ホントウの勇者

さとう

魔術師の町ブルグレート②/依頼主・スプリフォ講師



 「リヒテル魔教授ですか? そうですね······今彼は神話魔術の解読に成功。魔術師史上初の快挙を成し遂げた偉人ですね。彼の名前は歴史に残るでしょう」


 「リヒテル魔教授は素晴らしいお方だ。上級魔術師としての腕はもちろん、そのお人柄に惹かれて何人もの弟子が集まっている」


 「彼のお弟子はほぼ全員が研究者として大成してる。しかし······一部の魔術師は彼を妬んで有りもしない噂を流してる。リヒテル魔教授はインチキだとね」


 「ありえない噂だが、リヒテル魔教授の研究は全て彼の弟子が行った物らしい。まぁあり得ない噂だがな。彼の講義を聞いたが素晴らしいものだった」


 「リヒテル魔教授はここの魔術学園の理事長でもあり、研究者を目指す学生たちの憧れでもある。毎日学園で教鞭を執る勉強熱心なお方さ」


 「噂だがな······リヒテル魔教授は【特級魔術師】の最有力候補だったが、シェラヘルツ様に奪われてしまい、彼女を恨んでるって話だ」


 俺は町のギルドで聞き込みをする。多少の現金は使ったが特に問題はない
 それにしても······出るわ出るわ。人格者だけど怪しい部分もある。まぁ裏の顔なんて普通は見せない


 あとは直接会うしかない。でもどうやって?


 「うーん、どうするか······」
 《ジュート、コレを見なサイ》


 冒険者ギルド内の依頼掲示板を見てるクロ。なんだよ一体?
 俺はクロの視線の先にある依頼を見て閃いた


 「魔術学園内の警備、学園講師スプリフォの補助・護衛······か。よし、これなら」


 この魔術協会総本部には、次世代の研究者や魔術師を育成するための学園である〔ユーグレナ魔術学園〕が併設されている
 魔術学園は素質ある者は誰でも入ることができ、研究者として魔術に関わるもよし、冒険者にスカウトされて出て行くもよしとされている
 まぁ【青の大陸】にある魔術学園とそう変わらない。ここではリヒテル魔教授が理事長ってことくらいだな


 「え〜っと······期間は未定、報酬は仕事の働きに応じて、か」


 よし、コイツを受けて学園に忍びこむ。そしてリヒテル魔教授の実態を探ってみよう。ギルドの冒険者の情報ではリヒテル魔教授は毎日学園で講義をやってるらしいからな


 俺は依頼の紙を剥がして受付へ持っていく


 「すみません、依頼を受けます」
 「はい。え〜っと······おぉ、この依頼を受けてくれるのですね。ありがとうございます」
 「は?」
 「いえ、その······スプリフォ講師は気難しい方で、この依頼を受けた冒険者は何人も途中放棄してしまって」
 「そうなんですか?」
 「はい、ですがS級のあなたなら大丈夫でしょう。頑張ってくださいね」
 「ど、どうも」




 少し不安になりながらお姉さんから依頼を受けた




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 「ここが〔ユーグレナ魔術学園〕か」


 ギルドの説明によると要塞の四分の一が魔術学園らしい
 どこか堅苦しい雰囲気の門には守衛である傭兵が門番をしてる。この傭兵はこの学園が契約してる傭兵らしい


 俺は守衛に依頼用紙を見せて中へ、受付らしきところでスプリフォ講師の部屋へ案内してもらった


 「こちらです。ではお気をつけて」
 「はぁ」


 何をだよ。モンスターでも出るのか?
 俺はドアをノックした


 「·········」


 反応なし。もう一度


 「·········」


 反応なし。仕方ない、入るか


 「失礼しま〜す。依頼を受けた冒険者の······あれ?」


 誰もいない······っていうか汚ぇ部屋
 着替えだろうか、白衣が何着も脱ぎっぱなしで放置され、机の上は書類の山。さらに来客用のソファとテーブルには食べかけのお菓子やドリンクが放置されてる。壁は全面本棚で、久しく読書してない俺は心を揺さぶられた


 俺は本棚に近づき本を取ろうと手を伸ばした


 「ん······んぅ〜ん······あれ?」
 「おわっ⁉」


 すると、積み上げられた洗濯物の中から1人の少女が現れた


 「·········んぁ?」
 「えっと、キミは······って⁉」


 少女はほぼ全裸。上半身は裸で下半身はパンツ1枚
 寝ぼけ眼を眠そうに擦る姿は猫みたいで、ウェーブの掛かった金髪は腰まである。身体は未発達で胸は控えめ、多分14歳かそのくらい。顔立ちは可愛い方だった
 細められた目が俺を捕らえ、訝しげ、見開かれる


 「·········き」
 「えっと、スプリフォ講師の依頼で来たんだけど」


 少女の顔がどんどん赤くなる。あ、これはマズい


 「きゃあぁぁぁ〜ッ‼」


 
 少女の声は、部屋一杯に響き渡った




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 慌てて部屋を飛び出して5分


 許可が出たのでゆっくりとドアを開けると、憤怒の表情をした少女が俺を迎えてくれた


 「最ッッ低のゲス野郎、取り敢えず1発殴らせなさい」
 「あ、はい。どうぞ」


 甘んじて受ける。間違いなく俺が悪い


 「死ねえッッ‼ うぎっ⁉」


 少女の手は俺の腹筋へ。しかし拳がヒットした途端に少女の手首はヘンな方向へ曲がった。あれは痛い


 「くぅ〜〜っ······よ、よくも」
 「いや今のはお前の自爆だろ······それより」


 俺はここで要件を話す


 「お前は誰だ? スプリフォ講師の場所を知らないか、依頼を受けてきた冒険者なんだけど」
 「はぁ? アンタ······あたしの顔を知らないの?」
 「いや全然」


 頬をピクピクさせた少女は胸を張る
 そして指を突きつけて高らかに名乗りを上げた


 「教えてあげる、あたしがスプリフォ・リプツェン講師よ。この名前を覚えておきなさい。あたしは将来の〔魔教授〕なんだからね‼」
 「はぁ······って、お前が講師?」


 俺は目の前で胸を張る小柄な少女を眺める
 身長は低く、俺の胸の辺りまであるかないか。髪型は金髪で腰まであるゆるふわウェーブで、服装は黒いワイシャツにスカート、白衣を着ているどうみても子供の女の子


 「ははは、冗談だろ? いいからスプリフォ講師を呼んでくれよ。ほら、チョコやるから」
 「あたしがスプリフォっつってんでしょうが!!」


 女の子は俺の手からチョコをひったくるとモグモグ食べる。甘い物が好きなのかご満悦だ


 「はぁ……キミ、いやお前」
 「なんで言い直すのよこの変態!!」
 「あのなぁ……スプリフォ講師の妹かなんかだろ? 俺は時間が惜しいんだ、早く呼んでくれよ。アメやるからさ、な?」
 「あ、あんた……あたしもマジでキレるわよ……!!」


 女の子は俺の手からアメをひったくる。すると濃密な魔力を帯び始める


 「お前、魔術師なのか!?」
 「そうよ!! くらえこのヘンターイッ!!」


 詠唱の速さ、魔力の質、そしてこの【赤】魔術の威力
 これは間違いなくこれは中級魔術・【炎蛇集団サラマンドランド】だ。炎の蛇を何匹も作り出し対象を焼き尽くす、対集団用の魔術


 「あっぶねぇっ!? こんのバカッ!!」


 俺は【灰】魔術で鉄の盾を作り出し防御する
 しかし何発かの炎蛇は壁の本棚を焦がし、ショックで轟音が生じた


 「んなぁ!? あたしの魔術を……しかも希少な【灰】属性!?」
 「こんのバカっ!! 室内で集団用の魔術を使うヤツがいるかっ!!」
 「ぎゃんっ!?」


 俺は遠慮無く少女にゲンコツを落とす。すると、ドアが急に開いて何人かの講師が入ってきた


 「スプリフォ講師!! また何かしでかしたのですか!!」
 「ゲッ、デュヘル講師……い、いえ。なんでもありません」


 入ってきたのは高身長で少しキツメのおばさん講師……って、え?


 「スプリフォ講師、あなたは毎度毎度騒ぎを起こして!! この〔ユーグレナ魔術学園〕の名誉ある講師としての自覚というモノが……」
 「……ぐぅぅ、あたしのせいじゃないのにぃ」


 女の子はデュヘル講師に叱られてる。うーん、俺も悪いのかな?
 すると、突然デュヘル講師の視線が俺に向き、思わず身構える


 「ところでアナタは? 当校の生徒ではないようですが」
 「あ、俺はギルドから派遣されたスプリフォ講師の補助と護衛です。はい」


 俺はギルドから渡された依頼用紙をデュヘル講師に渡す。するとデュヘル講師は用紙を上から下まで舐めるように見る……なんか怖い


 「……わかりました。それではスプリフォ講師、まずはこの部屋を片付けるように。いいですね」
 「ふぁ~い……はぁぁ」
 「返事はハイ!! です!!」
 「ひゅぁいっ!?」


 めっちゃ裏返った声で返事をする女の子。ここまで来ると間違いないな
 デュヘル講師は去って行った……めちゃ怖かった


 一時的な静寂。そして俺は女の子に確認した


 「お前がスプリフォ講師……悪い、疑ってた」
 「ふん、最初から言ってるでしょこの変態め。さて早速だが仕事よ、この部屋を掃除しなさい」
 「はははふざけんな。お前もやるんだよ」 
 「何ですって!? 依頼主に逆らう気かこの変態冒険者!!」
 「ほぉ……じゃあ俺はデュヘル講師のとこ行くわ」
 「んなぁ!?」




 俺とスプリフォ講師……スプリフォは、掃除から始めるのだった



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