ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート④/シェリューラ・食堂にて



 初級魔術師たちの教室には大量の生徒がいた。たぶん300人以上はいるぞ
 しかも年代は俺とタメかすぐ下くらい。なんとなく親近感を覚えた


 この教室にもスプリフォ専用台が置いてある。なんとまぁ準備のいいことで
 専用台の上にスプリフォが乗る。そして教卓の上に置いてあった小型のマイクを襟元に付けてさっそく授業を始める


 「さて、講義を始める」
 「スプリフォ講師、質問がありまーす」
 「······なんだ?」


 手を挙げたのは最前列に据わる女子生徒。俺よりちょっと下でスプリフォよりは上の女の子だ


 「そちらの護衛の方、以前とは違いますが······また変えられたんですかー?」
 「授業には関係ない。それでは始める」
 「そうですか〜。スプリフォ講師のワガママでクビになった護衛の方はこれで8人目です。依頼料だってタダじゃないのにコロコロ変えてぇ···講師は随分と懐があったかいんですねぇ〜?」


 すると教室では笑いが起きる。スプリフォのヤツ生徒に舐められてやがる


 「ははは、そうだな。ちなみに依頼料は全て学園持ちだ。ここまでして何もお叱りが無いという事は、学園は相当私に期待してるらしい。ならば期待に答えなくてはな」


 スプリフォが言い返すと女子生徒の頬はピクリと動く




 「さて、それでは講義を始める」




───────────────


───────────


───────




 「お前ってもっと短気だと思ったぜ」


 授業が終わり廊下を歩くスプリフォに問いかけると、スプリフォはつまらなそうに言った


 「年下のあたしに教わるのがシャクなんでしょ。それにあんな小物をいちいち相手になんかしてらんないわよ」
 「大人だねぇ······子供だけど」
 「うっさいわねこの変態‼」
 「誰が変態だよこのチビ‼」
 「誰がチビよ‼ それにアンタあたしの胸を見たじゃない‼」
 「別に興味ねーよそんな平らな平原」
 「なんですってぇっ‼」


 言い争いをしながら歩く。すると、俺のセンサーに悪意が引っ掛かった


 「止まれ」
 「ぐえっ⁉」


 俺は曲がり角で急停止。スプリフォの襟首を掴んで止まる
 すると曲がり角から1人の女子がかなりのスピードで走ってきた


 俺はその女子生徒の腕を掴み壁に押し付け、左手を反らして〔マルチウェポン〕のギミックナイフを起動させて女子生徒に押し付ける


 「おい、何だそれ」
 「ひっ······ひっ······ひぃっ」


 女の子の手には鈍器のような分厚さの本があり、手が震えて足元に落下。落下音は鉄のような音がした
 俺が足で本を蹴ると中からは鉄板のような物が出てきた。どうやらあれで重量を増してるらしい


 あのままぶつかれば身長低いスプリフォの頭部に鈍器の本は命中していただろう。完全に故意だ


 「なぜコイツを狙った。何者だおま······えっ⁉ っだぁぁっ⁉」
 「離せバカ‼ そいつはただの嫌がらせだ‼」


 スプリフォは思い切り俺の足を踏んづけやがった。この野郎、俺が頭をぶん殴ってやろうか
 俺は女子生徒を開放する。すると女子生徒は床にヘナヘナと座り込み、ポロポロと泣き出した


 「ごめ、ごめんなさい······ひっく、わたし······脅されて、嫌だったのに、やらないと······うくっ、ごめんなさい」
 「落ち着いて。あんたは······初級魔術師のシェリューラね? 誰に言われてこんなことを?」
 「ろ、ロミュ······です」
 「そう。ほら立って。あたしの部屋でお茶でも飲みましょう」


 女の子を立たせて一緒に歩き出す


 「ほらジュート、あんたもさっさと来なさい‼」
 「へいへい」




 不味いな、本来の目的から離れてく気がする




───────────────


───────────


───────




 「ほら、お茶だ。それと······さっきはゴメン」
 「い、いえ。スプリフォ講師の護衛ですし、当然の対応だと思います」
 「ふん。幼い少女を壁に押し付けてナイフで脅すのが当然の対応?」
 「うっせーな、フォローが台無しだろ」


 場所は変わってスプリフォの部屋。掃除した後なのでかなりキレイだ
 お茶は俺が入れ、スーパーマーケットでお茶菓子を買ってきた。茶菓子はチョコとクッキーで、スプリフォはバクバク食べてる


 「それで、何があったんだ?」
 「······その、この本を持ってスプリフォ講師にぶつかれって、その······ロミュが」
 「やれやれ、そんなにあたしが妬ましいのかね」
 「スプリフォ講師はリヒテル魔教授のお気に入りだからって、甘やかされてるのが許せないって、だから懲らしめてやれって······ごめんなさい。スプリフォ講師」
 「気にしないで。妬みややっかみは慣れてるし、自分じゃなくて他人にやらせるような度胸のないザコに構ってらんないわ。シェリューラ、これからはあたしの側にいなさい。あんたも狙われるかもしれないし、いざとなればジュートが盾になるから」  
 「盾って、言い方悪いぞ」


 やれやれ、仕方ない。とにかく勢いで聞いてみるか


 「リヒテル魔教授ってのは······神話魔術を解読した魔術師で、この学園の理事長なんだよな?」


 俺は本来の目的であるリヒテル魔教授のことを聞いてみる。するとシェリューラが興奮気味で話す


 「その通りです‼ リヒテル魔教授は【灰】属性の神話魔術を解読し、この研究の成果が認められれば【特級魔術師】の称号を得られるかもしれないんです‼ 自由奔放なシェラヘルツ様より堅実なリヒテル魔教授を押す声が強くなっているそうです‼」
 「そ、そうか。ありがとう」


 シェラが自由奔放······否定出来ない。そもそも【紫の大陸】で王様を置いて帰るようなヤツだしな


 「リヒテル魔教授の解読過程は極秘で、知る者はいないそうです。魔術師の研究成果は命より重いと言われてますからね」
 「そうなのか? それじゃホントに解読出来たかどうか怪しいんじゃ······?」
 「噂では神話魔術の詠唱文章を少し読んだだけで死にかけた魔術師が出たそうです」
 「怖いな。まるで人体実験だ」
 「ですね······でも、その魔術師は自ら志願したそうです。リヒテル魔教授のためなら、と言うことで」
 「ふぅん。リヒテル魔教授の研究成果はどこにあるんだ?」
 「さぁ? というか何でですか?」
 「い、いや別に。なぁスプリフォ······スプリフォ?」


 スプリフォは俺とシェリューラのやり取りを黙って聞いていた
 まるで聞きたくないことを聞いているような感じだ


 「ジュート、今日の仕事はおしまい。夕食の支度して」
 「あ、あぁ······」
 「あ、あの」


 シェリューラがおずおずと手を挙げる


 「せっかくですし、食堂へ行きませんか? お礼もしたいのでごちそうさせて下さい」




 食堂······そんなのがあったのか




───────────────


───────────


─────── 




 〔ユーグレナ魔術学園〕の食堂はかなり広くオシャレで、夕食時なのでかなりの生徒が利用していた


 「なあシェリューラ。その······大丈夫なのか?」
 「え? あ······平気です。ロミュは自宅へ帰りましたから」
 「確かロミュの家は王都の大商人だったっけ、この町で自宅を持てるなんてかなりの富豪ね」
 「はい。彼女は毎晩、彼女の認めた人間を集めてパーティを開いてます」
 「うっへぇぇ······近づきたくない部類だわ」
 「ンなヤツのことはどーでもいいわ。早くご飯にしましょ」
 「そうだな······ホントにいいのか?」
 「はい。お好きなものをどうぞ」


 注文はカウンターにあるメニューを見てその場で決め、注文すると番号の書かれた札を貰う。そして料理が出来上がったとき番号で呼ばれるシステムだ


 俺は焼肉定食、スプリフォはドーナツセット、シェリューラは野菜炒め定食を頼んで注文。料理は3分もかからず出来上がり、4人掛けの席で食べ始めた


 耳を傾けなくても聞こえてくるのはリヒテル魔教授の神話魔術に関する話題だ


 「知ってるか、神話魔術は属性に関わらず発動出来るらしいぜ。リヒテル魔教授の弟子からの情報だ。信憑性が高いぜ」
 「全体集会で詳細発表だろ? たぶんオレたち初級魔術師から上級魔術師まで町総動員で発動させるって話だ。楽しみ半分、恐怖半分だぜ」


 俺たちの後ろの席からそんな会話が聞こえてくる


 「う〜ん、久しぶりに食べたけどやっぱりここのドーナツおいし〜っ」
 「お前な······成長期なんだからもっと栄養あるの食べろよ」
 「うっさいな、あたしが何食べようがアンタに関係ないでしょ」
 「ま、まぁまぁ。それよりスプリフォ講師、伺いたいことが」
 「んく。なーに?」


 スプリフォは口いっぱいのドーナツを飲み込みオレンジジュートで口の中を潤す。マジで子供だな


 「リヒテル魔教授の開催する晩餐会に呼ばれたというのはホントですか⁉」
 「あー······まぁね」


 なんじゃそりゃ。さすがに教授クラスとなると晩餐会なんて開くのか
 スプリフォは思い出したように俺に言う


 「アンタも行くのよ、一応あたしの護衛だしね」
 「マジで⁉」


 こりゃ思わぬチャンスだ。リヒテル魔教授と喋れるかも




 スプリフォの護衛と補助になって、初めてよかったと感じた





「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く