ホントウの勇者

さとう

美食の町イーティア⑪/屋台・オヤジのラーメン





 グルメフェスタから丸一日。俺たちはキチベエさんの店に集まった


 マイトとクイナのことは昨夜、全員に話した
 敵では無く味方でもない。終わりを求めて去って行った悲しい先輩


 少しだけしんみりしたがすぐに気を取り直し、俺と女子四人でアウトブラッキーの風呂へ
 疲れもあったけど全員が応えてくれる。俺は本当に幸せ者だ
 そのままベッドの上でもハッスルし、気が付けば朝だった


 今日はキチベエさんたちとパーティーをする事になっている


 「じゃあ行くか……あれ、壊子は?」
 「少し用事で戻ったわ。すぐに戻るから心配しなくて大丈夫よ」


 まぁそういうことなら別にいいか




 俺はキチベエさんの店のドアを開けた




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 「おう兄ちゃん嬢ちゃん。いい天気だな、がっはっはっは!!」


 うーむ。うれしさの余りテンションがおかしい。みんなも少し困惑……半笑いだ


 「あんた!!……はぁ、昨日からこんな調子でねぇ」
 「いや、嬉しいならそれでいいんです」
 「すまないねぇ……さて、何か食べるかい?」


 オタエさんはラーメン以外にも家庭的な料理をたくさん作り、ちょうどお昼だったので遠慮しないで俺たちはがっついた。それにしても壊子が来ないな


 するとキチベエさんが改まって俺たちを見る


 「改めて……ありがとう!! 兄ちゃんたちはオレに取っての神だ!! オレの43年の人生の中でこれほど嬉しいコトはねぇ。本当にありがとう!!」


 キチベエさんは土下座する勢いで礼を言う
 しかし、今さらながら気が付いた


 「あの……今日って別に貸し切りじゃないですよね?」
 「ああ。普通に営業中だ」


 おいおい、閑古鳥は相変わらずかよ


 「う~ん……グルメフェスタ優勝なのにお客さんがいないのは淋しいね」
 「確かに~、これってヤバいよね~?」


 うむむ、どうしたモンかね


 「んなこと言ってもよぉ、中央や他のとこに引っ越す余裕はねぇし、昨日の売り上げくらいじゃ近場にすら引っ越せねぇ。それにオレはこの裏通りが好きだから移動の予定はねぇぜ?」


 そう言うなら仕方ないよなぁ。ちょっと淋しい気もするけど
 すると、引き戸がガラガラと音を立てて開いた


 「遅れてゴメン」


 ここで壊子が登場。何の用事だったんだろ


 「どう?」
 「うん。バッチリ」


 麻止と壊子の謎のやり取り。一体なんだろう?
 ここで麻止がキチベエさんに向き直る


 「キチベエさん。改めてグルメフェスタ優勝おめでとうございます。そこで……私たちからプレゼントがあります」
 「あぁ?」


 何それ。俺たちも初耳なんですけど
 水萌や括利もポカンとしてる


 「キチベエさんの性格からしてそう言うだろうとは思っていました。だから……こんなモノをご用意させて頂きました」


 すると麻止は立ち上がり外へ。俺たちとキチベエさん、オタエさんも着いていく
 そして玄関前に着くと、とんでもないモノが置いてあった


 「……な、なんだこりゃ?」
 「これは……リヤカーかい?」


 キチベエさんとオタエさんには見当も付かないが、俺たちはすぐに分かった


 「これって……ラーメン屋台か!?」


 見た目は大型のリヤカーだが、魔導コンロが3つに木製の壁には様々な道具がつるしてある。さらに貯水タンクが備え付けてあるので水も出るし、棚にはどんぶりとレンゲ、箸のセット。車輪の脇には折りたたみの長いすが設置されているので3人くらいは座れそうだ。調理台は結構広く、流石に麺打ちは出来ないが麺を入れるスペースはかなり多い。すげえ


 「こ、コイツでラーメンを……?」
 「はい。試して見ますか」


 麻止はキチベエさんを調理台へ誘導。いつも通り調理して貰う
 店からスープと調味料、キチベエさんが打った麺を備え付け調理する
 俺たちは折りたたみのイスの上でラーメンを待つ。のれんには〔ら~めん吉兵衛〕と、日本語で書かれていた


 「はいよっ、塩・みそ・しょうゆお待ちっ!!」
 「よっしゃ、いっただきまーす!!」
 「いただきます」 
 「いただきま~す」


 俺と壊子と括利はラーメンを啜る。うん、今日も絶品だ


 「こりゃいいな。これなら中央広場で商売が出来るぜ」
 「はい。広場には水もありますので調理に問題はないでしょう」


 なんてこった。壁にはチャルメラの笛まである
 すると、壊子が小さく話しかけてきた


 「これね、わたしの神器で作ったの。マフィのところで黎明たちと相談しながらね。キチベエさんでも引っ張れるようにこっそりパワーアシスト装置もつけてあるんだ」


 なんと。壊子が遅れた理由がこれか
 しかもパワーアシスト装置付き。至れり尽くせりだな


 「よぉし。これからもっと頑張るぜ!! 麺打ちもスープもまだまだ改良して来年こそ総合トップを目指してやらぁ!!」
 「はい。来年こそ必ず……!!」


 何故か麻止も燃えてる……意外と負けず嫌いなんだな




 この日は夜まで騒ぎ、精一杯楽しむことが出来た




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 「また来てくれ、絶対だぞ!!」
 「はい。キチベエさん、オタエさん、お元気で」


 次の日、俺は町を出発するためキチベエさんの店に挨拶に来ていた
 水萌たちは指輪のメンテナンスですでに帰った。あの指輪はデリケートでまだまだ改良が必要とのことだ


 「兄ちゃん、今度来るときはもっとウマいラーメンを用意してるからな!!」
 「元気でねぇ~っ!!」


 二人と別れ町を歩く
 すると、俺に並走するように2匹の動物……黒猫と白犬が現れた


 「よう」
 《うん、行こうか》
 《次は〔魔術師の町ブルグレート〕ネ。ここから3日ほどの距離ヨ》


 魔術師の町。それより俺は気になることを聞いてみた


 「なぁシロ、どうして何も言わなかったんだ?」
 《……》


 シロほどのやつがマイト達を見落とすとは考えにくい。きっと何か裏がある


 《あの二人からは……死のニオイがした。それに、自分たちのことも理解していた。キミと会うことでキミにとっても、あの二人にとっても得るものがあると思ったんだ》
 《……ワタシも同意したワ》
 「……そっか」
 《気に障ったかい?》
 「いや……会えてよかったよ」


 あの二人はレンカ先生の元へ行った。お墓参りへ
 命が残り少ないなら、最後は穏やかに過ごすべきだろう


 「行こうぜ。たまにはゆっくり行こう」


 【流星黒天ミーティア・フィンスター】は出さずに、穏やかな気候の中をゆっくり歩く
 町から香る料理の香りは消えることがない。今日も冒険者の腹を満たし、満足させる




 またこの町へ来よう。今度はみんなでラーメンを食べに




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 この日から〔美食の町イーティア〕には、一台の見慣れぬリヤカーを見かけるようになる
 そのリヤカーは木造の変わった形。見る人は珍しがって近づくといい香りが腹を刺激する
 誘われるように椅子へ座ると、威勢のいいオヤジの呼び声


 「いらっしゃい!! 注文は?」


 そして気が付く
 グルメフェスタ優勝の、〔ら~めん吉兵衛〕のラーメンだと


 いくら探しても見つからない、幻のラーメン




 今日も、ラーメンオヤジは町のどこかで商売をする



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