ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑧/ウェルディヒナ講師・襲撃者



 ロミュリッテが盛大に恥を掻き授業から逃亡
 少し哀れだがその日の授業は終わった


 時刻は夕方。そろそろ夕食の時間で、部屋に戻った俺たちは食堂へ向かうことにした
 廊下に出て少し歩くと、シェリューラが現れた


 「あ、あの……ご一緒してもいいですか?」
 「いいわ。ジュートの奢りだし遠慮しなくていいわよ」
 「おい、いつからそうなったんだよ」


 3人で食堂に向かいカウンターで注文。俺は焼き肉定食、スプリフォはドーナツセット、シェリューラも焼き肉定食を選んで食べ始める


 「あら? シェリューラも焼き肉なのね」
 「はい!! 今日は特別、自分にご褒美です」
 「ま、払ったのは俺だけどな」


 他愛ない話をしながら食事をすると、話題はロミュリッテの話になった


 「あ、あの……ロミュのこと、なんですけど」
 「どうした? また嫌がらせか?」
 「い、いえ……機嫌が悪くて、その……」


 シェリューラは言いにくそうにスプリフォをチラチラ見る


 「構わないわ、言いなさい」
 「えっと……ロミュが友達に言ってたんです。魔術協会に圧力を掛けて、スプリフォ講師を辞めさせるって……自分が魔術を使えないのはスプリフォ講師のせいだって……」
 「マジかよ……っていうかスプリフォを辞めさせるなんて出来るワケないだろ?」
 「いや。ロミュリッテの家は【灰の大陸】でも5本の指に入る豪商〔ホープスヘッド商会〕ね。ここの施設の建築にも資金を提供してたはず……なるほど。あたし1人追い出すくらいなんてことなさそうね」


 スプリフォは何でもなさそうにドーナツを頬張ってる
 おいおい、ヤバいんじゃね?


 「大丈夫よ。あたしは絶対にここをクビにならないから」
 「いや、その自信はどこから来るんだよ」


 全く根拠のない自信……不安だ


 「とにかく、明日は晩餐会よ。アンタはあたしに恥を欠かせない努力をしなさい」
 「へいへい。わかりましたよ」




 ジト目のスプリフォを軽く流し、俺は残った焼き肉を食べ始めた




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 翌日の朝。朝食を終えて授業に向かう俺とスプリフォを、1人の若い女性魔術師が引き留めた


 「あの……少しだけよろしいでしょうか、スプリフォ講師」


 女性魔術師は20半ばくらいだろうか、灰色のローブを纏い、ゆったりとしたロングの髪を頭の後ろで結んでいるメガネを掛けたかなりの美人だ。どうして魔術師ってみんな美人なんだろう
 女性魔術師の後ろには厳つい傭兵のおじさんがいる


 「ウェルディヒナ講師……何かご用でしょうか?」
 「えっと、そちらの彼のことなんですが……」
 「へ? 俺?」
 「はい。あなたは【灰】の上級魔術師で、上級魔術の合わせ技が使えるというのは事実でしょうか?」
 「えっと……」


 俺はスプリフォを見る。するとスプリフォは女性魔術師に向かって直接言った


 「事実です、私がこの目で確認しました。精度といい威力といい【特級魔術師】クラスの腕前を持っています」
 「なんと……!?」
 「それでウェルディヒナ講師。ご用件は?」


 女性魔術師……ウェルディヒナ講師は、ここでようやく本題に入る


 「はい、彼に私の講義の手伝いをして頂きたいのです。もちろんその間はスプリフォ講師には別の護衛を手配します」


 なるほど。ならこのウェルディヒナ講師は【灰】の上級魔術師なんだろうな
 俺はスプリフォをチラリと見ると、バッチリ目が合った


 「……どうする?」
 「え、俺が決めていいのか?」
 「……まかせる」


 スプリフォはだんまりなので俺がウェルディヒナ講師に確認する


 「あの、俺はスプリフォに雇われてますのでコイツの側をなるべく離れたくありません。なので時間が掛かることは出来ませんが、それでいいなら」
 「もちろん構いません。それに講義や実技は毎日あるワケではありませんので……【灰】属性は元々の数が少ないので」


 確かに、スプリフォの【赤】属性は毎日講義や実技があるけど


 「ではそういうことで。スプリフォ講師、明日の午前中は空いてますか?」
 「……はい。私の講義は午前中だけですので、どうぞお使い下さい」
 「お使いって……」
 「わかりました。ではまた」


 一礼するとウェルディヒナ講師は去って行った。傭兵は最後までだんまりだった


 「………」
 「どした?」
 「うっさい!! こっちみんな!!」
 「げふっ!?」


 スプリフォは俺の鳩尾に的確なブローを入れた
 俺が悶絶していると、スプリフォがポツリと呟いた


 「なにが「離れるワケにはいかない」よ……バッカじゃないの……!!」




 なぜか耳が真っ赤に染まっていた




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 本日は中級魔術の講義。昨日の試験の合格者はみんな教室に集まっていた


 昨日の不合格者は別の講師が講義をしてる
 スプリフォは教壇に上がるとさっそく講義を始めた


 「では講義を始める。今日の議題は……」


 次の瞬間。俺は唐突な違和感を感じる


 「……何だ?」


 僅かに感じる『敵意』そして『悪意』
 俺は視線を彷徨わせ……見つけた


 生徒達が座る席の最上段。出口から一番近い席に座るフードを被った何者かが、腕をスプリフォに向けていた
 魔術ではない。出口に近い位置にいるのは……逃げるため
 手に装備してるのは……あれは、まさか〔マルチウェポン〕なのか


 俺は瞬間的に教壇の前に飛び出す


 「な、ジュート!?」
 「動くな」


 矢が発射される瞬間を見ていたので、俺は矢をナイフで叩き落とす


 「舐めやがって……ッ!!」


 驚き、逃げ出そうとする襲撃者を捕まえるために【拘束巻鎖バインダー・チェーン】を発動。立ち上がっただけで襲撃者は拘束され、その場に倒れた
 ここでようやく生徒達から悲鳴が上がり、襲撃者から距離を取った


 「全員静かにしろっ!! 誰もその場から動くなっ!!」


 俺の一喝が轟き生徒達はピタリと動きを止めて静かになる


 「じゅ、ジュート、どういう……?」
 「仲間がいるかもしれない。アイツを押さえて事情を聞く」


 スプリフォに言うと俺は鎖を操作して襲撃者を教壇前に
 ゴロゴロと転がり身体中をぶつけるが、俺は一切気にしない。スプリフォを狙った罰だ


 「く、くそ……っ」
 「よう襲撃者。まさかお前もコイツを持ってるなんてな」


 俺は左手を反らしてギミックナイフを見せつける


 「……わ、悪かった。オレは命令されただけなんだ!!」
 「誰に?」
 「そ、それは……」
 「この中にいるか? ウソを付いたら……分かるな?」
 「ヒ、ひぃぃ……いない!! ここにはいない!!」
 「………」
 「ホントだ!! 信じてくれ!!」


 殺意を見せるだけでこんなにもお喋りになる。生徒達が怯えるから見せるのはコイツだけなんだけどね


 「よし信じよう。でもコイツは没収な」
 「ぐあぁっ!?」


 俺は〔マルチウェポン〕を外すと襲撃者を殴って気絶させる
 奇しくも〔マルチウェポン〕は黒。おそろいの色だった


 「スプリフォ、コイツは傭兵に引き渡そう」
 「う、うん……」


 すると、騒ぎを聞きつけた何人かの講師が、傭兵を連れてやって来た
 スプリフォが事情を説明して襲撃者はご用となり連れて行かれた


 「今日はもう講義は出来ないな……」
 「仕方ないわ。まさか教室に襲撃者がいるなんて……」




 この日は結局、そのままお開きとなった




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 生徒たちを部屋に帰し、俺とスプリフォも部屋に戻ってきた


 「やれやれ、なんだったんだアイツは」
 「まさかあたしが狙われるなんてね。アンタのおかげで助かったわ」
 「気にすんな、そのための護衛だろ?」
 「そーね。でもサンキュ」
 「はいはい」


 部屋でまったりお茶を飲む
 晩餐会は予定通り行われるので、時間的余裕はけっこうあった


 「あ、メシはどうする?」
 「うーん……少しだけ食べましょ。夜はご馳走だから今から準備しておかないとね」
 「そうだな、全面的に同意する」


 するとここでドアがノックされる


 「はーい。だれー?」
 「あ、あの……スプリフォ講師、私です。シェリューラです」
 「シェリューラ? どうぞー」
 「し、失礼します」


 部屋に入ってきたシェリューラは、かなり沈んだ顔をしていた


 「大丈夫?」
 「はい……って、狙われたのはスプリフォ講師なのに」
 「まぁジュートがいたからね。それで何か用?」
 「い、いえ……なんか怖くて」


 スプリフォは小さくため息をついてシェリューラに言う


 「だーいじょうぶ、あんたは気にしないで勉強しなさい。悪い奴はジュートが全部やっつけるから」
 「俺かよ……しかも全部?」
 「あったりまえでしょ、アンタは護衛なんだから」
 「まぁやるけどよ」


 このやり取りを聞いていたシェリューラは少し笑い、「予習します!!」と言って帰って行った
 あの襲撃者は何者だったのか……スプリフォを何故狙ったんだ?




 そして考える間もなく夜。晩餐会の時間になった





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