ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑨/晩餐会・リヒテル魔教授



 「じゃ、行くわよ」
 「おう」


 スプリフォはドレス、俺はスーツに着替えて部屋を後にする 
 日はほぼ沈み、これからリヒテル魔教授の晩餐会のため、彼の家に赴くのだ


 ちなみに俺の両手には〔マルチウェポン〕が装備されている。襲撃者から没収した〔マルチウェポン〕は俺のと同色だったので使わせてもらうことにした
 襲撃者の〔マルチウェポン〕は右手に装備しているが、短弓ショートボウとアンカーショットの機構は取り外し、完全なギミックナイフのみの武器として生まれ変わった。名付けて〔カティルブレード〕だ。カティルとはアラビア語で暗殺者アサシン。ぴったりだ


 「アンタ、武器は……」
 「わかってる。コイツだけだ」


 俺は両手首を上に反らして〔カティルブレード〕を出す。何度かブレードの出し入れをするとスプリフォは言う


 「全く、リヒテル魔教授主催の晩餐会なんだから、ヘンなことしないでよ」
 「しねーよ。まぁ今回みたいな襲撃があれば別だけどな」
 「それは大丈夫でしょ。リヒテル魔教授の家はS級傭兵団〔灰熊の爪グリズリークロウ〕と契約してるから。ある意味この町で一番安全なところよ」


 マジかよ。個人宅なのに要塞じゃねーか


 「表で魔導車が待ってるわ。行くわよ」
 「おう」
 「それと、ちゃんとエスコートしなさいよ」
 「は~い、お嬢様」




 ちょっとフザけたら思いっきり足を踏んづけられた……なんで?




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 リムジンみたいな魔導車に乗り込み走ること20分、魔導車が止まった


 俺は魔導車から降りてスプリフォ側のドアを開ける。そしてスプリフォの手を取って彼女を車外から降りる手伝いをした……間違ってるかな?


 「その調子、いいわよ」
 「ああ」


 にっこりと笑うスプリフォ。どうやらよかったようだ
 俺は振り返りリヒテル魔教授の家を見る


 「で、でけぇ……」


 豪邸としか言えない。アニメや漫画で出てきそうな超豪邸
 敷地だけでも学校のグラウンド並み。門から豪邸までは数百メートルはあり、豪邸の大きさは体育館を何個か並べたような大きさ。しかも造りがお城のようでここだけ別世界だ


 「教授って……ここまで金持ちなのか」
 「リヒテル魔教授の家は代々王家に仕える魔術師を輩出してきた有名な一族よ。お金なんて腐るほどあるわよ」


 スプリフォは俺の腕に手を回す


 「さ、行くわよ」
 「ああ」


 門みたいな入口のドアには屈強な傭兵が2人いる。2人とも熊の顔の肩パッドを付けている……どうやら傭兵団の共通装備みたいだ
 スプリフォはその傭兵に一枚の羊皮紙を見せると、ドアがゆっくりと開かれた


 「………」
 「なに緊張してんのよ?」
 「い、いや……」


 しないワケないだろうが、こりゃどこのパーティーだよ!?


 案内されたのはダンスホールだろうか。1つ1つの装飾品は輝いていて触るのすら怖く、ダンスホールにはすでに100人以上はいる。しかも全員貴族みたいなドレスで、気品のよさを感じられた


 「全く、強いクセに何をビビッてんのよ?」
 「う、うるせぇ……」


 そういえばコイツも貴族なんだっけ……パーティー慣れしてるはずだ
 そこで俺の視線はいくつもある円卓へ向けられる


 「おぉぉ……すげぇ」


 円卓には高級そうな料理がズラリ
 しかも招待客は皿に取って食べている。よし、ここは1つ行きますか


 「待ちなさい。その前に挨拶に行くわよ」
 「え」
 「当たり前でしょ、あたしより先に来たあたしの関係者に挨拶しないと失礼でしょうが。この場合だと学園の関係者……まぁ他の講師たちね」
 「……はぁい」


 スプリフォと一緒に歩くと、今日知り合ったばかりの顔が


 「あら、ご機嫌ようスプリフォ講師」
 「ご機嫌ようウェルディヒナ講師」


 ドレスを着込んだウェルディヒナ講師はめっちゃ美人。化粧もしてるのでまさに大人のお姉さんだった
 女教師のお姉さん……なんかエロい


 「………」
 「ど、どうも」


 傭兵おじさんもスーツを着てるが絶望的に似合っていない。むしろなんか笑える
 筋肉質のせいでピッチピチのワイシャツの上に紺色のジャケットを着てるが、どう見てもサイズが合っていない。胸を張っただけでボタンが弾け飛びそうだ


 「ではまた学園で。ジュートくん、明日は直接【灰】の上級教室へ来て下さいね」
 「え!? あ、はい!!」


 ヤバい、おっさんの洋服分析なんてやってる場合じゃなかった


 「ほら、次に行くわよ」
 「お、おう」


 そして次の講師の元へ。次は初日にスプリフォを叱ったおばさん講師だ


 「ご、ご機嫌ようデュヘル講師」
 「ご機嫌ようスプリフォ講師。ずいぶん遅い到着でしたね?」
 「う……いえ、お化粧に時間が掛かりまして」
 「そうですか……スプリフォ講師、一流のレディたるもの化粧は最低の身だしなみ。しかもアナタは名門貴族のリプツェン家の出身。いいですか、化粧が苦手なら今度私が教えてあげましょう。都合のいい日にいつでもいらっしゃい」
 「は、はい……はは、ははは」


 スプリフォは疲れ切ったような笑いでごまかした。おいおい、ごまかしきれてないぞ
 ちなみにデュヘル講師の護衛は2人。両方とも20代のイケメンだった


 「次は……あぁ、めんどくさいけど行くしかないか」
 「え? 誰だよ?」
 「……行けばわかるわ」


 スプリフォは面倒くさそうに歩いて1人の女性の元へ


 「……ご機嫌ようベリルローネ講師」
 「あ~らスプリフォ講師、ご機嫌よう」


 ベリルローネ講師と呼ばれた女性はかなり若く、たぶん17歳くらいだろう
 スプリフォとは正反対のサラサラの銀髪に、スタイルも出てるとこは出て引っ込むところは引っ込んでる。しかもかなりの美少女だ
 連れてる護衛も若く俺と同い年くらいの少年だ。ベリルローネ講師の態度に頭を抱えていた


 「聞いたわよスプリフォ講師。あなた講義中に襲われかけたんですってねぇ? 一体誰から恨みを買ったのかしらねぇ?」
 「うるさいな、お前には関係ない。すっこんでろバカ」
 「んなッ!? 誰がバカよこの真っ平ら!!」
 「あぁん!? なんだとこの変態講師が!! お前が隠し持ってる本のタイトルをバラしてやろうか!?」
 「なぁぁッ!? ふざけんなこのチビ!! あんたの恥ずかしい秘密をバラしてやるからねっ!?」


 大声でケンカする2人に唖然としてると、ベリルローネ講師の護衛が声を掛けてきた


 「いやぁ、スプリフォ講師が就任するまではベリルローネ講師が最年少の天才と呼ばれていたんですけど、その座を奪われたばかりか学園内の講師人気ランキングでもトップを奪われて……それ以来いっつもケンカしてるんですよ」
 「あ、そうなんだ……でも、止めないとマズいな」
 「いえ、大丈夫です。ホラ」


 「……アナタ達、ここをどこだと思ってるんですか?」
 「「ゲッ、デュヘル講師!?」」


 あ、キレイにハモった


 「あの2人がデュヘル講師に説教されるのはいつものパターン、学園の名物になりつつあります。ははは、見ていて飽きませんよ」
 「そ、そうですね」
 「申し遅れました。私はベリルローネ講師の護衛であるファルケと申します」
 「あ、俺はジュートです。よろしく」


 がっちり握手して気が付く。この人の手は硬く、格闘技経験がかなりあることに気が付いた
 しかもかなりの使い手……さすがだな


 「お。終わりましたね」


 スプリフォたちを見るとガックリしてる。とりあえず行くか


 「おい大丈夫か?」
 「まぁね……アイツに関わると碌な目にあわない。もう行こう」




 スプリフォは、ベリルローネ講師がファルケに宥められてるスキを狙って離れた




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 挨拶が終わりようやく料理を食べる。やっぱ美味いわ


 料理に舌鼓を打っていると、ここでようやく登場した


 「皆様、今宵は我が妻であるウィーナの生誕日にお集まりいただき、誠に感謝いたします」


 ダンスホールの奥にある特設ステージの上に現れたのは、40代ほどの男性
 口ひげはキレイにカットされ、体格もなかなかいい。どう見ても普通のおじさんだが目はギラリとした光を帯びてるように感じる


 「あれがリヒテル魔教授か……」


 腕を組んでる女性は20代後半にしか見えないが、奥さんだろう
 リヒテル魔教授は奥さんを連れて会場内を歩き出し、それぞれ挨拶を始めた


 「ここにも来るから、緊張しすぎないでね」
 「ああ……」


 もう緊張はない。できれば神話魔術のことを聞きたい
 俺の目的は神話魔術の発動阻止、それと出来たらリヒテル魔教授の研究データの破棄
 研究データが残ってれば同じことが繰り返される可能性もあるからな


 それと、最終手段も視野に入れておく


 リヒテル魔教授は、だいたい5分くらいの挨拶で会場を回っている
 そして、俺とスプリフォの所へやって来た


 「やぁスプリフォ講師、楽しんでるかい?」
 「……はい。リヒテル魔教授」


 ここで出来るだけ情報を聞き出してやる


 「キミは……ああ、スプリフォ講師の新しい護衛か」
 「はい。ジュートと申します」


 この教授がどんな人なのかはわからない。善人か悪人かも 
 魔術の発展のために【神話魔術】を使うのかもしれないし、もの凄い悪人で破壊のために利用するのかもしれない。でも……町全体を利用するとなると、大規模な死者が出る可能性がある


 だから、どんな手を使ってでも阻止する


 「そうか、キミがスプリフォ講師を襲撃者から守った【灰】の上級魔術師か」
 「はい。私は【灰】属性ですので、リヒテル魔教授が解明した【神話魔術】に興味があります」


 俺は手首をコキコキ鳴らす


 「そうかそうか、なるほど……これは優秀な護衛が付いたものだ。なぁスプリフォ講師」
 「………はい」
















 たとえ、リヒテル魔教授を暗殺することになっても





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