ホントウの勇者

さとう

魔物使いの町テイマード②/オオカミ・獣



 宴会の翌朝、朝食を食べて宿を出る


 一応、宿泊の延長をしてから宿を出たが、アグニとクライブとモルは〔セーフルーム〕へ戻って行く
 代わりにクロが出てきて俺の肩の上に落ち着いた


 《フゥ。ココが1番落ち着くワネ》
 「はは。そりゃどーも」


 俺とクロのやり取りを見ていたシェラが、羨ましそうに言う


 「いいなぁ、ウェドルギナのヤツに会いたいなぁ······」
 「誰だ? 親兄弟か?」
 「うぅん、ペット」


 シェラのペットか······ちょっと興味ある


 「なぁ、〔龍の渓谷〕は近いのか?」
 「いや、まだまだ先だぞ。この【灰の大陸】は8大陸で最も危険だが、最も都市が多い大陸だ。〔龍人族〕は大陸の3割を掌握しているが、その中で最も危険地帯とされているのが〔龍の渓谷〕だ。あそこのモンスターは最低でもSレートだからな」
 「さ、最低で······?」


 マジかよ、ヤバいじゃん


 「だがジュートなら問題ないだろうな。アタシより強いし、アタシで問題ない場所だし」


 うーん。どうだろう
 確かに俺は強い。けど、油断や慢心はしないように心掛けている
 だから、どんなに余裕の相手でも絶対に油断しない


 町を散策しながら歩いていると、路地裏からモンスターが飛び出してきた


 「おっと······ん? コイツもモンスターか?」


 俺の前に飛び出してきたのは、白いうさぎだった
 しかし、頭にはツノが2本生えていて耳も少し短い
 大きさは30センチほど、普通のウサギと変わらない


 「コイツはDレートの〔ツノウサギ〕だな。駆け出しの冒険者が最初に相手をすることが多い、弱小モンスターだ」


 現れたウサギをツンツンしながら解説してくれるシェラ
 おいおい、俺にもやらせろよ


 「ほぉぉ……かわいいな」
 『きゅう』


 ウサギは大人しく、目をすぼめて気持ちよさそうに鳴いた
 すると、路地裏から小さな女の子が飛び出してきた


 「はぁ、はぁ……やっと追いついた。おいでラパン」


 女の子が呼ぶと、ウサギは女の子の胸に飛び込んだ
 女の子は気持ちよさそうにモフモフしてる


 「あ、あの。ラパンがご迷惑をおかけしました」
 「いや、気にしないで」
 「そうだぞ。カワイくて気持ちよさそうじゃないか……なぁ、抱っこさせてくれ」
 「いいですよ。どうぞ、お姉さん」


 シェラはウサギを抱っこすると、頭を撫でながらモフモフしてる
 俺は女の子に聞いてみた


 「えっと、キミも魔物使いなの?」
 「は、はい。まだD級の駆け出しで……」
 「D級……?」
 「あ、冒険者や傭兵の格付けと同じです。そのツノウサギ……ラパンは、わたしが初めて契約したモンスターなんです」
 「へぇ……キミみたいな小さな女の子でも魔物使いになれるんだな」
 「えっと、この町は魔物使いの町なので住民のほとんどは魔物使いです。モンスターの力を借りて生活してますので、わたしみたいな子供がモンスターと契約するのは珍しくありません」


 見た感じ、女の子は中学生になったばかりくらいの年齢だろう
 シェラはウサギの眉間をうりうりと指で掻いている


 「お兄さんたちは……冒険者? ですか?」


 疑問系なのはきっと、俺の肩にいるクロのせいだろうな


 「ああ。旅の最中でこの町に寄ったんだ……っと、俺はジュート、あっちはシェラだ」
 「あ、わたしはミクリです。この町出身の魔物使い見習いです、よろしくお願いします」


 シェラは、ここでようやく戻ってきた


 「くぅぅ、コイツはかわいいな。持っていきたいくらいだぞ」
 「おいおい、勘弁しろよ」
 「あはは……」




 シェラとミクリは挨拶をし、せっかくなので町を案内して貰う




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 「ここがモンスター専用のお店です。武器や防具、エサはもちろん、モンスター専用の洋服なんかも売ってますよ」


 ミクリに町を案内してもらいながら歩くこと数時間
 お昼も近くなってきたのでごちそうしてやることにした


 「ミクリ、案内のお礼にお昼をご馳走させてくれ」
 「え、で、でも……」
 「気にするな。お前と、それとラパンにアタシ達が礼をしたいんだ」
 「……はい。わかりました、ごちそうになります」
 「よーし。じゃあウマい店に案内してくれ」
 「はい!!」


 と、いうことでミクリおすすめのお店へ


 しばらく歩き、細い路地を進んでいくと、一軒の喫茶店風のお店に着いた
 ミクリは慣れた感じで店に入っていく


 「いらっしゃい……と、ミクリじゃないか」
 「えへへ、来たよ兄さん」


 兄さん、と言うことはミクリの兄なのか
 確かに雰囲気がよく似てるし、顔立ちも似てる


 「お……」


 シェラが興味深げに視線を店の端に移すと、そこには毛並みの良さそうな狼がいた
 俺とシェラを見る目つきは、まるで何かを計るような感じがした


 「やめろルプス……失礼しましたお客様。どうぞこちらへ」
 「は、はい」
 「うむ。大盛りで」
 「いや、まだ注文してないだろ……」
 「あはは。シェラさんは面白いですね」


 喫茶店はこじんまりとしていて、4人がけ席が2つに2人掛け席が2つ、カウンターが3席しかない
 俺たちは4人がけ席に座ってランチメニューを頼んだ。もちろんシェラは大盛り


 「ここはわたしの兄さんのお店なんです。兄さんは昔、S級の魔物使いだったんですが、相棒のルプスが怪我をしたので引退……それで料理が趣味だったのでこのお店をオープンしたんです」
 「……なるほどな」


 俺は、あのルプスというモンスターにかなりの強さを感じた
 まるで、歴戦の老兵のような。しかし、衰えを全く感じない眼光


 「あのオオカミだけじゃない。お前の兄自身からもかなりの強さを感じたぞ……ふむ、是非とも手合わせを」
 「やめとけっての」


 シェラが目を輝かせたので止めておく
 すると、料理が運ばれてきた


 「ははは……ボクはもう引退した老兵ですよ。今はこの喫茶店のマスターです」
 「もう、兄さんったら……」


 運ばれてきた料理はどれも美味そうで、空腹を刺激した


 「もう。こんなに料理が得意で美味しいのに、こんな場所にお店を構えるからお客さんが全然入ってこないじゃない……勿体ない」
 「うぐ……痛いなあ。ははは」


 シェラは料理をガツガツ食べ、俺も負けじと食べる
 あっという間に完食し、食後のコーヒーを飲んでいた


 「遅くなりました。ボクはこの喫茶店のマスターでミクリの兄でもあるミゲルです。その説では妹がお世話になりました」
 「いえいえ。ミクリには町を案内してもらったり、しかもこんな美味しいお昼を紹介してもらって、ホントに助かりました」


 他愛ない話をしながら食事をする
 すると、狼のルプスが立ち上がる


 「あぁ食事か。済まないな、すぐに準備するよ」


 ミゲルさんはキッチンに入るとルプス用の食事を準備し始める


 「······ほぉ」
 「······スゴイな」


 狼のルプスは、全身が傷だらけだった
 座っていたし、離れていたのでわからなかったが全身が傷だらけで、中でも特に酷いのが顔と後ろの右足
 顔はクマにでも引っ掻かれたような傷跡があり、耳が欠けていた
 後ろ右足は、同じような爪痕が刻み込まれ、歩くときに引きずっている


 しかし、その眼光は鋭い
 これ程のモンスターはそうはお目にかかれないだろう


 「ルプスは〔グレーフェンリル〕というSレートのモンスターでね、ケガしていたところを保護したのが出会いだったのさ。ボクは当時B級の魔物使いで、懐いてくれるまで苦労したよ」


 ミゲルさんは、エサの入った器をルプスの前に置く
 するとルプスは美味しそうに食べ始めた


 「当時のボクは天狗でね······ルプスの強さを過信してかなりの無茶をさせた。こんなに傷だらけで······ホントにバカなヤツだったよ」


 ミゲルさんは過去を振り返り、後悔しているようだった


 「ある日、調子に乗ったボクはSSレートモンスター、〔カーキワイルドフォックス〕の討伐を受けてね······惨敗だった。ルプスは大怪我、ボクも自信を砕かれた。もう戦いを続けることは出来なかった。だからルプスのためにのんびりと穏やかに暮らすことにしたのさ」


 ミゲルさんは、ここで初めて俺たちを見て、慌てて謝った


 「ご、ゴメン。聞いてもいないコトをベラベラと」
 「いえ、とてもいいお話でした」


 俺はミゲルさんにお礼を言うが、シェラは納得いかない表情だった


 「······穏やかな暮らし、か」
 「シェラ?」


 シェラは、ミゲルさんを見て言う


 「その狼、飢えたケモノの目をしてる。アタシには分かる······アタシも同じだから」
 「お、おいシェラ」
 「そいつが求めてるのは穏やかな暮らしじゃない、戦いだ」


 シェラがギラリと殺気を込めると、ルプスは立ち上がり、毛を逆立てて威嚇をする


 「見ろ、これが平穏を望むケモノの目か? 違う。怪我なんて理由にならない。コイツは死ぬまで戦いを求めるケモノだ」
 「いい加減にしろ······‼」


 俺は怒気を込めた瞳でシェラを睨む
 ミクリは怯え、ミゲルさんは無表情だった


 「お前の言う通りだとして、俺たちには関係ない。ミゲルさんの生き方、ルプスの生き方を決める権利はお前にはない。これ以上口出しするなら、力ずくで黙らせるぞ」
 「······ふん」


 シェラはつまらなそうにそっぽ向く


 「すみませんミゲルさん。シェラが余計なことを」
 「いや、彼女の言う通り、ルプスは戦いを求めてる。だけど······今のルプスはこんな有様だ。ボクのワガママだが、これ以上ルプスに傷ついて欲しくないんだ」




 ルプスの頭をなでるミゲルさんは、穏やかな表情だった





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