ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑰/発動・【灰の神話魔術】



 「ほれドーナツ、ついでにフルーツパイも買ってきた」
 「わーおやるじゃん!! 気が利くぅ~っ!!」


 スプリフォの部屋に帰ってきた俺は、ドーナツの箱を渡す
 この野郎、1人でモグモグ食べ始めやがった


 「おい、俺のぶん残しとけよ」
 「え、ヤダ」
 「………」




 えっと、冷蔵庫の中身は……っと




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 ドーナツを食べ終わり、ついでに俺も適当に食べて一服


 「それで……どうだった?」


 その一言にはいろいろな意味が込められてる気がする
 俺は迷いを断ち切るように、はっきりと言う


 「ダメだった。リヒテル魔教授は……もうダメだ」
 「……そっか」


 スプリフォは顔を伏せ、少しだけ震えてる


 「お父さんだと……思ってたんだけどなぁ」
 「スプリフォ……」
 「あたし……最初から利用されてたのかぁ……」


 そうかもしれない、でも……そうじゃない


 「スプリフォ、お前はリヒテル魔教授に利用されてこの学園に来た。それは変わらない、でも……ここでの思い出は利用されて作った物じゃない、お前が望んで出来た物だ」
 「ジュート……」
 「胸を張れよスプリフォ。お前はこの学園の【赤】魔術講師で、次期〔魔教授〕のスプリフォ・リプツェン講師だろ?」
 「……うん」


 スプリフォは袖で目元をゴシゴシ拭う。今さらだけど聞いてみた方がいいかな?


 「あのさ、スプリフォ……その」
 「何よ、ヘタな慰めして……バッカみたい」


 ここでようやく笑顔になり、俺は遠慮なく聞いてみた




 「魔教授って何だ?」




 スプリフォは盛大にずっこけた




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 〔魔教授〕と言うのはどうやら名誉ある称号らしい。いろいろ意味があるけど難しくて理解出来なかった


 「と、とにかくスゴいってのはわかった」
 「よろしい。次にナメた質問したらブッ飛ばすからね」
 「は、はい」


 翌日。俺とスプリフォは町に出てきた


 「それにしても、とうとう来たか」
 「………」


 朝の内に全校生徒、講師に連絡が来たのだ。「リヒテル魔教授からブルグレートの全住人、全魔術師に対して重要な知らせがある」と
 間違いなく【神話魔術】のこと。さらに全魔術師を動員しての実験だということ。このことはすでに町の住人は理解していた


 「やっぱ騒ぎになってるな、それに人通りがすごい」
 「仕方ないわ、この魔術が成功すれば詠唱に関わった魔術師にとって最高の名誉になる。「神話魔術を発動させた魔術師」って名誉がね」
 「どーでもいい……」


 俺とスプリフォは町の中央、魔術師たちがひしめく広場へやって来た
 魔術師たちは興奮、恐怖、好奇心といった感情に支配されている


 「ジュート、どうするの? このままじゃ……」
 「大丈夫、すでに仕込みは終わってる。それに発動は今日じゃないだろ?」
 「まぁ確かに。今日は発表だけだと思うけど」


 すると、町中に張り巡らされたスピーカーが声を上げる


 『ブルグレートの全魔術師たち。私は〔ユーグレナ魔術学園〕の理事長、リヒテル・リットナードです。本日は皆さんに重大な知らせがあります』


 スピーカーから響くのはリヒテル魔教授の声。俺にとってはカンに触る声だがスプリフォにとっては複雑な気持ちだろう


 『此度、私は〔勇者ヴォルフガング〕の残したいにしえの魔術……【神話魔術】の解読に成功したことをご報告いたします』


 ふざけやがって、解読したのはスプリフォだろうが
 町の魔術師は歓声を上げ、リヒテル魔教授を称えている


 『属性は【灰】属性、しかし【神話魔術】の発動に使用者の属性は関係ありません。魔力さえあれば誰でも発動できます』


 その通り。だが実際は違う
 【無】属性だから、それに人間が使うことを想定していないからだ


 『私1人の拙い魔力では発動すら出来ません。なので……この町の魔術師たちに、協力をお願いしたい』


 そう。リヒテル魔教授の狙いはこの町の魔術師たちの魔力


 『あなた方は念じるだけでいい。魔術の詠唱は私がする。それだけで魔力は集まり、魔術は発動する。つまり……この町の全魔術師が、【神話魔術】の使用者となるのです』


 違う。この町程度の魔術師じゃ全然足りない
 この【灰の大陸】の全魔術師をかき集めても発動できるか怪しいもんだ


 『魔術詠唱は3日後、時間は正午……この町の優秀な魔術師たちよ、人間の歴史を共に塗り替える時。是非とも協力をお願いしたい』


 会場はヒートアップ。まぁこうなると思ったよ


 「……やはり、こうなったわね」
 「仕方ねぇよ。リヒテル魔教授の知名度もあるしな」
 「ま、あたしはあんたに全てを賭けた。だから任せるわ」
 「はいはい。じゃあ……メシでも食って行くか」
 「いいわね、じゃあ地下モールへ行くわよ!!」




 仕込みはすでに済んでる。あとは3日後を待つだけだ




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 「………」
 「スプリフォ、俺は少し行くところがある。ここは任せた」
 「はぁ!? ちょ、こんな大事なときにぃっ!?」
 「これが最後の、一番重要な仕込みだ」


 3日後。【神話魔術】詠唱の時間まであとわずか
 俺とスプリフォは町の中央広場、詠唱用にあつらえた特設ステージの特別席に来ていた


 ユーグレナ魔術学園の講師であるスプリフォだけではなく、他の講師も全員が特設ステージへ
 特別ステージの中央は祭壇のようになっており、そこでリヒテル魔教授が詠唱をする


 特設ステージは高く、町の住人である魔術師たちを見下ろせる
 魔術師たちはそれぞれローブ姿、すなわち正装をしてこの儀式に臨んでいる


 「……わかったわ。はぁ……あんたを雇ったのは失敗だったわね」
 「そりゃどうも、俺は楽しかったぜ?」
 「……ふん」


 俺はステージから降り、町の外れである要塞の壁に移動。アンカーショットを使って塀によじ登り、町を見下ろせるくらい高く登った


 「……来やがったな」


 大歓声に迎えられ現れるリヒテル魔教授。豪華なローブに包まれて高級そうな杖まで持ってやがる
 町の魔術師たちに手を振って応え、ゆっくりと祭壇に登る


 『今日!! 我ら魔術師たちの歴史が変わる!!』


 魔導マイクにより拡大された音声が響き渡る


 『神話の魔術……〔勇者ヴォルフガング〕よ、汝が残した偉大な魔術を我らの手に!!』


 勝手にどーぞ、勇者ヴォルフガングもよろこんでるぞー


 そして、リヒテル魔教授の詠唱が始まる
 それに合わせて町中の魔術師たちが祈りを捧げる


 すると、目に見えるほどの濃密な魔力が集まっていくのが分かる。魔術師たち1人1人は小さいが、これだけの数が集まるとかなりの魔力になる


 リヒテル魔教授が杖を掲げると、空には巨大な【灰】の紋章が輝く




 さぁて、最後の仕込みを発動させてやる




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 『鍛造せよ神の武具 大いなる鍛冶の意思よ』


  リヒテル魔教授に渡した詠唱文はフェイク。マフィに協力してもらい作り直した


 『熱く煌めけ我の元に 歌を謳え鋼の詩を』


  大規模な詠唱は回り道。リヒテル魔教授が発動させたのは……周囲の魔力を集め、紋章を経由して魔力の源へと循環させるだけの生活魔術


 『神話が紡ぐ神の唄 魔術の粋よここに至らん』


  まぁ、要は何の意味もない。魔力を集めてみんなに返すだけ。真に魔術を使うのは当然俺だ


 『【銃神ヴォルフガング】の名の下に我は告げる』


  俺は詠唱を完成させ、放つ




 「【灰】の神話魔術・【鍛造天使のフォルジュロン・アーンギル鉄筋細工・ゼオ・メタトロン】!!」




 さぁてリヒテル魔教授、俺の正義を見せてやるよ





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