ホントウの勇者

さとう

灰の渓谷/霧・【緑の神話魔術】



 町を出て半日、野営をするため【アウトブラッキー】を出してシェラと乗り込む


 「へぇ、これがジュートの魔導車か」


 シェラは俺が〔神の器〕と知っているので、アウトブラッキーの構造を見ても大して驚かなかった


 「さぁて、何食べる?」
 「肉‼」


 即答だった
 まぁ別にいいけど


 「よし。じゃあ焼肉丼でも作るか」
 「おぉ⁉ なんだそれは、美味そうだな‼」
 「ふふふ、期待してろ」


 シェラはいかにもな大食いのイメージだったので、ご飯は大盛りにする。ちなみに器はラーメン用くらいのどんぶりで


 肉を焼き、ご飯の上にキャベツを敷いて大量に載せ、さらに醤油ベースのタレをかけて完成


 「ほれ、うまいぞ」
 「おぉぉ······これが」
 「よし。それじゃいただきます」


 いただきますと同時に、シェラは豪快にどんぶりにがっつく
 マナーもクソもない。口一杯にご飯と肉を頬張る姿は、どこか野生を感じさせる
 黙っていればスゴい美少女なのに、もったいない······とは感じない。むしろ元気一杯な姿は見ていても不思議な魅力があった


 「おかわり‼」
 「はやっ⁉」


 20秒も掛からずに完食
 おかわりを作るため席を立つ




 嬉しそうに待つシェラのため、俺は急いでおかわりを作った




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 「ふぅ〜、お腹いっぱい。美味しかったぞジュート」
 「はいはい······って言うか、食いすぎだろ」


 シェラは4杯もおかわりした
 この細い身体のどこに入ったのか不思議でならない
 次の町に着いたら食料をいつもの倍以上購入しよう


 「なぁジュート、アレはなんだ?」
 「ん? あぁ、アレは風呂だよ」 


 シェラが指差したのは、風呂場への入口
 俺の趣味で、「ゆ」を刺繍したのれんを掛けてある


 「風呂か。いいな、入らせてくれ‼」
 「いいけど。壊すなよ」
 「はーい‼」


 するとシェラは、俺の目の前で服を脱ぎだした


 「ば、バカ‼ あっちで脱げ‼」
 「何でだ? アタシは気にしないぞ?」 
 「俺が気にするんだよ‼」


 誇らしげに胸を張りながらシェラは首を傾げる
 鍛えられた身体は美しく、胸の大きさもかなりのモノだ


 「全く。細かい男だな」
 「うるせぇ!! いいから行けっての!!」
 「はいはい」


 シェラはしぶしぶ浴室へ


 「全く……無防備なヤツだな」


 すると、浴室から水音が聞こえてくる


 「ふんふんふ~ん、ふふふ~ん」


 シェラの鼻歌が聞こえる……ごきげんだな
 すると、カラカラと浴室のドアが開き、シェラのシルエットが映る


 「おーいジュート、着替えを持ってきてくれ」
 「着替えって……そんなのあったっけ?」
 「何でもいい。お前の服でかまわない」
 「……やれやれ」




 全くもって自由なヤツだ。いやマジで




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 「さて、寝るぞジュート」
 「そうだな。明日には〔灰の渓谷〕に着く。しっかり休んでおけよ」
 「ああ。たしかSSレートのモンスターがいるんだったな……くふふ、楽しみだ」
 「やれやれ。油断すんなよ?」
 「無論だ。ジュート、お前もな」


 俺はシェラにベッドを譲り、ロングソファに横になる


 「おやすみ。シェラ」
 「おやすみだぞ。ジュート」




 アウラやシャロアイトの時も思ったけど、誰かと旅するのは悪くないな




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 翌日、朝から肉を要求されたが却下した


 あっさりしたメニューにしたら、シェラも気に入ったのでよしとする
 というかシェラは腹に入れば何でもいいらしい。肉が好きなだけみたいだ


 そして【アウトブラッキー】を出発させて約3時間。〔灰の渓谷〕に着いた


 「ここか……」
 「ああ。なんだかイヤな感じだ」
 《………》


 クロも警戒してるのか、しっぽがピンと立ってる


 「ふぅむ、クロも何かを感じるのか?」
 《エエ。強い気配を感じるワ》


 シェラもクロと話が出来るみたいだ
 理由は未だにわからんが、話が出来る人間と出来ない人間がいる


 「まぁ進めば分かるだろ。行くぞシェラ、クロ」
 「ああ。モンスターはアタシに任せろ」
 「はいはい、俺も戦うからな」
 「むぅ~っ!! アタシがやるっ!!」




 そんな感じで、さっそく中へ入っていく




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 渓谷、というだけあって山と山の間に川が流れてる


 川幅は広く、釣りなんかやったらかなり釣れそうな感じ
 道はなく、砂利道をひたすら歩いて行くと……来た


 「……シェラ」
 「ああ。任せろ」


 山から何かが駆け下りてくる……数は10、かな
 俺はナイフと投げナイフを構え、シェラは槍をクルクル回転させ構える


 「あれは……〔グレーマンキー〕だ。単体では精々Bレート、集団ではSレートのモンスターだ。気を付けろジュート!!」
 「問題無い。半分は任せる」


 それだけを言って、俺は山から下りてくる猿めがけてナイフを投げる
 距離は15メートル……まぁ、外れるよな


 「キッキィィィッ!!」


 猿はすばしっこく、俺に向かってきたのは4匹
 シェラの方に6匹向かっていく


 俺はさっさと終わらせるため、魔術を使う


 「【黒】の中級魔術、【床闇之沼ダスク・マーシュ】!!」


 俺に向かって飛びかかかって来た瞬間、足下に向かって闇の沼を展開する
 案の定、猿たちはドボンドボンと沼に落ちていく


 「おっと、悪いな」
 「キ、キ、キィィッ!?」


 猿は沼でもがき苦しむが、どうしようもない
 そのままブクブクと沈んで行ってしまった……ゴメンね


 「シェラ、終わっ……」
 「ふん。雑魚め」


 シェラの前には絶命した猿が6匹、積み上がっていた
 当然のように無傷


 「お、ジュートも終わったか」
 「ああ。たいしたコトなかったな」


 シェラは槍をクルクル回して背中に納める
 その光景を見ていた俺は、気になって聞いてみた


 「その槍……かなりの業物だな」


 シェラは槍を褒められて嬉しかったのか、再び槍を構えて言う


 「そうだろそうだろ!! この槍はアタシの家に代々伝わる〔古代具〕で、魔力を流すと攻撃的な波動を放つことが出来る。その名も〔龍天牙撃りゅうてんがげき〕だ!!」


 確かに、カッコいい装飾が施された槍だ




 誇らしげなシェラを押さえつつ、先へ進んだ




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 「ん……」
 「お……」


 しばらくゆっくり進んでいると、霧が出てきた


 川も近いし、気温もそこそこ高いから仕方ない
 はぐれないようにシェラを見ると、その表情は険しかった


 「どうしたシェラ?」
 「気を付けろ……来るぞ!!」


 シェラが槍を構えると同時に、霧が渦巻き始めた


 「な、何だ!?」
 「コイツだ。コイツがSSレートのモンスターだ!!」


 渦巻いた霧が、顔のような形を作る
 そして口の部分が裂け、まるであざ笑うかのような表情をした


 頭の中で、ティエルの声が響く


 《ジュート、そいつは〔アンバーミストスモッグ〕よ!! 人を惑わし幻覚を操る、対人間用の神獣に間違いないわ!!》


 マジかよ、ここで神獣かよ!?


 「シェラ、コイツは神獣だ!! 気を付けろ!!」
 「わかってる!!」


 俺もナイフを両手で構え、霧に向かって叫んだ




 「さぁ、行くぜ!!」




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 と、意気込んだのはいいが……


 「おいジュート、攻撃が効かないぞ!?」
 「くっそ、魔術もダメだ!!」


 霧なので風で吹き飛ばそうとしたが、すぐに霧が集まり意味がない
 物理は当然無効化され、正直ヤバい


 「どうする……逃げるか!?」
 「ダメだ!! 逃げるなんてアタシが許さない!!」
 「じゃあどうすんだ!! 死ぬぞ!!」


 霧のモンスターは攻撃らしい攻撃はしてこない
 むしろ、俺たちを見てあざ笑ってるように感じた


 すると、頭の中に声が響く


 《ジュート、コイツはこの渓谷全体に霧を張っているワ。この一部分を風で吹き飛ばしても意味がないワネ》


 おいおい、じゃあどうすんだよ。今は黙ってるけど、攻撃してきたらマズいぞ


 《フフフ……一部分って言ったでショ? なら、全体を吹き飛ばせばいいワ》


 全体……あ、そうか




 「【緑】の……【神話魔術】か!!」




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 「シェラ、時間を稼いでくれ!!」
 「何? いい手があるのか?」
 「ああ。とっておきのな!!」
 「……よし、ここは譲ってやる!!」


 シェラは槍を構えて、霧の顔めがけて飛び出した
 当然、攻撃は通じないが、シェラの連続攻撃に霧は少し晴れていく




 『吹き荒れろ神の旋風 大いなる嵐の意思よ』


  シェラは槍を振り回し、俺の周囲に霧を近づけない


 『乱舞せよ我の元に 歌を謳え風の詩を』


  俺の魔力に気が付き、ようやく霧が攻撃の意思を見せる


 『神話が紡ぐ神の唄 魔術の粋よここに至らん』


  だが、もう遅い……これで終わりだ


 『【銃神ヴォルフガング】の名の下に我は告げる』


  俺は詠唱を完成させ、放つ






 「【緑】の神話魔術・【零風天使のヴァンビエント・アーンギル旋風洗礼・テンペスター・ラファエル】!!」




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 渓谷の上空に現れる、強大な緑の紋章


 そこから現れるのは風の天使
 両手に槍を構え、背後には無数の槍が旋回し、1本1本が風を纏っている


 「お、おぉぉ……」


 シェラはその光景に見入っている
 そして、天使の槍が渓谷全体に飛び、1本1本が強大な竜巻を起こす


 「さぁて……吹っ飛ばせ!!」


 俺の合図で、竜巻が渓谷全体に荒れ狂い、霧を吹き飛ばした
 すると、上空の雲も吹き飛ばし、明るい日差しが渓谷を包み込む。モンスターは完全に消滅したみたいだな


 「わぁ……キレイだ」
 「ああ、すげぇ……」


 明るい日差し、川のせせらぎ、青い空、緑のニオイ
 まるでピクニックでも出来そうな光景だ


 「スゴい……スゴすぎるぞ、ジュート」
 「だな。これがこの渓谷のホントの姿なのかもな」
 「それもあるが……ジュートもスゴい。やはりお前はアタシにとって最高の越えるべき壁だ!!」


 シェラは俺に飛びつき、嬉しそうに抱きついた


 「お、おい。危ないぞ」
 「あははっ、なんか嬉しくてな……ダメか?」
 「……はぁ。少しだけな」




 柔らかな日差しに包まれながら、俺はシェラの頭を撫でた





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