ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑬/情報・甘い者



 「リヒテル魔教授、今期の上級魔術師試験の問題用紙です。ご確認をお願いします」
 「ははは、キミやベリルローネ講師みたいな優秀講師が作った問題だ。確認なんて必要ないんじゃないか?」
 「きょ、教授……?」
 「冗談だ。不備があれば明日にでも学園に届けよう」
 「はい。よろしくお願いします」


 うーん、真面目な話しかしてない。このまま帰ったら命がけで侵入した俺がアホみたいだ
 ホントにスプリフォはリヒテル魔教授が苦手なだけなのかな


 「それで……どうかね?・・・・・
 「……」


 この時、確かにスプリフォの身体が小さく跳ねた
 どうって……何が?


 「……問題ありません。順調です」
 「ならばよろしい………わかっているね?・・・・・・・・
 「……はい。全てはリヒテル魔教授のために」
 「ありがとう。キミみたいな優秀な講師は我が学園の宝だ」


 何だ、この違和感は? スプリフォは……脅されてる?


 「この話はまた後日、私の研究室で話そう。場所は第三研究室で、時間は追って連絡する」
 「はい。わかりました」


 スプリフォは沈んだ表情で立ち上がり、部屋を後にしようとする


 「所で、キミの護衛……ジュート、だったかな? 彼はどうだい?」
 「ジュート、ですか……?」


 おいおい、ここで俺の話題かよ


 「ジュートは……今までの、どの護衛よりうっとうしいです。食べ物にケチ付けるし、あたしの部屋を覗こうとするし」


 なんですと……けっこうショック


 「でも……一緒にいると、その……楽しいです」
 「ほう、キミがそんなことを言うとはね」




 スプリフォは、なんだか悲しそうに笑った




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 「ふぅ……ただいま」
 「おかえりー……メシは?」
 「まだ。アンタは?」
 「まだ。お前を待ってたんだよ、食堂行こうぜ」


 あの後、リヒテル魔教授の屋敷を脱出。壁を伝ってスプリフォより早く帰宅
 ソファに寝転び本を読んでるポーズでスプリフォを迎えた


 「あんたね、まさかずっとここにいたの?」
 「ああ、やっぱ読書はいいな」


 呆れてるがどこか笑顔のスプリフォと食堂へ
 スプリフォとリヒテル魔教授……そして神話魔術




 第三研究室。なんとか場所を突き止めなくちゃな




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 翌日。俺はウェルディヒナ講師の講義にやって来た


 今日も魔術で物作り。今日もスプーンフォーク造りだが、今日の目標は自分のオリジナルの装飾を入れた世界に1つだけの食器を作ることだ


 「あの、ジュート先生……どうですか?」
 「うん。キレイな花柄……っていうか、俺は先生じゃないぞ?」


 初めて授業を手伝ったときにアドバイスした女の子が、何故か俺を先生と呼ぶ
 この子は才能があるのか、コツを掴むとあっという間に食器を量産した


 生徒達にアドバイスしつつ、教壇にいるウェルディヒナ講師の元へ
 世間話をしつつ、リヒテル魔教授の研究所について探るつもりだ。やってやるぜ


 「いやー、教えるのも楽じゃないっすね。講師は大変だ」
 「あはは。でも……やりがいはありますね」
 「ははは、そうっすね。休日でリフレッシュしたけど、すぐに疲れちゃいますよ」


 うーん。俺ってこんなキャラだっけ


 「ウェルディヒナ講師も昨日はお休みで?」
 「ええ。でも上級魔術師試験の問題を作成していました」
 「あ、そういえばスプリフォは昨日、リヒテル魔教授の家に問題用紙を届けに行きましたよ」


 よし。ここから流れを作って一気に持っていく


 「そうなのですか? わざわざ自宅に持っていくとは……私なんてリヒテル魔教授の研究室に持っていきますけどねぇ」
 「え? リヒテル魔教授の研究所って、自宅じゃないんですか?」
 「ええ。リヒテル魔教授の研究所は3つ有りまして、それぞれ研究分野が違うのですよ。第一研究室は魔術属性、第二研究室は魔術と魔道具の応用、第三研究室は神話魔術ですね」
 「へぇ……神話魔術、ですか」
 「ええ。この町の〔魔術協会総本部〕に第三研究室はあります。今回の【灰】の神話魔術を解読したのもそこですね」


 よっしゃ、ついに来たぜ。サンキューウェルディヒナ講師




 俺は心の中でガッツポーズした




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 「悪い、遅くなった」
 「……まぁいいわ。行くわよ」


 午後。メシをのんびり食ってたら遅刻寸前だった
 案の定スプリフォの機嫌が悪い。あとで甘い物でもご馳走しよう


 「えっと、今日は?」
 「今日は初級魔術の実技よ。ロミュリッテたちの再試験でもあるわ」
 「うげ、マジかよ」


 確か、大商人の一人娘だったよな……めんどくせぇ
 俺としてはスプリフォの部屋荒らしの容疑者なんだよなぁ。もしかしてスプリフォもそう思ってるかも


 「あのね、あんたはどう思ってるか知らないけど、あたしにとってロミュリッテは一生徒。個人的な恨みなんてないし、あたしが教える以上イジワルなんてしないから安心なさい」
 「わかってるよ。お前も一応講師だもんな」
 「何が一応よっ!!」
 「いでっ!?」


 足を踏まれた。この野郎、これで何度目だよ
 足を押さえつつ以前来た実習場へ。生徒達はすでに揃っていた
 あ、ロミュリッテがスプリフォを見て嘲笑を浮かべてる


 「それでは始める。内容は以前と同じ、3種の中級魔術を使って的を打ち抜く。質問は?」
 「は~い。先生、お手本をお願いしま~す」
 「……ロミュリッテ、何故だ? キミのレベルなら問題は無いはずだが?」


 ロミュリッテが手を上げてスプリフォにお願いする。なんだか鼻につく態度だ


 「いえ、自分がやる前に講師のお手本が見たくて……参考になりますし」
 「……ふむ。わかった、いいだろう」


 スプリフォは的の前に立ち、魔術を発動させようと詠唱を始めた……が


 「ちょっと待て」


 俺がスプリフォの口を塞ぎ、実習場の森に向かって・・・・・・・・・・魔術を放った・・・・・・




 「【灰】の上級魔術・【大球鉄球ギガント・アイアン】」




 俺が指定した座標に巨大鉄球が落下した




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 巨大鉄球は直径10メートルはある
 鉄間さんのように自由自在には操れない。ただ指定座標に落とすだけ


 「………チッ、下らねぇマネしやがって」


 唖然とする生徒たち。ついでにスプリフォ


 俺はロミュリッテが怪しいと踏んでいた。スプリフォを狙った襲撃、それと部屋荒らし
 だからロミュリッテの言動に違和感を抱き、周囲を探ると……いた


 俺は【拘束巻鎖バインダー・チェーン】を使い、腰の抜けた襲撃者を縛り上げる。そして鎖を操作して俺たちの前に移動させた


 「……誰に雇われた?」


 未だに硬直する生徒とスプリフォを無視し、俺は襲撃者に問いかける 
 生徒の視線は襲撃者と俺のやり取りに向けられていた




 「お前を雇ったの……誰だ?」




 襲撃者は、びくりと肩を震わせた


 「ここで証言しろ、じゃなきゃ……」


 俺は〔カティルブレード〕をこの場にいる全員に見せつける
 襲撃者は俺が本気とわかったのか、震える声で証言した


 「あ、あの女だ……カネをやるから、あのチビを怪我させろって……殺すつもりは無かった、信じてくれ!!」
 「誰がチビだッ!!」
 「ぐぶぇッ!?」


 スプリフォが襲撃者の顔を踏んづけた。おいおい何しちゃってんの!?


 「全く、人気者は辛いな。あの女?……どこかの組織の人間だろうか?」
 「……なるほどね」


 ロミュリッテは真っ青だった。しかし気が付いたようにスプリフォを見た


 「くそ、まさか例の組織が動いているとは……この襲撃者は他の大陸の回し者に違いない。即刻、大陸追放の手続きを取ろう。生徒諸君、誰でもいいから傭兵を呼んでくれ」


 すると何人かの男子生徒が走って行った
 すぐに傭兵が来て襲撃者を連れて行こうとするが、スプリフォが大陸追放の手続きをしろと念を押していた


 「さて、今日の試験はおあずけだな……仕方ない、解散だ」


 生徒たちは全員帰るが、1人だけ女子が残った


 「あ、あの……スプリフォ講師」
 「どうしたロミュリッテ、何か質問か?」
 「……その、あの……さっきの、襲撃者の」
 「ああ、どうやらこの私を狙った組織の暗殺者だな。やれやれ……人気者はつらい。それより、明日こそ試験を行うぞ。いいかロミュリッテ、お前は才能はあるがムラがある。とにかく落ち着いていけば問題ない……がんばれ」
 「は……はい……う、うぅぅ……うぁ、うぁぁ……ご、ごめんなざい、スプリフォ講師……」
 「やれやれ何を泣く……ほら、甘い物でも食べに行こう」


 やれやれ、俺の怒りも霧散しちまったよ。甘い物だけに甘い者だ




 どうやら甘い物は俺が奢るハメになりそうだが……まぁいっか



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