ホントウの勇者

さとう

美食の町イーティア⑦/麺・人気店



 「塩1、ミソ2お願いしますッ!!」
 「あいよっ!!」


 「お会計2100ゴルドです。ありがとうございます」
 「はーい餃子あがり!!」


 フィンテッドたちが帰ったとたん、クッソ忙しくなった
 なぜか冒険者が詰めかけて次々と注文をしてきたからだ


 「どうなってんだこりゃ!?」
 「いいから手を動かしなさいっ!!」


 関係あるとしたら、どう考えてもフィンテッドたち


 「おーい注文まだかー?」
 「はいただいまーっ!!」




 とにかく今はお客を捌かなくては……!!




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 「申し訳ありません。本日は完売です」


 当初の予定を大きくオーバーし、水萌が追加で一生懸命麺打ちをしたがそれでも完売となった
 二人組の冒険者に謝ると残念そうにしながらも笑う


 「残念、また明日かぁ······」
 「ああ。あの『勇者フィンテッド』が絶賛した〔ラーメン〕を食べてみたかったけどね」


 男二人組の冒険者はそう語る。勇者フィンテッド?


 「あの、勇者って?」


 俺は突然の売上がフィンテッドのおかげとは思っていたが、けっこう理由が気になった


 「知らないのかい? あの冒険者グループ〔灰塵の翼アッシュダスト・ウィングス〕は、伝説の〔勇者ヴォルフガング〕の子孫であるフィンデッドが立ち上げたグループなんだ。今は特務冒険者で、この大陸に存在するレートの高いモンスターを狩っているそうだ」
 「まさかこの町に来るとは思わなかったよ。それに食事をしたのはこの店だけですぐに帰っちまったし、町長にこの店は絶品だ、と言って帰っていったからな。冒険者なら誰でも気になるもんさ」


 うーん、どこからツッコめばいいのか
 そもそも【神】は子供を作れないはず。子孫ってどういうことだ?


 《簡単ヨ。ヴォルは素質のある孤児を引き取って剣や魔術を教えたノ、立派に育てたワ。今思うとヴォルは人間のマネをしてみただけみたい。その子の子孫があのフィンテッドで間違いないワネ》


 いつの間にかテントの上にクロがいた。ビックリした


 「お前、いつの間に······」
 《ずっといたワ。ホラ》


 するとクロの身体が上に持ち上がり、その下からシロが出てきた


 《いやぁ、いいニオイで鼻がマヒしてるよ》
 「お前もか······」


 まぁいいや。後で何か買ってやろう


 「ジュート、手伝って」
 「はいよ」


 麻止は売上の集計、キチベエさんとオタエさんは道具の手入れと片付け、水萌は麺打ちを始めた


 「明日が心配だしね、できるだけやってみる」


 3日分の仕込みはすでに終わっているが、今日みたいなペースで来られると恐らく明日は午前中には終わってしまう


 「スープはこれから仕込めば3日目には出せるが麺はそうはいかねぇ。嬢ちゃんには悪いが頑張ってもらうしかねぇな。クソ、オレがもっと上手ければ」


 キチベエさんは悔しそうに水萌を見てる


 「いえ、キチベエさんのスープあってこその麺です。明日もよろしくお願いしますね」
 「お、おぅ······チッ、年は取りたかねぇな。目が霞んで来やがった」


 キチベエさんは水萌の一言で目頭を抑えてる


 「······凄いわ。ラーメン2800杯、餃子1500皿、売上合計金額271万ゴルドよ。目標を大きく超えたわね」
 「マジかよ、ヤバくね?」


 何がヤバいのかというと、お昼から夕方にかけての売上でこの状況なのだ。単純計算で明日の朝からだと倍の数字になってしまう


 「うーん。出来れば完売の知らせはしたくねぇんだが······」
 「スープは大丈夫でも麺がなぁ······」


 ちなみにオタエさんは町の金物屋に炊き出し用の鍋と食材を買いに行っている。さすがだな


 「······仕方ない、3日目の材料も明日に回しましょう。3日目の麺はこれから打つしかない······水萌、大丈夫?」
 「うん。任せて······本気を出すから」


 何故だろう。頼もしいのに怖いオーラが出てる


 「ジュートくんにも協力してもらうね」
 「え、俺?」


 集計した売上を運営本部へ報告し、キチベエさんたちは店でスープの仕込み、俺たちは水萌の麺打ちのためアウトブラッキーへ戻ってきた
 ちなみに売上金は俺たちが預かっている。これも信用の証だし、盗賊が来たら叩きのめすことも出来るしな


 アウトブラッキーへ到着し、俺と麻止と水萌はさっそく支度する


 「ジュートくん、〔カマクラハウス〕で作業すれば時間は気にしなくてもいいでしょ? それにジュートくんが回復魔術を私にかけ続ければノンストップで打てるし」
 「そりゃいいアイデア······だけど、いいのか?」


 さすがに1人で約5000以上の麺打ちをするのは精神的にもキツいだろ。肉体より心がキツい


 「平気だよ。それに······楽しいから」
 「楽しい?」
 「うん。私が作った麺を美味しいって食べてくれる······なんか、すっごく嬉しくて······疲れなんて吹っ飛んじゃった」


 水萌はにっこり笑う
 その笑顔に疲れは見えず、嬉しさだけが感じられる


 「······わかったわ。任せる」
 「ありがと、麻止ちゃん」




 こうして、水萌の麺打ちは始まった




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 料理のことになると水萌は別人だ


 「······」
 「······」


 俺も水萌もほぼ無口。俺は魔術で水萌を癒やし、水萌はひたすら麺を打つ


 「······かれこれ3日くらい経ったかな?」


 この〔カマクラハウス〕なら、時間経過も気にしなくて済むので打った麺はそのまま置いてある
 その数······すでに五千は超えている


 「なぁ、そろそろ戻るか? もう十分だろ」
 「······うん」


 さすがに疲れたのか水萌はダルそうだ
 【無垢なる光セイファート・ライフ】には精神疲労までは治せないらしい


 外······というかアウトブラッキーの中へ戻ると水萌はベッドへダイブ。そのまま寝てしまった


 「お疲れさま······」




 俺は水萌に布団を掛けてやり、宿で待っている麻止のところへ向かった




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 「お疲れさま。水萌は?」
 「寝た。明日まではぐっすりだな」


 麻止は部屋の机の上で何かを書いている


 「それは?」
 「ああ、明日のラーメンと餃子の総数を計算していたの。ラーメンは3種合計で六千杯、餃子は三千皿確保出来たわ」
 「すっげえな······」
 「餃子はオタエさんが3日目の分を作ってるわ。さすが飲食店の主婦、見事な手つきで餃子を作ってたわ」


 なるほどな。俺は水萌が打った麺の総数を伝える


 「よし、想定より数が増えたけど問題はないわね。後は明日に備えて休みましょうか」
 「あー······うん」


 まぁそうだよね。明日も早いし寝なくちゃね
 疲れてるときほどシたくなる。うぅ······でもここでがっついたら嫌われるかもしれないし。ガマンガマン


 「······少しだけ、ね」
 「······」




 麻止のイタズラっぽい笑みは、俺の理性を粉砕した




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 約束通り少しだけ楽しみ朝を迎える


 「よーし、今日も頑張るぜ」


 麻止を起こして着替え、寝ぼけ眼の水萌を起こして着替えさせる。ここまでは昨日と同じ
 今日は俺が朝食を作り、3人で食べて会場へ向かう
 キチベエさんたちはすでに向かっているはず。昨日の打ち合わせでそう決めたからね


 昨日と違うのはここからだった


 「な、なぁ······これってまさか」
 「凄いね······」
 「大丈夫。想定内よ」


 俺たちのテントの前にはすでに長蛇の列が出来ていた


 「おはようございま〜す」
 「おう、今日もよろしくな‼」
 「おはよう。よろしくねぇ〜」


 ゴキゲンのキチベエさんとオタエさん


 「ったく、オレの店に行列が出来るとはなぁ。人生初だぜ」
 「ふふ、今日も忙しくなりそうねぇ」


 飲食店歴40年の腕前は伊達ではない。手は淀みなく動く


 「さぁて、私たちも準備するわよ」
 「よっしゃ」
 「はーい」


 今日の水萌の服装は、まるで職人のような作務衣。まるで本職みたいな服装だ
 麻止が注目されるなら服装にも気を使った方がいい、と言ったので急遽準備した物だ。ちなみにキチベエさんとオタエさんも同じ服で、俺と麻止はお揃いのハッピを着てる


 それにしても······何人並んでるんだろう。間違いないなく100人以上はいるぞ


 「あれ? 昨日の······」


 最前列にいたのは、昨日の冒険者二人組。ちょうど完売になってしまった人たちだった


 「おはよう。今日は一番乗りさ」
 「昨日は悔しかったからね。まだ暗いうちから並んでたんだ」


 うーん。この店も有名になったモンだ




 さぁて、グルメフェスタ2日目のスタートだ‼





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