ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑪/魔術の心得・ベリルローネ講師



 「あれ? 実技なのに教室?」


 思わず声に出してしまった。すると聞こえていたのかウェルディヒナ講師が答えてくれる


 「はい。今日は【灰】魔術で簡単な物を作りますので、教室で大丈夫なんです。大きな物はもっと段階を踏んでからですね」
 「はぁ、すみません」


 ヤバい。これじゃ授業妨害だ
 指示があるまで大人しくしておこう


 「それではジュートくん。スプーンとフォークを作ってくれますか?」
 「あ、はい」


 俺は右手でピースサインを作り、人差し指の先でスプーン、中指の先でフォークを作った


 「い、一瞬で······さすがですね」
 「えっと、どうも」


 クロに教わったやり方でやってしまった
 異なる物を同時に何種も出す。俺が【灰】魔術の訓練をした時に最初に教えてもらったやり方
 本来は10本の指を全て使い、全く異なる物をいくつも指先から出す訓練なんだけどな


 「はい。それでは皆さんにもスプーンとフォークを作っていただきます。いいですか、大事なのは想像力です。頭の中で描いたものを形にする······大事なのは想像力です」


 すると、あちこちで魔力が溢れだす
 生徒たちが魔術を使い、スプーンとフォークを作り出した


 「ジュートくんには教室内を見回って生徒たちにアドバイスをして欲しいんです。お願いしますね」
 「はい。あの、スプリフォの護衛は······」
 「その件は大丈夫です。私の護衛のゴリマッチョムが付きましたから」
 「ぶふっ······わ、わかりました」


 あの傭兵のおっさんゴリマッチョムって言うのか
 ちくしょう、今日1番のヒット作だ


 俺はさっそく教室内を見回る
 生徒たちの作り出したスプーンフォークは歪んでいたり、曲がっていたりと様々だが、全員が真剣そのものだ
 全員が上級教室だが、今までは想像力を豊かにする座学ばかりだったので、ちゃんとした魔術は今日が初らしい


 「あ、あの······どうでしょうか?」
 「どれどれ······ふむ」


 おっかなびっくりと言った感じで、中学生くらいの少女が声を掛けてきた
 よしよし、お兄さんが教えてやろう


 少女のフォークは先端部分が揃っておらず、太さもまちまち。しかも持ち手の部分がかなり短い


 「いいかい、先端部分を揃えて太さも均一に、あと持ち手の部分も使いやすい長さをイメージするんだ。頭の中で考え過ぎないで······ほら」


 俺は実際に作り出し少女に見せてみた
 少しやり方を変えたほうがいいかもしれないな


 「キミ、今日の朝は何を食べた?」
 「え? えっと······パンとサラダです」
 「そっか。じゃあフォークは使ったよね?」
 「は、はい」
 「食べたのは友達と一緒に?」
 「はい。お喋りしながら」
 「じゃあその光景を思い浮かべて、実際にパンとサラダがここにあると思ってゆっくり詠唱して」
 「·········」


 少女は目を閉じて少し微笑む。朝の光景を思い浮かべながら静かに魔力を練る


 「はい目を開けて······ほら」
 「わぁっ⁉」


 少女の手には精巧なフォークが出来上がった。少女は信じられないのか、様々な角度でフォークを眺めてる


 「で、出来ました‼」
 「よし、その調子でスプーンも作るんだ。頭の中でそのものをイメージするのは雑念が入りやすい。だからありふれた光景の中を思い浮かべ、その一部を掬い取るイメージだ」
 「は、はいっ‼ ありがとうございますっ‼」


 少女は目を閉じて詠唱をする。もう心配ないだろう


 「お?」


 よく見ると俺の説明を聞いていたのか、何人も成功してる
 それだけじゃなく、ナイフやトングなども作ってる生徒がいた


 クロに教えられたことをそのまま教えられた
 俺ってもしかして先生に向いてるかも……なーんて




 この日は生徒全員がスプーンフォークを作ることが出来た




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 「いやはや······ジュートくん、講師に向いてますね。私が保証します」
 「いやいや、あはは」


 授業が終わり、俺はウェルディヒナ講師に挨拶をしていた
 これからスプリフォの部屋に戻り、一緒に買い物に行く


 「ありがとうございます。本当に助かります」
 「いえ、次の予定は?」
 「ええと······そうですね、スプリフォ講師と相談しますので、また後日連絡します」
 「わかりました。じゃあ失礼します」


 俺は一礼してこの場を去り、スプリフォの部屋に向かう
 特に迷わずに部屋に着くと、部屋の前に厳つい傭兵のおっさんことゴリマッチョムさんが腕を組んで立っていた


 「ど、どうも。終わったんであとは俺が」
 「·········」


 ゴリマッチョムさんは寡黙な人だ
 名前は素晴らしいけどなんか掴みづらそうな雰囲気


 ゴリマッチョムさんは去って行った。ふぅ、なんか怖かった
 気を取り直して部屋に入るか


 「スプリフォー、戻ったぞー」
 「遅いっ‼」


 このおチビは相変わらずだ
 ソファがないので地べたに毛布を敷いてゴロゴロしてる
 ちなみにゴミは全て傭兵が持っていった。なので部屋の中はすっからかんだ


 「行くわよ。まずはお昼を食べてから買い物ね。遅刻したバツとしてあんたの奢りね」
 「マジで⁉」


 スプリフォはスタスタ歩き出して部屋の外へ




 仕方なく俺もその後を追った




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 ショッピングモールへやって来た俺たちはまず昼飯から食べることにした


 「なぁ、俺が奢るんだから俺の好きな場所に行かせてくれよ」
 「えぇ〜······う〜ん、まぁ今回はいいわ」


 何だよその上から目線。まぁいいけど
 俺はショッピングモールを歩きながら店を物色すると、いい匂いのする店を見つけた


 「〔串焼きのマッキー〕か。いいね、ここにしよう」
 「へぇ、いい匂いじゃん」


 店はカウンター席のみで横長の店。お客はいないので貸し切りだね


 「いらっしゃい。ご注文は?」
 「え〜っと······」


 この店はバーベキュー串に肉や野菜、魚を挿して注文と同時に焼くみたいだ。さて注文は


 「じゃあ〔オーク肉セット〕で」
 「あたしは〔フイッシュセット〕でいいや」
 「はいよっ‼」


 オークはまぁ豚のモンスターだ。身体の部位ごとに味が違い、固くコリコリした部位や柔らかくふわりとした部位など、一般庶民にも人気で定番の肉だ
 〔フイッシュセット〕はその名の通り魚のセット
 魚の切り身を串に挿して焼いてる。種類はいろいろあるみたいだな


 「はいお待ち。熱いから気をつけてね」
 「おおっ、いただきます‼」
 「いただきまーす」


 焼き立ての肉の香りが空腹を刺激する。俺は遠慮なくかぶりつく


 「うんまっ‼ あふっ⁉」


 噛むと濃厚で熱い肉汁がジュワリと広がる。コイツはスゴい、俺もぜひマネして作ってみよう


 「う〜んうんまぁ〜っ‼」


 スプリフォの魚セットも美味しそうだ


 「なぁスプリフォ」
 「イヤ」
 「·········」




 まだ何も言ってないのに······ちょっとくらいいいじゃん




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 食事が終わり、ようやく買い物の時間


 まずは調理器具を買い揃え、次は壊された魔道具一式。魔導冷蔵庫やコンロ、ランプなどを買った
 お次は家具で、俺が寝るために少し大きめのソファ、スプリフォの執務机と椅子などを買う
 本棚も買ったけど本はない。くそ、まだ読みたい本がいっぱいあったのに
 犯人は絶対に許さん……生きてることを後悔させるほどの苦痛を与えてやる
 ちなみに全部スプリフォの部屋に送った。帰宅する頃には届いてるそうだ


 「あとは……そうね、替えの下着を買うわ」
 「ああ……って、そういうのは俺に言うなよ」


 そして服屋へ向かう。すると見知った顔が


 「げ……」
 「あら、スプリフォ講師じゃない?」


 スプリフォ曰く、この町でも特に有名なデザイナーが手がけてる服屋。そこにいたのは昨夜の晩餐会でスプリフォと険悪になった同僚、ベリルローネ講師だった


 「ご機嫌ようスプリフォ講師。あなたもお買い物?」
 「まーね。じゃ」
 「お待ちなさい!! 仮にも同僚である私に対してなんて無礼な態度ですか!!」
 「……はぁ、じゃあ何? あたしと楽しくお喋りでもしたいの?」
 「いえ全く」
 「じゃあいいじゃん。ばいばーい」
 「じゃなくて!! ああもう!!」


 なんか疲れる光景だ。すると俺の隣にベリルローネ講師の護衛・ファルケがいた


 「お疲れさまですジュート君。お買い物ですか?」
 「お疲れファルケ。まぁな、スプリフォが下着を買うんだとさ」
 「そ、そうですか……コホン」


 どうやら聞いてはいけないことを聞いてしまった……みたいな感じでファルケはごまかした
 スプリフォとベリルローネ講師は何かを言い合ってる……面倒くさい


 「おいスプリフォ、さっさと買い物して帰ろうぜ」
 「む、そうね。じゃあねベリルローネ講師、よい休日を」
 「あ、ちょ、もーっ!!」


 強引に会話を終わらせ店内へ。とにかく買い物して帰ろう


 「じゃ、買ってくるから」
 「おう行くか……ってぇっ!?」


 思い切り足を踏まれた……何で!?


 「あんた……あたしが着ける下着を見るつもり?」
 「あ、いや、別に」


 スプリフォは俺を睨むと店の奥へ行く。どうやら向こうが下着売り場みたいだ


 「俺も何か買おうかな……」


 魔術でキレイにしてるとはいえいつも同じ服だしな。たまには私服も悪くない
 俺は1人で男性服売り場を物色すると、いい感じの服を見つけた


 「……お、こいつは」


 俺が見つけたのはフード付き薄手のパーカー
 色は黒だが所々に赤いラインがいくつも引いてある
 生地もかなり丈夫だし、魔術をかければさらに長持ちするだろう


 「よし、買おう」


 俺は会計を済まして早速着る
 【友情の約束プロメッサ・アミティーエ】の下は何の変哲もないシャツだったので、パーカーを着てその上にジャケットを羽織る
 生地が薄いので特に気になるところはない。いい買い物したぜ 


 「おまたせ……って、あんたも買い物したの?」
 「ああ、似合うだろ?」
 「フツー」
 「………」




 さて、帰って家具の設置するか



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