ホントウの勇者

さとう

武技の町ガイラン⑤/ともだち・同行の龍



 試合が終わり、俺はフィンテッドとグルガンを見舞うために病室へ向かった


 このコロシアムには毎日のように戦いが行われているため、専属で【白】の中級魔術師が常駐してる
 もちろん、破格の報酬で


 俺は病室の前に着くと、控えめにドアをノックした


 「……どなた?」


 聞こえてきたのはセレシュの声


 「えっと、俺……ジュートだ」
 「そう、入っていいわよ」


 お許しが出たのでドアを開けて中へ
 病室は広く、ベッドの数だけでも20以上はある
 その中の2つ、窓際の日差しが差しているベッドに、フィンテッドとグルガンはいた


 「やぁ。ははは、情けない姿を見られちゃったね」
 「……ふん」


 2人は薄い緑のパジャマみたいな姿で、怪我は治っているようだが顔色は悪い
 フィンテッドは苦笑しながら語り出した


 「いやぁ、完敗だ。あれはバケモノだね……ボクのスピード、グルガンのパワーがまるで相手にならなかった。どうやら強化なしでも彼女は全てが上のようだ……」
 「ああ。あれが〔龍人族〕の身体技能か……ふん。全くもって不公平だ」


 その語りを聞いていたミュラが、強くキツめに言う


 「やめなさい。それ以上は惨めになるわよ……負けず嫌いならこれから更に強くなればいいだけ。あんた達ならそれが出来るハズよ」
 「そうね。そのために私たちがいる」
 「はい。だから早く身体を治して下さいね」


 女性陣の慰めに、グルガンは顔を背け、フィンテッドは俯きながらも口元は笑っていた


 「ありがとう……」
 「……ふん」


 俺も、少しだけ


 「フィンテッド、グルガン、お前たちは強いよ。でも……シェラヘルツの方が強かった」
 「……うん」
 「……ああ」


 2人はもう、俯いていなかった


 「でも、お前達はまだまだ伸びしろがある。フィンテッドは【白】の上級魔術師だろ? だったら【活性光筋アクティブ・ドライブ】意外にも【幻想人形イマジン・パペット】や【蜃気楼煙ミラージュ・コロイド】を使って攪乱しながら戦えばいい。それだけでもだいぶ違う」
 「な……キミ、ボクが上級魔術師……いや、いまさらか」
 「まぁな。俺から見た感じ……シェラヘルツは直球勝負に強い。ある程度、緩急をつけた攻撃をしてみる価値はある」
 「……確かに。ボクは相手の土俵にいつの間にか乗せられていた。あの雰囲気でつい、正面からの戦いに拘ってしまった」
 「ああ。お前はどちらかと言えばサポートに徹したほうがいいかもな。直接戦闘はグルガンに任せて、攪乱や幻覚を使えば、シェラヘルツに一撃を叩き込むチャンスを作れるかも」


 これは、俺が見た戦いでの感想
 フィンテッドは確かに強い
 でも、【白】の上級魔術師なら、自身の強化ももちろんだが、あえてグルガンを強化し、幻覚を作り出してシェラを惑わすという戦法もある
 こう言っちゃなんだが、シェラは直球は得意だが、変化球に弱いイメージがある


 「ジュート。ありがとう……なんだか自信が沸いてきた」
 「ふん、その観察眼……流石と褒めておく」
 「ああ、気にすんな。その……」


 正直なところ、コレを言うのは恥ずかしい


 「なんだい?」 
 「……?」


 でも、明日にはこの町を去る
 次に会えるのはいつになるか分からない




 「その……友達、だからな」




 顔が熱くなり、思わず目を反らしてしまった


 「……ははっ、そうだね。ホントに……イイ友達のおかげで、ボクたちはまだまだ強くなれそうだ」
 「……ふん。まぁな」
 「フフ。友情、ね」
 「ま~ったく。オトコってのは……」
 「あはは。なんだか楽しいです」




 こっぱずかしいが、伝えられてよかった




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 フィンテッドたちに再開を約束し、病室を出た


 「さぁて、明日には出発するか」
 《そうネ。買い物は済ませた?》
 「ああ……って、いきなり出てくるなよ」


 さすがにもう驚かない
 こんなパターンは、何度も経験済みだ


 「どうした、もう昼寝はいいのか?」
 《エエ。インヘニュールがアナタに頼みたいコトがあるって》
 「ニュールが? 何だろう」


 珍しいパターンだ
 よく考えたらニュールとコミュニケーションをあまり取ってない
 これはチャンスかも……って


 「う~ん。アイツがなに喋ってるのか、未だにわからんからなぁ」
 《大丈夫、ワタシが聞いてきたワ》
 「お、助かる。それで何だって?」
 《その……油が欲しいんですっテ》
 「……あ、油?」
 《エエ。あのコは変わり者でネ。油を飲むと調子が良くなるんですっテ》
 「ふ、ふ~ん」


 機械だから? ロボットだから? それとも燃料切れ?


 「なぁ、油ならなんでもいいのか?」
 《みたいネ》




 う~ん。まぁとにかく、【アメジスト号】用の燃料が余ってるから持っていくか




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 宿屋へ戻り、〔セーフルーム〕に入ると、ニュールから煙が出ていた


 「お、おいニュール!? どうしたんだっ!?」


 俺は倒れてるニュールに駆け寄り、その金属のボディを持ち上げる


 《ガ・ガ・ガ……》
 「くそ、何が……」


 俺は周囲を見回すと、酒を飲んでるアグニとナハト。飛び回るティエルを追うルーチェとクライブ、机の上で昼寝をしてるモルを見た


 「おいみんなッ!! ニュールに何があったんだ!!」


 俺の叫びに全員が反応し、バツが悪そうにアグニが言う


 《あ、いや……そのよ、インヘニュールのヤツが調子が悪いって言うから、油の代わりに酒を飲ませたんだ。そしたらダウンしちまってよ》
 《まぁほっとけば治るじゃろ。カッカッカ》
 「お前らなぁ……」


 杯を片手にアグニとナハトは言うが、ティエルたちが捕捉した


 《なーにが飲ませた、よ。アグニードラが無理矢理インヘニュールにお酒をぶっかけたんじゃない。それを見てナハトオルクスも悪ノリして口にお酒を流し込んで……》
 《インヘニュール、すっごく辛そうだったよ?》
 《お、おいらはノーコメントで……》


 こ、コイツら……
 俺が非難のジト目を向けると、明後日の方向へ目をそらした
 ニュールは煙が出ているが、カタカタと口の部分が上下し、目がチカチカ点滅してる


 「ん、あ、油か?」
 《ギギ・ガガガ》


 俺は油の入った樽を取り出し、給油穴にホースを取り付けて油を流す
 ニュールの口に油がドクドク流れると、ニュールの目が赤く輝いた


 《ギギギギギ!! ガガガガガ!!》
 「お、おぉぉっ!?」


 俺の腕から突然飛び上がり、キャタピラをギャルギャル回転させてグルグル走り出す


 《あははっ、すっごく美味しい油だってさ。よかったねジュート》
 「そ、そうなのか?」


 まぁ油っていうかガソリンだしな


 《カッカッカ!! よかったのぉインヘニュール。これからはウマい酒、いや油が毎日飲めるのぉ!!》
 《だな。インヘニュールにとって油はオレらで言う酒みてぇなモンだからな、ガッハッハ!!》


 コイツら……少しは反省しろよ
 すると、俺の背後にスゴい威圧感を感じた


 《アナタたち……インヘニュールにお酒を飲ませたそうネ……!!》


 クロが毛を逆立ててアグニとナハトを威嚇する


 《げぇっ!? く、クロシェットブルム。いや、その……インヘニュールが困ってたから、その》
 《そ、そうじゃそうじゃ。ワシらは善意で大事な仲間を救おうと……ホレ、9匹しかおらぬ【九創世獣ナインス・ビスト】に何かあったら大変だしの》


 いつの間にかアグニとナハトは壁際に押されていた


 《以前にもそんなコトあったわネェ……たしか、あの時もインヘニュールとクライブグリューンにお酒を飲ませて、しかも暴走するインヘニュールにトレパモールをけしかけて……》
 《あ、いや、ははは……》
 《う、むぅぅ……》


 あらら、アグニたちが劣勢だ
 これはひとまず退散したほうがいいかもな


 「じゃ、ごゆっくり……」
 《て、てめぇジュート!! 逃げんなよっ!!》
 《そ、そうじゃ!! ワシらを助けんかいッ!!》


 いや、無理です




 俺は手を振って〔セーフルーム〕から退散した




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 翌日、目の覚めた俺は朝食を食べて宿を出た


 隣にはクロがいる
 しばらく歩いて町の門まで進み、これからの目的地を相談する


 「な、なぁ。アグニたちは……?」
 《聞きたいノ?》
 「い、いえ」


 なんか怖い……気にしたら負けだ


 「さ、さぁて。次はどこへ行くんだ?」 
 《次は〔灰の渓谷〕を抜けて〔魔物使いの町テイマード〕ネ》


 魔物使い……これは初めて聞く単語だ


 「魔物使いって?」
 《言葉の通り、モンスターを使役して戦う戦士ネ。魔物使いはこの【灰の大陸】にしかいないのヨ。だから知らないのもムリないワ》
 「モンスターを使役って……どんな魔術だ?」
 《さぁネ。確かその魔術は遺伝の資質で、アナタには使えないワヨ》
 「あぁいいよ別に。モンスターなんておっかないしな」
 《アナタね……ワタシたちだって、言い方を変えればモンスターなのヨ?》
 「そうか? クロたちはクロたちだろ?」
 《……まぁ、そうネ》


 まぁいいか。とにかく行こう


 「よし。まずは〔灰の渓谷〕だな」
 《そうネ。あそこにはSSレートのモンスターが住んでるワ》
 「へぇ。面白そうじゃん……じゃあ行くか!!」






 「よし。気合いを入れて行くぞジュート!!」






 「おう!!………って、はい?」


 俺の隣には、いつの間にかシェラがいた


 「な、なんでお前が?」
 「ん? ジュートのニオイがしたから追ってきた。それにもうこの町に用はないし、せっかくだからアタシもジュートに着いていくことにした」
 「へぇ~……って、着いてくる?」
 「ああ。ジュートといればアタシはもっと強くなれる。それに一緒にいれば〔龍の渓谷〕にも案内できるしな」


 シェラはいつのも陣羽織スタイルに、長い灰銀の髪をポニーテールにしてる
 トレードマークのツノは剝き出しで、背中には強そうな槍を背負っていた


 「さぁ行くぞジュート。道中の敵は全てアタシに任せておけ!!」
 「………あ、ああ。い、行こう」


 笑顔で歩き出すシェラ
 はぁ、まぁいいか




 こうして【灰の特級魔術師 シェラヘルツ】を仲間にし、俺たちは歩き出した





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