺たちに要求されたのは1つ。ドレスコードがあるので正装してくれとのことだった


 「最高級のフルコースかぁ、楽しみ!!」
 「お嬢様、あまりはしゃがぬよう」
 「まぁいいじゃん。リリは可愛いからちょっとくらいドレスが乱れても問題ないって」
 「……それは違う気がするわ」
 「うん」


 リムジンみたいな迎えの魔導車には、ドレス姿の女子5人
 ちなみに俺はスプリフォに買ってもらったスーツ。また着るとは思わなかった




 まさかあのウミヘビが最高級の食材だとは、世の中わからんな




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 「こ、ここか……」


 到着したのはエレガントな高層ビル……ではなく、この町最高の宿
 高さは50階以上はあるだろうか、魔導ランプの光がイルミネーションとなり、上を見上げるとキラキラ光っている。なんとも美しい


 ボーイがリムジンのドアを開け、少女たち一人一人を車外へ案内する。俺は恥ずかしいから一人で降りた
 赤絨毯の上を歩きロビーへ行くと、今まで全ての宿屋が霞むくらいリッチだった。高級そうな調度品、魔導ランプ1つ1つの細部さえ高級だ。ヤバい、別の意味で圧倒される


 「ジュートご一行様、最上層特別会場へご案内いたします」
 「きょ、恐縮です」


 ボーイすら気品が漂ってる気がする。俺みたいな庶民はそう感じるのか?


 「み、みんな。行くぞ」
 「……緊張しすぎよ」
 「ごはん食べるだけだよ?」


 氷寒と虫菜は普段通り。少しは緊張しろよ


 「い、行くよ。リリ、コノハ」
 「レイメイさん、大丈夫ですか?」
 「深呼吸なさってはいかがでしょうか?」


 よかった。黎明も俺と同族だ
 よし、少しだけ緊張がほぐれたぜ


 俺たちはボーイが案内するエレベーターへ乗り込む。このエレベーターもメチャクチャ広い、30人くらい乗っても余裕そうだ


 最上階の特別会場へ到着し、観音開きのドアをボーイが開ける


 「……おお」
 「キレイ……」


 俺と黎明は嘆息する
 まるで結婚式場のような広さにいくつかのテーブルが並べられ、貴族みたいな人達が食事している。意外なことに貸しきりではなく同席会場だ
 その中の中心に、俺たちの席はあった


 「ジュート、生オーケストラだよ」
 「ああ、すげぇ。全てがすげぇ」


 ステージ上では楽器を持った人達が生演奏をしてる。やっぱスピーカーから響く音楽より生演奏のほうが迫力がある


 席に案内されるとドリンクのメニューが渡される
 リリ以外はアルコール度数の低いワインを注文した。まぁ少しくらいいいよね
 さらに、なんと料理長まで挨拶に来た


 「私が料理長のドノバンです。本日はよろしくお願いいたします」
 「ど、どうも」
 「ジュート様には超貴重なSSレートの食材を卸して頂いたそうで……料理人として、SSレートの食材を調理出来るのは光栄なこと、誠に感謝しております」


 いやマジで勘弁してくれ。フツーにメシ食って帰りたい
 その後もいろいろ話したが、ほとんど頭に入らなかった


 「それでは始めさせて頂きます。まずは1品目……」


 ああ、前菜が来たけど何言ってるかわからん。とにかく食うしかない
 確か外側の食器から使うんだよな。この辺りは異世界共通みたい




 酒も飲んでるのに全然回らん……とことん俺って小市民だな




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 デザートまで終わり、ここでようやく周りを見る余裕が出来た


 周囲には同じように食事してるお客が10組ほどいる。全員がキレイに着飾り、それぞれが食事を楽しんでいた
 まぁ俺たちの席が1番美しいけどな。これは譲れん


 「あの、ジュートさん」
 「ん? どうしたリリ?」


 リリが俺の袖をくいくいと引っ張る。なんか可愛いな


 「私……歌いたいです!!」
 「はい?」


 いきなりどうした? ワケが分からん
 するとコノハがリリに言い聞かせた


 「お嬢様、あのオーケストラ隊をずっと気にしていらっしゃいましたが……我慢出来ませんか?」
 「うん。あんなにキレイな音を響かせてるんだもん、私も歌いたいよ」
 「ですが……」


 そう言えばリリは歌姫って呼ばれてたんだっけ。まぁ確かに、俺でもわかるくらいキレイな音色だし、音楽に詳しいリリなら尚更だろうな
 よし、ここはダメ元で聞いてみるか


 俺は手を上げてボーイさんを呼び、リリが歌いたい旨を伝えてみた
 すると俺が言ったからなのか、あっさりと承諾された


 「いいってさ、よかったな」
 「ホント!? やったぁっ!!」


 リリの声はよく響いたので注目を浴び、嬉しそうにオーケストラ隊の元へ向かった
 それから簡単に打ち合わせ、小型の魔導マイクを胸に着ける
 オーケストラ隊の伴奏が始まるとコノハが答えた


 「これは『灰色の鎮魂歌』ですね……この大陸でも有名な曲です」




 そして、リリの歌声が会場に響き渡った




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 冗談抜きで、世界が切り替わった気がした


 それくらい美しかった、心が奪われた、リリから目が離せなかった
 それは俺だけじゃなく、氷寒も虫菜も黎明も。会場全てが息を吞んだ


 オーケストラ隊はプロだからか、それでも表情が変わりつつも演奏してる
 銀髪のリリは後光を放ち、幼いながらも全てを魅了する女神のような……マズい、これは危険だ


 時間が流れているような、そうでないような……こんな感覚は初めてだった


 「ご静聴、ありがとうございました」


 終わった。いつの間にか? あっという間に? 終わっていた
 拍手もない、静寂が包み込む


 ここで俺は我に返り、全力で拍手した
 コノハと黎明たちが続き、会場全体が拍手に包まれる




 リリの笑顔が、眩しく光り輝いていた





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