ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑫/アサシン・侵入



 ほとんど1人で家具の設置、片付けをした


 「ウェルディヒナ講師のとこ行ってくる。あんたの貸し出しの打ち合わせでね」


 そう言って出て行った。俺1人に家具の設置を任せて
 あんにゃろう。帰ってきたらゲンコツだ


 「ぶは~っ……疲れた、ちくしょう」


 家具の設置も終わり、買ったばかりのソファでくつろぐ
 ベッドにもなるタイプなのでいい座り心地だ。眠くなるね
 するとドアが開きスプリフォが帰ってきた


 「ただいま~……うん、終わってるみたいね。ごくろーさま」
 「お前なぁ……」
 「あ、明日は休みで明後日の午前はウェルディヒナ講師のお手伝い、午後はあたしの講義の補佐ね」
 「………」


 もういいや、何か疲れた……って、休み?


 「休み?」
 「そ、明日は学園はお休み。あたしも用事があるから自由にしていいわよ」
 「用事って……着いていかなくていいのか?」
 「ええ。あたしはリヒテル魔教授に、上級魔術師昇格の試験問題を提出に行くの」
 「へぇ。試験問題ねぇ……お前が!?」
 「あたしは上級魔術師の試験監督も兼ねてるし、試験問題を作ったから、理事長であるリヒテル魔教授に確認してもらわないといけないの。一応問題は極秘だから、あんたも見ちゃダメなのよ」


 そう言えば【青の大陸】でもサフィーアがやってたっけ。大変だな


 「そういうワケだから」
 「……わかった」


 これはチャンス。スプリフォとリヒテル魔教授が接触すれば別の話をするかも
 極秘って言うくらいだし、2人で会う可能性は高い


 「じゃあリヒテル魔教授は学園に来るのか?」
 「ううん、あたしが自宅まで行くわ。お忙しい方だからね、研究所を兼ねてる自宅で仕事することが多いのよ」




 よし、明日の予定はリヒテル魔教授の自宅侵入だ




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 「じゃ、行ってくる。わかってると思うけど……」
 「わかってるよ、部屋には入らない」


 スプリフォは少しだけめかし込んでいる
 俺はソファに転がって、スプリフォから借りた本を読んでいた


 「あんたもダラけないで講義の見学でもすれば? 他属性の講義もけっこう勉強になるわよ?」
 「気が向いたらな。お前から借りた本のが面白いしな」


 スプリフォは肩をすくめると部屋を出て行った


 「……よし」


 俺は起き上がると行動を開始する


 両手には〔マルチウェポン〕と〔カティルブレード〕を装備し、買ったフード付きパーカーの上にジャケットを羽織る。そして装備を確認し、窓を開けて外を見る
 窓の下はこの町を覆う壁が広がっている


 「よし、行くか」


 俺は窓にアンカーショットを引っかけてゆっくりと降りる
 町を覆う壁の上に降り立つと、リヒテル魔教授の自宅を確認した


 「自宅は……あそこか」


 予想通り、壁伝いに進めばスプリフォより早く着く




 俺は壁の上を全力で走り出した




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 俺はリヒテル魔教授の自宅からおよそ百メートル先の茂みに潜んでいた


 息を吐いて装備を確認する
 昨夜のうちに〔マルチウェポン〕の短弓用の矢にシロから教わった眠り薬を塗ってある
 使うことは無いと思うが、毒矢と麻痺矢も何本か仕込んである
 ついでに〔カティルブレード〕にも眠り薬を塗ってある


 「確か……〔灰熊の爪グリズリークロウ〕だっけ」


 リヒテル魔教授の自宅を守るS級傭兵団。気付かれず忍び込むのは危険で難しい


 「オニキスから隠密方法を習ってよかったぜ……」


 俺はフードを深く被り、顔が見えないようにする




 さぁて、久し振りのアサシンだ




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 「………よし」


 俺は茂みの中を中腰で移動しながらスキを伺っていた
 城のような屋敷を囲うように柵があり、厳つい傭兵が定期的に警戒をしている


 「侵入は……屋根からだな」


 柵の内側に茂みを見つけ、傭兵が過ぎ去ったあとに柵をジャンプ、すぐに茂みへ
 気配を消してじっくりと周囲を観察する


 相変わらずデカい屋敷だが、夜と昼ではだいぶ印象が違う
 夜は恐怖の館だが、昼間見ると某テーマパークのお城みたい


 俺の視界の範囲で観察すると、何カ所か窓が開いている


 「行ける、けど……」


 庭だけでも傭兵が15人はいる。しかも全員が周囲を警戒してるので、見られずに上がるのは難しい
 さて、どうするか……ん?


 《ボクに任せてよ、ジュート》
 「し、シロ?」
 《静かに、ボクが注意を引くからすぐに動いて……行くよ》
 「お、おい!!」


 いつの間にか現れたシロが茂みから飛び出し、庭の中央へ鳴き声を上げながら走って行く


 「ワンワンッ!!」
 「い、犬!?」
 「どこから入った!! 捕まえろっ!!」


 チャンス。傭兵の半分以上がシロに気を取られてる


 「サンキュ、シロ」


 俺はアンカーショットを屋根に引っかけてジャンプ、一気に屋根に登った
 シロは茂みに飛び込むと、そのまま〔セーフルーム〕へ転移した


 「よし、あとは……」


 俺は3階だろうか、窓から侵入する
 このまま隠れて1階を目指し、スプリフォが到着したら後を着けてリヒテル魔教授の部屋へ
 こんなに広い屋敷でリヒテル魔教授の部屋を見つけるのは困難だ。だったら最初から目的地がわかってるスプリフォを着ければいい


 気配を消しながら気配を探り、下に降りる階段を探す
 案の定、屋敷の中も傭兵が見回りをしていた


 「……マズいな」


 階段前では1人の傭兵が警備をしてる。じっくり観察すると、お手伝いさんですら許可を貰って通行していた。こんなのがあと1人もいるのか


 どうするか……眠らせるか


 俺の手は〔マルチウェポン〕を短弓形態にしていた
 眠り矢を番えて狙いを定める、矢が刺さった傷は【白】属性で治せばいい
 俺の心臓の鼓動は大きくなる。もしバレたら一巻の終わり、リヒテル魔教授にも警戒される


 「……悪いな」


 矢を放つ
 狙いは首筋、矢は命中し傭兵は目を見開く……が、すぐに気絶


 「よし、急ぐぞ」


 俺は飛び出して傭兵から矢を引き抜き治療
 傭兵を体育座りにしてあたかも昼寝に見せかける


 「はぁ……心臓に悪い」




 俺はそのまま2階へ降りていった




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 2階では特に迷わず階段まで来れた
 どうやらこの屋敷の造りはどの階層も同じ造りらしい。助かるぜ


 「……やっぱな」


 案の定、階段前には1人の傭兵
 さて、どうするか……あれ? 傭兵が階段下を覗いて……降りていった
 どうしたんだろう。でもチャンスだ


 「そうか、スプリフォが着いたんだ」


 どうやら傭兵はスプリフォを迎えるために降りていったんだ
 よし、俺も降りてスプリフォの後を追ってやろう
 階段を降りてすぐに大きな植木鉢があったので身体を隠すと、書類鞄を持ったスプリフォがドアをくぐり、執事みたいな初老の男性に案内されてるのを見た


 「チッ……」


 後を追うと思ったが、1階ホールには傭兵が3人いる
 さすがにここをくぐり抜けるのは不可能……じゃないかも


 「……行けそうだな」


 1階ホールの天井にはインテリアだろうか、シャンデリアが吊されている 
 しかも、廊下に一定間隔で並んで吊されている。俺は2階の階段に引き返し、壁の突起を掴んでゆっくりと移動し、シャンデリアを揺らさないように掴んだ


 スプリフォが向かった先の廊下にシャンデリアは続いてる。しかも傭兵は談笑しているおかげで俺には全く気が付いていない




 俺は気配を殺し、シャンデリアを伝っていった




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 「リヒテル様、スプリフォ様がご到着なされました」
 「通せ」


 高級そうな堀りがされたドアの前にスプリフォは立っている
 執事らしき人がドア越しに声を掛けると、中からリヒテル魔教授の声が聞こえた


 「失礼いたします。リヒテル魔教授」
 「おお、よく来たねスプリフォ講師」


 マズいな。スプリフォが中へ入っていった
 俺はシャンデリアの上から確認し、隣の部屋のドアを見つけた
 すると、執事らしき人がお茶の乗ったカートを引いて出て行く……これで多分2人きりのはず


 俺は周囲を確認し、足音を立てないようにシャンデリアから飛び降りる
 そして傭兵が来ないうちに隣の部屋のドアを静かに開けて滑り込み、気が付いた


 「……ラッキー、繋がってる」


 なんと、リヒテル魔教授の部屋と俺が滑り込んだ部屋は繋がっていた
 ドアもなく、壁には切れ目があって簡単に出入りできる。ラッキー


 俺は壁を伝い、切れ目から静かに覗く……いた。スプリフォとリヒテル魔教授だ




 2人の会話、バッチリと聞かせて貰うぜ





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