ホントウの勇者

さとう

トーチ村③/兄妹・改造



 宿屋の前には近所の人達が集まっていた
 俺とシャロアイトはその間をくぐり抜けて中に入る


 「すみません通してくれッ!!」
 「どいてください、ジャマです」


 宿屋に着いた俺とシャロアイトは、受付に向かった
 しかし女将さんの姿はなく、近くにいた男性が話してくれた


 「女将さんならヒロエちゃんとそこの客室にいるよ。いま薬と【白】の魔術師を手配してる……かわいそうに」


 俺は男性が指さした1階の部屋に飛び込んだ


 「女将さんッ!!」
 「え……お、お客さん」


 女将さんの顔色は真っ青で、目も真っ赤になっていた
 ずっと泣いていたんだろう……可哀想に


 「ヒロエは……!!」


 いた……ベッドに横になってる
 酷いケガだった。足が殆ど千切れて皮1枚で繋がっている
 血が出ないように断面を紐で縛り止血しているが、ヒロエさんの顔色は悪い。呼吸も少ないしこのままだと失血死する


 「よかった……これなら」
 「ジュートくん、治せますか?」
 「ああ、任せとけ」


 俺とシャロアイトのやりとりに、女将さんは反応した


 「お、お客さんは魔術師さまですか!? お、お願いします!! 娘を……」
 「大丈夫です。任せて下さい」


 シャロアイトに女将さんを任せ、俺は魔力を集中させる


 「【白】の上級魔術【無垢なる光セイファート・ライフ】」


 すると、白い光に傷口が包まれ切断部分がくっつく
 そして足は完治……キレイな白い足に戻った


 「よし、あとは安静にして下さい。ケガは治しましたけど失った血液は戻りません。なので起きたら栄養のある食べ物をあげて下さい」
 「あ、あああ……ありがとうございます!!」


 女将さんは俺の手を掴んで泣いている
 そして、恐る恐る聞いてきた


 「あ、あの……お金は必ず払います。しばらく待っていただけませんか?」


 もちろんそんなのはいらない
 そんなことより聞きたいことがいろいろあった


 「関わる、と決めましたもんね」
 「そうだな」
 「……え?」


 ポカンとする女将さんに俺は質問した




 「お金はいいんで、その代わりいろいろ話を聞かせて下さい」




───────────────


───────────


───────




 ヒロエさんのいる部屋のソファに座り、俺とシャロアイトは女将さんから話を聞いていた


 「町でいろいろ噂を聞いたんですけど、ヒロエさんは魔術師になりたかったんですか?」
 「はい。ヒロエには才能があったみたいで……旅の魔術師さまが簡単な初級魔術を教えるとすぐに覚えてしまい、私も旦那も凄く驚きました。そして王都の魔術師さまの所で勉強させ、立派な魔術師になると言ってくれて……嬉しかったです」
 「なるほど、確かに潜在魔力はなかなか高そうでした」
 「見てわかるのかよ?」
 「はい。なんとなく」
 「………もういいわ」


 シャロアイトの頭をなでて黙らせた


 「しかし、ヒロエの才能に兄であるラヒーロが嫉妬して……自分も王都で騎士になるといって旦那とケンカになってしまい、それが何年も続きました。そして旦那が後を継がせようとした畑仕事を放棄して……18歳の時に旦那の魔導車を壊して家を出て行ってしまったんです」
 「………なるほど」
 「ふむ。ろくでもないですね」


 俺もシャロアイトもいい気分ではない
 むしろイライラしてる


 「程なくして旦那は他界……15歳のヒロエは残された私を1人にはできず、旦那の残した畑とこの宿屋を守るために、元々そんなに強くない身体にムチ打って働きました。それから3年……ヒロエは18歳の今になっても、あの壊れた魔導車を悲しそうに見つめて……私は何も出来ない、ダメな母親です」


 女将さんは俯いてしまった……ふむ


 「うーん、身体が治ってもすぐに働きに出たら意味ないな」
 「ですね。畑仕事はそんなに辛いことなのですか?」


 さすがのシャロアイトも農業の知識は薄いようだ
 女将さんが説明してくれた


 「ええ。男性なら数日で畑を耕せるのですが、ヒロエは力もないし、身体も強くないので耕すだけで種まきのシーズンを終えてしまうこともあります。耕したそばから雑草が生えたり、草をむしってる間に別の所で雑草が生えたりとイタチごっこで」
 「なるほど。あの畑を諦めて宿屋だけと言うのは?」
 「何度も何度も言いました……でも、あそこは旦那の残した大事な畑だからと全く耳を貸しませんでした」


 シャロアイトの質問に、女将さんは少し嬉しそうに答えた
 旦那の残した畑を娘が守る……嬉しくないハズがない


 「ふむ、問題は畑仕事ですね。成人男性でも朝から夕方までクワで畑を耕し、数日かけて準備するのを、身体の弱い女の子が1人でやるのは至難の業でしょう。それに今の話を聞く限り畑仕事をやめさせるのは難しいでしょうね」
 「うーん……なら畑仕事の負担を減らせればいいんだよな?」
 「そうですね。畑の規模を小さくして耕すとか」
 「…………待てよ?」


 俺はなんとなく妙案が浮かびそうだった


 「あの、女将さん…この辺の農家はみんな男性ですか?」
 「え? ええ。耕すのは男性の仕事で女性は収穫なんかの手伝いが殆どです。この村の金物屋はこの時期になるとクワの手入れの依頼が殺到します」


 なるほどな、こいつはもしかしたら
 俺は女将さんに確認した


 「女将さん、あの壊れた魔導車ってどうするんですか?」
 「ああ、修理しても私とヒロエは運転できないし、かといって捨てることもできないし……あのまま置いておくことになるでしょうね」


 よし、これはもしかしたらいけるかも


 「ジュートくん。何を考えてるんですか?」
 「ああ、もしかしたらなんとかなるかも……シャロアイト、お前の力が必要だ」
 「わたくしのですか?」
 「ああ。シャロアイト、あの魔導車を修理できるか?」
 「ふむ。中を見ないと分かりませんが、恐らくはボディの破損だけでしょう。恐らくすぐに直せると思います」
 「よし、じゃあ……改造はできるか?」
 「改造?……どんな風にですか?」


 俺はシャロアイトにプランを説明した


 「………なるほど。さすがジュートくん、実に面白いです」
 「足りない部品は俺が【灰】魔術で造る。図面を興せるか?」
 「………少し時間を下さい。その間にギルドに依頼して簡単な設備と人員、道具をお願いして下さい」
 「わかった、任せとけ」


 俺とシャロアイトのやりとりに、女将さんはポカンとしてた


 「あ、あの……何を?」
 「女将さん、あの魔導車の修理をさせて下さい。それが今回の治療費ってことで」
 「え、ええ?……普通はこちらがお支払いする立場じゃ……?」


 た、確かに。まぁ細かいことは気にしない


 「と、とにかくお願いします」
 「わ、わかりました。好きにして下さい……一体何を?」


 俺はニヤリと笑って、女将さんの質問に答えた




 「耕運機を造るんですよ、魔導車を改造してね」




───────────────


───────────


───────




 そこから先はスムーズに話が進んだ


 俺がギルドにお願いをしに行くと、各ギルドマスターは簡単に協力を申し出て、人員と設備と資材を提供してくれた
 そのことを伝えに宿屋に戻ると、既にシャロアイトが図面の作成に取りかかっていた
 この宿には大きな机がなく、仕方ないので床に紙を広げて書いている


 「おいシャロアイト、設備と人員の確保はできたぜ」
 「…………違う」


 するとシャロアイトは書いてた紙を破り捨てる
 そういえばコイツはこんな感じだったな




 ここは任せてヒロエさんの様子でも見に行くか




───────────────


───────────


─────── 




 「失礼しまーす……」


 部屋に入ると、ヒロエさんは身体を起こしてお粥を食べていた


 「あ、魔術師さま……あなたが私を救ってくれたんですね。ありがとうございます」
 「いえいえ、あと魔術師さまはちょっと……ジュートと呼んで下さい」
 「そうですか? なら私もヒロエでお願いします」


 元気そうでよかった……顔色はまだ良くないけど


 「ところで、母から聞いたんだけど……魔導車を修理するって」
 「ああ、ヒロエのお父さんの魔導車は生まれ変わる。期待しててくれ」


 耕運機ができあがればきっと畑仕事も楽になる


 ずっと引っかかってた……魔導車があるなら耕運機も作れるかもって
 これまでけっこうな村を回ってきたけど耕運機は一台も見たことがない
 クワで耕したり、家畜に熊手みたいなのを引かせてるのは見た……どれも人力だった


 なら、耕運機を作れば力仕事はだいぶ楽になるはずだ


 ヒロエの家の畑を見たがかなり広い……田んぼ一反くらいの広さはあった
 これを女の子1人がクワで……ムリだろ
 するとヒロエが質問してきた


 「生まれ変わる……?」
 「ああ。きっと畑仕事の助けになるはずだ、期待しててくれ」
 「えっと…?」
 「ま、今はゆっくり休んでくれ」


 そう言って俺は部屋を出ようとして、つい聞いてしまった




 「………兄を、憎んでいるか?」




 その質問に、ヒロエは驚いていた
 しかし、答えてくれた


 「……許せない気持ちはあるよ。父が死んだときも現れなかったし、泣いてる母に見向きもしなかった。私は夢を絶たれて……」
 「……今の暮らしはイヤか?」
 「分からない。でも畑仕事は嫌いじゃない。身体は辛いけど、父が残した大事な畑だから……」
 「そっか……」


 父親が死んでも無視、母親が泣いても無視、妹の夢をぶちこわした
 ホントにクソ野郎だな




 「もし、王都でラヒーロを見つけたら……ぶん殴っておくから」




 そう言い残して部屋を後にした




 さぁて、シャロアイトの図面完成まで待ってるか


 

「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く