ホントウの勇者

さとう

トーチ村④/耕運機・楽々な畑仕事



 ヒロエの事故から4日、ついにシャロアイトの図面が完成した


 「それではジュートくんには部品を作っていただきます。ちゃんとした設備がない以上、出来ることは限られますので」
 「わかった。何を作ればいいんだ?」
 「はい。これを見てください」


 シャロアイトが書いた何枚もの図面の1つに、俺が作るべき部品がリストアップされてる


 「じゃあ早速やるか······よし」


 俺は部品を頭に浮かべながら魔術を発動させる


 「【灰】の初級魔術・【鉄鍛造アイアン・クレアール】」


 すると灰色の紋章が輝き、鱗粉のような光が俺の手に集まる
 そして、1つめの部品であるボルトのようなものが完成した


 「さすがですジュートくん。初級魔術でまさかこれ程の精度の部品を作り上げるとは」
 「ま、最初に習う【灰】魔術だからな。かなり特訓したし自信はあるぜ」


 クロと一緒にな
 俺は机の上で香箱座りしてるクロをなでる


 「さ、どんどん行こうぜ」
 「はい。次は大きいですが大丈夫ですか?」
 「おう、任せとけ」


 こうして俺は部品をいくつか作った




 ま、少しだけ失敗しちゃったけどな




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 部品を全て完成させた後、ギルド職員が部品を持っていく
 各ギルドにも専用の魔道車が置いてある為、専用の簡易点検場が全てのギルドに備わってるそうだ


 「さてシャロアイト、指示をくれ」
 「はい。それではまず壊れたボディを外して下さい」


 ギルド職員は10人。なんとギルドマスター4人も入っていた
 そこまでシャロアイトに気に入られたいのか······仕方ない、後でシャロアイトに気にするように言っておくか


 ボディを外すと、内部が剥き出しになる
 以外な事に作りはシンプルだ。もっとメカメカしいと思ってたけど
 車体のエンジン部分に大きな箱が付いていて、そこからいくつものチューブが伸びている


 「あの〔魔導核〕が魔道車のエンジン部です。運転手から流れた魔力が〔魔導核〕に集まり、そこから各部分へ流されます」
 「へぇ、初めて知ったよ」
 「はい。〔魔導核〕には様々な命令を記憶させることが出来るので、兵器なんかにも利用されますね。例えば爆弾とか」
 「そりゃ怖いな……」
 「はい。しかし〔魔導核〕には1つの命令しか書き込めないので、魔道車などは心配ありません。この魔道車で言うと中心の魔導核が魔道車の各部位に魔力を送り、魔道車の各部分にある魔導核がそれぞれの働きをする、という構造です」
 「なるほど······」


 よくわか······らない
 ま、まぁとにかく修理をして改造だな


 「それでは、次の工程です」




 そうして作業は進んでいく




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 「そこですジュートくん、はい」
 「よ、し······これでいいか?」


 作業は順調に進み、いよいよ最後の工程
 俺が作った最後の部品、土を耕す螺旋状のホイールをセットする
 横の長さが3メートルほどの螺旋ホイールで、これを回転させて土を耕す。これなら肉体的疲労は少ないし、ヒロエさんの魔力総量なら大した負担にもならないはずだ


 ホイールは地面に埋まるように上下に動くようにアームも付いている。これも運転席に新しく増設したレバーで動かせる、さらにホイールの回転数は魔力量で変化する


 さらにタイヤを大きくし車体も高くなったので、専用のタラップもつける。見た目は乗用車にホイールを付けた耕運機だ


 「これで完成です。お疲れ様でした」


 そして完成······最初の原型がないけど仕方ないよね
 女将さんとヒロエの父親も、きっと喜んでくれる


 「それではジュートくん、試運転を」
 「え、俺が?」


 俺はなんとなく各ギルドマスターを見る
 が、全員が横に並んで見守っていた。どうやらシャロアイトの決定に異を唱えるつもりはないみたいだ


 「わかった、離れてろよ」


 俺は運転席に乗り込みエンジンを始動させる


 「とりあえずここから出して外でやるか」


 整備場のシャッターを開けてもらい外へ
 ギルドの真裏なので人に見られる心配はない


 「それではジュートくん、お願いします」
 「了解‼」


 まずは浮かせた状態でホイールを回転させる
 ハンドルを握る場所の位置を変え、そこから魔力を流すとホイールが回転する仕組みだ


 「·········お、おおお」


 まずはホンの少しだけ魔力を流すと、静かに回転を始めた
 魔力による回転なので音も静か、しかも回転数もある


 俺は少しずつ魔力を増やしていく


 「お、おおぉぉっ⁉」
 「ジュートくん、やり過ぎです」


 物凄い声速回転
 ギュィィィィンン‼ と、空気を切り裂くような音が響く
 こんなのに触れたらミンチになるな


 「じゃあ次は······試験稼働だな」


 俺はギルド裏にある手入れのされていない花壇を掘る
 ここも予め準備をしていた場所だ


 「よし、行くぞ」


 俺はゆっくりとホイールを降ろし、低速回転で耕し始めた


 「お、おおぉぉ······‼」


 すると雑草だらけだった花壇が見事に掘り返され、柔らかく空気の含んだフワフワの土が出来た


 「やった、大成功だ‼」
 「ええ、農業の革命ね‼」
 「これなら簡単に作業が出来るぞ‼」


 作業員とギルドマスターたちも大喜びだ 
 俺は耕運機から降りてシャロアイトの所に向かう


 「大成功だな‼」
 「はい、これは間違いなく農業の革命です。これを商品化すれば各大陸の農家に飛ぶように売れるでしょう。【紫の大陸】の新しい産業となりそうですね」
 「いや、うん······そうだな」




 なんかもう、どうでもいいや




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 試験稼働が終わって2日後
 ヒロエも元気になりいよいよ耕運機のお披露目となった


 「ね、ねぇジュート。何なの一体? 私これから畑仕事が」


 案の定ヒロエは畑に出るようだ
 今はちょうど農作期らしく、畑を耕しに出てる男の人がたくさんいる
 俺たちはそこに混じって畑に出ようとするヒロエを捕まえ、耕運機が格納してあるギルドの車庫に連れて来た


 「まぁちょっとだけ、魔道車の修理が終わったから返そうと思ってな。それにこれから畑仕事なら尚更返さないと」
 「そうですね。きっと気に入りますよ」
 「えぇ?」


 不思議そうに首をひねるヒロエをシャッターの前に連れて行き、俺は勢い良くシャッターを開けた


 「さぁ、これが新しい魔道車……いや、耕運機だ」
 「こ、耕運機······?」


 そこには改良を施した新しい耕運機が鎮座していた
 試験稼働を終え、最終調整を終えたこの世界初の耕運機がそこにはあった


 「あなたのお父さんの魔道車は生まれ変わりました。家族を思い、畑を思うあなたの気持ちがこの姿になったのです」


 シャロアイトらしからぬセリフだったが、ヒロエさんは耕運機に見入って聞いてなかった


 「ささ、乗った乗った。このまま畑に向かいましょう」
 「えぇ⁉ わ、私が運転するの⁉」
 「そりゃそうだろ。ヒロエの耕運機なんだから」


 そして運転席にヒロエを乗せて俺は助手席、シャロアイトは後部座席へ


 「運転は簡単だ。ハンドルを握って魔力を流すと始動、あとはそこのレバーで前進と後退の切り替えだ。あ、そこは握らないで」
 「なるほど、ここは?」
 「そのレバーは後で、最初から魔力を流しすぎるなよ。徐々に徐々にだ」
 「わかった、やってみる」


 ヒロエはハンドルを握り魔力を流す




 そして、耕運機はゆっくりと走り出した




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 村の中を耕運機が走るのはかなり目立った
 しかも乗ってるのは俺とヒロエ、そして【特級魔術師】のシャロアイト······何が始まるのかと、何人も畑に着いてきた


 そして畑に到着


 「さて、早速やるか。ギャラリーは気にすんな」
 「う、うん」


 いつの間にか畑は完全包囲されてる
 村の住人や冒険者、傭兵などが集まっていた
 耕運機を畑の四つ角に停めて早速指示を出す


 ヒロエの畑は雑草だらけで、これを手作業でとなるとかなり掛かるのは素人の俺でもわかった


 「じゃあやるか。まずはハンドルの色違いの部分を握って、そしてそこのレバーをゆっくり倒す」
 「わかった······え⁉ 何か上下に動くよ‼」


 ホイール部分が上下に動く
 そこそこ、遊んじゃダメよ


 「それでいい。ホイールをゆっくりと地面に降ろして······そう、地面に触れさせて」
 「ね、ねぇ···これってまさか」
 「ふふふ、その通り。さぁヒロエ···魔力を流しながらゆっくり前進だ‼」


 ここまで来るとヒロエも気づいたようだ
 そして、耕運機は唸りを上げて土を掘り返す
 土は混ざり、雑草は刈り取られ細かく刻まれて土に還る
 クワで耕すより何倍も速く、しかも完璧な状態の畑が出来上がる


 「すげぇ······」
 「全然速いぞ‼」
 「いいなぁ、ウチにも欲しい」


 農家や住人は驚き、羨望の眼差しを送ってる
 確かに、こんなの見せられたら手作業がアホらしくなるよな


 そして、20分足らずで畑を耕し終わった


 「す、凄過ぎる······こんなに力強いのに消費魔力は殆どない。これなら1日中乗ってられるかも」
 「む、ムリはすんなよ?」




 こうして、ヒロエの畑仕事問題は解決したのだった




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 ヒロエばかり、と村人から不満が出ると思ったがそんなことはなく、むしろ今まで苦労した分、楽が出来て良かったなと言われていた


 しかしヒロエはそれが許せず、村の畑全てを耕すことを条件に、自分の畑を手伝って貰うことにしたらしい


 俺とシャロアイトは、宿屋でのんびりしてた
 シャロアイトはクロと遊び、俺は読書してた


 「これならもう安心だな。ヒロエも無茶しないだろ」
 「ですね。耕運機の設計図は一足先に王都に送りました。わたくしたちが王都に向かう頃には量産の態勢も整うでしょう。協力してくれたこの村とギルドマスターには報酬と何台かの耕運機が送られるはずです」


 なかなか粋なことするじゃん
 俺はシャロアイトの頭をなでてやった


 「よし、それじゃあ明日にでも出発するか」
 「そうですね。次は〔ライガの森〕を抜けて〔競争都市フォーミュライド〕です。ちょうどレースエントリーの時期ですからジュートくんも参加したらどうですか?」
 「そうだな、正直出場したいけどな······」


 俺の魔力は無限···最初から最後までフルスロットルで走れる
 さすがに手加減して出るのはイヤだし、意味がない


 「いや、止めとく。参加はしないけど観戦はしよう」
 「そうですか。わかりました」


 シャロアイトは頷くと再びクロを弄りだした


 そして夕食


 この日の夕食はかなり豪華だった
 どうやら今までのお礼と言うことで女将さんが本気を出したらしい




 もちろん遠慮なく食べ尽し、倒れるようにその日は眠った




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 「ジュート、シャロアイトちゃん。本当にありがとう」
 「おう。もうムチャすんなよ?」
 「耕運機が故障したらギルドへ、そこの職員に色々教えておいたので問題ないと思います」


 俺とシャロアイト、ヒロエはがっちり握手


 「ヒロエの兄貴···ラヒーロを見つけたらブチのめしておくから」
 「う、うん。ほどほどにね」


 そして俺たちは別れ、【アメジスト号】に乗り込み出発した


 「王都に着いたらやることが出来たな」
 「はい。ラヒーロと言う名前に心当たりはあります。確か、騎士団の第三小隊の副隊長がそんな名前だったような」


 マジかよ、結構偉いんじゃね?
 まぁそんなのは関係ない。ブチのめすのに変わりない


 「とにかく次は〔ライガの森〕だな」
 「はい。行きましょう」




 俺は【アメジスト号】を飛行形態にして、大空へ飛び出した





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