ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑮/劣等感・求めた物



 「あんた······何が目的、あたしを脅す気?」


 スプリフォの警戒心はマックス。その瞳には敵意が宿る


 「違う。俺の目的は【神話魔術】発動の阻止、あとは研究データの破棄だ」
 「何でそんなこと······まさか、〔龍人族〕の⁉」
 「は?」


 なぜここで〔龍人族〕なんだ?
 どうやらまだ知らないことがありそうだ


 「俺の事情は全て話す。だからお前の事情も話してくれ」
 「······わかった」


 よし、敵意はあるけど話は通じそうだ


 「ただし、あたしの事情を話すかどうかはあんたの話を聞いてから判断する。いいわね?」
 「わかった。それでいい」
 「でも、その前に······」


 ここで俺とスプリフォの腹が同時に鳴る
 まぁ、どんな強者も生理現象には勝てない


 「朝ごはん。パンね、あとはタマゴとベーコン、フルーツも忘れずにね」
 「······お前ってブレないな」




 もちろん、野菜サラダとスープも付けた




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 お腹いっぱい。食後のコーヒーで一服する


 「ったく、野菜はいらないってのにぃ‼」
 「お前な、ちっこいんだから食わないとデカくなれないぞ。いろいろとな」
 「あんた······マジで燃やすわよ」
 「す、すまん」


 俺の視線が胸に固定されてるのがバレた。マジですんません


 「お前さ、俺が憎くないのか? 勝手に部屋を開けて、お前の秘密を暴いてさ」
 「······まぁ、ムカつくけど。でもあんたは悪人じゃないことは分かるわ、その事情ってやつも気になるし、最終的には話を聞いてから判断する」


 スプリフォはソファの上で足を組み、コーヒーのカップをソーサーに戻す


 「教えて、何であんたは【神話魔術】の発動を阻止するの?」


 ようやく本題だ。俺もカップをソーサーに戻して姿勢を正す


 「簡単だ。【神話魔術】は人の手には負えない、だから使わせるわけにいかないからだ」
 「······あのね、あんた」
 「スプリフォ、【神話魔術】を町の魔術師全員で使うってのは本当か?」


 俺はスプリフォの言葉を遮って確認する


 「······事実よ。恐らく数日中にリヒテル魔教授から町全体に協力要請が来るはずよ」
 「ならなおさら止めないと。町の人間は全員死ぬぞ」
 「あんたねぇ、何でそんなことわかんのよ」
 「······俺にはわかるんだよ」


 スプリフォは顔をしかめて説明する


 「いい? 確かに神話魔術には膨大な魔力が必要よ。でも、この町の魔術師が総出で魔力を供給すれば発動の可能性はかなり高い。そもそも······何であんた、あたしが神話魔術の解読をしたって気が付いたのよ」


 俺は正直に言う


 「第三研究室に忍び込んで、リヒテル魔教授の研究室を調べた。そしたらお前がリヒテル魔教授に渡した封筒の中に、神話魔術に関するレポートを見つけたからだ」
 「······そう、そこまでして······」


 スプリフォはワナワナ震えてる


 「お前······ホントは気付いてるんだろ。【神話魔術】がそんなに甘いモンじゃないって」
 「······そうね」
 「シェリューラが言ってたよな、魔術師の研究データは命に等しいって」
 「······ええ」
 「お前、リヒテル魔教授に何を怯えてる?」
 「·········」


 スプリフォは俯き、ギリリと歯を食いしばる


 「リヒテル魔教授は【神話魔術】を使って何を企んでるんだよ。答えろスプリフォ」
 「······たい」
 「は?」




 「あたしは、ここに居たい。あたしを認めてくれるここに居たい······もうリプツェン家には戻りたくない。だからリヒテル魔教授に協力するのよ」




 スプリフォは、少しずつ話始めた




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 「あたしはスプリフォ・リプツェン······リプツェン家の五女、兄が2人と姉が2人、まぁ末っ子ね」
 「貴族だから普通だろ?」
 「ええ。でも······家族はあたしを必要としなかった」


 スプリフォは天井を見上げる。忘れかけた何かを思い出そうとしてるかのように


 「ウォルディア兄様は騎士団の副団長として出世、団長の地位はほぼ揺るぎない物になっている。ベンザック兄様は王都最高の音楽家、毎晩宮廷で音楽を奏でてる。イレーム姉様は王の第一婦人、跡継ぎも生まれて既に時期王の期待を寄せられてる。カーティア姉様は王都一の画家、何度も個展を開いて王都でカーティア姉様の名前を知らない人はいないわ」


 スプリフォは乾いた笑いを上げる




 「あたしは······なーんにもない」




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 「父様も母様も兄様も姉様も、だーれもあたしのことなんて気に掛けなかった。当時7歳の子供······親の愛が欲しかった。でも、あたしは余り物に過ぎなかった」


 「カーティア姉様が生まれてリプツェン家は完成したの。でも······母様があたしを身籠った。生まれたあたしには目を向けず、兄様と姉様たちに愛情を注いだ。あたしは屋敷の離れで1人、乳母と一緒に暮らしてた」


 「最後に父様と母様に会ったのは8歳の頃、ウォルディア兄様の副団長就任のパーティのとき、あたしはそこで出会ったの」


 「あたしの中の魔術師の才能を見つけ、伸ばし、育んでくれた恩師にして父でもあったリヒテル魔教授に」




 スプリフォは、最後だけ笑顔だった




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 「リヒテル魔教授は当時、王族の子供に勉強を教えていたわ。ウォルディア兄様のパーティに来たのもその繋がりね」


 「パーティに飽きてあたしは1人、書斎で本を読んでいたの。そこにリヒテル魔教授が来てたくさんお話してくれた。古代の言葉や歴史、多種族の文化や魔術の基礎。リヒテル魔教授はこの日からリプツェン家に······あたしに勉強を教えに来た」


 「何であたしに興味を持ったのかは知らないけどね、あたしを褒めて、なでて、笑いかけてくれる······それだけで嬉しかった。そしてリヒテル魔教授は言ったの」


 「〔ユーグレナ魔術学園〕で勉強しないかって、あたしならすぐに卒業できるって。あたしは迷わずここに来た、父様や母様なんて別に何も言わなかった」


 「それから2年。あたしは10歳で卒業して王都へ戻ったわ。自宅の離れで勉強し、12歳で上級魔術師に。そしてリヒテル魔教授を追ってこの町に戻って来たの」


 「リヒテル魔教授はあたしを学園の講師にしたわ。あたしは嬉しかった······あたしに居場所をくれた、あたしを認めてくれた、あたしを愛してくれた。だからリヒテル魔教授があたしに古代の魔術、【神話魔術】の研究をしてくれと言っても迷わなかった」


 「研究をしながら講義をして、たまにリヒテル魔教授がご飯に誘ってくれて······楽しくてしょうがなかった」


 「そんな生活が続いて、最近になってついに【神話魔術】の一文が解読できたの。正確には詠唱の第一小節。あたしは喜んでリヒテル魔教授に報告したわ」




 「それから少しづつ······リヒテル魔教授はおかしくなっていった」




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 「【灰の神話魔術】は、どうやら〔勇者ヴォルフガング〕が残したモノで、彼が残したメモに暗号で記されていた。あたしはそれを解読しながらリヒテル魔教授に報告を重ねた」


 「リヒテル魔教授は······あたしを脅すようになった。急ぎ【神話魔術】を解読しろ、解読が出来ないなら講師の資格を取り上げる、リプツェン家に帰らせる、ってね」


 「あたしを認めてくれた場所、あたしを慕ってくれる生徒、あたしは失いたくなかった、もう1人はイヤだった、だから······必死で解読した」


 「そしてある日、ついに気付いてしまったの。リヒテル魔教授の真の目的、【神話魔術】を復活させる理由を」


 ここでスプリフォは顔を上げ、俺の目を見て言った




 「リヒテル魔教授は【神話魔術】で〔龍の渓谷〕を、〔真龍王国ガウェズリドラ〕を破壊するつもりよ。そこで【灰の特級魔術師シェラヘルツ】を始末して、自分が【特級魔術師】になるつもりよ」




 俺はこの瞬間、リヒテル魔教授の暗殺を決意した




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 「あたしの話はこれでお終い······あーあ、全部話ちゃった」
 「······ありがとな」


 スプリフォの乾いた笑みは、どこか寂しそうだった


 「【神話魔術】はどこまで解読出来たんだ?」
 「ほとんどよ、あとは······魔術名称だけ。リヒテル魔教授にはあと数日で解読できるって言ってある。そうすればリヒテル魔教授は間違いなく町を巻き込んでの実験を行い、そのまま〔龍の渓谷〕を破壊するでしょうね······実験の暴走、と言えばそれまでだし」
 「おい、もしかして······」
 「うん、あたしのせいにされるかも。もしかしてリヒテル魔教授はそこまで計算してるのかもね」


 ふざけやがって。させるかよ


 「······リヒテル魔教授を······どうするの?」
 「······まずは話す。真意を教授から聞き出してみる。最悪の場合は······」
 「······うん。仕方ない、よね」


 スプリフォは悲しそうに呟くが、すぐに立ち上がり笑顔になった


 「さ、講義の時間になるわ。さっさと行くわよ‼」
 「わかった、行こうぜ」


 俺は立ち上がり、さっさと歩き出すスプリフォの後を追う




 絶対に、阻止してみせる





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