ホントウの勇者

さとう

競争都市フォーミュライド①/墜落・禁止



 俺とシャロアイトは、空の旅を満喫していた


 「ジュートくん、窓を開けますね」
 「おう。あんまり開けるなよ」


 シャロアイトは空がお気に入り
 自然と顔がほころぶのは子供らしい


 「早くわたくしの研究所でこの〔ロボット〕を直してみたいです。きっとわたくしの技術は数段上に上がるでしょう」


 シャロアイトはウキウキしてる


 「······そうだな」


 俺はそのロボットが神器によって作られた物と理解してる
 そして、ロボットの製作者が恨みを残して死んだことも


 「あの、ジュートくん」
 「ん? どうした」
 「わたくしも運転してみたいです」
 「え、でも大丈夫なのか?」
 「当然です。この魔道車を設計したのは誰ですか?」


 それを言われると返す言葉がない


 「わかった。じゃあ一度地上に降りるよ」




 俺は魔力を少しずつ減らし、地上へと降りていった




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 地上に降りて場所交換
 俺は助手席、シャロアイトは運転席に移動した


 そういえばシャロアイトが運転してるの見たことない
 いつも俺が乗り込む前に助手席にいるからなぁ······何か不安になってきた


 「それでは行きます」
 「おう。気を付けてな」


 顔が綻んでるシャロアイトは、【アメジスト号】に魔力を流した


 「お、いいぞ······」
 「·········」


 メインローターが回転を始め、ゆっくりと上昇を始める
 こりゃ心配なさそうだ、と安心した時だった




 もの凄い勢いでローターが回転、竹とんぼのように【アメジスト号】は急上昇……さすがにこれには俺も焦った




 「ちょぉぉぉぉッ⁉ シャロアイトぉぉぉぉっ⁉」
 「おおおー、すごいです」


 明らかに魔力の流しすぎ
 このままだと〔魔導核〕が爆発する‼


 「ととと止めろ‼ 魔力を止めろーっ‼」
 「はい」


 シャロアイトは魔力をカット
 ローターは止まり、今度はゆっくりと墜落を始めた


 「ば、バカーッ‼ 墜落するぞ、少しだけ魔力を流せ‼」
 「はい。こうですか?」


 すると再びローターが高速回転
 魔道車の態勢が不安定だったので螺旋を描きながら墜落する


 「ジ、ジェットを起動‼」
 「はい」


 シャロアイトはジェットエンジンを起動
 ちょうど上向きだったのでそのままロケットのように射出された


 「だぁぁぁっ⁉ 交換、交換だ‼」


 俺はシャロアイトからハンドルを奪い魔力を制御
 何とか態勢を立て直した


 「むう。ジュートくん、何を」
 「何をじゃねぇよ⁉ 殺すつもりか‼」


 シャロアイトのヤツ······細かい魔力操作が苦手なのか
 攻撃魔術はあんなに絶妙な加減だったのに……なんでだろ


 「シャロアイト、お前は運転禁止」
 「えぇー」




 俺は脱力してシャロアイトの頭をなでた




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 〔競争都市フォーミュライド〕まであと1日の距離で、今日は休むことにした


 俺は【アウトブラッキー】を呼び出して中に入り、食事の準備をする。ちなみに今日はカレー
 シャロアイトは、クロを抱っこしながらソファでゴロゴロしてた


 「シャロアイト、ご飯出来たぞ」
 「おお、待ってました」


 テーブルの上にカレーとサラダを置く


 「それじゃ、いただきます」
 「いただきます」


 シャロアイトはカレーが好きで、よくおかわりをする
 今回も2回ほどおかわりをして、食事はつつがなく終了した


 食後のお茶を飲みながらのんびりする……するとシャロアイトが質問して来た


 「そういえば、ジュートくんの目的地はどこですか?」


 俺の目的地か、そういえば言ってなかったな


 「俺は王都の先の〔バルバリー古代遺跡〕に用がある」
 「なぜそこへ? あそこはすでに何もないですし、最深部に1枚の壁画しかない寂れた遺跡ですよ?」
 「ま、いろいろな」
 「むむ、怪しいです」


 シャロアイトの追求を躱しながらいろいろ話す




 こうして夜は更けていった




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 「お、あれが〔競争都市フォーミュライド〕か」


 空から見る町は大きく、入り組んだ道がいくつも見える
 そして道に沿うように建物が並び、まるでレースのコース場に町が出来たように感じた


 「そうです。街道のように見えるのが魔導レースのコースになります。町の外周コースと町中を走る内周コースの2つがあり、【パープル・オブ・フォーミュラ】のコースは2つを組み合わせた混合コースです」
 「く、詳しいな」
 「はい。王都代表の魔道車をセッティングしたことがありますから。今回は休暇のため辞退しましたが」


 今更だけど……コイツ本当に12歳か?


 「なんですか、その視線は?」
 「い、いや別に······」


 俺は魔道車を着陸させようと魔力を絞り始めると


 「ジュートくん、着陸は町中でお願いします。場所は······中央のあそこです。見えますか?」
 「ちょ、ちょっと待てよ。町中に着陸させたら大騒ぎになるぞ⁉」
 「構いません。どうせ量産されれば誰でも乗れるようになりますから」
 「·········あぁもうわかったよ」




 俺はシャロアイトの示した場所へ進路を向けた




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 「………やっぱり」
 「そのままお願いします」


 案の定、町の中央は混乱を起こしてる
 何百人という住人が空を見上げ、この町の憲兵や冒険者、傭兵などが武器を構えて厳しい視線を送っている
 俺が目指したのは町の中央の大きな建物
 シャロアイト曰く、王都所有の魔導車整備工場というが……目立ちすぎ


 「この町は魔導車の整備・販売の工房が100以上存在します。魔導車の1台1台を職人が手作りし販売、お客さんは冒険者や傭兵などの荒っぽい人でも乗れるように頑丈なモノや、家族で乗るために広いモノ、商人が運搬用に使うのにパワーのあるモノと用途は様々です」
 「そ、それで?」
 「王都所有の工場では主に王族や貴族のための魔導車の整備、販売をしています。ここに来たのはこの【アメジスト号】の整備のためです」


 と、そんなことを空中で……今まさに着陸寸前で説明してくれる


 「なぁ、兵士が来たらちゃんと説明してくれよ」
 「はい。わたくしの顔を見れば納得するはずです」
 「そりゃ頼もしいことで………」




 そして【アメジスト号】は着地した




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 「シャ、シャロアイト様!?」
 「一体これは……!?」
 「これは……魔導車?」
 「しかし空を飛ぶなんて……」


 武器を構えていた兵士達は、シャロアイトを見るなりすぐに構えを解く
 冒険者や傭兵も、シャロアイトの顔を知ってるのか困惑していた


 「お疲れさまです。この魔導車について説明しますので、工場長のボビーノを呼んで下さい」
 「か、かしこまりましたッ!!」


 そう言うと兵士の1人が工場の中にダッシュ
 残りの兵士は住人や冒険者たちを散らし、【アメジスト号】を工場内へ運んでいった


 シャロアイトはいくつか兵士と話しこみ俺の方に戻ってくる


 「ボビーノはどうやら手が離せないようで、わたくしたちが向かいましょう」
 「わかった。じゃあ行くか」




 俺とシャロアイトは、工場内へ歩き出した




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 俺とシャロアイトが向かった先は様々な設備・部品・工具が並ぶ、魔導車制作の最前線……つまり作業場だった
 作業員は男女混合。重たそうな部品を運ぶ人もいれば、魔力を練りパイプに流してる人など様々な作業をしている


 「おい!! 〔魔導核〕の調整が終わったらこっちによこせ!! ぼやぼやすんな!!」


 その中でも特に大声を出している男性がいた
 歳は40代くらいだろうか、筋骨隆々のヒゲのおっさんでランニングシャツに作業ズボン、短く切りそろえられた髪の毛と頭にはゴーグルを付けていた


 「ボビーノ、久し振りです」


 シャロアイトがほぼ無表情で挨拶する……が、少しだけ顔が綻んでいたのは見間違いではないだろう


 「あぁ?……おぉ!? シャロアイトじゃねーか!! 久し振りだなぁ!!」


 ボビーノと呼ばれた男性は大きな手でシャロアイトの頭をぐりぐりなでる
 手が大きいのでシャロアイトぐらいの頭ならそのまま持ち上げられそうだった


 「痛いですボビーノ。離して下さい」
 「おぉ、悪い悪い……それで、何を持ってきたんだ?」


 ボビーノさんはニヤリと笑う……まだ何も言ってないけど


 「まだ何も言ってませんが」
 「バーカ、お前が手ぶらでここに来るワケないだろ?」
 「確かにそうですね。前来たときは……何でしたっけ?」
 「以前は大型魔導車の改良案、その前は2人用小型魔導車の新作設計図、その前は……」


 ボビーノさんは楽しそうに語る
 その様子はまるで子供のようで、なんだか微笑ましかった


 「とまぁそういうことだ。ん?……そのボウズは?」


 そこで初めて俺に視線が注がれる
 シャロアイトはのんびりと俺を紹介した


 「はい、彼はジュートくん。わたくしを王都まで送り届けてくれる冒険者です」
 「おおそうか、ジュートクンか」


 ニュアンスがおかしい、くんは名前じゃないぞ


 「ジュートです、ジュート。くんはいりません」
 「おおそうか。オレはここの責任者のボビーノだ、よろしくな」


 ニカッと微笑むボビーノさんと握手
 そして、やっとここで本題に入った


 「それで、今日は何を持ってきたんだ?」


 ボビーノさんがそう言うと同時に、作業室のシャッターが開かれる
 そして、1台の魔導車がゆっくりと入ってきた


 「今日持ってきたのは、飛行魔導車です」


 入ってきた魔導車……【アメジスト号】を指さしてシャロアイトは語る




 ボビーノさんは、呆然としていた





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