ホントウの勇者

さとう

ANOTHER BOSS BATTLE/【糸神ドゥレヌアラクネ】VS【雪神ベンティスカ】/雪・愛紡ぐ糸



 鳴戸括利 VS 尼宮真冬


 「ううう〜っ‼ 寒い〜っ‼」


 括利は吹雪の中を1人、歩いている
 数メートル先も見えない猛吹雪の中、尼宮の姿を完全に見失い、周囲を彷徨っていた


 「ま〜ふ〜ゆ〜ッ‼」


 大声を出すが反応はない
 あるのは、無機質な雪だるまの姿だけ


 「わわわっ⁉ また出たっ⁉」


 戦いが始まってすぐに吹雪が起こり、尼宮の姿が消えた
 そして何体も雪だるまが現れ、括利に襲い掛かってくるのだった


 「メンドいなぁっ‼ 『鋼糸爪アルテーロ』‼」


 右手の指先から糸が伸びて固まり、5メートルほどの鉤爪のように変形、そのまま腕を振るい雪だるまを両断した


 雪だるまの大きさは3メートル程度
 耐久性も弱く、糸の一撃で崩せるが暫くすると復活する


 「やっぱり神器······いや、本体を何とかしなきゃ」


 しかし本体は吹雪に隠れてまるで見えない
 雪だるまは無限に現れ、体力は削られていく
 しかもこの寒さ······長くは持たない


 「さ、寒い······早く終わらせなきゃ」


 括利は身体を抑えながら周囲を見渡す
 相変わらず何も見えないが、とにかく移動する


 「まふゆの神器を壊せば吹雪は止む。よ〜し、やってやる〜っ‼」




 気合を入れ直した瞬間、腹部に鈍い衝撃が走った




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 「ぎ、がぁっ、うげぇぇっ⁉」


 突然の衝撃に吹き飛ばされ地面を転がる
 口を押さえるが、吐瀉物を撒き散らした


 「な、なに、が?」


 涙目で腹部を押さえ、何があったのか確認する
 すると、近くに大きな塊が落ちていた


 「ゆ、雪玉···? や、ヤバっ⁉」


 巨大な、サッカーボールほどの大きさの雪玉
 衝撃を受けた方を確認すると、何人もの雪だるまが投球モーションに入っているのが見えた


 「『網細工ネッツレーテ』‼」


 両手で瞬時に糸を操り網状の壁を作る
 すると、砲弾のような雪玉が風を切って飛来した


 「く、うぅ······」


 鈍い音を立て、鉄球のような雪玉が網に命中する
 軋む網の音を聞いてると、何故か暗くなった


 「え、なぁっ⁉」


 頭上を見上げると、巨大な雪玉が落ちてくる瞬間だった


 「『ハンモック』‼」


 糸の精度を高めるために、背中の追加装甲を削って両手のみで神器を使っていたのがアダとなる
 砲弾の雪玉を右手のみの網に切り替え、左手の指を操りハンモックを作り、民家の至るところに糸を張って支えにする


 「お願い、耐えてっ‼」


 巨大な雪玉がハンモックの上に落下
 ギシシ、と音を立て、民家の壁や天井を軋ませながら動きを止める


 「せー、のっ‼」


 括利は網を解除してすぐに横に飛んで砲弾を躱し、ハンモックを解除して雪玉を落下させる


 「う、おなか痛い······早く、まふゆを探さないと」


 どこから何が飛んで来るかわからない




 括利は立ち上がり走り出す




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 「ふぅ、な〜んか腹減ったわ」


 町中に存在する巨大な雪玉、その大きさは2メートルほどの円形で、まるで雪だるまの胴体部分だった


 その中の1つに、尼宮は隠れていた


 中は空洞で、シートを敷いているので濡れる心配はなく、しかも外気を取り入れる穴も空いてるので窒息もしない


 「むふふ。括利は······いたいた、『雪合戦』と『ダルマ胴体』のトラップに掛かったのか」


 尼宮の神器・『スノゥワールド』は、雪を操る
 本来は、小規模の吹雪を起こしたり、『スノーメン』と呼ばれる雪だるまを作って攻撃する、どちらかといえばサポート向けの能力だ


 しかし、〔第二神化形態〕によりその規模は町一つを覆い尽くす
 尼宮の意思一つで雪のトラップが作られ、本人は隠れてるだけで戦闘が終わってしまう
 『雪合戦』や『ダルマ胴体』など、さらに大量の『スノーメン』が街を闊歩し蹂躙する


 「さぁて、括利······力尽きたら助けてやるよ。それまで精々足掻けばいーわ。ひひひ」




 雪の世界・『ラィネラィネ・スノゥワールド』は、括利を苦しめる




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 「お、終わったか」




 ダルマ胴体の中でジュースを飲んでいた尼宮は、括利が地面に倒れたのを感じた


 あの後、無数にあるトラップのいくつかが作動し、括利にダメージを与えたのを感じ、決着は近いと思っていたが、思ったより長引いた


 「『スノーメン』たち回収を頼むわ、こっちに持ってきて」


 数体の『スノーメン』が括利の身体を担ぎ、移動する
 当たり前の結果に、尼宮はなんの感情も抱いてなかった


 「後は残りの奴らを回収して、無月をヤレば終わりか······はぁ、かったるいわ」


 『ダルマ胴体』の中で愚痴を零す
 すると、『スノーメン』たちが戻ってきた


 「お、きたきた······よっと」


 『スノーメン』の肩に担がれて括利が現れる
 尼宮は、ここで初めて『ダルマ胴体』の外に出た


 「お疲れさん、まぁゆっくり休むといいわ」


 地面に落とされた括利を見下ろしながら、尼宮は残りのジュースを飲み干した


 「さーて、轄俥のヤツに回収を頼むか」


 尼宮は、仲間内でしかわからない魔術信号を出そうと魔力を手に込めた










 「『糸針鼠ヌルエリッソン』」










 突如、周囲の『スノーメン』が砕け散った


 
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 「······は?」




 尼宮が見たのは、地面から生える無数の「針」だった
 その1本1本が、束ねた「糸」とは気が付かなかった


 「ふぅ〜、寒かったぁ」


 括利は起きあがり、身体を震わせ雪を払う


 「な、何をしやがった」
 「あぁ、町を歩きながら「糸」を撒いておいたの。あとは遠隔起動で発動させただけ」
 「違う‼ お前は『スノーメン』やトラップにヤラれて伸びてたんじゃなかったのかよ⁉ おかしーわ‼」


 括利はにっこり笑う


 「違うよ〜、まふゆの居場所はわかんないし、寒いしトラップはあるからさ〜、この際トラップを利用しようと思ったの。まふゆはあたしを殺さないで連れ帰るって言ってたから、やられたフリすればまふゆのところに案内してもらえるかなって」


 尼宮はパクパクと口を開ける


 「お、お前ズルいわ⁉」
 「ふふ〜ん。策士と呼んでくれたまえ〜っ」


 括利は胸を張り、誇らしげに言う


 「そ・れ・に〜、まふゆの神器の弱点もわかっちゃたもんね〜」
 「な、なんだとっ⁉」


 片目を閉じて人差し指を立てる括利を、尼宮は全力で警戒する
 雪を操ろうと右手をかざす


 「お〜っと‼」
 「くっ⁉」


 右手に糸が巻き付いて動きを封じられる


 「ふっふ〜ん。もう逃さないよ〜ん」
 「ち、ちくしょ······」


 尼宮の動きは封じられ、出来るのは言葉を交わすことだけになった
 懇願するように、笑っていた括利を説得する


 「なぁ括利、アタシたちは仲間だろ⁉ 無月に何言われたのか知らねーけど、こんな戦いにお前が、お前たちが手を貸す意味がねーよ‼ お前たちは騙されてんだよっ‼」


 その言葉に、笑顔だった括利は悲しそうな顔をする


 「まふゆ、それは違うよ。あたしたちは正しいと思うから戦ってるの。ジュートが戦うのはみんなを助けるため······あたしたちも最初は敵対してたけど今は違う。ジュートのため、みんなのために······みんなともう一度笑い合うために戦うの」
 「く、括利······アンタ」
 「だから、まふゆ······必ず助けるから、もう一度みんなで笑おうね」


 括利は笑い、尼宮は理解する
 括利はきっと、本気で神と···仲間と戦うのだ、と
 大事なものを取り戻すために、無月と一緒に






 「【第二神化セカンドエボル糸神覚醒ドゥレヌアラクネ・アウェイクン】」






 決意と、友達を思う力が顕現する




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 両手を交差させ、指先から飛び出た糸が踊る
 糸は形を作り、塊となり、その姿が顕となる


 その形は、蜘蛛


 全長3メートルほどの、灰と紫の混合色の身体
 数は2体。1体は丸々とした身体につぶらな瞳、まるでぬいぐるみのような可愛らしいデザイン
 もう1体はギザギザの鋭角のボディ。まるで機械で作られた無骨なデザイン


 2体に挟まれるように立つ括利は、指先を踊らせて呟く


 「『怨恨の魔蜘蛛クロシュテルン・シュプレッセ愛紡ぐ糸アシュクトラウン』」




 決着の時だった




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 2体の大蜘蛛を見た尼宮は、自分の敗北を悟った


 括利は、丸いデザインの蜘蛛の頭を優しくなでている
 フワフワし柔らかそうな、可愛い蜘蛛だった


 「この吹雪は神器によるもの。規模は町全体······まずは吹雪から守らなきゃ」


 括利は両手を操り、大蜘蛛に命令を出す
 大蜘蛛は主の命令に忠実に反応、戦闘態勢に入った


 「『愛の囚人・愛の牢獄プリズナー・オブ・ラブ』」


 大蜘蛛の身体全体から糸が伸び、周囲一帯を覆い尽くす
 その糸はドームのように括られ、吹雪から身を守る


 「ば、バカな······これだけの規模で糸のドームを⁉」
 「ま、今のあたしじゃコレが限界だけどね〜」


 括利は尼宮に、確認を込めた死刑宣告をする


 「あたしが思うにさ〜、まふゆの神器は「雪」でしょ? 雪が降るのは······」


 括利が指差したのは······空
 そして、括利は空に糸を伸ばして飛び出した


 ドームから飛び出す
 追従するように大蜘蛛も飛び出す


 「······みっけ」


 吹雪が一番強い場所に、それはあった
 まるで人工衛星ような形の降雪機
 括利は糸を伸ばして衛星を掴み取る


 「『三角襟巻縛トライアングル・コレットワール』」


 大蜘蛛2体と括利からマフラーのような糸が伸び、衛星を掴みとって落下する
 巻き付かれた糸が衛星の吹雪を止め、一時的に吹雪が止んだ
 そのまま括利は糸をクッションに地面に着地する


 「やっぱね〜、コレがまふゆの神器でしょ?」
 「······そうだよ。ハァ······アタシの負けだわ」
 「うん······ゴメンね」
 「いーよ、さっさとやんな」
 「まふゆ······」


 括利は糸に力を込め、最後の技を使う
 そして、尼宮の声を聞いた


 「ま、助けるんならさっさとしな。待っててあげるから·····はん、アホくせーわ」


 括利は初めて顔を歪め、糸に命じた


 「『三連・蜘蛛餌食トリニティ・スピンテララーニャ』‼」




 括利と2体の大蜘蛛の糸が、衛星を引き裂いた




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 「お、吹雪が止んだ」


 神器を完全に破壊され、その衝撃で尼宮は気を失った
 尼宮を地面に横たえ、括利は空を見上げる


 「括利~ッ!!」


 そして、狙い澄ましたようなタイミングで仲間の3人が現れる
 仲間と合流し、気が抜けた括利はのんきに呟く


 「お、氷寒ちゃんたち。むふふ、吹雪はこのあたしが止めたからね」
 「そんなこと言ってる場合じゃないよ!!」
 「……アレを見なさい」


 水萌と氷寒が叫び、尋常じゃない事態を把握する


 「…………な、なにアレ?」
 「…………ロボット」


 頬をヒクつかせようやく出た言葉に虫菜が反応する




 町の外に、巨大な物体が浮かんでいた




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 「ねぇ~、何あれ?」
 「……知らないわ。でも、ろくなモノじゃないわね」
 「あんな巨大な神器……見たことない」
 「かっこいいかも」


 4人は空を見上げておのおのが言葉を並べる
 だからこそ、反応が遅れた


 「………しまったッ!?」
 「またぁッ!?」


 突如として現れた緑色の物体に、尼宮が攫われた
 緑色の物体は飛行しながら旋回し、どこかへ飛んで行った


 「くッ、油断したわ……でも、倒したのは5人。残りは6人ね」
 「うん。でも轄俥くんの神器は攻撃してこなかったね。もし攻撃できるなら味方の回収だけじゃなくて私たちも攻撃できたんじゃ……?」
 「出来なかった、とか」
 「ふ~ん。じゃあ残りは5人かな。あのロボットに1人としたら町にはあと4人……どうする?」
 「ゴメン……私はしばらく神器を使えない。魅檻ちゃんとの戦いで〔第二神化形態〕を使っちゃったから……」
 「あたしも使った」
 「……私もよ」
 「あたしも~……って、ダメじゃん」


 4人は顔を見合わせて少しだけげんなりした


 「……とにかく、ジュートの所へ行きましょう」




 4人は頷き、町の中心へ走り出した



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