ホントウの勇者

さとう

競争都市フォーミュライド③/背中・ヘイズリンクス



 「失礼しますっ‼」


 シャッターをこじ開けた俺は声の主を探す
 そして、2人の男性が蹲ってるのを見つけた


 「ぐ、うぅぅぅぅ······」
 「お、オヤジ、しっかりしろ‼」


 片方は20代前半くらいの男性で、もう1人は50代くらいの初老の男性だった
 2人とも俺とシャロアイトのことに気付いてない


 「ジュートくん、これを」
 「こ、これは······酷い」


 俺が見たのは血塗れのプレス機
 その側に切断された腕が落ちていた


 どう見ても事故。プレス機に腕が挟まって切断されたのだろう
 シャロアイトは、腕を拾って俺に渡す


 「ではジュートくん、お願いします」
 「お、おう」


 12歳の少女なのに血溜まりを見ても淡々としてる
 とにかく腕受け取って男性のもとへ


 「だ、誰だアンタ···いや頼む、〔治癒薬ポーション〕を持ってないか、金はいくらでも出す、頼む‼」  


 男性は必死に懇願する
 当然、もっといい方法で俺は治す


 「大丈夫、任せて下さい」
 「え···?」


 俺は【無垢なる光セイファート・ライフ】を使い、腕をくっつけた
 しかし馴染むまでに少し掛かるな······こればかりは仕方ない


 「ま、まさか上級魔術師···え、S級冒険者⁉」
 「おお、う、腕が······」


 2人とも驚いてる
 ま、これでいいな。完治まで少し時間がかかるけど


 「あ、ありがとう‼ オヤジの腕を治してくれて······いくらだ?」
 「いや、お金はいいです。たまたま通りかかっただけですし」 
 「し、しかし······」
 「いえホントに······行こうぜシャロアイト」


 俺はシャロアイトに声を掛ける


 「ふむ。これが大会用の魔道車ですか······なるほど、ウイングを付けることによって風の力を推進力に、素晴らしい」


 魔道車に夢中だった
 しかも魔道車の周りをグルグル回って観察してる


 「す、すみません。おいシャロアイト、行くぞ‼」
 「いや、構いません。こんな物でよかったらどうぞ見ていって下さい」


 初老男性が笑顔で言う
 するとシャロアイトが説明を求めた


 「あの、〔魔導核〕を見せて頂いてもよろしいですか?」
 「もちろん。お嬢さん、なかなか見どころがあるね」
 「恐縮です」


 そして男性がボンネットを開けようとして右手で掴む


 「むっ?」


 力が入らずそのままボンネットを落としてしまった


 「あの、治りましたけど力が戻るのに数日かかります。それまで安静にしてて下さい」
 「す、数日だって⁉ おいオヤジ、魔道車はどうすんだよ。まだ組み上げてない部分が残ってる、オレ1人じゃムリだぜ⁉」
 「む、うぅぅ」


 シャロアイトは自分でボンネットを開けて見ていた
 そして、振り向いて宣言する


 「それならわたくしたちが手伝います。こう見えて魔道車には詳しいのです」
 「お、おいシャロアイト⁉」


 俺が言うならともかくシャロアイトが言うとは
 なんか先を越された気分だ


 「い、いやしかし······ん?」
 「もちろんあなた方の指示に従います。意見は言わせて頂きますが、全ての決定権はあなた方に」
 「オヤジ、S級冒険者だ。手伝って貰おうぜ」


 オヤジさんはシャロアイトを見て······顔をしかめた
 何かに気が付いたのか目を見開いて叫んだ


 「······ま、まさかシャロアイト様⁉」
 「へ?······あ、あぁぁぁっ⁉ 【特級魔術師】の⁉」


 あ、バレた
 オヤジさんと男性はめっちゃ驚いてる


 「お願いします、手伝わせて下さい。あなた方の技術に興味があります」


 ペコリ、と頭を下げる
 シャロアイトの態度に2人は顔を見合わせた


 「……わかった、その代わり私の指示に従って貰う。君が【特級魔術師】でも特別扱いしない」
 「それで構いません。お願いします」 
 「お、お願いします」




 流れで俺も挨拶······これって俺も参加のパターンだよね?


 
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 「自己紹介がまだだったね。私はデボン、こちらが息子のマードッグだ」
 「俺はジュート、この小さいのがシャロアイトです」
 「む、小さいは余計です」


 こうしてお互いの挨拶をすませ、さっそく作業……さっそく!?


 「え、これから作業すんの?」
 「当然です。大会まであと7日、時間がありません。さっそく図面を見せてくれますか?」
 「うむ。事務所に案内しよう、マードッグ、ジュート君と一緒に魔力パイプの調整をたのむ」
 「わかった。よしジュート、こっちだ」
 「えっと……はい。お願いします」


 こうして二手に分かれて作業開始


 「ジュート、そのパイプに魔力をゆっくり流してくれ」
 「は、はい……こうですか?」
 「おう、そのまま……」


 マードッグさんに言われたとおりにゆっくりと魔力を流す


 「よし、それでいい……おーし終わり」
 「ふぅ……」
 「このパイプは魔導車の各部に魔力を流す、人間で言う血管だ。不純物や劣化があればそれだけで走行に支障をきたす……1本1本、丁寧にチェックしなくちゃいけない」
 「なるほど……」


 その後もずっとパイプのチェック
 何本か新品に交換してさらにチェックを重ね、ようやく全てのチェックが完了した


 「よーしお疲れ、これで終わりだ。オヤジ達は………まだか」


 マードッグさんは工場に設置してあった小さい魔導冷蔵庫から、水のボトルを取り出して俺に投げてきた


 「おっと、ありがとうございます」
 「おう。あとはオヤジの指示を待とう」


 俺とマードッグさんは水を飲みながら一息入れる
 俺はいろいろ聞いてみたくなった


 「あの、大会の運転手は誰なんですか?」
 「運転手? ああ、エルゼ……その、オレの恋人だ」
 「おお、女性ドライバーですか。しかも恋人」
 「まぁな、正確にはエルゼのチームだ。5人編成のチーム【ヘイズリンクス】って所だ」
 「おぉ、今年は優勝出来そうですかね」
 「わからん……この魔導車はオヤジの最後の作品だからな。オヤジは引退してこの工場をオレに譲るんだとさ、ったく……隠居には早いっての」
 「マードッグさんは、デボンさんのこと……」
 「ああ、尊敬してる。この町で一番の技師はオヤジだ、そのオヤジがオレを認めようとオレがオレを認めてねぇ……オレは一度でもオヤジの上を行く設計をしたことがねぇんだ」
 「マードッグさんも魔導車の設計を?」
 「ああ、全部オヤジから習った。ガキの頃からずっとオヤジの背中を見て育ったんだ……あの背中を超えるにはオレには経験が足りねぇ、まだまだ習ってねぇことがたくさんある」


 熱い、燃えるような瞳でマードッグさんは語る
 魔導車に人生を賭けたデボンさんを心から尊敬してるみたいだ


 「ん?……来たか」
 「え?」


 すると突然シャッターが開き、集団が乗り込んできた




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 最初に現れたのはブロンドの美女だった


 「マードッグッ!! 来たわよッ!!」
 「エルゼッ!!」


 エルゼと呼ばれた女性はマードッグさんに飛びつき熱い抱擁……そして熱いキス。マジかよ
 そのままネコのようにマードッグさんに身体を擦りつけようやく離れた


 「魔導車の準備はどう?」
 「ああ、もうすぐ完成だ。今オヤジと【特級魔術師】様が最後の調整をしてる」
 「………【特級魔術師】様?」
 「まぁ後で説明する」


 すると後ろから数人の声が聞こえてきた


 「待ってよエルゼ!!」
 「恋人に会いたいからって……」
 「急ぎすぎだってば!!」
 「ふぅ……疲れた」


 なんと全員女性……しかもおそろいのコスチューム
 全員が薄い紫のぴっちりスーツ、どうやらこれがレース服らしい


 「ようお前ら、調子はどうだ?」
 「まぁね、マードッグ……アンタ待ちだよ」


 どうやら魔導車待ち、と言う意味らしい
 ここでようやく全員の視線が俺に集まった


 「あぁ紹介する。彼はジュート、S級冒険者でオヤジの命の恩人、そして魔導車の整備の手伝いまでしてくれるサイコーなヤツさ」


 マードッグさんの紹介はなんか持ち上げすぎだ
 すると女性陣が集まってきた


 「初めましてジュート。私はエルゼ、このチーム【ヘイズリンクス】のリーダーでマードッグの婚約者よ」


 笑うとスッゴい美人だな……とにかく握手
 するとエルゼさんが他のメンバーを紹介してくれる


 「彼女たちはチームメンバーの4人ね、この5人で【パープル・オブ・フォーミュラ】を走るわ。応援よろしくね!!」
 「は、はい。頑張って下さい」


 挨拶が一通り終わり談笑してると、事務所のドアが開いた


 「お、エルゼたちも来てたのか」
 「おじさま、こんにちは!!」


 デボンさんの後ろにはシャロアイトがいる
 手には図面を持っていた


 「いやぁ、なかなか面白いことが出来そうだ。これなら〔魔導核〕の負担や運転手の負担も軽減される。それに魔力以外の機関か……実に面白い」
 「はい。わたくしも勉強になりました、このプランなら最短で3日……試験で1日。十分大会に間に合います。やる価値はあるかと」
 「ああ、やってみよう。ふふふ……久し振りに燃えてきた!! これなら優勝も夢じゃないぞ!!」


 デボンさんのテンションに全員がポカンとしてた


 「お、おいオヤジ……どうしたんだよ?」
 「おいマードッグぼやぼやすんな!! 3分で図面を頭に叩き込め、すぐに改修を始めるぞ!!」
 「お……おう!! へへへッ、オヤジのマジ顔なんて久し振りだぜ!!」
 「じゃあ私たちは訓練に戻るわ、3日後にまた来るわね」


 俺はシャロアイトに聞いてみた


 「な、なぁ……何があったんだよ?」
 「いえ、楽しくお喋りしただけです。さぁジュートくん、わたくしたちも手伝いましょう」




 何故か嬉しそうなシャロアイトと共に、親子の作業に加わった





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