ホントウの勇者

さとう

王都パープルテッラ⑥/晩餐会・灰銀の龍



 やって来ました晩餐会


 さて、顔を出したら部屋に戻るか……いや、外に出るか
 正直な所、誰とも会いたくない


 「さぁて、行きますか」 
 「気合いが入ってますな、ジュート殿」


 騎士団長は鎧を脱いで薄紫の騎士服に着替えていた
 どうやら護衛も飲食の許可が下りているので、ある程度自由にしていいようだ


 「俺は外を見張ってます。中はお任せします」
 「む? しかし……」
 「いや、中より外の警備が重要です。中には騎士団長を含めて実力者揃い、外からなら中の様子を伺うことが出来ます」


 なーんてそれっぽく言ってみる


 「なるほど……さすがジュート殿。慧眼、恐れ入ります」
 「いや、どうも」


 うーん、騎士団長ってアホなのかな
 適当に言ったのにあっさり信じてしまった


 「じゃ、そういうことで」
 「はい。お気を付けて」




 俺は部屋を出て外に出た




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 俺は外に出て気配を消す


 そしてアンカーショットを使い城の壁をよじ登り、パーティー会場が見える位置まで来た
 人が1人座れるくらいのスペースに腰掛け、小さな天窓から中の様子を伺う
 中は既にパーティーが始まり、それぞれが過ごしていた


 「おーおー……めかし込んじゃって」


 女性陣は全員ドレスに着替えていた


 ルビーラはもぐもぐ料理を頬張っているが、周囲をキョロキョロ何かを探している
 サフィーアも大胆に露出したドレスを着て、ワインを飲んでいる。彼女も視線を彷徨わせている
 クレアとミレアもドレス姿で何かを話しながら歩いている……まるで何かを探すように


 シトリンもドレス姿で、はしゃいでるブランに抱きつかれて楽しそうに笑ってる
 白いドレスを着たブランは、久し振りにシトリンに会えたのが嬉しいのか離れようとしない。時折2人で辺りを見てるのが気になった
 レオパールは大胆に露出したドレスを着て豪快に肉を食べていた。時折、ドレスをうっとうしそうに直しながら酒を煽ってる。その瞳はどこかを彷徨っていた
 エルルとクルルも白いドレスだ。身体のラインを強調させるようなドレスは、この2人にはよく似合ってる
 しっぽは相変わらずふわりと柔らかそうで、耳もピコピコ動いてる。こんなに明るくて美味しそうな料理が並んでるのに、全く手を付けてない……しかし、レオパールに何かを言われて仕方なく食べ始めた
 この2人は鋭いから気をつけないとな


 エメラルディアは緑色の薄手のドレス
 こうして見ると意外と巨乳なのがわかる……って、そんなのはどうでもいい
 料理を食べながら給仕の人に何か聞いてる
 どうせ、このモンスターの肉はどこで採れたのですか? とか聞いてるんだろう
 たまにキョロキョロしてるのが気になったが


 オニキスはドレスだったが、動きやすさ重視なのは相変わらずだった
 武器こそ携帯してないが、側にいるアミールとルーミアが隠し持っているのだろう
 その視線は定まっておらず、常に周囲に気を配ってる。これじゃ護衛がどっちなのかわからんな


 シャロアイトもドレスを着て料理をもぐもぐ食べていた
 よく見ると近くにはルビーラがいて、お互いに視線を合わせてる
 シャロアイトは音もなくルビーラに近づいて何かを言うと、一緒に食べ始めた
 歳も近いしな、友達にでもなったのかな


 「あれ………?」


 【灰の特級魔術師】がいない
 おかしいな、いつの間にかいなくなっていた










 「お前、ここで何してる?」










 そんな声が、聞こえてきた


 
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 俺は声のした方向を見ると、そこには1人の少女がいた


 その少女は俺のいる屋根のさらに上、見張り台の上の塔から鎖を伸ばしてぶら下がっていた
 風になびく灰色の長い髪は、月明かりを浴びて銀色に輝く
 ドレスではなく先ほどの陣羽織を纏い、鎖を伝って俺の前に降りてきた


 「お前、ここで何してる?」


 先ほどと同じ質問だ


 「見張りだよ。不審者がこないか見張ってるんだ」
 「ふぅん。まぁ来たところでアタシの敵じゃないけどな」
 「そうだな……ってかなんでここに? あんたは【特級魔術師】だろ?」
 「ああ、メンドくさいから逃げてきた。ここで月を見てる方が気持ちいいしな」
 「ふーん……」


 少女は空を見上げて月を眺め、俺に向き直る


 「お前、かなり強いな……名前は?」
 「ジュート。お前は?」






 「アタシはシェラヘルツ。誇り高き〔龍人族〕の舞姫だ」






 灰色の長い髪の少女は、自信満々に名乗った




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 「りゅ、龍人族……?」
 「ああそうだ、ほら」


 シェラヘルツは帽子を脱ぐ
 するとそこには細長いツノが2本、生えていた


 「ツノは〔龍人族〕の証。アタシはまだ18歳だから〔龍ノ理リュウノコトワリ〕を使えないけど、この歳で舞姫を務められるのは大変名誉なことなんだぞ。【特級魔術師】なんて言われてヒトに協力してるけど、アタシは早く〔龍ノ理リュウノコトワリ〕を手に入れて『真王龍・ガウェズリドラ』様の眷属になりたいんだ」


 ヤバい。何言ってるかさっぱりわからん
 なんだよ〔龍ノ理リュウノコトワリ〕って


 「ジュートは何者だ? すごく強いニオイがするぞ?」


 シェラヘルツは遠慮なく顔を近づけて俺のニオイを嗅ぐ
 おいおいやめろって、近いんだよ


 「俺はただの冒険者だよ、雇われて護衛に付いただけのな」
 「ふーん……じゃあ頼みがある」
 「何だよ……?」






 「アタシと戦え」






 「は……?」
 「アタシは強い男がスキだ。今までアタシを満足させる男はダレもいなかった。故郷の男もみんな同じ、言い寄ってくるヤツはみんな叩きのめした……だから、強い男がいたら勝負する」


 なんだこの脳筋は……アタマおかしいのか?


 「ま、まぁそのうちな」
 「わかった。雇われってことは旅に出るんだろ? 次はどこに行くんだ?」
 「ああ、【灰の大陸】だけど……」
 「おお、よかった。ならコイツを渡しておく」


 シェラヘルツは陣羽織の胸元から灰色の球体を渡してきた


 「それは〔龍水晶〕だ。それを〔龍の渓谷〕で使えばアタシたちの住む町に案内される。そこで戦おう」
 「あ、ああ。わかった」
 「よし、約束だぞジュート!!」
 「わ、わかったよシェラヘルツ」
 「いや、シェラでいい。みんなそう呼ぶ」


 シェラは再び鎖を伝って塔へ登っていった


 「何だったんだ………?」




 俺は手の中の水晶を見つめ、呟いた




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 シェラの気配がなくなり、俺は再び1人になった


 《……イイの?》
 「ああ。ここでいい」


 膝の上にはクロがいる
 俺はその背を撫でながら天窓を見た


 中ではパーティーが盛り上がりを見せ、華やかな音楽が流れダンスが始まった
 【特級魔術師】の少女達は、それぞれがダンスに誘われて中央へ
 あのオニキスでさえ貴族の男に誘われて踊り始める


 「ここが、俺とあいつらの境界線だ」


 天窓の下は完成された絵画のような美しさ
 そこに俺が入る余地はない。俺は所詮、別世界の異物だ


 エルルとクルルは、2人でダンスを踊ってる
 楽しそうに笑うクルル、仕方なく付き合うエルル


 ブランは王様と一緒に食事を楽しんでる
 そこにはシトリンも混ざり、食事は盛り上がる


 エメラルディアはサフィーアに何かを聞きながらメモを取っている
 サフィーアも面白そうにエメラルディアを眺め、質問に答えてる


 ルビーラとシャロアイトは仲良くなったのかデザートを一緒に食べている
 シャロアイトは、ルビーラの汚れた口元を拭ってる


 「何だ、楽しそうじゃん……」


 もう誰も俺を探していない
 少しだけ淋しかったが、これでいいと思う自分がいた


 「綺麗だな……」


 空には銀色に輝くこの世界の月
 下は完成された絵画のような光景
 その間で俺は1人、どちらも眺めていた




 眺めるだけ、それでも心は満たされる気がした





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