ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート⑤/実技授業・合わせ技

 
 「なぁ、晩餐会って?」


 シェリューラと別れ部屋に戻ると、スプリフォはソファでゴロゴロし始める
 俺の質問に顔をあげると、眠そうに話し始めた


 「リヒテル魔教授の奥さんの誕生日よ。あたし以外にもこの学園の講師はほとんど呼ばれてる。正直行きたくないけど……あたしだけ欠席するわけにはいかないからね」
 「ふーん。所で……」


 俺は今日、気になったことをズバリ聞いてみた


 「お前ってさ、リヒテル魔教授がキライなのか?」
 「……なんでそう思うの?」
 「いやだって、なーんかリヒテル魔教授の話題には参加しないし、少し距離あるし」


 こいつと会って半日。直感だがこいつとリヒテル魔教授には何かある


 「……別に。リヒテル魔教授には感謝してる。あの人がいなかったらあたしはここにいない……って、なんでアンタにそんなこと言わないといけないのよっ!!」
 「いや、お前がしゃべり出したんだろ。深刻な顔して」
 「うっさいっ!!」


 スプリフォは立ち上がると奥の寝室へ歩き出す。やれやれ、俺も帰るか


 「ちょっと、ドコ行くのよ」
 「は? 帰るんだよ。仕事は終わりだろ、また明日な」
 「はぁ? アンタは護衛なんだからここに泊まるのよ」
 「え、マジで?」
 「アンタの寝床はそこのソファね。それと……どんな理由があろうと、あたしの寝室は絶対に入らないで。これは絶対の約束よ、いいわね」


 スプリフォはそういうと寝室へ引っ込んでしまった
 すると、カシャンと鍵の掛かる音が聞こえた




 ………マジ? ここに泊まりかよ?




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 「起きろっ!!」
 「あだっ!?」


 朝。ソファの上で安眠してると、スプリフォに蹴り起こされた


 「て、てめぇ……」
 「朝ご飯。5分で」


 スプリフォは当然という表情で俺を見る。こ、こいつ……また野菜のオンパレードにしてやろうか


 「あ、朝はパンね。スープはなしでタマゴとベーコンを焼いて、あとはフルーツの盛り合わせね」
 「………」




 くそ、朝は俺の負けだ……ちくしょう




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 朝食を食べながら今日の予定確認


 「今日は上級魔術師の実技を行うから、外にある第一演習場へ行くわ。午後の予定は……そうね、アンタの服を買いに行くわ」
 「は? 服?」
 「そ。どーせアンタはパーティー用の服なんて持ってないでしょ?」
 「……ないな。うん」
 「町のショッピングモールにある服屋に行くわよ。もちろんアンタの自腹ね」
 「はいはい、わかりましたよ……っていうか、ショッピングモールなんてあったのか……」


 全然分からなかった。この町は一周してみたんだけどな


 「まぁ旅人や冒険者には分かりづらいでしょうね。あとで案内してあげる」
 「わかった」


 服ねぇ……まぁ確かに、俺は基本的に【友情の約束プロメッサ・アミティーエ】だし、寝る前に生活魔術で清めてるから汚くない。あとはせいぜい寝間着用のパジャマとか、買ったけど全く着てない私服くらいだな


 「あ、晩餐会っていつだよ」
 「明後日よ」




 思ったより早かった。よし、がんばろう




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 場所は変わって外の演習場


 今日の授業は上級魔術師たちによる上級魔術実技だ
 上級魔術師といってもなりたてのホヤホヤで、実戦はおろか禄に上級魔術も使えない
 試験は突破したけど魔術が身についてない……なので、この授業で魔術を身体にしみこませるのだ


 上級魔術師は全員で20名ほど。年代は様々で年長者で30くらい、最年少で俺と同じくらいだった
 まだ授業まで時間があるのでそれぞれ盛り上がっている


 「ジュート、わかってると思うけど」
 「ああ、任せろ」


 スプリフォの言いたいことはわかる
 ここにいる人間は上級魔術師で、俺とスプリフォも上級魔術師だ。だからと言って別に同格と言うわけでは断じてない


 まぁ要するに……チョーシに乗る奴は必ずいるってコトだ


 この授業は実際にモンスターを討伐する
 演習場はアメリカとかの射撃場みたいな感じ。広大な広場の向こうは森になっていて、特殊な音やエサを用いてモンスターをおびき寄せる。敷地内にモンスターが入ったら魔術結界を作動させ閉じ込め、生徒が順番に魔術を使ってモンスターにダメージを与えていく、という授業だ
 なりたて上級魔術師の魔術ではここのモンスターはそう簡単には倒れない
 なので最後はスプリフォがトドメを刺して終わらせる。ちなみに俺は不測の事態の対処係だ


 しかし、何の罪も無いモンスターを的にするのは正直気が引ける


 「ここのモンスターは基本レートはA〜B。しかも殆どが危険種に指定されてるモンスターよ。遠慮はいらないから」
 「あ、そう」


 俺の考えがわかったのか、スプリフォが言う
 まぁこいつもモンスターとはいえ虐殺みたいなことはしたくないのだろう




 「時間ね……それでは実技授業を始める」




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 授業が始まり、スプリフォの講義が始まる


 「いいか。上級魔術は中級・初級とはワケが違う。まともな詠唱でも1分以上、詠唱省略でも40秒は発動に時間が掛かる。さらに詠唱の複雑さから求められるのは揺れない心、精神。戦闘中に上級魔術を発動させるには威力よりも精神が大事だ」


 スプリフォは真面目に話してるが真面目に聞いてるのは数人しかいない
 上級魔術師の男女比率は7:3くらいで女子が多い。しかも若い女ばっかりだ
 隣の女子と話をしたり、ナメ腐った目でスプリフォを見たり、詠唱の確認をしてるのか口元が動いていたり……中にはスプリフォの話をメモしてるやつもいる


 その後15分ほど上級魔術の心得を説明してるが、ついに焦れた生徒が声を出した


 「スプリフォ講師、心構えは試験や講義で何度も勉強しました。実際の魔術の流れを勉強させてくれませんか?」
 「ほう、私の授業が不服と?」
 「いえ、提案です。同じ上級魔術師として心構えは理解してるつもりです」


 ありゃりゃ、ついに出たか……やれやれ
 俺はスプリフォを見るが、スプリフォはため息をついて言う


 「わかった。それでは実技を始める」


 その言葉に、何人かの魔術師達はしてやったり顔だ。どうやらスプリフォを打ち負かせたとでも思ってるんだろうな。やれやれ


 俺たちがいる場所は広場の手前の施設の中。施設手前は柵になっていて、柵の向こうは野球のグラウンドみたいに広い
 スプリフォが柵の操作盤に魔力を流すと、施設の屋根から何かが射出された


 「なんだありゃ……?」
 「あれはモンスターの肉だ。改良して特殊なフェロモンを出すようになっていてモンスターをおびき寄せる効果がある……ほら、さっそく来たぞ」
 「お、ホントだ」


 現れたのはトカゲみたいなワニ。いや……ワニみたいなトカゲだ
 しかもデカい。大きさは全長10メートルほどで全身が甲殻に包まれている


 「ほう〔グレースケイルリザード〕か。運がいいな、コイツの甲殻は上級魔術数発では破れん。お前達みたいなヒヨッコでは尚更だ」


 まるでケンカを売るような言葉に生徒達はあからさまに不機嫌顔になった


 「では5名づつ前に。使う魔術は上級、使用魔術は任せる」 


 ここの生徒は全員【赤】属性だな。弱点属性ではないから手こずるかも




 【赤】の上級魔術は俺の知る限り20種類……さて、どんな魔術が飛び出すかな




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 結果は……それはもうヘッポコでした


 まず最初の5人は詠唱を始めたが発動したのは2人、後の3人は詠唱を間違えて発動すらしなかった
 発動した2人の魔術は【爆炎爆破エクスプロード・ブレイズ】と【巨大炎球ギガ・ファイアボール
 【爆炎爆破エクスプロード・ブレイズ】は直撃したけど無傷、【巨大炎球ギガ・ファイアボール】に至ってはカスリもしなかった。狙いの定め方が甘かったみたい


 その後も生徒を入れ替えて魔術を発動させるが結果は似たり寄ったり
 その間も〔グレースケイルリザード〕は美味しそうに肉をモリモリ食べていた


 「……これで全員わかっただろう?」


 悔しそうに何故かスプリフォを睨む生徒たち


 「魔術1つまともに発動できないようじゃ意味がない。お前達は肩書きだけの上級魔術師でまだまだ学ぶことがたくさんある」


 すると〔グレースケイルリザード〕は肉を食べ終えたのか、大口を開けてこっちに向かってきた 
 生徒達が悲鳴を上げるがスプリフォは後ろを見もしない


 「上級魔術は威力はあるが発動は難しく詠唱も長い。だからと言って使えないワケではない。今回は術に慣れて貰うために使ったが、こういう使い方もある」


 するとスプリフォは人差し指をピンと立て、指先に火球を作り出す
 そして、こちらに向かってくる〔グレースケイルリザード〕に向けて高速で火球を打ち出した


 「爆ぜろ」


 火球は大口を開けていた〔グレースケイルリザード〕の口の中へ。そしてスプリフォの合図で爆発……腹が大きく膨らんで口からは黒煙がブスブスと出てる……死んだ


 「今のは【火球ファイアボール】と【爆破ボンバーボム】で共に初級魔術の合わせ技だ。詠唱を組み合わせることでこんな芸当も出来るようになる。これからの授業でお前達にも習得してもらう」


 すげぇ、この一撃で生徒たちのスプリフォを見る目が変わった
 明らかに尊敬の眼差しに変化した……やりやがるぜ


 「さて、授業を……ん?」




 ここでスプリフォはグラウンドを見る。そして、森の奥から無数の目が光るのを俺は見た





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