ホントウの勇者

さとう

美食の町イーティア③/お買い物・いざ調理



 俺が思うに、コイツはとんこつスープだ


 こってり濃厚な味に白濁のスープはまさに絶品
 これに麺を入れればまさにとんこつラーメンになるだろう


 俺は他のスープも聞いてみた


 「あ、あの。他にはどんなスープが?」
 「ほう、興味があるのかい?」
 「はい。すっごく」


 俺の答えにキチベエさんは嬉しそうに答えた


 「くぅ〜、オレの店のスープを美味いなんて言うお客は久しぶりだ。嬉しいねぇ‼」


 キチベエさんはいくつもある寸胴鍋からスープをよそい、俺の前に出してくれた


 「まずコイツは魚を煮込んで作ったスープ。こっちが【緑の大陸】の〔ビンズ〕で作ったスープ。そんでコイツが野菜を煮込んで塩で味付けしたスープだ。どれもオレのオリジナル。オレが10年かけて作った最高のスープだ‼」


 しょうゆ、みそ、塩のスープが並べられる
 おお、こりゃ完全にラーメンスープだ  


 ビンズってのは間違いなくミソだろう。匂いも色も完全にミソスープだし
 塩は見た目は麺なしタンメンだな。しょうゆはちょっと魚臭いけどまぁ許容できる匂いだな


 「毎年の〔イーティア・グルメフェスタ〕もコイツで勝負してるんだがサッパリ売れやしねぇ。オレが思うにコイツには何かが足りない……ソイツがわかれば優勝も夢じゃねぇんだがな」


 おいおい、俺には分かっちゃったよ
 まさかこんな巡り合わせがあるなんてな。手を貸せばウマいラーメンが食えるぞ


 「店長、いや……キチベエさん。俺には何が足りないのかすぐにわかりました」
 「あぁん?」


 キチベエさんは胡散臭そうな顔をする


 「お前みてぇなヒヨッコに分かるだとぉ? 面白れぇ……そいつはなんだ?」


 よし。ここでズバリ言ってやろう


 「はい。そいつは……「めん」です!!」
 「………」


 ありゃ? なんか反応が薄いな


 「おい、メンってなんだ?」
 「え」


 ああ、この世界には麺がないのか。そういえばここまで来て食べたことはない。えっと……どう説明しよう


 「えっと、麺っていうのは……こう、細長い束の、え~っと」
 「………」


 やべぇ。めっちゃ白けてる
 っていうか麺の説明なんてしたことないから言葉が出てこない


 「………はぁ。もういい兄ちゃん、期待したオレがバカだった。ありがとよ」
 「いや、その」
 「また来てくれや。ありがとよ」


 キチベエさんはもう取り合ってくれないのか少し冷たい




 仕方なく俺は店を出た……くやしい




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 「ごめんねぇ。ウチの人は気難しいとこあるから」


 キチベエさんの奥さんが店の外で謝罪してくれるが、逆に俺は申し訳なかった


 「いえ、俺の方こそ……すみません」
 「いいのよ。また来てね」


 奥さんは微笑むと店の中へ戻っていく
 俺は歩き出し、表の通りへ戻ってきた。そして飲み物を買ってベンチに座る


 「麺か……どうしよう」


 麺なんてどこで買えば……いや、売ってないだろ。だったら作る? どうやって?
 この世界で麺を打てる人間なんて………待てよ?


 「いた……もしかしてアイツなら打てるかも」




 俺は妙案を思いつき、右手のバンドに視線を落とした




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 「水萌!! 水萌いるか!!」
 「わわわっ!? はははいっ!?」


 マフィの談話室に転移した俺は、女子全員とマフィがトランプをしてる場面に出くわした
 水萌は突然のことに驚き、カードを取りこぼしていた


 「ちょ、どーしたのよジュート。びっくりさせないでよ」
 「悪い黎明、ちょっと水萌に頼みがあるんだ」


 俺はいまだだにポカンとしてる女子を無視して水萌に聞く


 「なぁ水萌、お前って麺は打てるか?」
 「…………はい?」


 何言ってんだコイツ? みたいな視線が集中する。やめて、見ないで


 「め、メン……めん? 面? 綿?………麺?」
 「食べる麺だよ、ラーメンとかの」
 「ああ……麺ね」


 少し混乱した水萌をなだめると、麻止が切り出した


 「ちょっと、少し落ち着いて事情を説明しなさい。ワケがわからないわ」
 「あ、ごめん。実は………」




 俺はキチベエさんのお店での出来事を簡潔に説明した




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 「なるほど……そのお店で食べたスープがラーメンスープ。そして麺の説明ができずに追い出された、と」
 「まぁな。追い出されてはいないけど」


 事情を説明したら全員納得してくれた。言葉って大事だよね


 「で、水萌。麺は打てるか?」
 「うん。できるよ」


 あっけらかんと答える水萌
 ラーメンの麺を打てる17歳の少女って……


 「前に黎明ちゃんがラーメン食べたいって言うから、この世界の食材を利用していろいろ考えてみたの。ふふ、今度作ってあげるね」


 にっこり笑う水萌。かわいい……って、今度じゃなくて今がいい


 「いや、キチベエさんに見返したいんだ。麺を……いや。うーん、俺が打てれば」


 どうしよう。麺だけ作ってもらうか……いや、うーん
 俺が悩んでいると、腕組みしたマフィがニヤリと笑った


 「なら、水萌を連れてその店に行けばいいだろう?」
 「は? でも外はヤバいんだろ?」
 「まぁな。シャルムの力に一度捕捉されると、どこにいようと居場所がバレる。なら……誤魔化せばいい」


 そこまで言うとマフィは小さな指輪を取り出した


 「コイツを付ければシャルムの力を無効化できる。少なくとも居場所がバレる心配はない」


 マフィは指輪を水萌に渡し、水萌が指輪を装着した


 「……これでいいの?」
 「ああ、問題ないな」


 何も変わってない気がするけど……すると、括利が羨ましそうに言う


 「いいな~あたしも行きたい~」
 「わたしも」


 括利と虫菜が羨ましそうに見る
 すると水萌がバツの悪そうな顔をしたが、マフィが言う


 「すまんな、試作だから1つしかない。今回はある意味実験も兼ねているから、問題がなければ全員分を作ってやる」


 その言葉に全員が納得し、すぐに出発することにした


 「よし、行くぞ水萌」
 「う、うん」


 水萌は喜びを誤魔化せない顔で答えてくれた


 「じゃ、行ってきまーす」




 みんなに見送られながら、再び〔美食の町イーティア〕へ転送した




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 「まずは水萌のラーメンが食べたいな」
 「うん任せて。じゃあ食材を買いに行こっか」


 調理はアウトブラッキーの中で行えるので、まずは食材調達
 ここは美食の町なので、全大陸の食材が集う町でも会った


 町の外れに大きな食材市場があり、ここも町の名物の一つでもあった


 「どんなのにするんだ?」
 「えっと、時間があればいろいろ煮込んでスープを作るけど、今日は簡単にダシを取ったしょうゆラーメンにするね」
 「おお。楽しみだな」


 ちなみに水萌の服装は青を基調としたワンピース。この世界の服装を基準にして水萌が自分で作ったらしい。ちょーかわいい


 「……あ」
 「まぁその、人が多いから」


 俺は自然に水萌と手を繋ぐ……恥ずかしいけど、恋人……いや、嫁だからな
 ぐふふ。今夜が楽しみだ


 水萌は優しく、少し強く手を握り返してくる


 「えへへ。私だけ悪い気がするけど……いいよね」
 「うん。みんなとも必ずデートするよ」




 ぴったりと寄り添う水萌を愛しく思いながら、ゆっくり市場へ歩き出した




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 「材料は?」
 「えっと……乾燥魚と、魚のすり身と、あとは鶏肉と……」
 「すり身?」
 「うん。かまぼこを作ろうと思って、あとは時間が掛かるけどチャーシューも」
 「ちゃ、チャーシューなんて作れんの?」
 「まぁ適当に巻いてそれっぽく見せるだけだけどね」


 水萌の指示で市場を巡りながら買い物をする
 水萌は俺と同じ、ナルトじゃなくてカマボコ派だ。家で食べたラーメンもカマボコだったし、近所のラーメン屋もカマボコだしな
 やべぇ楽しい。楽しすぎる……こんな時間がずっと続けばいいのに


 「よーし買い物終了。さっそく作ろう」


 俺の泊まってる宿の裏の魔導車駐車場にアウトブラッキーを呼び出してさっそく調理開始


 「ジュートくんはお野菜を切って、私は麺を打つから」
 「はーい」


 水萌は業務用の寸胴鍋に野菜や肉を入れてダシを取っている。どうやらアレがスープの素だろう
 どんぶりにはこの世界の魚醤が入れられている。魚醤とダシでスープを作るようだ


 いつの間にか蒸し器が作動している……どうやらアレでかまぼこを蒸してるようだ
 さらに、鍋の中には〔グレーオーク〕の肉が野菜やタレと一緒に茹でてある。どうやらアレがチャーシューみたいだ


 ………って言うか、俺まだ野菜を切り始めて数分なんだけど
 どんだけ手際がいいんだよ……水萌は鼻歌歌いながら生地をこねてるし


 「この〔かん水〕を探すのに苦労したよ~。こっちの世界にあってよかった~」




 うーん、笑顔が眩しいぜ







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