ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑲/心をこめて・夢は魔術師の心の中で



 リヒテル魔教授の変死体が発見された


 死体に外傷はなく、争った形式や貴金属等の被害もないことから、魔術協会は彼を天罰による死と断定。これにより〔魔術師の町ブルグレート〕では【神話魔術】に関する研究や解読は一切の禁止となった


 天罰の再来を恐れ、魔術協会はリヒテル魔教授を秘密裏に埋葬
 〔魔教授〕の称号を剥奪し、その存在を称えることなく葬った


 「……以上よ」
 「そっか……」


 スプリフォの部屋で聞いた、リヒテル魔教授の結末
 後悔はない。最後に手を下したのは間違いではなかった……と、思いたい


 リヒテル魔教授を殺害、首の傷を治療して外傷を消し、生活魔術で血や汚れを消す。するとあら不思議、変死体の完成だ。これで俺は疑われることはない


 スプリフォは魔術協会から報告を受け、事の顛末を俺に話してくれた


 「あと4日。引き継ぎの護衛が来るまではいつも通り、あたしの補佐をよろしく。ウェルディヒナ講師の手伝いもあるから最後まで気を抜かないように」
 「はいはい。わかったよ」
 「今日は午後から上級魔術師の講義、あと明日の午前中はウェルディヒナ講師の手伝い、午後はあたしの実地講義ね」
 「うへぇ……」
 「さ、ご飯を食べたら行くわよ!!」


 スプリフォは食堂へ向けて歩き出した
 あいつなりに日常を取り戻そうとしてるんだな




 俺も早足で後を追った




───────────────


───────────


─────── 




 「お疲れさまですスプリフォ講師、ジュートさん」
 「お、お疲れさまです」


 食堂で食べていた俺たちの前に来たのはシェリューラとロミュリッテ。シェリューラはわかるけどロミュリッテがここに居るのは違和感がある


 「あの、ご一緒しても?」
 「いいわよ。ほら、座んなさい」


 4人掛けの席だったので、俺の隣にシェリューラ、スプリフォの隣にロミュリッテが座る
 2人はスプリフォの神話魔術の解析を聞きたがっていたが、リヒテル魔教授を襲った天罰の話になるとあっさり身を引いた
 そこで話の矛先が俺に向かってきた


 「え!? ジュートさん辞めちゃうんですか!?」
 「ああ。俺は冒険者だからな、次の町に行く」
 「ここからだと……〔癒しの町ポートレイク〕ですかね?」
 「そうね、あんたが来たのは〔美食の町イーティア〕でしょ? 流れで行くなら〔盗掘の魔林〕だけど……あそこは盗賊団の根城だから避けた方がいいわ」
 「盗賊?」
 「ええ、【灰の大陸】で最も厄介な盗賊団よ。王都の騎士団ですらうかつに手を出せないの、迂回して〔灰蛇の森〕を抜けた方がいいわね。その先が〔癒しの町ポートレイク〕よ」


 スプリフォの話が終わると、ロミュリッテがうっとりして言う


 「ポートレイクは【灰の大陸】で一番のリゾート地なんですよ。気候は常に一定で、海沿いに面してるので海水浴客が目立ち、高級宿に高級ショッピングモール、さらに有名貴族達の別荘が連なってる……いいなぁ、行ってみたいなぁ……」
 「そ、そうなんだ……」


 うーん、興味ない。それよりいつになったら〔龍の渓谷〕に着くんだろう


 「なぁ、〔龍の渓谷〕はどこにあるんだ?」
 「〔龍の渓谷〕ですか? 確か〔王都グレーバシレム〕の近くにありましたね」
 「そっか。ポートレイクから近いのか?」
 「いや、けっこう距離あるわよ?」




 うーん、俺の旅はまだ続きそうだ。シェラのヤツ怒ってないといいな




───────────────


───────────


─────── 




 「そうですか……残念ですねぇ」
 「すみません、ウェルディヒナ講師」


 俺はウェルディヒナ講師の手伝いをしながら、数日でこの町を去る事を告げた
 今日の授業は【灰】の上級魔術の講義と実技。講義を終わらせて演習場に移動中に話した


 「その日まではできる限り協力しますんで」
 「あら、ありがとう」


 にっこり笑うウェルディヒナ講師。うーんやっぱ美人
 ちなみに傭兵のゴリマッチョムさんはスプリフォの護衛に行ってる


 演習場に到着し、ウェルディヒナ講師が授業の説明をする
 今日は2種の上級魔術を使い、1種だけでも習得するのが目標だ


 「それではジュートくん、見本を」
 「はい。行きます」


 今日使う魔術は、【鉄筋大盾アイアン・プロテクション】という巨大な鉄の盾と、【灰銀鉄槍シルバード・ランス】という、指定した座標に1本の槍を落とす上級魔術だ
 ちなみに【灰銀鉄槍シルバード・ランス】の上位互換が【灰銀烈槍シルバリオン・サリッサ】だ。こっちは無数の槍を降らせる


 もちろん発動に問題ない


 「さ、さすがですね……」
 「どうも」


 少し間を開けて発動したので問題ない。よくできたと思う


 「それでは皆さんにも発動して頂きます。大事なのはイメージ、イメージを現実にするのです」




 もうすぐこの学園ともお別れか……少し淋しいぜ




───────────────


───────────


─────── 




 「ねぇスプリフォ講師。あなた……王都へ行くってホント?」
 「……は?」


 講義が終わり、食事が終わり、本日の仕事は終了
 そして部屋に戻っている途中で、待ち構えるようにベリルローネ講師とファルケがいた


 「なによいきなり……頭でも打ったの?」
 「私はマジメに聞いてるんですっ!! 【神話魔術】の件で王都から招集が掛かったと聞いたので、その……」
 「……行かないわよ。上級魔術師試験も近いし、試験勉強の追い込み講義もあるし。そんなのあんたも知ってるでしょ?」
 「それは知ってますが……」
 「だったら気にしなくていいわよ。ってかなんであんたが気にしてんのよ」
 「うぐ。別に、その……」


 ベリルローネ講師は両手を後ろで組んでモジモジしてる。何だ?


 「あたしのホームはこの学園なんだから居なくなったりしないわよ。残念だったわね」
 「ふ、ふん!! はいどうぞっ!!」
 「わぎゃっ!?」


 ベリルローネ講師は、いきなり箱をスプリフォに突きつける
 しかしスプリフォが小さいので箱は顔面ヒットした


 「な、なにすん……あら、これって」
 「げ、限定発売の〔ミクシムドーナツ〕メロウベリー味です……その、多く買ってしまったので、捨てるのは勿体ないし……」
 「………」


 なんとまぁ……いやはや、素直じゃないな
 どうやらベリルローネ講師はスプリフォが大好きらしいね。うん、いいことだ
 ファルケを見ると「やれやれ、素直じゃない」とでも言いたげだ。同感だね


 「で、ではご機嫌よう」
 「ベリルローネ講師、待ちなさいよ」
 「いだっ!?」


 スプリフォは踵を返したベリルローネ講師の髪の毛を掴む
 ベリルローネ講師の首、ゴキンとヘンな音がしたぞ


 「な、なにを!?」
 「お返しよ。それと……これから食後のお茶なの、付き合いなさいよ」
 「……ま、まぁ付き合ってあげてもいいです。行きましょうか」


 いつの間にか隣に来てたファルケが言う


 「ベリルローネ講師、ホントはスプリフォ講師と仲良くしたかったんですね」
 「だな。素直じゃないだけか……」




 さて、部屋に戻ったらお茶の支度だな




───────────────


───────────


─────── 




 そして時間は流れ……俺の学園生活の最終日


 明日の朝にはこの町を出る予定だ。つまりスプリフォの部屋で過ごす最後の夜
 ウェルディヒナ講師やシェリューラ、ロミュリッテ、ついでにベリルローネ講師とデュヘル講師には別れを済ませた
 食事も終わりまったりとしていると、スプリフォが羊皮紙を差し出す


 「依頼達成の報告書よ。それをギルドに見せれば報酬がもらえるわ」
 「サンキュー」


 俺は羊皮紙を折りたたんでポケットにしまい、好奇心で聞いてみた


 「なぁ、これからも講師を続けるのか?」
 「当然よ。それに古文書や暗号の解読の依頼もけっこう来てるしね。魔術協会が学園の敷地にあたし専用の研究所を作ってくれるそうよ。忙しくなるわ」


 すげぇな。専用の研究所かよ


 「あたしも聞いていい?」
 「何だよ?」


 スプリフォは探るように、けど好奇心で聞いた




 「あんた、【銃神ヴォルフガング】の〔神の器〕でしょ?」




 さすがにビビったね。まさかバレるとは


 「ホント……たいしたモンだよ、お前は」
 「やっぱね。じゃなきゃあの【神話魔術】は説明出来ないし、いろいろ辻褄が合うしね」
 「それで、どうするんだ?」
 「別に? ただ真実が知りたかっただけ」


 スプリフォはすっきりしたのか、本棚から本を取り読み始めた


 「ねぇ、あんたの属性は?」


 本を読みながら適当に言う。いいぜ、こうなりゃ答えてやるよ


 「じゃあ教えてやる。俺のホントの属性は【無】属性だ」
 「は? 何それ?」
 「要するに、9種の全属性を使えるんだよ。もちろん神話魔術もな」
 「ウソつけ、そんなの聞いたことないし」
 「うそじゃねーよ、ホレ」


 俺は掌に炎の玉、水の玉、土の玉、風の玉を作る


 「な、な、な……っ!?」
 「もっと見せようか?」


 スプリフォの質問に答え、からかい、足を踏んづけられる




 こうして最後の夜は過ぎていった




───────────────


───────────


─────── 




 翌朝。朝食を食べ終えた頃、引き継ぎの冒険者が来た


 なんと女性。元は魔術師だったが冒険者に転職、A級まで登りつめた所で自分の魔術に自信がなくなり、この学園で学びながらスプリフォの護衛をするらしい
 属性も同じ【赤】だし、歳も近い。気が合うといいな


 「じゃ、世話になった」
 「ええ。元気でね」


 〔ユーグレナ魔術学園〕の入口で引き継ぎ、冒険者の女性は後ろで待っている


 「ちゃんと野菜も食えよ? ドーナツばっかで腹壊すなよ?」
 「うっさい。わかってるわよバーカ」


 俺は最後……スプリフォの頭に手を置き、優しく撫でた
 スプリフォも特に抵抗しなかった


 「……元気でな」
 「……ばか、さっさと行っちゃえ……ばか」


 スプリフォの瞳に、じんわりと涙が溢れていく
 そのまま俺の腹に顔を埋めると、小さな嗚咽が漏れてきた


 「……あたし、夢があるの」
 「え?……どんな夢だよ?」


 スプリフォは顔を上げると、とびっきりの笑顔で言った


 「教えないっての、ばーか!!」


 スプリフォは俺から離れると、駆け足で引き継ぎの冒険者の元へ
 すのまま振り返ると大声で叫んだ


 「じゃあね!! また来なさいよーっ!!」
 「ああ、じゃあなーっ!!」




 俺は振り返り歩き出す。楽しかった思い出を胸に




───────────────


───────────


─────── 




 冒険者ギルドに報告し報酬を貰った


 「マジかよ、スプリフォのヤツ……」


 報酬はなんと5000万ゴルド
 確認したが間違いない。護衛でここまでの報酬は異例だと言われた


 ギルドを出て町の入口に向かうと、クロとシロが現れた


 「次は〔灰蛇の森〕だ。行こうぜ」
 《そうネ、〔癒しの町ポートレイク〕で一息入れまショ》
 《だね。あそこのリゾートは有名だからね、楽しみにしなよ》


 そう言われるとワクワクする、シェラには悪いけど俺の冒険だしな。天気もいいし、しばらく歩いて進もう
 最後に一度、町を振り返る




 長いようで短い俺の学園生活は、忘れられない思い出になった




───────────────


───────────


─────── 




 〔ユーグレナ魔術学園〕の敷地外れに、1軒の建物が建っている


 もともと学園の魔術師の研究所だったが、すでに廃棄され久しい
 ここを改装して出来たのが〔ユーグレナ古代研究所〕で、スプリフォの研究所だった


 王都や冒険者から持ち込まれる古文書や、スプリフォ自信が見つけた古文書などを解読・解析する。スプリフォにとっては激務だが、彼女はそれを楽しんでいた


 「さぁ、どんな難しい古文書でも持ってきなさい!! あたしが解析してやるわ!!」


 スプリフォは胸を張り、銃斗には言わなかった夢を思う


 「この世界の謎は、あたしが解析してやるわ!!」


 この世界、8大陸にはまだまだ古代の謎が眠っている
 スプリフォは、一生を賭けてでもその謎を解明したい


 リヒテル魔教授に言われて始めた古文書解析
 それは、スプリフォにとっての生きがいで夢


 「さぁて、ジュートのヤツが来たときに備えて、あたしの名前をもっと有名にしてやる!!」




 スプリフォが〔魔教授〕と呼ばれるまで、そう長くかからなかった



「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く