ホントウの勇者

さとう

美食の町イーティア⑨/新記録・忘れ者



 忙しい流れも過ぎ去り時刻は3時頃


 括利と懐子のおかげでキチベエさんたちの疲れは約半分になり、この時間帯でもまだ余裕があるくらいだった
 けど俺と麻止はグロッキー、さすがにこれ以上は勘弁してくれ


 麺もスープも餃子もすっからかん
 売り物が一切なくなりさすがに閉店、最後の片付けと売上の計算をする


 「凄いわ、新記録よ。ラーメン7540杯に餃子4900皿······売上金額772万8000ゴルドね」
 「す、すっげぇ」


 ラーメンと餃子で700万······驚異的な数字だ
 するとキチベエさんとオタエさんが俺たちに提案してくれた


 「あと日が沈んだら売上総数の結果発表だ。まだ時間はあるし、よかったら店を見て回ってくるといいぜ」
 「え、でも」
 「売上と総数の集計は終わったんだろ? 報告くらいオレらでできるしよ」
 「片付けも任せて、何か食べてらっしゃいな」


 なんともありがたい提案。腹はめちゃくちゃ空いてます
 オタエさんは麻止にゴルドカードを渡すと、半ばムリヤリ俺たちの背中を押した


 「せっかくだし甘えましょう。まぁその······お腹も空いたし」
 「よ〜っし、ご飯ご飯‼」
 「ねぇ懐子ちゃん、何食べる?」
 「そうだなぁ······お肉がいいな」




 女の子4人となると騒がしいな。まぁそれがいいんだけどね




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 有名所はほとんど閉店してたけど、それでも美味い店が多かった


 壊子の注文は肉、麻止はフルーツ、括利はパン、水萌はご飯と様々で、それらの店を探して注文する
 味はどれも絶品。さすが美食の町だ


 食事を終えてキチベエさんたちにお土産を買って戻ろうとしたところで、1軒のテントが目に付いた


 「ど、〔ドラゴンハウス〕だ······」


 ドラゴンハウスのステーキは売り切れていたが、店に売られてる〔グレードラゴンの目玉丸焼き〕はまだ1本残っていた
 その目玉と目が合う。まるで買ってくれと言わんばかりに


 「ジュート、あなたまさか······」
 「いやだってさ、ここまで来ると······」


 何故か因縁のようなものを感じる
 俺の手は自然と財布へ。キチベエさんのゴルドカードではなく自分のゴルドカードへ手が伸びる


 俺は店に近づくと、震える手で注文した


 「そ、その目玉······下さい」
 「はいよっ‼ 目玉なだけにウチの目玉‼ なんちゃって、ハハハ‼」
 「······」


 俺は冷めた瞳で目玉を受け取る


 「······」


 キモい、キモすぎる
 何でこんなグロテスクなモノを出そうと思ったんだろ


 「······う」
 「ご、ごめんなさい······ムリ」
 「うぇ〜······」
 「な、何で買ったの?」


 女子4人からは大不評。わかってたけどね
 意を決して一口囓る


 「······う、ップ······ぐえ」


 気持ち悪い
 食感は柔らかくてプルプル、しかし口の中でグチャリと溶けて酸っぱい味が口一杯に広がる
 目玉の断面は筋肉のような生焼けの繊維で、白濁の液体がドロリと流れ落ちた


 吐き出したい。吐き出して水を飲みたい
 何で俺は美食の町でこんなグロテスクなモノを食ってんだ?


 「くぷ、うぅ······ぶはっ」


 涙目でムリヤリ飲み込むと、水萌が水を出してくれた。どうやらこれを見越してすでに準備してたようだ


 「ダメだ、ダメだ、死ぬ」


 こんな無駄なモンに250万も払ってしまった。俺はなんてアホなんだろう


 「さ、戻りましょう」


 麻止は何事もなかったかのように振る舞い、全員を先導して歩きだした


 「これ、どーしよ······」




 俺は目玉の串を握りしめたまま、麻止の後に続いた




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 店に戻ると、キチベエさんの前に2人の男女がいた


 「あぁ〜、残念だわぁ。この世界の・・・・・ラーメン食べたかったのにぃ〜っ」
 「諦めろよ。ったく、行くぞ」


 俺はその後ろ姿を見ただけで確信した


 「······ん?」
 「······ありゃ?」


 忙しかったから、今の今まで忘れていた










 この町に、〔神の器〕がいることを




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 男女の年齢は20代半ばだろうか


 男性は高身長のイケメンで、軽装の鎧とナイフを装備してる。俺を、俺たちを見る視線はどこか値踏みするような感じだ
 女性はショートカットの美人だが、どこか幼さを感じる風貌だ。装備してるのは胸当てとレガースのみで武器はつけていない。胸元に光るのは黒いドッグタグ······S級冒険者の証


 「·········」
 「·········」


 男女は俺たちを見てる
 みんなも何かを察したのか、表情は硬い


 「みんな、キチベエさんと片付けよろしく」


 みんなは素直に従いテントの中へ、男女には視線を合わせない


 「ありゃりゃ······嫌われちゃったかな?」
 「だな······」


 少し残念そうに男女は笑い、視線を再び俺に戻す


 「さて少年······話したいことがあるんじゃないか?」


 男性は軽く言う。俺も負けじと言う


 「······こっちへ」




 俺は自分の宿へ案内することにした




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 宿へ案内した俺はお茶を出す


 2人はソファに座り、俺の様子を眺めていた


 「ところで······なにソレ?」


 女性が指差したのは皿の上に置いてある目玉
 捨てるわけにもいかずに持ってきたが、なんか恥ずかしい


 「ンなことより自己紹介だろ。全く」


 男性は苦笑して言う。女性の方も笑っていた
 なんだろう、敵意は全く感じない


 「そう身構えるなよ。オレは炎堂えんどう舞都まいと、キミと同じ〔神の器〕だ」
 「アタシは戸噛とがみ喰那くいなね。よろしく少年‼」


 なんかノリが軽い······ザンクたちとは違うタイプだな
 とにかく俺も自己紹介しないとな


 「無月銃斗······よろしく」
 「ああ、よろしくな」
 「よろしくね」


 俺の警戒にしびれを切らしたのか、男性······マイトが言う


 「やれやれ。銃斗くん、キミ······ザンクに会っただろ?」
 「······何故?」
 「そりゃそうだ。だって歳は違えども同じ故郷の人間だぜ? 喜びこそすれそこまで警戒するなんておかしいだろ。可能性としては1つ、すでに別の〔神の器〕に会って酷い目に合わされた······ってトコかな」


 俺の態度はわかりやすかっただろうか。何も答えてないのにマイトは笑う


 「当たらずとも遠からず······ってところか。やれやれ、銃斗くん、ザンクたちは元気だったかい?」
 「······それは」


 俺は黎明から全てを聞いている
 黎明がローレライの命令でザンクたちを始末したことを
 黎明は物凄く後悔し、話した当初はずっと泣いていた


 この人たちはザンクの仲間。知る権利があるのではないか
 俺はマイトを見つめ、クイナを見る······と


 「······ゴクリ」


 クイナは目玉に釘付けだった
 さっきから静かだったのは、この気色悪い目玉を眺めていたからだ


 「あの、食べます? 食べかけですけど」
 「いいのっ⁉」


 するとクイナは目玉にかぶりつく······うぇ、よく食えるな


 「うぇ、よく食えるな」


 マイトも同意見。やっぱそうだよな


 「クイナは放っておこう。それで······ザンクたちは元気かい?」
 「·········」 
 「·········そう、か」


 俺の沈黙をどう捉えたのか、マイトは顔を伏せる


 「······死んだのか」
 「······はい。俺が倒しました」


 俺は事情を説明する
 ウソはつかない。ついてたまるか
 アイツはアウラの国をぶっ壊そうとした。謝って済む問題じゃないし、しかも一度アウラを殺した。許せるワケがない


 「······そうか」
 「怒らないんですか? 俺が······憎くないんですか?」


 クイナは目玉を齧りながら目を伏せる
 その瞳は、全てを諦めたような光を帯びていた


 「仕方ないよ、アイツらは······ザンクとサソリは神を憎んでいた。復讐に取り憑かれた悪魔になっていた。アタシとマイトはもうついて行けなかった。だからこうして別れて旅をしてる」
 「そうだな。こうして冒険者家業も悪くない。それに······」


 マイトは弱々しく微笑んだ




 「オレたちは、もう長くないからな」




 その言葉は、俺の胸にズンと響いた





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