ホントウの勇者

さとう

競争都市フォーミュライド⑦/切り札・新しい夢



 お昼が終わり、いよいよ優勝決定戦が始まろうとしていた


 【バイオレットカッツェ】の前で、俺たちはエルゼさんを再び激励している


 「エルゼ、気負うことはない。お前なら出来る······頑張れ」
 「はい。おじさま······いえ、お義父さん」
 「······う、うむ」


 デボンさんは顔を背けて照れていた
 そんなデボンさんをマードックさんはからかう


 「なんだよオヤジ、ガラにもなく照れてんじゃねーよ」
 「う、うるさい‼」


 マードックさんはエルゼさんに向き直ると、真剣な表情で言う


 「エルゼ···このレースが終わったら、伝えたいことがある」
 「······はい」


 なんか死亡フラグみたいだな
 もちろんそんなことを言える空気ではないが


 「わたくしの見立てですと、このレースの運転手は全チームの最終操車、つまり最も運転技術を持つ者······技量は拮抗していますので、どうなるかわかりませんね」


 シャロアイトは腕組みをしながら分析する


 「【バイオレットカッツェ】とエルゼさんの腕前なら大丈夫、きっと優勝出来る‼」
 「そうね、ありがとうジュート」


 エルゼさんは俺の頭にポン、と手をのせた
 人になでられるのは初めてかもな


 4人のメンバーも全員エルゼさんを信じてる
 メットを被り運転席に乗ってコースへと出る【バイオレットカッツェ】とエルゼさんを、俺たちは見送った




 そして、最後で最高のレースが始まる




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 場所はピットから出たすぐの場所、いわばコース脇
 エルゼさんが戻って来たときに、すぐに駆けつけられるようにだ


 「いよいよだな······‼」
 「は、はい」


 マードックさんは怖いほど気合が入ってる
 デボンさんは目を閉じてるが組んだ腕が震えてる
 メンバー4人もハラハラしてる


 「ふむ。やはり3台並ぶと壮観ですね」


 コース場には3台3色の魔道車


 【ブラッドレーヴ】
 【ブルーストライカーSPEC·2】
 【バイオレットカッツェ】


 赤青紫の魔道車が並んでいる


 会場は静まり返り、スタートを待ち望んでいた
 そして、アナウンスが入りランプが点灯する


 「3」


 泣いても笑ってもこれが最後


 「2」


 このレースで優勝が決まる


 「1」


 全ての思いを託し、走り出す


 「0」




 最後のレースがスタートした




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 「行けーッ‼」
 「こ、これって···⁉」
 「むむ、並んでますね」


 マードックさんの大声が響く中、俺とシャロアイトは驚いていた


 最初は直線、そして円形のコースを一周してから内周コース、そして外周を回って再びここへ戻ってくる


 最初の直線は互角、見事に並んでいた
 そして、大会委員がコースのゴールに何人も並び始める


 「な、なんだよ急に?」
 「恐らく、スピードが拮抗してるのでゴールも同時の可能性が出てきたからでしょう。僅かな差でのゴールを見極めるために集まり、もし同時ゴールになった時は委員の目で見て判断、話し合いで順位を決めるためですね」


 なるほど、要は写真判定の代わりか


 「後は待つしかない······か」




 もどかしいなこりゃ······




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 そして、恐れていたことは現実となった


 「来たぜ······ッ⁉」
 「やはり、ですね」


 タイムは20分前後、間違いなく大会新記録
 コースに帰って来たのは······3台


 「くっそ、並んでやがる‼」
 「後はコースを一周···ここで引き離せば‼」


 だがそう上手くいかない
 あまりの接戦に会場は大興奮、空気が震えてる


 「エルゼッ······‼」


 マードックさんは泣きそうな顔で祈ってる
 俺もいつの間にか歯を食いしばり拳を握り締めていた




 
 「大丈夫です。最後の切り札があります」






 シャロアイトは淡々と語り
 デボンさんはニヤリと笑い
 俺とマードックさんはポカンとした


 そして、最後の直線に入る


 3台ともほぼ真横一列に並び駆け抜ける


 残り50メートル


 「ん⁉」


 エルゼさんの魔力も限界、ここが踏ん張りどころ


 そして、【バイオレットカッツェ】の後部パイプが火を吹いた  


 最後の最後、まるでイタチの最後っ屁
 その後部パイプから吹いた火が推進力となり、僅かに加速


 そして········










 『ゴォール‼ 輝ける優勝はぁ〜〜っ、【バイオレットカッツェ】‼ 優勝は【パープルイーグル社】だぁ〜〜ッ‼』












 最後の加速で1メートルほど前に出た【バイオレットカッツェ】が、ゴールした




 この瞬間、【パープルイーグル社】の初優勝が決まった




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 「さ、最後の切り札······?」


 俺たちは優勝した事実が信じられず、未だにポカンとしてた
 シャロアイトとデボンさんは固く握手し、その健闘を称え合っていたが、俺の呟きにシャロアイトは反応した


 「そうです。最後の切り札として加速装置を取り付けました。魔道車の後部パイプに〔魔導核〕を取り付けて、魔力を流すと火を吹き推進力に変える。もしもの時の保険を掛けておきました。もちろん運営委員会にも報告してあります」
 「そ、そうなんだ······」
 「ええ。加速装置の取り付けはルールにも許可されています。まぁ重量が増えますのであまりの推奨されてませんが」


 そしてようやく全員が覚醒した


 「ゆ、優勝······は、はははっ‼ うおぉ〜エルゼ〜っ‼」
 「よし、私たちも行くぞ‼」


 飛び出したマードックさんを追いかけてデボンさん、俺、シャロアイト、メンバー4人がコースに飛び出す


 「マ〜〜〜ドック〜〜ッ‼」
 「エ〜〜ルゼ〜〜ッ‼」


 2人は抱き合ってクルクル回っていた
 祝福の大歓声が響き、紙吹雪も舞っている


 「やった、やったぜ〜〜っ‼」
 「ジュ、ジュートくん⁉」


 俺はシャロアイトを抱き上げてクルクル振り回す


 「······くぅぅ···ッ‼」


 デボンさんは【バイオレットカッツェ】に手を置いて男泣き
 メンバー4人も泣きながらエルゼさんと抱擁してた


 ライバル2社の運転手も降りてきてエルゼさんと握手を交わす
 アナウンスが俺たちを祝福し、会場はさらに大興奮
 応援してくれた観客に手を振り答え、改めて思った




 【パープルイーグル社】は優勝した、と




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 そして全てのレースが終わり、表彰式


 大勢の観客に見守られる中、インタビューを受けていた


 エルゼさんとメンバー4人は無難にこなし、デボンさんも無事に終わらせる
 シャロアイトはいない。本人が【特級魔術師】なので要らぬ疑いをかけられたら困ると言い出して引っ込んだ
 全員が難色を示したが、すでにシャロアイトはいなかった······行動が早い。まぁ後でたっぷりみんなで可愛がろう
 俺のインタビューは······緊張しすぎて覚えてない




 そして、マードックさんのインタビューで事件は起きた




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 『えー、ここまでやれたのは師匠であるオヤジ、そして···運転手として、恋人としてオレを支えてくれたエルゼのおかげだ』


 マードックさんは嬉しそうに笑顔で語る


 『オレは···優勝したらエルゼに伝えたいことがあったんだ。ずっとそのつもりだった······軽い気持ちで伝えたこともあった、でもここではっきりと言わせて貰う‼』


 なんとなく予想はついた
 マードックさんは息を大きく吸って叫んだ




 『愛してるエルゼ‼ オレと結婚してくれッ‼』




 その愛の言葉はエルゼさんの、俺たちの心に響く
 エルゼさんはインタビュアーからマイクを受け取り叫ぶ




 『幸せにしないと許さないからねッ‼』




 2人は抱き合ってキス
 会場は祝福の大歓声に包まれた


 デボンさんも再び男泣き
 俺とシャロアイト、メンバー4人は拍手


 祝福の大歓声、拍手は2人を優しく包みこむ




 こうして【パープル・オブ・フォーミュラ】は幕を閉じたのだった




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 その後、優勝賞金5億ゴルドが支払われた


 2億はマードックさんとデボンさん
 2億はエルゼさんとメンバー4人
 1億は俺とシャロアイトと分けられた


 しかし、俺とシャロアイトはこれを拒否。当然揉めたが、マードックさんとエルゼさんの結婚祝いということで受け取ってもらった


 町中がマードックさんとエルゼさんの結婚を祝福し、俺の渡した1億ゴルドで結婚式を挙げた


 場所はなんと町の中央、【パープルイーグル社】の前
 当然ながら町中の人が集まり、町の機能が一時的にマヒするぐらいの大騒ぎ
 【レッドバイソン社】と【ブルーコープ社】も仕事にならず、仕方なく宴会に参加······大騒ぎした


 シャロアイト曰く、この結婚式は歴史に残るとのこと
 優勝した会社の息子が、町と企業を上げて結婚式を行うなど今まで前例がないからだとさ


 その後、ボビーノさんから連絡があり、【アメジスト号】の整備が終わったらしい。これで出発出来る




 そして、俺とシャロアイトの出発の日がやって来た




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 「それじゃ、お世話になりました」
 「ああ、寂しくなるな」


 デボンさんとマードックさん、エルゼさんとメンバー4人に見送られ、【パープルイーグル社】の前に集まっていた


 俺の後ろには【アメジスト号】が
 整備が終わりついさっき戻って来たのだ


 「また来いよ、必ずだからな‼」
 「ええ、大歓迎よ」


 エルゼさんとマードックさんと固く握手
 メンバー4人とも固く握手した


 「ジュートくん、シャロアイトくん。おかげで私の魔道車人生最高の時を過ごすことが出来た、これでもう悔いはないよ。ありがとう」
 「おいオヤジ、隠居は早いって言ってるだろ⁉」


 マードックさんはデボンさんの隠居に不満がある
 そういえばそんな話もしたっけな


 「いや、私のやりたいことは全てやった。後は若いお前に···お前とエルゼに任せるよ」
 「オヤジ······」


 なんかしんみりしちゃったな
 まぁ、あとは親子の問題だしな


 「それじゃさよなら、また遊びに来ます‼」
 「お元気で」


 俺とシャロアイトは【アメジスト号】に乗り込んだ


 「ジュートくん、飛んで行きましょう。きっと面白いことになりますよ」
 「え、なんで?」
 「さぁ、お願いします」


 よくわからないが別にいいか
 俺はレバーを操作して飛行形態へ変形させる


 「な、なんだ⁉」


 メインローターが展開、回転
 ウイングが開いて翼となる
 そしてゆっくりと上昇を始めた


 「と、飛んでる⁉」
 「おぉ、すっげぇ‼」


 デボンさんが驚愕し、マードックさんは笑ってる


 「では、お元気で。行きましょうジュートくん」
 「お、おう」


 下を覗くとデボンさんが何か言ってる


 「おーい、なんで飛べるんだ⁉ 調べさせてくれーっ‼」
 「お、おいオヤジ···?」
 「くっ、もう聞こえないか。フッフッフ···面白い、空飛ぶ魔道車か······やってやろうじゃないか‼」
 「おいオヤジ、隠居するんじゃ···?」
 「うるさい‼ さぁ仕事だ‼」


 デボンさんはイキイキしながら会社の中へ
 マードックさんは呆れながらも嬉しそうに着いていく
 エルゼさんは楽しそうに後を追う


 シャロアイトは、その様子を見て微笑んだ


 「さぁ、次は〔ガーボ地下遺跡〕です」
 「そうだな、飛ばして行くか」




 何故か嬉しい気持ちになり、俺たちは飛び出した





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