ホントウの勇者

さとう

美食の町イーティア④/拉麺・弟子



 「ふんふんふ〜ん」
 「おぉ······」


 水萌は鮮やかな手つきで生地をこね、薄く伸ばしていく
 そして薄い長方形に伸ばした生地をたたみ、軽やかな包丁捌きで生地を両断。あっという間に縮れ麺が出来上がった


 「よし。出汁は······うん。かまぼこ······よし。チャーシューも······いいかな。ジュートくん、野菜は?」
 「あ、はい。どうでしょうか」


 俺は付け合せだろうか、恐らく丼に盛り付ける野菜を見せる
 するとその野菜を鍋に入れ、ゆで野菜を作る


 「······うん。じゃあ手早くやっちゃおう‼」 


 水萌は俺が作った、ラーメン屋で見かけるような取っ手付きの網に麺を入れ、沸騰したお湯に潜らせる
 そしてかまぼことチャーシューを食べやすいサイズに切り分け、丼の中の魚醤と出汁のスープを混ぜ合わせる
 最後に茹でた麺を湯切り、丼に投入してかまぼことチャーシュー、俺が切った野菜を盛り付けた


 「はい、完成だよ」
 「お、おぉぉぉぉっ‼」


 そこにあったのは完全なるしょうゆラーメン
 香りも形もまさにラーメンだった


 「あと、こんなのも作ってみたんだ」
 「へ?」


 ラーメンばかりに気を取られて、フライパンから香る匂いに気が付かなかった


 「こ、これって······」
 「えへへ。どうかな?」


 そこにあったのは、香ばしい香りを放つ〔焼き餃子〕
 ジュウジュウと音を立ててまさに食べごろ······って言うか、いつの間に


 とんだサプライズに声を失っていると、水萌がせっせとテーブルに運んだ


 「さ、食べよ?」




 やっぱ天使だわ。最高すぎる




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 「では、いただきます」
 「いただきますっ‼」


 俺はさっそくラーメンを啜る


 麺は柔らかくてコシがあり、口の中で弾けるような感触
 スープも絶品で出汁が効いていて麺に絡みつき、かまぼこやチャーシューもいい味を出していた
 餃子も絶品で、店で出してるのと遜色ない味だ


 「う〜ん、ちょっと麺が柔らかすぎたね。ゴメンね」
 「いやいやいやいや、絶品だぞ⁉」


 このラーメンに文句をつけるヤツはいない。断言する


 「······ホントは魅檻ちゃんの方が美味しく作れるんだけどね」
 「そうなのか? めちゃくちゃ美味いけど」


 俺は遠慮なしに麺を啜り、餃子もガツガツ食べていた


 「うん。私はお菓子、魅檻ちゃんは家庭料理が得意でね。私がデザートを作って魅檻ちゃんがご飯を作ったりしてたんだ」
 「へぇ······」


 少しだけしんみりしてしまったので話題を変える


 「よーし。明日さっそく〔美味汁堂うましるどう〕へ行こうぜ。キチベエさんをびっくりさせてやる」
 「あ、あはは······なんか緊張する」


 片付けをしてアウトブラッキーから降りて宿へ。もちろん一緒に


 「さぁて······風呂へ入るか」


 時間はだいたい夜の9時頃
 俺は迷わず水萌を誘い浴場へ向かう


 豪華な宿だが意外と浴槽は狭く、抱きあうようにして湯船に浸かる
 もちろん色々と触りすでに準備万端。あとはたっぷりと楽しませてもらうだけ


 「なんか······みんなに悪いな」
 「安心しろって······」




 俺は水萌にキスをすると、後はもう止まらなかった




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 翌朝、2人でシャワーを浴び外へ
 朝食は外の露店で食べ歩きをし、そのままの足で〔美味汁堂うましるどう〕へ向かう


 「たのもーっ‼」
 「ジュートくん、それじゃ道場破りだよ⁉」


 水萌のツッコミは置いておき、相変わらずガラガラの店内に踏み込むとキチベエさんと奥さんが迎えてくれた


 「あらいらっしゃい。おや? 今日は女の子も一緒なのねぇ」
 「おはようございます。奥さま」
 「あ〜ら奥さまだなんて······ふふふ。礼儀正しい子ねぇ」


 奥さんと水萌のやり取りはさておき、俺は新聞を読んでいるキチベエさんに話しかけた


 「おはようございますキチベエさん」
 「おう兄ちゃん。昨日の今日でくるとはなぁ、ウチが気に入ったのかい?」
 「そりゃもう。それに······昨日の続きも話したかったんで」
 「続きって······足りないモンのことか?」
 「はい。キチベエさんを納得させる答えを持ってきました」
 「·········ほぉう」


 キチベエさんはニヤリと笑う


 「あの、言葉では説明しにくいんで実際に作っていいですか?」
 「あん?······あぁそういうことか」


 キチベエさんの視線は俺の持つ荷物。こいつには昨日のラーメンの材料が詰め込まれてる
 そしてその次は未だに奥さんと話してる水萌へ


 「······なるほどな。あの譲ちゃんか」
 「え、あの」
 「いいだろう。見せてくれや」


 キチベエさんはかがみ込んで何かを取り出すと、それを奥さんへ向かって投げる
 奥さんはそれを後ろ向きでキャッチすると、キチベエさんに向き直った


 「オタエ、今日は休業だ」
 「はいよ」




 奥さんの手には、「本日休業」の札があった




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 ニコニコと調理場へ立つ水萌を、俺たちは見ていた
 隣にはキチベエさん。さらに隣には奥さんのオタエさんがいる


 「えっと······なぜ急に?」
 「あん? 決まってんだろ。あの譲ちゃん······只者じゃねぇ。料理歴40年のオレが見ただけで震え上がるくれぇの腕前だ。ククク······どんな答えを見せてくれるか興味があるのよ」


 何言ってんだコイツは······と思ったが言わない。言えない


 俺のアシストはなく今日は1人で。それがキチベエさんの出した条件なので仕方ない。まぁ俺がいても役に立たないしな


 「じゃあ始めまーす」


 輝くような笑顔で調理開始
 水萌は昨日と同じ手順で手を動かしていく


 道具はキチベエさんに借りたから問題ない
 大鍋に湯を沸かして材料を放り込み出汁を取り、丼を3つ出して魚醤を入れる
 そのままチャーシューとかまぼこを作り鍋と蒸し器へ、そしていよいよ麺打ちを始める


 「······なんだありゃ、小麦粉か?」


 キチベエさんはポツリと呟く。しかし水萌の軽やかな手つきはとまることなく麺を打つ


 そして、麺を切り分けて完成。おたまで出汁の味見をして小さく頷くとチャーシューとかまぼこを切り分ける
 麺を湯に通して水を切り、出汁と魚醤を混ぜたスープに投入
 最後に盛り付けをして完成した


 「はい、完成です」


 相変わらず早いな
 スープはキチベエさんのしょうゆスープと似ているが、具材は全く別物だ


 「······コイツがお前の言ってた足りないモンか?」
 「はい」


 キチベエさんはラーメンの匂いをチェック


 「ふむ、魚醤ベースか。彩りもいいし······味は······ん?」


 キチベエさんは俺を見る


 「おい、どうやって食うんだ?」
 「あ、そうか」


 俺は自分のラーメンを引き寄せ、箸を使って豪快に啜る
 この世界に箸があったのは、間違いなくこのための物だと思う


 「うん、今日も水萌のラーメンは絶品だ‼」
 「えへへ。ありがと」


 恥ずかしそうに微笑む水萌はまさに天使
 キチベエさんとオタエさんもマネして食べ始めた


 「······」
 「······」


 ズルズルと麺を啜る音が響く
 俺はその様子を緊張しながら見ていると、キチベエさんの目がカッと開かれた


 「こ、これは······これはなんだ⁉」
 「これが麺です。どうでしょう?」
 「メン······そうか、スープが絡みつくこの細い管がメンか。食感といい味といいスープに合う。これならどんなスープでも満足感が得られる‼」
 「でしょう? この麺をキチベエさんのスープと組み合わせたら······?」


 俺はキチベエさんと顔を合わせてニヤリと笑う


 「う〜ん確かに。ウチのスープは美味しいけどパンやコメには合わなくてねぇ」
 「喜んでもらえて何よりです」


 オタエさんも美味しそうに啜りながら水萌と話してる




 よし。どうやら上手くいったようだな




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 キチベエさんを見返せたので満足して店から出ようとすると、俺と水萌の前にキチベエさんが土下座をした


 「な、なんですか⁉」
 「頼む‼」


 キチベエさんの視線は俺ではなくて水萌
 俺の腕にしがみつく水萌にキチベエさんは懇願した




 「オレをアンタの弟子にしてくれ‼」




 これはまた······面倒くさい予感





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