ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑩/惨状・お手伝い





 「それでは引き続き楽しんでくれたまえ。スプリフォ講師、ジュートくん」
 「······はい」
 「ありがとうございます」


 リヒテル魔教授は奥さんを連れて立ち去って行くが、思い出したように振り返るとスプリフォに言う


 「スプリフォ講師」
 「は、はい······」


 スプリフォの身体がビクッと跳ねたのは、気のせいではない


 「キミには期待しているよ」
 「······ありがとう、ございます」




 リヒテル魔教授はニッコリ笑うと、別の場所へ去って行った




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 「ふぅ〜······すげぇ威圧感。ありゃ大物だぜ」
 「そうね」


 リヒテル魔教授が去ったあと、俺とスプリフォはようやく力を抜いて脱力した
 話した感じ、善人とも悪人とも判断はつかない。けど、少しだけ気になるところはあった


 「どうしたんだよ、スプリフォ」
 「別に、緊張してるだけよ」
 「お前、俺に散々言っておいて」


 スプリフォの様子がおかしい
 誤魔化してるけど、これは······怯え


 「さ、食事にしましょ。お腹減ったしね」
 「······ああ」




 スプリフォ······こいつから話を聞く必要もありそうだ




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 それから数時間。晩餐会はお開きとなり各々が帰路につく


 玄関前の庭には魔導車がたくさん停まってるな。参加人数に対しては少ないから、きっと何組かは泊まっていくんだろう


 「帰るわよ」
 「おう」


 当然ながら俺たちは帰宅。もし泊まっていければこの城をいろいろ調べられたんだけどな


 魔導車に乗り込んで学園の講師寮へ戻るが、道中スプリフォはほとんど口を開かなかった
 学園の講師寮に着き部屋に戻る。俺は意を決してスプリフォに聞く


 「なぁスプリフォ。お前······何でリヒテル魔教授を怖がってるんだ?」
 「あたしが? 教授を? 何でそう思うの?」
 「そりゃお前とはまだ数日の付き合いだけどよ、さすがにわかるぜ。リヒテル魔教授の話になるとノリが悪いし、今日だって緊張っていうよりは怖がってる感じだった」
 「······別に、怖がってなんかない」
 「じゃあ何で······」
 「うっさい‼」


 ここまで来るともうダメだ。こいつから情報を聞き出すにはまだ信頼が足りないようだ
 仕方ない。今日は諦めて寝るか


 スプリフォの部屋に到着し、ドアを開けた


 「はぁ〜······疲れ」
 「やっと終わっ······」




 スプリフォの部屋は、メチャクチャに荒らされていた




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 酷い惨状だった


 ソファは切り刻まれ、本棚は倒されて中の本はボロボロに破かれている。執務机は鈍器のような物で砕かれ、台所から何から魔道具もほとんど壊されていた


 「な、何だよこれ······っ⁉」
 「っ‼」


 スプリフォは部屋の奥にあるドアへ向かう
 この部屋の惨状などどうでもいいのか、破かれた本を踏みつけながら奥へ走る


 「お、おいっ⁉」


 俺もスプリフォを追いドアへ向かうと、振り返ったスプリフォの怒号が響いた


 「来るなっ‼」
 「ッ⁉」


 あまりの怒りに俺でさえ圧倒され、俺は急停止
 あの奥には一体何があるんだ?




 俺は1人、部屋に立ち尽くしていた




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 スプリフォが奥の部屋に閉じ籠って15分ほど。俺は1人で部屋を片付けていた


 本の1冊1冊が丁寧に破かれ、ソファや執務机はもう使い物にならない。台所の調理器具もランプや魔導冷蔵庫も、全てがゴミとなってしまった


 「·········」


 それらを片付けながら、俺は精神を落ち着ける
 少しでも気を抜くとマグマのような怒りが噴出する。辛いのは誰よりもスプリフォ、そう思って心を落ち着かせていた


 そして、奥の部屋のドアが静かに開く


 「······ゴメン、掃除······」
 「気にすんな。でもよ、使えそうなモンはぜーんぶ壊れちまった。こりゃ買い出しだな」
 「そうね、でもまぁいいわ。どーせ学園の備品だし、領収書の宛名はぜーんぶ学園にしてやるわ」
 「だな。所で······」
 「心当たり、でしょ?」


 それもあるが、俺の視線は奥の部屋に注がれる


 「······あっちは平気よ、魔術でカギを掛けてたから」
 「そうか。で、心当たりは?」


 俺はなるべく奥の部屋へは触れず、スプリフォの部屋を荒らした犯人の心当たりを聞く


 「さぁね。あたしを妬む生徒・・はいくらでもいるし」
 「·········そっか」
 「それよりアンタの寝床はどうする? ソファも毛布もボロボロだし······」
 「まぁ起きてるよ。何があるか分からないしな」
 「あっそ。じゃおやすみ」
 「軽いなオイ」


 スプリフォはさっさと奥の部屋へ行ってしまった


 「······それにしても」




 ──あたしを妬む生徒はいくらでもいるし




 午前中に襲撃者に襲われたばかりだというのに、まるで犯人が生徒と分かってるような気がした




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 「なぁ、ホントにいいのかよ?」
 「くどい。いいから行けっての」


 翌朝。目覚めた俺たちは朝食を食べに食堂へ
 昨夜スプリフォの部屋が荒らされるという事件があったので、今日のウェルディヒナ講師の手伝いをキャンセルする、といったらスプリフォは断固拒否した


 「一度した約束を覆すのは良くないわ。それに、ウェルディヒナ講師はアンタが来る前提で講義の予定を組んでるはずよ」
 「でもよ······」
 「あーもぅうっさい‼」


 やべぇ、この状態になると話を聞かないパターンだ


 「ウェルディヒナ講師が護衛の代わりを付けるから心配ないわ。それより、午後は買い物行くから終わったらすぐにあたしの部屋へ戻りなさいよ」
 「わーったよ。気を付けろよ?」


 そこまで話してると、トレイを持ったシェリューラが現れる


 「おはようございますスプリフォ講師、ジュートさん。ご一緒してもよろしいですか?」
 「いいわよ。座んなさい」


 シェリューラが座ると、さっそく昨日のことを聞いてきた


 「あのスプリフォ講師、昨日の晩餐会はどうでしたか⁉」
 「んぐっ⁉」


 ドーナツを頬張った瞬間の質問だったので、スプリフォは喉に詰まらせたようにゴホゴホと咳をする
 俺はスプリフォに水を渡すと、スプリフォはゴクゴク飲み干してようやく落ち着いた


 「ぶはっ······べ、別にフツーよフツー。挨拶して、ご飯食べて、あとは適当に過ごして帰ってきたわ」
 「ほ、他に何かなかったんですか⁉ 例えば······貴族のイケメン男性に話しかけられるとか、一緒にダンスを踊ったりとか‼」
 「え、えっと······ないけど」
 「そんな‼ あぁ勿体無い。リヒテル魔教授の晩餐会なんて間違いなく大物貴族が集まるのに······」
 「その······ごめんね?」


 スプリフォは何故か謝り、俺は関わらないように無言で食事していた。まさかシェリューラが玉の輿狙いだとは思わなかった




 その後も質問を続けるシェリューラをやんわり躱しながら、俺たちは食事をした




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 「えっと······お、ここが【灰】の上級教室か」


 スプリフォたちと別れ、俺はスプリフォから聞いた上級教室へ赴いていた
 教室の作りはみんな同じなので、入り口のドアにかかってる札を頼りに行くと、〔【灰】・上級教室〕と書かれた札を見つけた


 「失礼しまーす。ウェルディヒナ講師はいます······うおっ⁉」


 教室はすでに講義が始まっていた
 ウェルディヒナ講師は黒板に板書をしていたが、俺を見ると笑顔になる


 「ジュートくん、わざわざありがとうございます」
 「え、あの······遅刻でしたか?」
 「いえいえ。あなたが来るまでの間に復習をしていたんです」


 そうとはいえなんか申し訳ない気持ちになる
 生徒たちは100人いるかいないかくらい、男女比率は7:3くらいで女子が多いな


 「さぁて。それでは今日の実技を始めます」




 こうして、ウェルディヒナ講師の手伝いが始まった





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