ホントウの勇者

さとう

美食の町イーティア②/裏通り・美味汁堂





 「······勘弁してくれよ」


 〔神の器〕がいる。ハァ······誰だよマジで


 心機一転、気合を入れ直して最初にコレかよ。流石にこんな美味い物で溢れてる町で戦う気にはなれなかった


 「向こうは気付いてんのかな?」
 《いや、気付いていない。ボクたちですら今気が付いたんだ。向こうは気配を隠蔽してる。かなりの使い手だね》


 かなりの使い手······まさか【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】の誰かかな


 《でもおかしいワネ、動きに法則が感じられないワ。まるで寄り道しながら歩いてるような······》
 《ハハ。この町で寄り道するな、なんて不可能に決まってるさ》


 いや笑い事じゃないぞ。こんな町中で戦いになったらとんでもないことになる


 「······仕方ない。町を離れるか」


 俺を追ってきたなら着いてくるだろう。そこで迎撃すればいい
 すると、シロがのんびりと言い返す


 《待ちなよ、まずはボクが様子を見てこよう。敵にしても何にしても、まずは情報が必要だ》
 「いや、でも危ないぞ?」
 《大丈夫。危なくなったら〔セーフルーム〕へ逃げるから》


 そこまで言うと、シロは前足で窓を空けて隣の建物へ飛び移り、そのまま器用に地面に降りて行った


 「あらら······」
 《幸い敵意は感じられないワ。ココはシロフィーネンスに任せて様子を見まショ》


 クロはのんびりベッドの上で香箱座りをすると、そのまま欠伸をして目を閉じる




 仕方ない、ここはシロに任せるか




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 クロは昼寝、俺は読書をしていると窓から白いふわふわした物が飛び込んできた


 《ただいま》
 「お、おかえりシロ」


 俺はふわふわしたシロをなでる
 ここでクロも目を覚まし、さっそく調査結果を聞くことにする


 「どうだった?」 
 《うん》






 《人数は2人。結論から言うと······キミの仲間じゃない》






 その一言はあまりにも意外な一言だった




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 「はぁ⁉ 俺たち以外に〔神の器〕なんて······あっ」


 俺の頭によぎったのは3人の顔
 ザンク、サソリ。そして······レンカ先生


 「まさか······」


 俺の中に、レンカ先生の言葉が蘇る




 ──ザンク、サソリ···クイナ、マイト···みんな元気かなぁ──




 クイナ、マイト
 これは誰を指しているのだろうか


 《男女の二人組。どうやら女の買い物に男が付き合わされてるね。それにS級の冒険者のタグを提げていた》
 「······う〜ん。いきなり襲われはしないと思うけど」


 すると、俺の悩みにクロがため息をついた


 《大丈夫ヨ、もし敵になっても今のアナタなら蹴散らせる。これだけは言えるワ。アナタは間違いなく最強の〔神の器〕ヨ》
 「はぁ······」


 そんなこと言われてもなぁ······戦うのはイヤだ
 袂を分けたとはいえレンカ先生の仲間。もしもその2人がザンクたちみたいな奴らだったらイヤだ


 でも、真実を伝えなくちゃいけないのかもしれない


 「ザンクたちは······もう」


 ザンクとサソリはもうこの世にはいない
 黎明が泣きながら俺に話してくれた真実


 『ジュート、アタシ······人を、殺しちゃった』


 正気に戻り、俺と過ごした最初の夜
 震える声で黎明が告白したのは、ザンクたちを殺害したことだった


 ローレライの指示で邪魔な2人を殺した、と黎明は答え、なんの躊躇いもなく実行したらしい
 俺には何も出来ず、黎明を慰めることしか出来なかった


 「伝える······べきなのかな」  


 3人の死を
 ザンクとサソリの死の原因は間違いなく俺だし、レンカ先生の最後を看取ったのも俺だ
 仲間として、最後を伝える義務はあるんじゃないか
 するとシロが言う


 《ジュート、無理しなくていい。ボクが見た印象だけど······あの2人は今を生きていた、まるで恋人のようにね。もしかしたら全てを過去にしているのかもしれない。イタズラに掘り起こして悲しませる必要はないと思うよ》


 でも······俺は


 《大丈夫。出会いはココだけじゃない。必ず話す機会は訪れる》
 「シロ······うん」




 俺はシロをなで、ついでにクロをなでた




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 頭を切り替えて町を楽しむことにする


 「よし。今日は裏通りを行こう」
 《······こんなトコにお店があるノ?》
 《あったとしても規模が小さいよ?》


 ふふん。コイツらはわかっていない
 こういう隠れた場所にこそ名店が潜んでいるということを


 「俺のいた場所ではこういう裏通りにこそ名店があるんだ」
 《······ヘンなの》
 《確かに。表通りの方が人がたくさんいるのにね》


 まぁ分からないのも仕方ない。文化の違いだよね


 「よし、行くぞ」




 半信半疑のクロたちを連れて裏通りへ行く




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 俺の予想とは違っていたが、裏通りにも飲食店は並んでいた
 裏通りのアーチがあり、そこを潜ると店が並んでいる


 「うーん、そうきたか」


 そこに並ぶのはほぼ居酒屋
 しかもカウンター席しかなく、長屋のように店が連なる
 いわば······飲んべえのための店だ


 《う······お酒臭い》
 《わ、ワタシもちょっと······》


 そう言うと2匹は消えてしまう。あらら、1人かよ


 《ごめんジュート、お酒のニオイに当てられちゃった······ボクたちは少し休むよ》
 「ご、ごめん。平気か?」
 《気にしないでいいワ。少し疲れたし休むワネ》


 うーん。何か悪いことしちゃったな


 「仕方ない······1人で歩くか」


 俺もお酒を少しづつ飲むようになって耐性は出来たが、こんな昼間から飲むようなことはない


 居酒屋長屋は冒険者で賑わっており、どこもほとんど満席だ
 俺は酒を飲みに来たのではなく、隠れた名店を探したが······それらしい店を見つけることは出来なかった


 「はぁ。こりゃハズレだな」


 踵を返し、大通りへ出ようと引き返すと気が付いた


 「······あれ?」


 居酒屋長屋の入口に、1軒の食堂がある
 最初に見たときは全く気が付かなかったが、どうやらアーチに隠れるように建っているため入口からは見えず、反対方向から歩くと見えるような場所に建っていた


 「え〜っと······〔スープ専門店・美味汁堂うましるどう〕」


 スープ専門店ってことは、スープがメインなのか
 うーん。腹に溜まらないから心配だな


 「まぁせっかくだし入るか」


 ここまで来てただ帰るのもなんだし、入ってみるか


 「こんにちは〜」


 ガラガラと引き戸を開けて入ると、中はやはりボロかった
 二人掛けの席が2つにカウンターが4席のみのこじんまりとした店内に、年代物の魔導ランプが店の中を照らしている
 店主だろうか。古い調理服を着た40くらいのおじさんがボンヤリと新聞を広げて文字を追っている
 奥さんだろうか。同い年くらいのおばさんがテーブルを布巾で磨いていた
 するとおばさんが俺の存在に気がつくと、慌てて店主に声をかける


 「キチベエ‼ お客さんだよ‼」
 「うおぉっ⁉」


 キチベエと呼ばれた店主は、頬杖をついていた手がズレて危うく転げ落ちるところだった


 「さぁいらっしゃい。こちらへどうぞ」
 「あ、どうも」


 奥さんは40くらいのおばさんだ。いかにもお母さんといった包容力を感じさせる


 「悪いな兄ちゃん。注文はどうする?」


 店主のキチベエさんも、まるで悪ガキのような笑顔で俺に謝罪。そのまま料理の注文を取る


 なんと言うか······俺はこの店の雰囲気が好きになった


 「え〜っと······店長のオススメで」
 「お? お目が高い兄ちゃんだ。ちょっと待ってろよ」


 キチベエさんはニヤリと笑う
 すると大きな器を取り出し、大きな寸胴鍋に煮込まれてるスープをよそう


 「はいお待ち‼ コイツが〔グレーオークと野菜の煮込み汁〕だ。熱いから気をつけろよ」


 大きな器には肉と野菜、それと白く濁ったスープがなみなみと盛られている


 「······この匂い」


 俺は懐かしさを感じながらスプーンを取ると、あることに気が付いた


 「······これって」
 「ああ、それはオレが作った特別製のスプーンだ。スープと肉を同時にいただける優れものだ」


 俺は肉とスープを同時に飲み······気が付いた


 器の形、特別なスプーン、そして······スープ
 これは丼にレンゲ、このスープは間違いない




 「これって······ラーメンのスープだ」







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