ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑯/対話・龍人族



 講義まであと15分ほど
 俺とスプリフォは【赤】の中級魔術師の実地場へ向かっていた


 「どうやってリヒテル魔教授の陰謀に気が付いたんだ?」
 「簡単よ。〔龍人族〕であるシェラヘルツ様が【特級魔術師】である……そのことが許せない古い人間が何人もいる。リヒテル魔教授はその1人で、自宅でその人達が集まって話してるのを聞いたのよ」


 なんともまぁ、【特級魔術師】は人間でなきゃダメってか


 「最後は……魔術名称だったか?」
 「ええ、これが分からないと魔術は発動しない。あと数日じゃムリかも」
 「……」


 教えるべきか、どうするか
 俺は知っている。【灰】の【神話魔術】の名称を、その効果を
 でも、それは俺の正体をバラすことと同じ……やめておこう


 「スプリフォ、魔術名称がわかったら……」
 「……リヒテル魔教授に教えるわ。あたしには……それしかないから」
 「俺が行く」


 リヒテル魔教授と話をするのはここしかない。リヒテル魔教授の真意を探る
 きっとこれが俺にとっての最後のチャンスだ


 「スプリフォ、お前は守りたいモノを守れ。最後の始末は俺が付ける……頼む」
 「……あんた、やっぱり」
 「心配すんな、最後の手段はまだ使わない。話をするだけだ」
 「………」


 スプリフォは少し考え、俺の目をしっかり見た


 「わかったわ。あたしは……あんたに賭ける」
 「ああ、後悔させねぇよ」




 本当に手を汚すのは最後。出来るならスプリフォの恩師を殺したくない




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 今日の授業は中級魔術の実技


 「おいスプリフォ、見ろよ」
 「……うん」


 中級魔術師の中にはシェリューラとロミュリッテがいる
 2人とも仲良く話してる。俺とスプリフォを見て真面目に、しかし笑顔になる
 こんな光景は初めて……悪くない


 「それでは始める」




 スプリフォの声も、少しだが弾んで聞こえた




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 その日の夜、スプリフォは奥の部屋から出てきた


 「ジュート、これ……」
 「ああ」


 スプリフォに渡されたのは灰色の封筒。封には蝋が垂らし固めてあり、未開封なのはすぐに分かった


 「解読、終わったんだな」
 「うん、なんとかね。あと最終的な確認もしたから詠唱は微修正されてる。その詠唱文が【灰の神話魔術】・【鍛造天使のフォルジュロン・アーンギル鉄筋細工・ゼオ・メタトロン】よ」
 「……たいしたモンだよ、お前」


 間違っていない。きちんと解読は出来ている
 この様子だと間違いなく詠唱文も完璧だろう


 「明日……行くよ」
 「うん」


 スプリフォは疲れたのか、奥に戻るとすぐに寝てしまった


 「さて……」


 俺の中には1つの作戦が出来上がっていた
 この成功はコイツの協力無くして出来るものではない


 俺は右手のバンドに魔力を流し、戯れの神のもとへ転移する
 いつもの談話室に着いたが誰もいない
 居るのは……まるで俺を待ち構えていたような小柄な神サマ


 「マフィ……頼みがある」


 回転椅子に座り、くるりと俺に向き直る
 ボサボサの髪にメガネを掛け、なぜか白衣を着た少女。【戯神マレフィキウム】


 「ほぉう……少しは楽しませてくれるのか?」
 「ああ、せっかくだしモニターしてろよ。きっと楽しいぜ?」




 俺の手には、灰色の封筒があった




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 「じゃ、行ってくる」
 「ええ。帰りに〔ミクシムドーナツ〕でフルーツドーナツ買ってきて」
 「お前な……」


 いつも通り過ぎるスプリフォに見送られ〔魔術協会総本部〕へ
 今回は自宅でなく、地下の第三研究室で渡す予定だったそうだ。まぁ聞いてたけどね


 念のため装備はばっちり決めてあり、確認しながら歩いていると着いた


 「……行くか」


 ちなみに今回はスプリフォのパスカードを借りたので堂々と入る
 リヒテル魔教授の第三研究室へは一度来た。なので迷わず地下へ


 地下の一本道を進むとドアの前に着く
 俺は静かにドアをノックした


 「……誰だ?」
 「スプリフォ講師の代理で来ました。ジュートです」
 「……入りたまえ」


 少し間があったのは、予想外だったからか
 俺はドアを開けて中に入る


 「スプリフォ講師の代理……キミは知っているのかね?」


 入るといきなりの質問。俺は正直に応える


 「はい、知ってます。スプリフォが神話魔術を解読したことも、あなたが……神話魔術を使って〔龍人族〕を狙っていることも」
 「ふ、なるほどな。それで……止めに来たのかね?」
 「違います。俺は……話をしに、話を聞きに」
 「ふむ?」


 俺は封筒を掲げてリヒテル魔教授に質問する


 「どうして〔龍人族〕を……シェラヘルツを?」
 「なるほど。質問の対価はその封筒か……なら、応えないわけにはいかないな」


 俺は立ったままだが、リヒテル魔教授は椅子に深く座り直し、葉巻に火を付ける
 葉巻をふかし煙を吐き一息。リヒテル魔教授はようやく応えた




 「簡単さ、バケモノを駆逐して人間の大陸を取り戻すため。生物を滅ぼすには十分な理由だろう?」




 俺は、リヒテル魔教授の正気を疑った


 「バケモノ……〔龍人族〕が、シェラヘルツが?」
 「当然だろう。8大陸最強の種族である〔龍人族〕……ヤツらの存在は危険だ」
 「何を根拠に……!!」
 「おや、キミは知らないのかい?」


 リヒテル魔教授は葉巻をふかし、苦笑しながら言う




 「〔龍人族〕の中心都市、〔真龍王国ガウェズリドラ〕の王である〔真龍王・ガウェズリドラ〕は、かつて【魔神大戦】を生き抜いた伝説のSSSトリプルレートモンスター、〔ヴァーミリオン・ブレイズドラゴン〕だ。滅ぼすには十分の理由のハズだ」




 その言葉は、俺が絶句するだけの威力を持っていた




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 「わかっただろう、ヤツらはいつキバを向くかわからん。だから戦争前に滅ぼすのだ、〔勇者ヴォルフガング〕の残した古の最強魔術……【神話魔術】で」
 「で、でも……〔龍人族〕にだっていいヤツはいる!! シェラだって……」


 アイツは戦闘狂だが悪い奴ではない。テイマードの町でだって何かを想っていた


 「シェラ? あぁ、キミはシェラヘルツと知り合いなのかね。ならばわかってるはずだ……〔龍人族〕の特性である戦闘意欲を。戦いを求める本能の強さを」
 「………」
 「最高のSSSトリプルレートモンスター、危険な戦闘狂、ここまで来てキミには理解出来ないのかね、滅ぼさなければいけない悪の存在を」
 「………」
 「わかったのなら……その封筒を渡したまえ。その力を持って私は正義を示す。【灰の大陸】の危険分子を滅ぼして、私がこの大陸の【特級魔術師】となる。【神話魔術】はその一歩だ」
 「……それが本音かよ」


 俺にはどうしても都合のいいことばかりしか聞こえなかった
 【特級魔術師】の称号、危険な龍人族、シェラ……俺は会ってない、何も見ていない


 惑わされるな、真実はリヒテル魔教授の言葉じゃない


 「もう1つ、スプリフォのこと……あんたは、初めから【神話魔術】の解読をさせるつもりだったのか?」


 スプリフォに向けた愛情は……真実なのか
 リヒテル魔教授のために頑張ったスプリフォの気持ちは


 「ふむ。あの子の過去は知ってるかね?」
 「……リプツェン家」


 リヒテル魔教授は興奮していた


 「ああ。あの子と出会ったのは8歳の頃、私はパーティーを抜け出して書斎へ向かう少女が気になった。そこで見たのだ……あんな小さな子が、〔人魚族〕の古文書を音読しているのを、〔ドワーフ族〕の秘奥である鍛冶の方法を苦もなく読んでいるのを!! 一瞬でわかったよ……この小さな子には魔術の、古代語の、そして解読の才能があると!!」


 いつの間にか立ち上がり、身を乗り出してることにも気が付いてない


 「魔術を学ばせ、環境を整え、淋しければ励まし、頼られれば応えた。あの子の信頼を得て利用すれば、私の悲願の1つである【神話魔術】を解読出来ると!! そして……彼女は、スプリフォは見事に応えた!! このまま【赤】・【青】・【黄】・【緑】と【神話魔術】を解読させる!! 彼女の一生を懸けてでもな!!」


 俺はいつの間にか拳を握っていた


 「スプリフォは……あんたを、父親だって……」
 「当然だ。そのように振る舞ってきたからな」
 「最高の恩師だって……」
 「その通りだろう?」
 「感謝してるって……!!」
 「当たり前だ。これからも尽くして貰わなければな」


 ヤバい、〔神化形態〕になる寸前だ
 ここで暴れたら台無し。全てが水の泡だ


 「話は終わりかね? ならば封筒を置いていきたまえ」


 俺は怒りをこらえて封筒をリヒテル魔教授の机に叩きつける
 リヒテル魔教授は涼しい顔で微笑み、俺は部屋を後にする


 最後に、忠告しておく


 「リヒテル魔教授、あんたの言う正義は……間違ってる」
 「そうかね? ならばキミの正義とは?」


 俺は中指を立ててぶちかました




 「ムカつく野郎をブチのめすことさ」




 俺は第三研究室から立ち去った
 

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