ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑱/灰の天使・真の解読者



 「お、おぉぉ……おおおおおッ!!」


 リヒテル魔教授の……ブルグレートの町の中央に現れたのは、灰色の翼を持つ全身鎧の天使
 顔からつま先まで全てが灰色の鎧に包まれ、20メートル以上の身体はどう見ても人間ではありえない


 何より、その神々しさは人間では表現できない物だった


 「これが……【灰】の……【神話魔術】なの……? でも、おかしい」


 当然ながらスプリフォは異変に気が付く


 「リヒテル魔教授の詠唱文、あたしが解読した文章と違う。それに〔勇者ヴォルフガング〕じゃない、【銃神ヴォルフガング】って……神の、名前?」


 スプリフォが解読した文章には、【銃神ヴォルフガング】とは書かれていなかった。しかし、現にリヒテル魔教授は間違いなく言った。「【銃神ヴォルフガング】の名の下に」と


 「こんなことあり得ない……でも待てよ、あたしが解読した羊皮紙はジュートにしか渡してない。複製なんてしてないし、リヒテル魔教授がそんなことするはずない。まさか……」




 スプリフォは、ここにいない1人の護衛を頭に浮かべた




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 『我を呼び出した者よ、名を名乗れ』


 魔術師たちは余りの神々しさに静寂を保っていたが、目の前の天使の言葉にようやく我に返る
 そして、ドヨドヨとざわめき始めた


 「私でございます天使様。私の名は〔リヒテル・リットナード〕です。あなた様を呼び出した大魔術師でございます」


 自分で大魔術師とか……ヘンなの。とスプリフォは思った
 いつの間にか、リヒテル魔教授に対して白けた感情しか浮かばなくなっていた


 『………』


 灰の天使は黙り込み、腕を組んだままリヒテル魔教授を見据える


 「あなた様のお力を……どうか」
 『違う』


 灰の天使はリヒテル魔教授の言葉を遮る。その体躯には怒りが浮かび始めていた


 「て、天使様……?」
 『貴様ではない。我は我を呼び出した魔術師に従うと言っている』


 その天使の発言は、当然ながら全住民である魔術師が聞いていた


 「な、何を仰る……あなた様を呼び出したのは、この……」


 リヒテル魔教授の声が震え始める
 魔術師たちは恐怖と困惑が混ざり、パニック寸前だった


 『教えてやろう。【神話魔術】とは、我らの意思は〔魔術詠唱文〕に宿る。つまり……我の意思は【灰】の神話魔術の詠唱文にある。人間にはとうてい解読出来ぬ難解な詠唱文……我に最も長く触れた者は……そこの小さき少女、スプリフォ・リプツェンである』


 ステージ上のスプリフォに、魔術師たちの視線が集まる


 「あ、あたし……その、えぇ……って言うか小さき少女ってなによっ!!」
 『望みを言え、我は【灰】であり鍛造の神話魔術。我に作れぬ物はない』
 「そ、そんなこと言っても……」


 と、ここでリヒテル魔教授の怒りの声が


 「スプリフォォォォォォッ!! 命じるのだッ!!」
 『黙れぇッ!!』


 するとリヒテル魔教授の真下から鉄の十字架が現れリヒテル魔教授を磔にし、周囲にはいくつもの槍が出現。リヒテル魔教授を完全に包囲した


 『黙ってろよクサレ教授。テメーみてぇなインチキ野郎は磔がお似合いだ。スプリフォの解読した研究結果を横取りしやがって……ナメんじゃねーぞクソ野郎っ!!』
 「ひ、ひぃぃッ!?」


 スプリフォはもの凄い既視感に捕らわれる


 『さて小さき少女よ、願いを言え』
 「誰が小さき少女よッ!! 別にあんたに望む物なんてないっての、消えなさーいっ!!」
 『消え去る……それが望みか』


 すると天使はサラサラと、まるで砂のように消えていく


 「あ、あぁ……この世に正義は、正義はないのかぁぁっ!!」


 リヒテル魔教授は叫ぶ。心の底から、涙を流しながら


 『正義ならある』
 「……え?」


 消えゆく天使の発言に、リヒテル魔教授は顔を上げる




 『正義とは……ムカつくヤツを、ブチのめすことさ』




 灰の天使は、完全にこの世から消え去った




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 「ふぅ、少しだけ地が出ちまった。バレてないよな?」
 《スプリフォには気付かれたかもね》
 《そうネ、あのコは鋭いからネ》


 塀の上で、俺はマイクから手を離した
 マフィ特製の特殊マイクに話すことによって、神話魔術があたかも喋ってるように聞こえたはず
 仮にスプリフォが神話魔術を解読したと言っても、リヒテル魔教授がそれを握りつぶしかも知れない。だからリヒテル魔教授より知名度……まぁ奇跡の存在である神話魔術に直接俺が喋った
 あんな神々しい存在が言うなら誰だって信じるだろう。リヒテル魔教授は終わりだな


 「マフィには魔術の改良もしてもらったし、今度たっぷり可愛がってやるか」


 楽しみが増えたぜ、へへへ


 《どうする? 戻ろうか?》
 「ああ、スプリフォのとこに行こう」
 《じゃ、ワタシたちは〔セーフルーム〕で見てるワネ》


 クロとシロは消えた。一緒に行けばいいのに




 じゃ、行きますかね




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 町が騒がしかったので少し時間を潰してスプリフォの部屋へ


 「ただいまー」
 「……おかえり」


 俺の手には〔ミクシムドーナツ〕の箱。こんな時でも営業してたので、お土産代わりに買ってきた


 「ほれ、晩メシまだだろ?」
 「あんた……何者よ?」
 「あ?」
 「………」


 俺はすっとぼける。別に言わなくてもいいしね


 「あたしの解読した詠唱文に手を加えて、全く意味のない魔術を作り、さらにはホントの神話魔術を発動させる……こんなことが出来るのは1人だけ。〔勇者ヴォルフガング〕だけ」


 やっぱコイツは大したもんだ。答えに近づいてる


 「別にどうでもいいだろ? じゃ、俺がドーナツ食べちゃうもんね」
 「あっ!? やめなさいよこのバカッ!!」


 ドーナツをパクパク食べ始めると、スプリフォが俺に飛びついてくる
 しばし2人でドーナツを食べた


 「お前さ、これからどうなるんだ?」
 「町中から注目されちゃったしね、それに【神話魔術】の解読者ってことで狙われる可能性があるかも」
 「マジか……」
 「それに、リヒテル魔教授も……」
 「あ、それはもう心配ない」
 「え?」
 「それより、お前が危険なのはヤバいな」
 「平気よ。この町の傭兵は優秀だしね」
 「そっか……なぁスプリフォ」
 「何よ?」


 俺はスプリフォに言う


 「そろそろ俺、町を出る」


 その答えを予想してたのか、スプリフォは淡々と言う


 「ま、そんな気はしてたから大丈夫。変わりの護衛はすでに手配済み、だけどあと7日は我慢しなさい。7日後に依頼達成の報告書と報酬を支払うから」
 「え、あ、はい」
 「何よ、あたしが泣くとでも思った?」
 「………」




 くそ、なんか負けた気分だぜ……ちくしょう




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 銃斗がスプリフォの部屋に戻る数時間前




 「おのれ……こんなはずでは……っ!!」


 リヒテル魔教授は1人、第三研究室でイラついていた


 神話魔術解読の真偽を問われ、あのあと直ぐに尋問が行われた
 結果は限りなく黒、魔術協会から謹慎を命じられる


 神聖なる天使の言葉を疑いもせず、その日のうちにここまでリヒテル魔教授を追い詰める


 「ははは……私はもう用済みか。しかし、まだスプリフォがいる」


 スプリフォを押さえて木偶にする。そして再び【神話魔術】を使う


 「返り咲く。私こそが【特級魔術師】に相応しい」


 リヒテル魔教授は立ち上がり歩き出す。やるべきことはいくらでもあった


 「見てろ、私こそ……がッ!?」
 「悪いな」


 突如としてリヒテル魔教授を襲う黒い影
 位置的に本棚の上からジャンプし、リヒテル魔教授を地面に押し倒す
 首を右手で掴まれ呼吸が出来ない状態だった


 「ぎ、ざ、ば……なに、も……!?」


 黒い服とジャケット。フード付きパーカーを被り、逆光のため顔が見えない
 襲撃者が左手を反らすと、銀色の刃が裾から飛び出した


 「じゃあな」


 グジュブ……と、首に刃が挿入される
 消えかける意識の中、リヒテル魔教授は聞いた


 「ムカつくヤツはぶちのめす……これが正義さ」
 『ムカつくヤツを、ブチのめすことさ』




 何故か最後、襲撃者と天使が重なって見えた
 

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