ホントウの勇者

さとう

武技の町ガイラン④/龍の実力・灰塵の実力



 シェラから逃げるように宿に戻って部屋に入ると、ベッドの上にクロがいた


 「おぉ、ルーチェたちは?」
 《寝てるワ……全く、あのコ達ったらワタシの尻尾を……》


 あ。よく見るとクロの尻尾がヨレヨレになってる


 「お疲れさん。なんか食べるか?」
 《遠慮するワ。それよりコレからの進路ね》


 そうだ。シロフィーネンスの居場所を聞かないと


 《シロフィーネンスはこの大陸の最東端、〔白灰の森〕にいるワ。ここからだとかなり掛かるし、いくつもの町や森、洞窟を越えないと行けないワネ》
 「まぁ最後だしなぁ……仕方ない」
 《エエ。シロフィーネンスに会ってワタシ達の封印を解いて、いよいよ最後の【時の大陸】ヨ》
 「ああ。ここまで来たら何でも来いだ」
 《……フフ。ホントに強くなったワネ。あんなに弱かったのがウソみたいネ》
 「そりゃみんなのおかげさ。みんなが、クロがいなかったら……俺はとっくに死んでいた」
 《………》
 「クロ、最後まで頼むぜ」
 《……エエ》




 俺はクロをひと撫でし、ベッドに横になった




───────────────


───────────


───────




 翌朝、朝食を食べて部屋でくつろぎ出かける


 目的は、シェラとの戦いをするフィンテッドたちの応援だ
 場所は、町の中心の闘技場
 宿から10分ほどの距離で、すぐに到着した


 「そろそろ時間が近いな……激励だけするか」


 闘技場は、現在シェラの貸し切り状態で運営されている
 この闘技場は、申請をすればだれでも使用することができ、戦士同士の決闘や、このような催し物で使われることが多い
 もちろん自己責任。死んでも、殺されても文句は言えない
 シェラは誰も殺してないみたいだけど……


 「それにしても、さすが【特級魔術師】だな……」


 闘技場は満員御礼。しかも出店まで大量に出てる
 シェラヘルツの看板はこの町にとってブランドみたいなもんか


 「……ん?」


 俺は、闘技場の中心に向かう通路で人だかりを見つけた
 しかも、全員女性。大人から子供まで様々だ


 「な、何だ?」
 「あん? 兄ちゃん、知らないのか?」


 俺の疑問に、近くにいた商人っぽいおじさんが答えてくれた
 おじさんはどうやら、この闘技場でパンフレットを配る仕事をしてるみたいだ


 「どうだい? 一枚150ゴルドだ」
 「あ、いただきます」


 おじさんからパンフレットを買い、めくってみる


 「こ、これって……」


 そこに写っていたのは、フィンテッドとグルガンだった


 「やれやれ、兄ちゃんは他の大陸から来た旅人だな? 仕方ない、解説してやるよ」
 「お、お願いします」


 おじさんは親切に説明してくれる


 「そこに写ってる2人は〔灰塵の翼アッシュダスト・ウィングス〕のメンバー、神速のフィンテッドと剛力のグルガン。ともに王都最強の冒険者さ。王からの勅命で、SSダブルレートのモンスターを討伐した、まさに英雄みたいな戦士さ。このたび、【特級魔術師】に挑戦することになったんで、あの通り……ファンが追っかけてきたのさ」
 「じゃあ、アレ……フィンテッドとグルガンのファンなんですか?」
 「ああ。正確にはフィンテッドの、だけどな。それに、グルガンのファンや【特級魔術師】様のファンも大勢集まってる、商売繁盛でなによりさ」


 おじさんは、ゴルドが詰まった袋をジャラジャラ揺らしながら笑う
 すると、集まっていた女性達が嬌声を上げた


 「お、来たみたいだな」
 「ホントだ」


 人垣で見えにくいが、フィンテッドとグルガンが歩いてるのが見えた
 その後ろには、女子3人もいた


 「こりゃ近づけないな……」


 仕方なくおじさんと一緒に2人を見送った


 「兄ちゃん、どっちが勝つと思う?」
 「うーん……」


 俺はシェラの実力を知らないからなんとも言えないが、おそらくフィンテッドとグルガンは、通常のオニキスより強いかも知れない
 ただし、【特級魔術】を発動させたオニキスよりはやや下と言うのが俺の感想だ


 つまり、生身でシェラがどこまでやれるか
 シェラが【特級魔術】を発動させれば、間違いなく勝てる


 そもそもシェラの【特級魔術】がどういうモノか知らないからなんとも言えない
 つまり、結論


 「やってみないと分かりませんねぇ……」
 「はは、そりゃそうだな」




 俺は、おじさんに向かって肩を竦めた


 
───────────────


───────────


───────




 闘技場の席は満員で、俺は後ろの立ち見席で立ったまま観戦していた
 どうやら前座的な戦いがあるらしく、力自慢の冒険者グループと傭兵グループの総当たり戦を行っていた


 そして、5対5の戦いで2勝2敗までもつれ込み大将戦
 大将同士のダブルノックアウトというまさかの引き分けで前座が終わり、次はいよいよシェラとフィンテッドたちの戦いだ


 「おいおい、もしかして……」


 会場に、シェラとフィンテッド……それとグルガンが現れ、会場はますますヒートアップ
 シェラの提案なのか、そういうルールなのか……驚いたことに、1対2での戦いだった


 「マジかよ、おい。さすがにコレは……」
 「よう兄ちゃん、また会ったな」
 「あ、パンフ売りのおじさん」


 俺の隣に、パンフレットを売り尽くしたおじさんがやってきた


 「あの、これって1対2での戦いなんですか?」
 「ああ。シェラヘルツ様の提案でな、挑戦者はその日に申し込まれた人数とまとめて戦うルールなんだ。本人曰く、1対1じゃ絶対に勝てないから、らしい」
 「とんでもない自信ですね……」
 「ああ。実際に15対1でもあっさり終わらせた事もある」
 「ま、マジですか……?」


 15対1って、とんだバケモンだな
 この大陸の冒険者・傭兵って、全員がA~S級の戦士なんだろ?


 「ぶっちゃけ、身体能力や魔術で〔龍人族〕に勝てるワケない。ヤツらは全種族の中で最強と言われてるからな……しかも、相手が〔舞姫〕ときたら尚更だ」
 「……舞姫?」
 「ん? ああ、詳しくは知らないが、〔龍人族〕の中でも特別な存在らしい。心技体が最高の女龍人族でないとなれないそうだ」
 「へぇ……詳しいですね」
 「ははは、この地で生まれ育った人間ならみんな知ってるさ」


 おじさんの解説は分かりやすい。ホント助かる




 「お……始まるぞ」




───────────────


───────────


───────




 1対2


 フィンテッドとグルガンは、出来ればタイマンで戦いたかったが、ルール上仕方ない
 その代わり、やるからには全力を出すつもりだった


 「フィンテッド……」
 「わかってる」


 グルガンと一緒に戦うのは、これで10年目
 彼らは8歳の頃からの親友で、息を合わせるのはどんな状況でも難しくなかった


 「ふぅむ……お前達、なかなか強そうだな」
 「それは光栄……」
 「その余裕、後悔するなよ?」


 フィンテッドは〔アークセイバー〕を、グルガンは〔メタルアックス〕を1メートルほどの大きさにして構えている


 対してシェラヘルツは、2メートルほどの両刃槍を肩に担いだまま、構えらしい構えすら取っていない
 しかし、そのプレッシャーは凄まじく、2人は冷たい汗を背中が伝っていた


 「さ、かかってこい。先手は譲ってやる」
 「……フィンテッド、オレから行く。手を出すな」
 「……ハァ、そう言うと思ったよ」


 その言葉を合図にグルガンは飛び出す


 「おぉぉぉぉぉッ!!」


 踏みしめた地面に亀裂が入るほどの突撃
 グルガンは15メートルほど離れた距離で攻撃に移る


 「ガァァァァァァッ!!」
 「ほぅ?」


 グルガンの策、それは巨大化させた斧で意表を突くこと


 斧の大きさからしてまず近接攻撃を疑うが、狙いは違う
 実際は15メートルの距離で斧の柄を伸ばし掲げ、振り下ろしのタイミングで斧部分を巨大化
 重力の力で速度を上げて、一刀両断にする……完全に殺すつもりだった


 しかし、シェラヘルツは動かずに落ちてくる斧を眺めていた


 「な、何だと……ッ!?」
 「ふぅん、なかなかの力だな」


 シェラヘルツは、斧部分を指二本で挟み込むように受け止めていた


 「〔マテリアルウェポン〕か……いい武器だな、っと」
 「……チッ!!」


 斧を受け止めたシェラヘルツの背後、フィンテッドが〔アークセイバー〕を横薙ぎする……が、その一撃は右手にあった槍であっさりと受け止められる


 「はぁぁぁぁッ!!」
 「よっ、ほっ、っと」


 フィンテッドの駿刃は、まったく当たらない
 シェラヘルツの槍捌きが早すぎて、かすりもしない


 「……なるほど、スピード自慢か」
 「だったら何だッ!!」


 斧を押さえていた手を解放し、槍を構えてフィンテッドに向き直る


 「さあ、自慢のスピードを見せてみろ」
 「………」


 フィンテッドは答えずに、消えるように走り出す
 その速度は凄まじく、残像が写る
 【活性光筋アクティブ・ドライブ】をここまで自在に操れるのは、8大陸でもフィンテッドだけであるのは間違いない


 しかし、上には上が存在する


 「~ん、ふ~ん。ふふ~ん」
 「チィッ……バケモノめッ!!」


 シェラヘルツは、その場から一切動かずに剣を受け、流し、躱す
 そしてフィンテッドの動きが止まり、グルガンの側に来た


 「な~るほど、それがお前達の全てか……わかった、もういい」
 「な、んだと……っ!?」


 シェラヘルツは、槍を構えて走り出す


 「ば、バカな……」
 「フィンテッド、どうするッ!!」


 シェラヘルツの速度は、明らかにフィンテッドを上回っていた
 フィンテッドを遙かに超える残像が現れ、その全てが槍を構えて向かってきた


 「【刺突残光龍しとつざんこうりゅう】!!」


 フィンテッドとグルガンは、もはや的に過ぎない


 腕・足を槍が貫き、そのまま壁際まで吹き飛ばされ気絶
 時間にして約5分


 戦いは、シェラヘルツの勝利であっけなく終わった




 「まだだ。まだジュートには勝てない……!!」




 その呟きは、誰にも聞こえることはなかった


 

「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く