ホントウの勇者

さとう

競争都市フォーミュライド⑥/予選本戦・ピットイン



 「ついに来たぜ······」
 「ええ」


 俺たちは全員、予選会場の車庫に車を移動させ、レーススーツに着替えたエルゼさんを激励していた


 「エルゼ、頼んだぜ」
 「任せてマードック。勝つわ」


 なんか2人の世界なんだけど俺たちのこと見えてるよね?


 「エルゼ、気を付けて運転してくれ」
 「はい。おじさま」
 「エルゼさん、頑張って下さい‼」
 「ありがと、ジュート」
 「あなたの腕前なら問題ないでしょう。お気をつけて」
 「わかってるわ、シャロアイトちゃん」


 チーム4人からも激励を受け、ついに予選会が始まる
 俺たちは関係者専用席へ移動し、見下ろすようにコースを見ていた


 「お、来たぜ‼」


 エルゼさんの運転する【バイオレットカッツェ】が出て来る
 そしてコース横一列に並び、紹介のアナウンスが流れた


 『【パープルイーグル社】所属、魔道車名【バイオレットカッツェ】と、運転手はチーム【ヘイズリンクス】所属エルゼ。昨年度は6位に輝いた優勝候補の1つです‼』


 なかなかカッコイイ紹介だな
 そして他の企業の紹介も終わり、運命の時が来る


 横一列に並んだ魔道車が小さく振動する


 スタート合図のランプが光り、カウントダウンが始まる


 3···2···1···




 「ブッ飛ばせエルゼ‼」






 【バイオレットカッツェ】は走り出した






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 スタートから数分もするとすぐに見えなくなる
 そのまま外周を走りここに戻るまで役30分


 【ブラッドレーヴ】も【ブルーストライカーSPEC·2】も25分ほどで帰って来た
 エルゼさんの腕前ならそのくらいのタイムで帰って来れる、間違いない


 「エルゼ······信じてる‼」
 「頼むぞ、エルゼ」


 マードックさんとデボンさんはもう祈るくらいしか出来ない。あとは全てエルゼさんの腕前にかかってる


 チームメイトも同じ、ここで負ければ明日の本戦に出ることは出来ない。リーダーのエルゼさんを信じるしかない


 「もどかしいですね。走る映像を見ることが出来れば······よし、わたくしは必ず「てれび」を作ります」


 シャロアイトは決意をしていた
 まぁここで映像が見れれば違うだろうな、期待しよう




 そして、25分が経過した




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 「来たっ‼」


 マードックさんの大声で全員が注目した


 「あれは【バイオレットカッツェ】···エルゼさんだ‼」


 まさに独走
 2位以下を圧倒的に引き離しての登場に会場が湧く


 そして······ゴール


 「うおぉぉぉぉーッ‼」


 マードックさんは大喜び
 デボンさんは小さくガッツポーズ
 メンバー4人は抱き合って喜び
 俺とシャロアイトも抱き合って喜んだ


 「エルゼ〜ッ‼」


 マードックさんは飛び出してしまった  
 俺たちも慌てて後を追う


 車庫に着くとマードックさんとエルゼさんは激しくキスしてた


 「お前ら······ハァ」
 「げっ、オヤジ」
 「お、おじさま」


 恥ずかしいならこんなとこですんなよ


 「タイムは25分30秒、文句なしの予選通過よ‼」


 ピースサインで報告




 本戦出場は間違いないな、よかった




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 本日全てのレースが終わり、上位50台が発表された


 なんと【パープルイーグル社】は2位
 1位は【レッドバイソン社】で3位は【ブルーコープ社】だった


 魔道車は専用の車庫に格納され厳重な鍵をかけられ、2日目の朝までは開かない仕組み
 これで安心、ゆっくり眠れそうだ


 「さてエルゼ、今日はゆっくりと休んでくれ。明日の本番も頼むぞ」
 「任せて下さいおじさま。必ず優勝します‼」


 エルゼさんは力強く頷く




 明日の本番···目指すは優勝だな




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 翌日、【バイオレットカッツェ】の前で俺たちは緊張していた


 「いい、練習通りよ。ペース配分を間違えないで魔力の枯渇は絶対に避けること。それと直線での加速は迷わずに、そしてクラッシュには絶対に巻き込まれないように」


 エルゼさんが最後のミーティングを開き、もう何度も繰り返したであろう注意事項を述べる
 その表情は真剣そのもの、普段のバカップルぶりはナリを潜めていた


 「いつも通り、そうすれば……優勝に手が届く。行くわよ!!」


 その声に空気がビリビリと振動する
 メンバー4人の表情も気合いが乗っている


 「じゃあ行くわ。マードック、おじさま、ジュート、シャロアイトちゃん……応援よろしくね!!」


 エルゼさんはウインクをして出て行った


 「……いい女だろ?」
 「……ですね」




 やべぇ、マジで惚れそうだったわ




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 本戦のルールも少し変わった


 本戦参加50台を10台ずつ5回に分けてレースをし、上位2台が準決勝進出、そして10台でタイムトライアルをしその中の上位3台で決勝戦……優勝が決まる


 まずは10台のレースで2位以上にならないといけない


 「始まるぜ」
 「はい」


 マードックさんたちと一緒にピットインへ


 「心配すんな、エルゼたちが負けるワケねぇよ」
 「ですね……優勝まで一気にいけますよ!!」
 「はい。わたくしもそう思います」


 ここでの役目は主に走行後のチェック


 内周と外周の混合コースの走行時間は平均40分
 5人も走るとなると200分……3時間以上魔導車を酷使するのだ


 そこで活躍するのがこのピットイン
 各チームは一度だけ魔導車のメンテナンスを許されている


 レース用魔導車は数時間も走らせると〔魔導核〕が熱を持ち魔力の供給がダウンしてしまう、さらに魔導パイプの熱による破損、タイヤの劣化など問題が多い


 このピットインで〔魔導核〕の冷却とパイプのチェック、交換。さらにタイヤの交換などをして再びレースに臨む、他にもいろいろチェックして最高の状態で選手を乗せるのだ


 「打ち合わせ通り、3番手が走行を終えたらメンテに入る。ジュートくん、気負わなくていい……練習通り頼むよ」
 「はい!!」


 デボンさんがにっこり笑い励ましてくれる


 俺とマードッグさんの役目はタイヤの交換
 新品ではなく数キロ走行させて地面に慣らしたタイヤを既に準備してある


 「わたくしはパイプのチェックを担当します、交換が必要と判断したらお願いします」
 「わかった。私は〔魔導核〕の冷却だな……よし」




 全員が自分のすべきことを確認し、いよいよレースが始まった


 
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 レースは順調に進み、【バイオレットカッツェ】は一番に戻ってきた


 「よしジュート、行くぜ!!」
 「はいっ!!」


 俺とマードッグさんは両手にタイヤを抱えてピットに入ってきた魔導車を迎えた


 「お疲れ、あとは任せて!!」


 4番手のメンバーが3人目を抱きしめた
 俺たちはその様子を眺める暇もなくメンテを急ぐ


 「ジュート押さえてろッ!!」
 「はいっ!!」


 タイヤを外し新しいタイヤを持ち上げ、ジョイントに装着
 そしてボルトをはめて完全に固定、その作業を4回繰り返す


 「………よし、チェック完了です。要交換は1本、このパイプの交換をお願いします」
 「わかった、マードッグ!! 終わり次第パイプ交換だ、ジュートはこっちの冷却を頼む!!」


 タイヤ交換が終わり俺とマードッグさんはそれぞれの指示をこなす


 「よし、そのまま氷で押さえて冷却だ。溶けたら迅速に交換しろ」
 「はいっ!!」


 そのままデボンさんはマードッグさんの手伝いをする
 俺は氷袋を〔魔導核〕に当てて冷却をする
 〔魔導核〕は次第に冷えていき、ついには常温まで下がった


 「よし、冷却はもういい。下げすぎるのも良くないからな」
 「はい。冷却終わります」


 最終チェックを終わらせボンネットを閉める、そして4人目が乗り込んだ


 「行ってこい!!」


 マードッグさんのかけ声でスタートした
 この間8分ほど……練習通りに出来たかな


 「ふぅ……Sレートと戦うより疲れた」
 「でも、こんな経験なかなか出来ません。勉強になります」
 「たしかにな」


 ピットインでそんな会話をしながら一息つく……疲れた




 あとは……エルゼさんたちに任せよう




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 「ま、当然ね!!」


 途中からわかっていたがやっぱり1位
 そりゃそうだ、ピットインの時点で既に1位。しかも【バイオレットカッツェ】が出て行った後に数台がピットに入っていくのが見えた


 「これで次は準決勝か……」
 「ええ、去年と同じね」


 現在時刻はお昼の1時
 準決勝、決勝は明日……この後は催し物などで盛り上がる


 大会期間は3日……収入を少しでも増やすためだろうとシャロアイトは分析した


 「さて、【バイオレットカッツェ】を整備して明日に備えよう」
 「はい。がんばりましょう」




 準決勝、決勝……もうすぐだな


 
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 翌日、準決勝の日……相変わらず快晴だった


 「さぁ、ここが正念場……行くわよ!!」


 今日も昨日と同じ5人のレース、そして上位3台の決勝
 全員が緊張していた……なぜなら


 「【レッドバイソン社】と【ブルーコープ社】の魔導車と一緒か、吞まれるなよ」
 「ええ、問題ありません」


 エルゼさんはデボンさんに力強く答える
 その笑みは不適な笑みそのものだった


 「さぁ、目指すは決勝よ!!」




 5人の心は1つになった




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 そしてレースが始まり、再びピットイン


 「くっそ、まさかレッドとブルーに先を越されるなんて!!」
 「いいから手を動かせ!!」


 そう、現在順位は3位
 しかも数分前に赤と青がピットに入っていった……先を越された


 そして魔導車が走り去る音が2つ聞こえ、その数分後に【バイオレットカッツェ】は走り出した


 「ちくしょう……!!」


 マードッグさんは悔しそうに歯を食いしばる




 結果は、3位だった





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