ホントウの勇者

さとう

美食の町イーティア⑤/特訓・助っ人



 「あの、キチベエさん?」
 「えっと······」


 俺と水萌は困惑し、土下座したままのキチベエさんを見下ろしていた


 「頼む、このメンの作り方を教えてくれ‼ オレのスープにコイツを加えれば真のスープが完成する。頼む‼」
 「ちょ、落ち着いて下さい。教えますから」


 オタエさんがキチベエさんを立ち上がらせると、やや血走った目で俺たちを見つめる


 「もうすぐ〔イーティア・グルメフェスタ〕の時期だ。今年は運良く町の中央に出店する権利が貰えたから、このメンを使ったスープを是非出したい」
 「それはいいですけど、なぁ水萌」
 「·········難しいですね」


 あれ? 水萌が真剣な眼差しでキチベエさんを見てる


 「麺打ちの習得には時間がかかります。あと数日程度の練習でお客様に出せるレベルにはならないでしょう。未熟な腕で打った麺をお客様に出すのは、貴方の料理人としてのプライドが許さないのでは?」
 「う、ぐ······‼」
 「私も自分の腕に自信がある訳ではありません。貴方に麺を教えたのは将来を見据えてのこと。これから鍛錬し、完全に自分のモノにしてからお客様に提供できるようにして下さい」


 えっと、水萌さん? 


 「な、なら譲ちゃん。アンタがメンを打ってくれ‼ オレのスープとアンタのメンを組み合わせて提供するんだ。頼む‼」
 「······」
 「もちろん礼はするし、オレも毎日鍛錬をする。抽選で町の中央に店を出せるなんてこれから先何回あるか······このチャンスは逃せねぇ。頼む‼」
 「······ジュートくん。どうする?」
 「え⁉」


 シリアスな空気の中でいきなり振られる
 水萌、キチベエさん、オタエさんは俺の答えを待ってるようだ


 「えっと······まぁいいんじゃない? やろうぜ」
 「······わかったわ」
 「おぉっ‼」
 「ただし」


 水萌は少し冷たい表情で言う


 「やるからには徹底的にやります。いいですね?」
 「は、はい。師匠」


 キチベエさんは父と娘ほど年が離れてる水萌に敬語を使っていた




 料理に関して、水萌はスパルタだった




───────────────


───────────


───────




 「違う‼ 生地にかん水をよく馴染ませるの、麺のコシはここで決まるから手を抜かないで‼」
 「は、はいぃっ‼」


 水萌はめちゃくちゃ怖かった
 俺は何も言えずに黙って作業を見てる


 「生地は均一に伸ばすこと。麺の太さも均一にして下さい」
 「はい、わかりました」


 「切り方も気をつけて······そう、落ち着いて」
 「······こう、ですか」
 「まだまだね。でもその調子で」


 何これ、何これ?······なんか帰りたい


 それから数時間、時刻は夕方に差し掛かる


 「ふぅ······今日はここまで。また明日ですね」
 「はい、ありがとうございました‼」


 キチベエさんは姿勢を正して礼をし、俺と水萌は店を後にした


 「さぁて。私も麺打ちを練習しなくちゃ」
 「え、これからやんの?」
 「うん。イベントに出るのに恥ずかしくない麺を出したいからね。宿で練習するね」


 ずっとマフィのところにいたのでこういうイベントは初めてなのだろう。とても嬉しそうだ


 「だから今日はその······ゴメンね?」
 「あ······はい」


 まぁ仕方ない。俺だって毎日盛ってるワケじゃないしな


 「何か手伝おうか?」
 「ううん、大丈夫。先に寝ていいよ」
 「······わかった。ムリすんなよ?」
 「うん」


 宿の前で水萌と別れると、水萌はそのまま宿の裏の魔導車駐車場へ向かう
 どうやらアウトブラッキーの中で練習するみたいだな


 1人淋しく部屋に戻ると、ベッドの上に人がいた


 「お帰りなさい。あら、水萌は?」
 「ま、麻止……なんでココに?」
 「……これ」


 麻止は指にはめられたリングを俺に見せつける


 「マフィがもう一つ作ったの。作るのに神経を使うから量産は難しいけど、神の力と書華の探知を押さえつけるだけでもスゴいモノね」
 「え、でもなんで麻止がそれを?」
 「公平にくじ引きでね……括利や虫菜は悔しがってたわ」
 「あはは……」
 「さて、今の状況を話してくれる?」
 「ああ、実は………」




 俺はキチベエさんの所であった事情を説明した




───────────────


───────────


───────




 「なるほどね。〔イーティア・グルメフェスタ〕か……」
 「まぁ数日でキチベエさんが麺打ちできるわけないし水萌と俺が手伝う事になると思う。よかったら麻止も手伝ってくれよ」
 「当然よ。さっそく明日からお店に確認しなくちゃね」
 「へ? 何を?」
 「いろいろよ。出店位置や器の数、出店に関するルールなど確認事項は多いわ」
 「あ、そうか……」
 「さぁて、明日から忙しくなりそうね」
 「はは、俺に出来る事があったら何でも言えよ」


 麻止と見つめ合うとそのままキスをする


 「なぁ、今日はその……」
 「もちろんいいわ。ここに来る以上その気はあったし……」
 「おっし」


 俺は小さくガッツポーズし麻止と風呂場へ




 結局、深夜過ぎまで楽しんでしまいました




───────────────


───────────


───────




 「さぁて。水萌のトコへ行くか」
 「そうね」


 結局、水萌は帰って来なかった。恐らくアウトブラッキーで寝てるんだろうな
 水萌を迎えに行ってそのままキチベエさんのところに行こう、ということになったので迎えに行く。朝食は町で食べよう


 「おーい水萌、おはよーさん」
 「おはよう」


 アウトブラッキーのベッドで水萌はスヤスヤ眠っていた
 キッチンはキレイに片付けしてあるのがなんとも水萌らしい


 「·········うぅん」
 「水萌、朝よ」
 「ふぁ······あれぇ? 麻止ちゃん?」
 「おはよう。ほら、顔を洗いなさい」
 「はぁい」


 寝ぼけているのか、水萌は起き上がると洗面所へ向かう
 麻止はその間、水萌の着替えを手早く準備していた


 「ほら、外で待ってなさい。女の子の着替えを見たいのかしら?」
 「うぐ、失礼しました」




 俺は慌てて外へ出た




───────────────


───────────


───────




 「なるほど······会場は町の中心部、形式は出店ですか。ならラーメン丼は陶器より使い捨ての物がいいですね。ところで会場に座席等はあるのでしょうか?」
 「座席は特にないねぇ。ほぼ立食と言っていいね」
 「ふむ。メニューはしょうゆ、塩、味噌ラーメンに餃子······よし、使い捨ての器は私が準備します」
 「えぇ⁉ 当日は何千人と来るんだよ、流石にそれだけの数を準備すると大赤字だよ」
 「ご心配なく。こう見えても魔術師ですので魔術で器を作ります。単純な数だけなら万単位は作れますので」
 「はぁ〜······アンタもスゴいんだねぇ」


 水萌とキチベエさんは麺打ちと当日の仕込み、麻止とオタエさんは打ち合わせや確認、俺はと言うと······


 「よっ、ホッ、よっ、ホッ」


 餃子用の餡をひたすらこねていた
 肉と野菜をひたすら混ぜ合わせ、麻止とオタエさんがひたすら包む。麻止たちは打ち合わせの合間にこなすから大したものだと思う


 ちなみにラーメンは1杯700ゴルド、餃子は500ゴルドで販売する予定


 作った餃子は片っ端から冷凍し、作った麺は〔カマクラハウス〕へ置いておく。あそこなら時間が停止してるので現実時間で何日置いても平気だしな


 「さて、ミーティングを始めましょう」


 みんなが手を止めて麻止の向き直る
 こういう仕切りは得意みたい。さすが委員長


 「グルメフェスタまであと4日、当日の役割を確認します。まず水萌は麺打ち、キチベエさんは水萌の補助とスープの調理、オタエさんは餃子の調理、ジュートは売り子、私は会計と売り子です。何か質問は?」


 麻止の的確な指示と確認は俺たちも助かるね


 「グルメフェスタは3日間。販売目標は1日2000杯、餃子は1000皿。1日の売上目標は190万ゴルドよ。頑張りましょう」


 現実的な数字を出されると不思議とやる気が出てくるな




 グルメフェスタまであと4日······頑張ろう







「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く