ホントウの勇者

さとう

トーチ村②/身バレ・事情



 「さて、まずは買い物を済ませましょう」
 「そうだな。八百屋と道具屋と……お前はなにかあるか?」
 「いえ、特には。必要な物資や魔導車の予備パーツなどは【アメジスト号】に備蓄してあります。それにジュートくんの異空間にもしまってあるので」
 「そういやそうだったな。じゃあ露店で買い食いでもするか?」
 「おお、それはいい案です」


 村の中を歩きながら話していると八百屋に着いた
 店先にはねじり鉢巻きをしたおじさんが店番をしていた


 「へいらっしゃい。旅の方かい? ウチにはいい野菜が揃ってるよ!!」


 おじさんの言うとおり、新鮮な野菜が沢山ある
 店先にはこの世界で採れる野菜が豊富に揃えてあり、しかもコメまで置いてある


 「お、コメがある。おじさん、コメを大袋で3つとここにある野菜全部下さい」
 「へいまいど!!………全部!?」


 あ、やっぱマズかったかな
 しかしおじさんはすぐに復活した


 「ぜ、全部って……別にいいけどよ、計算が大変だぜ」
 「えっと、じゃあ……100万ゴルドもあれば足りますか?」
 「ひゃ、ひゃくまん!? いや全然足りるけど……」
 「じゃあ100万で、カードは使えますよね?」


 こういう買い物はするべきではないが、今日は特別
 せっかく美味い野菜を手に入れるチャンス、逃すわけにはいかない


 カードで会計を済ませると、おじさんが店の奥にいた奥さんと子供を2人呼んで袋詰め作業を始めた


 「いや~もう20年ここで商売してるけどよ、一日で店がカラッポになったのは初めてだ」
 「あはは……なんかすみません」


 おじさんはすぐに笑顔になり俺に向き直る


 「いいってことよ、それよりまだしばらく掛かる、兄ちゃんの泊まってる宿に届けてやるよ」
 「いいんですか、宿の名前は……」


 やべ、名前を見てなかった


 「〔コリンズ亭〕ですよジュートくん」
 「お、さすがシャロアイト」


 シャロアイトが俺の隣で言う。さすがシャロアイト
 するとおじさんは少し渋い顔をした


 「あぁ、〔コリンズ亭〕か……あそこも大変だよなぁ。旦那さんは死んじまって息子は王都に飛び出しちまって、残されたのは奥さんと宿屋と身体の弱い妹だけ……しかも旦那さんの魔導車は息子が壊しちまったときたもんだ……」


 その話は、俺とシャロアイトには衝撃だった


 「そうなんですか?」
 「ああ。妹は魔術師の素質があって本来なら王都で魔術を学んで、兄である息子が旦那さんの畑を継ぐはずだったんだけどな、兄が畑仕事に嫌気がさして旦那さんとケンカ……腹いせに魔導車をぶっ壊してそのまま王都に行っちまったんだよ。そのあとすぐに旦那さんが病気でポックリ。妹は悲しむ母を置いて勉強なんて出来るはずもなく、弱った身体にムチ打って宿屋と畑仕事をこなしてんのさ」


 案の定、踏み込んではいけない話だった
 シャロアイトですら顔をしかめている


 「それに、妹の細腕じゃ畑を耕すのも精一杯。耕すのが終わる頃には再び雑草だらけ……見てらんないぜ。かといってオレたちやほかの農家も手一杯で手伝えねぇし、自分たちの畑を耕すので精一杯だから何にもできねぇ……」


 おじさんも苦笑いで喋ってる……でも、おかしいな


 「あの、どうしても畑を耕さなくちゃいけないんですか? 宿屋があるならそっちだけでも生活は出来るんじゃ……?」
 「さぁねぇ、そこまではわからん。おっと、済まなかったね。野菜は後で届けるから」


 おじさんは奥さんと子供達に睨まれたので仕事に戻った


 「…………うーん」
 「ジュートくん。踏み込むべきでしょうか?」
 「まぁ、なんとかしてやりたいけどな」
 「とりあえず用事を済ませましょう。次はギルドへ」
 「あいよ」




 なんとなくモヤモヤしたまま、俺たちは歩き出した




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 村のギルドと言うだけあって建物自体はスゴく小さかった
 しかし、冒険者はそこそこ出入りしてるようだ


 「行きましょう。依頼になかったとしても、これほどのモンスターの部位なら間違いなく換金してもらえるはずです。問題はこの村にそれほどのお金があるかどうかですが」
 「そんときゃ別にいいよ。今すぐ換金が必要なモンでもないし」


 そう、別にお金はあるし換金しなくてもいい


 「そうですね、でも依頼が出ていた場合は依頼完了の報告をしなければ、〔ゴルゴダ遺跡〕に向かってしまう冒険者が出てしまいます。そうなれば面倒なのでせめて報告だけしておきましょう」
 「わかった。悪いな、そこまで考えてなかったわ」


 俺は苦笑しつつシャロアイトの頭をなでる


 「いいえ。あと前から思ってましたが、ジュートくんになでられるの気持ちいいです」
 「そうか。こんなので良かったらいつでも」


 そんなやりとりをしながらギルド内へ
 ギルド内にはいくつかの冒険者パーティーが依頼掲示板を眺めたり、受付で何かを話していた


 「へぇ、結構賑わってるな」
 「ですね。では依頼を確認しましょうか」


 俺とシャロアイトは依頼掲示板へ


 掲示板には中堅くらいの冒険者が依頼を吟味していた
 メンバーは20代半ばくらいの男女の剣士2人と、男女の魔術師
 武器を装備した俺はともかく、シャロアイトはこの中では目立つ……イヤでも視線が集中した


 「あ、ありました。どうやら誰も受けていないみたいですね」


 しかし当の本人は全く気にしていない
 そして、男女の魔術師の視線がシャロアイトを訝しげに見つめ、真っ青になった


 「ま、まさか……む、【紫の特級魔術師】の……シャロアイト様!?」
 「ウソ……なんでこんな所に!?」


 あ、バレた
 やっぱり【特級魔術師】クラスになると面割れしてんだな
 男女の魔術師の声は大きくギルド内に響き渡る……当然、大騒ぎになった


 「ウソだろ!? こんな辺境の村に【特級魔術師】が!?」
 「や~んカワイイ!! 握手して貰っちゃおうかな~!!」
 「天才魔導少女シャロアイト……初めて見た」
 「おい誰かギルドマスターを呼べ!! 挨拶だけでもしとけ!!」
 「一緒にいる男は誰だ!? ん、よく見るとSランク冒険者の証を持ってるぞ!!」


 あわわ、やべぇ……大騒ぎになっちまった
 ギルド内が一気に喧噪に包まれ、何事かと外から覗く人間もいる
 隣には商人ギルドに魔術ギルドが並んでいるので、すぐに話が伝わるだろう


 そして、シャロアイトはと言うと………


 「ん……ジュートくん、届きません……手を貸して下さい」
 「………お前、自由すぎだろ」


 依頼掲示板に向かい、ピョンピョンとジャンプしてた
 どうやら依頼用紙が上の方に貼ってあり、シャロアイトでは届かないようだ


 俺が頭を抱えていると、人混みをかき分けて4人の男女が現れた
 全員がなかなかの存在感を放ち、威厳を感じる……どうやら各ギルドマスターが集結したみたいだな


 俺は依頼用紙を剥がし、曖昧に微笑んだ




 「あのー……換金できますか?」




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 「あの、そろそろ失礼します。わたくしたちは用事があるので」


 冒険者ギルドの応接室に通された俺たちは各ギルドマスターの挨拶を聞いていた
 どうやらシャロアイトに媚びを売っておこう、と言う魂胆らしい……当の本人は全く話を聞いてなかったみたいだけど


 とにかく換金をしてギルドの中に戻ってきた
 ギルド内は未だに騒然としており、戻ってきたとたん注目を浴びる


 「やれやれ、面倒だな」
 「そうですね、とにかくお昼の時間です。屋台で買い物しましょう」
 「はいよ。お前ってホントにブレないよな」


 ギルド内から出ると人垣がパカッと割れて道ができる……モーゼみたい
 俺とシャロアイトは村の中央にある屋台を巡り空腹を満たす
 そしてジュースを買ってベンチで休憩、シャロアイトの隣にはクロがひょっこり現れた


 「おい、どこに行ってたんだよ」
 《ただの散歩ヨ》


 散歩ねぇ……たまーにいきなりいなくなるんだよな、こいつ
 まるでネコみたいな………うん、ネコだ


 「〔パープルバイオスライム〕の報酬は800万ゴルドでした。ジュートくんが受け取って下さい」
 「いいのか? じゃあコレは俺たちの旅の資金にしよう」
 「はい。お任せします」


 シャロアイトから貰ったゴルドカードを財布にしまう
 そして、なんとなく気になったので聞いてみた


 「Sレートモンスターなのに800万ゴルドか……意外と安いんだな」


 今までのモンスターだと4桁は超えてたんだけどな
 それに、Sレートモンスターの割にはたいしたことなかった。まぁいつもだけど


 「まぁSレートモンスターと言ってもピンキリです。今回のは犠牲者が複数いたためにSレートに繰り上げられたのでしょう。あの程度なら中堅クラスのパーティーが数組いれば問題無いレベルです」
 「まぁ確かに……」


 シャロアイトはジュースを飲みながら話してくれた


 「この8大陸にはまだまだ強いモンスターがたくさんいますよ。例えば、4体しかいない伝説のSSSトリプルレートモンスターとか」


 SSSトリプルレートモンスター
 初めて聞いたな……やっぱ強いのかな


 「SSSレートモンスターは、500年前の【魔神大戦】で活躍した最強の【魔神獣】です。言い伝えでは〔勇者ヴォルフガング〕に滅ぼされることなくどこかで力を蓄えてると言われています」
 「へぇ、強いのか?」
 「ええ。何度か8大陸に進行して甚大な被害を出したと言われ、現在でも討伐対象として8大陸で情報の共有がされてます。今回の〔8大王協議会〕でも議題に上がるはずですよ」


 SSSレートモンスターとか……戦いたくないなぁ
 まぁ挑んでくるなら容赦しないが






 「あとはこの世界最強と言われ、【神】ですら恐れた究極の神獣。伝説のEXエクスレートモンスター、【九創世獣ナインス・ビスト】が存在すると言われています」






 さすがにこの話にはビビったわ
 まさかシャロアイトも隣にいる黒猫がそのモンスターだとは思わないだろう


 「さて、そろそろ帰りましょうか?」
 「いや、道具屋に行って肉を買おう。鍋には肉がないとな」
 「おお。それなら行きましょう」




 俺とシャロアイトはゴミを捨てて歩き出した




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 道具屋で肉を買い、ついでに色々見てみた


 「おい、なにか欲しいものあるか?」
 「いえ特に。強いて言うならお鍋用の大きな器ですね」
 「いやあるから……」


 シャロアイトは意外と食い意地が張ってる
 まぁ成長期だしな。沢山食べるのはいいことだ


 すると、道具屋に1人のおじさんが飛び込み、大声で店主に言う




 「おい〔治癒薬ポーション〕をありったけくれ!! ヒロエちゃんが大ケガした!!」




 その言葉は、俺とシャロアイトを驚かせた
 俺はおじさんに向かって怒鳴るように聞いた


 「おい、何があったんだ!! 大ケガってどういうことだ!!」


 俺の迫力におじさんがビビったが、気にしてる場合ではない


 「ヒロエちゃんが畑仕事の最中に……クワで足をザックリやっちまったんだ。血が止まらねぇし足が殆ど千切れちまってる、今ギルドに【白】の魔術師がいないか聞きにいってるが……」


 俺は最後まで聞かずにシャロアイトに言う


 「行くぞシャロアイト!!」
 「はい。触れるときが来ましたね」




 俺とシャロアイトは走り出した





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