ホントウの勇者

さとう

ANOTHER BOSS BATTLE/【水神マイアワティル】VS【獄神アレスタシオン】/牢・流水錫杖



 清水水萌 VS 雅門魅檻


 「魅檻ちゃん!! お願い、話を聞いて!!」
 「もちろん。【時の大陸】に帰ったらたっぷり聞いてあげるね」


 雅門魅檻はニヤァと笑う
 水萌は震えた……彼女はこんな笑いをする少女だったろうか


 「わかってるわかってる……無月があなたを誑かしたんでしょ? あの男が、私の水萌を……!!」
 「み、魅檻ちゃん……?」


 水萌は怖気を感じた
 魅檻の瞳が、性的な……粘つくような色をしていたからだ


 「ああ……私の水萌、ふふ、ふははは、あはははは……」
 「ヒッ……!!」


 水萌はいつの間にか、「おり」に背中を付けるほど後ずさっていた


 「魅檻ちゃん、あなた……一体、何が?」
 「んん~? 私は自分に正直になっただけよ? だ~いすきな水萌ちゃんを助けるって、愛するって……ねぇ?」
 「あ、あぁ……いや」


 魅檻は水萌を捕らえた檻に近づいて手を伸ばす


 「あの男に……汚された。だから……キレイにしなきゃ」


 その手には恐怖しか感じない
 水萌は首を左右に振って呟いた


 「た、たすけ……ジュートくん……っ」




 水萌はかつての親友に恐怖し、動けなかった




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 「んん? 水萌ちゃん、キレイなネックレスしてるねぇ?」
 「あ……」


 水萌は、銃斗に貰ったネックレスを握りしめる
 恋人としての、初めてのプレゼント
 銃斗と交わした言葉が水萌の中を駆け巡る




 へぇ、何をやりたいんだ?
 そ、その……お、お店


 「……あ」


 お、お菓子屋さん……うう、恥ずかしい
 俺は応援するぜ、なんなら資金提供は任せとけ
 ええ!? で、でもまだ具体的なことは……それに私1人じゃ
 俺もいるしみんなもいるだろ? お菓子が好きで得意そうな人は……雅門がもんさんとか
 あ、確かに……魅檻みおりちゃんはそういうの得意かも


 「……そうだ」


 水萌は思う
 魅檻と一緒に、この世界でお店を出す
 その想いを胸に、みんなを助けようと再び神器を握った


 「ねぇ、魅檻ちゃん」
 「なぁに? 水萌?」


 水萌は、いつの間にか笑顔になっていた


 「私ね、夢があるの……この世界で叶えたい夢」
 「へぇ?」
 「私と魅檻ちゃんのお店。お菓子を作ってみんなに食べて貰うお店」
 「………」
 「この世界が平和になって、クラスのみんなも戻ってきて……いつか、一緒にお店を出そう? きっと楽しいよ?」
 「………」


 水萌はいつの間にか、魅檻の側まで来ていた
 魅檻は近づく水萌を無表情で眺め、微笑んだ


 「う、ふふっふふ……ムリ、ムリだよ水萌ちゃん、この世界は……神サマの、うふふ、うふ」
 「魅檻ちゃん……!?」


 魅檻の様子が変わっていく
 ガクガクと痙攣し、口からアワを噴いている


 「うふふっふふふっふ………まずは、お城でじっくり話そう?」
 「………そっか」


 もう、迷いはなかった




 「【水柱みずばしら】!!」




 四方の檻をはじき飛ばすように水の柱が爆ぜる
 水萌は檻から脱出し、魅檻に宣言した


 「ゴメンね魅檻ちゃん……すぐ、助けるから!!」




 『水辺の雫錫杖デューリンク・ファンテーン』を構え、初めて本気の闘志を見せた


 
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 「【箱檻はこおり】!!」
 「【水柱みずばしら】!!」


 迫り来る「檻の壁」を、水柱がはじき飛ばす


 「【シャッターアウト】」
 「【水玉模様みずたまもよう】!!」


 落ちてくる「シャッター」を、水球がガードする


 「やっぱりそうだ……」


 水萌は気が付いた
 魅檻の技は全て、動きを封じることに特化している
 遠距離の大技ばかり、もしかしたら近距離への対応が弱いかもしれない


 「仕掛ける……!!」


 水萌は接近への攻撃に切り替える


 「【渓流けいりゅう】!!」


 水で作った道をいくつか魅檻に伸ばし、身体に纏わせた水の膜でその上を滑る
 そのまま接近し、魅檻を気絶させる作戦だ


 「いくよッ!! 【笹舟ささぶね】!!」


 水萌は勢いよく水の上を走り、魅檻に急接近した
 そのまま水を纏った『水辺の雫錫杖デューリンク・ファンテーン』で殴打し、気絶させる


 「ゴメンっ!!」


 そして、錫杖を振りかぶり、魅檻に近づいた


 「ざ〜んねん、【鉄格子テツゴウシ】」
 「な、がふッ⁉」


 突如、水萌の正面に鉄の棒が現れ、水萌の身体を穿つ
 まるで杭のように放たれた棒が、水面の腕と胸、腹部に突き刺さり、【渓流けいりゅう】から落下、地面を転がった


 「う、ぐぅぅ······ゲホッ‼」


 貫通こそしなかったが、腕と肋骨が悲鳴を上げる
 初めての痛みに涙が溢れた


 「ふふふ、ごめんねぇ······大丈夫?」
 「み、魅檻ちゃ······ぐぶッ⁉」


 蹲る水萌の下から、鉄の棒が飛び出した
 身体中を棒に穿たれ地面を転がる


 「あは、あはははっ、大丈夫?」


 魅檻は笑い、水萌に手を差し伸べる
 水萌は後ずさりながら拒絶した


 「ムダだよ水萌ちゃん、私の神器・『覇国羅檻ハコクラカン』の拘束からは逃げられない。こんな風にね」


 魅檻は歌うように呟き、手を伸ばした


 「【拘束椅子こうそくいす】」
 「え、きゃあっ⁉」


 異空間から得体の知れないパーツが呼び出され、水萌を巻き込んで形となる


 「な、にこれ···⁉」


 両手、両足、身体をガッチリとベルトで固定された、石造りの椅子。水萌は頭を振るぐらいしか出来なくなる
 魅檻が近づき水萌の頭をガッチリ掴み、正面から向かい合った


 「さぁ、終わりよ。これで水萌ちゃんは私のモノ······ふふふ、いっぱい楽しもうねぇ?」
 「······めん」
 「なぁに、聞こえないよ?」




 「ゴメンね、魅檻ちゃん」




 水萌は叫ぶ、最後の技を繰り出すために


 「【水牢すいろう】‼」
 「な、ガボブッ⁉」


 足元に転がった『水辺の雫錫杖デューリンク・ファンテーン』が輝き、魅檻の身体を水の玉が包み込む
 水の玉は空中に浮遊し、魅檻は溺れるようにもがき苦しんだ


 「ゴメンね、魅檻ちゃん······」
 「ゲボガッ⁉ グボボッ⁉」


 拘束椅子がバラバラと分解され、水萌は自由を取り戻す
 だが、突然水玉が爆発、魅檻も自由を取り戻した


 「なっ⁉」
 「あは、あははは、あははは······許さないよ水萌ちゃん······お仕置きが必要みたいだね」


 顔を上げた魅檻は、鬼のような形相で水萌を睨む




 「『第二神化セカンドエボル獄神覚醒アレスタシオン・アウェイクン』」


 「魅檻ちゃん‼ もうやめてぇっ‼」


 


 祈りは届かず、「力」が顕現する




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 それは、怒りの化身だった


 下半身は存在せず、タコのような触手が蠢き腕は8本のバケモノとしか見えない
 手の一本一本に鎖が巻かれ手から垂れる鎖の先には大きな四角い檻がぶら下がる
 顔は人間のような顔だが、醜く歪みんでいた


 「な、なに······コレ」


 あまりにも醜悪な姿に、水萌は戦慄を覚えた


 「さぁ行きましょう、『封檻獄審門フウカンゴクシンモン』よ。水萌ちゃんにお仕置きしなさい‼」


 怪物は、8本手に握る檻を勢いを付けて回し始める
 そして、そのまま水萌目掛けて投げつけてきた


 「きゃあっ⁉」


 巧みに投げつけられる檻を、間一髪で回避する


 「みんなとの特訓、ムダじゃなかったかな」


 銃斗がいない間、彼女たちは全員で特訓をしていた
 基礎鍛錬から始まり、神器の扱い、身体の使い方などを徹底的に叩き込む
 マフィが作ったアスレチックで全身の筋力を向上させ、個別での格闘訓練を毎日こなす
 水萌の身体能力は、かつての水萌とは比較にならないほど上がっていた


 「へぇ、なら·····これでどう?」


 魅檻が手をかざすと、バケモノの檻がバラける
 そして鉄格子が宙を舞い、水萌に降り注いだ


 「くっ、ううっ……【水玉模様】‼」


 水萌は鉄格子を回避しながら錫杖をかざし、避けられない鉄格子から身を守ろうとする
 空中にいくつもの水玉を出すが、鉄格子の一本一本が全ての水玉を破壊する


 「【鹵獲牢獄ろかくろうごく】」


 全ての鉄格子が集まり、水萌を囲む


 「しまった⁉」


 鉄格子は形を変え、大きさ、太さを変えて水萌を包み込む
 一切の自由が許されない魅檻の牢獄。鳥籠のような牢獄へ


 「捕獲完了。さぁ水萌ちゃん、帰ろう……私たちのお家へ」
 「魅檻ちゃん······もう、やめようよ」


 水萌の瞳から一筋の涙が溢れる
 変わってしまった親友を想い、それでも問いかける


 「私たちの帰る場所は【時の大陸】じゃないよ。私たちの居場所は、神様の所じゃない。私たち自身が作らなくちゃいけないんだよ」
 「水萌、ちゃん······」
 「だから魅檻ちゃん、一緒に作ろう。私たちの帰る場所、ホントウの居場所を」


 魅檻はガタガタ震え、水萌を睨みつける


 「私の居場所は······水萌ちゃんの隣だった」
 「······え?」
 「ヘンだよね。女なのに女の子を好きになるって······一緒に部活をやるのは楽しかった、至福の時間だった。でも水萌ちゃんは私のことより無月のことばかりだった」
 「そ、それは······」
 「だからアイツが憎かった。殺してやりたかった。この世界に来てそれが叶って嬉しかった。でも······水萌ちゃんは死んだって聞かされた」


 魅檻の話は止まらない


 「でも生きていた。アイツの側に寄り添って生きていた······どうして、どうしてアイツばかり‼ 私だってこんなにも好きなのに、どうしてアイツばかり‼」
 「·········」
 「もう、離さない」
 「······そっか」


 魅檻の話は強烈だったが、水萌はありのままを受け入れた
 恋愛感情はない。だけど魅檻は大切な友達だ
 だから、苦しんでるなら助けたい


 水萌は改めて決意する


 「魅檻ちゃん。私も魅檻ちゃんが大好きだよ」
 「み、水萌ちゃん······!?」




 「だから、ちゃんと答えるね。魅檻ちゃんを取り戻してから‼」




 水萌を囲っていた檻が、水に包まれ破裂した




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 水萌は地面に降り立ち、錫杖を魅檻に向けた


 「魅檻ちゃん、これで終わらせるよ‼」


 水萌の想いは、形となって現れる




 「【第二神化セカンドエボル水神覚醒マイアワティル・アウェイクン】」




 水のヴェールが水萌を包み、その姿を変える


 錫杖の形が変化し、蒼と青、水色の美しい錫杖へ変化する
 服装も変化し、身体を包むのは水のローブに軽鎧
 しかし、どこかの伝統的な部族のような装飾の施された姿は、中国の武将のようにも見えた




 「『湖畔の雫・流水錫杖メルクリオ・リヴァージュ・ファンテーン』」




 シャラン、と錫杖を鳴らす
 その瞳はもう迷ってはいなかった


 「ゴメンね魅檻ちゃん。終わりだよ」
 「なに、を」


 水萌は錫杖を鳴らし、天に掲げた




 「『百八星ひゃくはっせい水滸伝すいこでん』‼」




 その言葉と同時に、水の玉が現れる
 それは人の形となり水萌の側に顕現し、水の武器を構える歴戦の武将


 その姿は透き通った人間
 表情こそないが、1人1人が破格の強さを誇る、水萌の最強の技
 錫杖を魅檻に向け、水萌は叫んだ


 「お願いしますっ‼」


 剣を、槍を、斧を構えた水の武将が殺到する


 「こ、このぉっ‼」


 鉄格子が無数に飛び交い、水の武将を破壊する
 しかし、水の武将の動きは洗練されており、鉄格子を躱して『封檻獄審門フウカンゴクシンモン』に直接ダメージを与えられてしまった


 「クッソが、水萌ちゃ······⁉」


 ここで初めて魅檻は気が付く
 水萌が消えているという事態に 




 「ゴメンね、魅檻ちゃん」




 次の瞬間、魅檻の意識は消失した




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 「危なかった······【血操撃けっそうげき】」


 水萌は、水の武将を囮にして魅檻に近づき、魅檻の血流を操作して意識を飛ばしたのだ
 もちろん失敗すれば魅檻はただではすまない、ある意味究極の賭けでもあった


 「ふぅ······」


 神器を解除して、水萌は地面にへたり込む
 倒れた魅檻の神器も解除され、水萌は魅檻を見つめた


 「魅檻ちゃんが、私のこと······と、とにかく考えるのは後、早く吹雪を何とかしなきゃ」  


 水萌は立ち上がり、魅檻に向かって歩き出す……が


 「え、な、何なの⁉」


 突如として現れた緑の物体が、魅檻を攫って行ったのだ 


 「アレって、さっきの······っ‼」


 水萌は、攫われた魅檻を取り返すべく走り出した





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