ホントウの勇者

さとう

王都ブラックトレマ③/過去の話・愛の吸血



 「はーっはっはぁ、いやぁ~久しぶりの麦酒はウマいぜ~っ!!」
 「久しぶりって、こんなのどこでも飲めんじゃん」
 「オレは久しぶりなの!!」


 ラモンと飲む酒はなんだかうまかった……今日はいろいろあったから尚更ウマい
 大衆酒場で人は大勢いるし、夕食時なので席はほぼ満員、辺りは冒険者や傭兵が騒ぎ盛り上がっていた


 「それにしてもラモンは城で何してたんだ?」
 「あ? まぁその……いろいろだ、いろいろ!! 大人にはいろいろあんだよ。気にすんな、モテねえぞ!!」
 「ハッ、俺にはかわい~い嫁さんが4人いる。人生勝ち組なんだよ」
 「んんだとぉ~~っ!? このヤロォ表出ろやぁっ!!」
 「はっはぁっ!! 返り討ちだぜ!!」


 久しぶりに楽しかった……俺も結構酔ってるな


 「お~し、ジュート次行くぞつぎぃっ!!」
 「おういこ~ぜ!!」


 会計を済ませて次の店へ……ちなみにラモンは一文無し
 どうやら俺を逃がさなかったのはサイフ代わりだった……コイツ後でシメよう


 そして何件か酒場を渡り歩き、時間はすっかり遅くなっていた


 「おいラモン立てよ、帰ろうぜ」
 「ん~~……おう。お前ンとこ泊めてくれ~」
 「わ~ったよ、いこ~ぜ」


 俺はラモンと肩を組んで歩く……ヤバい、俺も少し飲み過ぎた


 「お~っととぉっ、あだっ!?」
 「んぎゃっ!?」


 ラモンの千鳥足で豪快にスッ転んでしまった……痛い、手の甲から血が出た




 「いってぇ~っ!? おいラモン、しっかり歩け………!?」




 倒れた拍子に手をすりむいて血が出た
 そして……ラモンの口に手が触れ・・・・・・・・・・血がラモンに付いた・・・・・・・・




 「おいどうしたジュート……ッ!?」




 俺はラモンから目が離せなかった………なぜなら










 ラモンの目は、真っ赤に染まっていた










 「吸血鬼………!?」




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 「は、ははは……スマねぇジュート、ここまでだな」
 「………」


 ラモンは悲しそうに微笑むと後ずさり始める


 「楽しかったぜ。それと悪かったな……」
 「………」


 確信なんてない、証拠もない、ただの思いつき……俺はラモンに告げた




















 「ヴリコラカス………か?」




















 ラモンの動きがピタリと止まった




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 「アタリ……か」
 「お前……なにモンだ?」
 「………ギャルマガとギィーレレロ。知ってるよな?」
 「………ああ」




 「そいつらを殺した〔神の器〕さ」




 そして、ラモンの瞳の色が変わる……が


 「………そうか、お前が」
 「怒らないのか?」
 「イヤ……別の場所で話そうぜ、静かな場所で………」


 俺とラモンは歩き出した




 場所は俺の宿屋




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 宿屋に入ると、いきなりミモザに説教された


 「遅い。ゴハンは?」
 「た、食べます……スミマセン」
 「……そちらの方は?」
 「と、友達……ゴハンは1人分でいいよ?」
 「わかった。部屋に持ってくから」


 ミモザは奥へと消えていった……恐かった


 「アレが嫁さんか……もう尻に敷かれてんのな。はっはっは」
 「うっさい、しかも違うし」


 少しだけいつもの表情に戻った
 ホントにコイツが最強の吸血鬼なのか?


 部屋に入りメシを平らげる。そしてようやく話が出来た
 俺はベッドに腰掛けて、ラモンはソファに座る……酔いは完全に覚めていた


 「お前がギャルマガとギィーレレロを……」
 「ああ、悪いとは思わない。恨んでくれてかまわない」
 「いや、アイツらは〔魔性化〕に吞まれてた……どんなにウマい酒も、飲み過ぎると毒になる」
 「でも……最後は2人とも笑ってた。ギャルマガも、ギィーレレロも……違う道があったかもしれない」
 「………そうだといいな」


 淋しそうにラモンは笑う
 どうしてもこれだけは聞かなきゃな


 「ラモン、お前は……ヴリコラカス、なんだな……?」


 ラモンは苦笑する。まるで全てを諦めたように


 「そうさ、オレはこの〔王都ブラックトレマ〕国王のアートルム・エレ・ブラックトレマ。そして吸血鬼としての名は〔血の冥王・ヴリコラカス〕さ」


 なんかかっこいいな、血の冥王って


 「いろいろ聞きたいことがある……ああ、何から聞けばいいか……そうだ、どうして生気を集めてるんだ? 人間を攫ってまで」
 「やっぱそうか……それはオレじゃない。オレはもう生気を吸わないと妻に誓った。全てはギョロメガラの差し金だ」
 「ギョロメガラ……お前の眷属だろ? なんとかしろよ!!」
 「ムリだ……いまのオレは昔に比べて遙かに弱体化してる。4人の眷属で最強の力を持つギョロメガラを倒すことは出来ない」
 「マジかよ……じゃあ、なんで生気を集める必要があるんだ?」
 「全てはギョロメガラさ、アイツが生気を集めて全てオレの責任にしてる。オレは名ばかりの王で王都を支配してるのはギョロメガラだ……」
 「じゃあ、ギョロメガラを倒せば」


 「やめろ。今のアイツは【神】に匹敵する強さだ。アイツに太刀打ちできるのは【王ノ四牙フォーゲイザー】か……伝説の、勇者ヴォルフガングくらいだ」


 勇者ヴォルフガング……かつて世界を回った【銃神】か


 「なんで……なんでこんな事になったんだ!! お前は何をしたんだ!!」




 「全ては50年前……〔魔性化〕がオレ達を変えちまった……」




 ラモンは……俯きながら語り出した




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 「オレは吸血鬼の中でも最強と恐れられ、モンスターやたまにやってくる人間相手に無双してた。その時に今の4人の眷属がオレを慕って着いてきてくれたんだ」


 「楽しかったぜ……毎日モンスター相手に狩りをして、人間のフリして酒を飲んで……たまに人助けして感謝されて、毎日が楽しくてしょうがなかった。その時出会ったんだ」


 「当時の〔王都ブラックトレマ〕の王子、アートルム・エレ・ブラックトレマにな」


 ラモンは一度言葉を切って息を吐いた


 「初めて会ったのは森の中だった……そこで王子はモンスターに襲われていたのさ。モンスターのレートはS、それが3体ほどいて絶体絶命だった。そしてオレらが見つけた頃には王子は瀕死だった……手遅れだったのさ」


 「王子の顔を見て驚いたぜ……オレと瓜二つ、眷属達も見分けが付かないくらいに似てたのさ。そこでオレ達はひらめいた。このまま王子を隠してオレが王子となり、眷属の4人が助けに入って王子は救われた……と言うシナリオを組んだのさ。そしてそれは大成功、恐怖で記憶を失ったと言えば誰もが信じた、名前も、何もかも奪いオレは王子を演じ、救った恩として眷属の4人を招いてそのまま護衛として側に置いたのさ」


 「あとは適当にブルジョワ生活を満喫……スキを見ておさらばの予定だった。でも……出来なかったのさ」


 ラモンは、本当にうれしそうに呟く




 「エーゼル……後のオレの妻に出会っちまった」




 「笑っちまうぜ、最強の吸血鬼と言われたオレが、人間の女1人に骨抜きにされちまった。どうあがいてもエーゼルに勝てる気がしなかった……それくらい夢中になっちまった」


 「それからオレとエーゼルは愛し合った。それこそ時間を忘れて……こんな時間がいつまでも続けばいいと本気で思っていた。そして気がつかなかったのさ」






 「退屈を持てあました眷属が、人間を襲い始めてることに……」






 ラモンはその時のことを本気で悔いているようだった




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 「どんなにウマい酒も、飲み続ければ飽きる……王都の暮らしが4人にとって退屈なモノになり始めてることにオレは全く気がつかなかった。そして、自分の立場を利用して若い人間を故意に集め始めたのさ」


 「もしかして、それが〔闇と影の舞踊ブラックハーケン〕か?」


 「そうだ。当時は孤児が多かったからな、人間を集めるのに苦労はしなかっただろう。オレは王になったばかりで専用の護衛部隊を作るという言葉を全く疑わなかった」


 「オレが気付いたときには遅かった……すでに4人とも〔魔性化〕で狂い始めていた。全ての責任をオレに押しつけて裏でいろいろ動いていたみたいだ。そして…………」






 「エーゼルが、病に侵された……」






 「様々な薬を試したり、【白】の魔術師を探したが見つからなかった……日に日にエーゼルは弱り果て、やつれて……骨と皮のようになっていった」


 「オレは無力だった……眷属の暴走、妻の病気……オレは何も出来なかった」


 ラモンは顔を押さえて声を震わせる……そして


 「エーゼルが死ぬ前に全てを告白しようと決めた。オレは偽の王で吸血鬼。死にかけてる妻を、オレは騙している……それだけはオレが許せなかった」




 ラモンは昔の光景を思い出しているようだった




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 そこは王城の一室でとても豪華な部屋だった
 絨毯や装飾品、調度品などは全て高価な物で、見ているだけで吸い込まれそうな一品ばかり
 そして部屋の中心には大きな天蓋付きのベッドが設置されていた


 「気分はどうだい? エーゼル」
 「とてもいいわ……アートルム」


 ウソだとすぐに分かった


 やつれてボロボロになった皮膚、白ではなく青くなった顔色、骨と皮のような肢体 
 エーゼルは今にも死んでしまいそうなほど儚く見えた


 「今日はキミに……大事な話があるんだ」


 アートルムことラモン、いやヴリコラカスは全てを告白するためにやって来た
 愛する妻に真実を……自分がアートルムなどではない、吸血鬼のヴリコラカスであると告白するために


 「まぁ、なにかしら……楽しみね……」


 ヴリコラカスの胸は締め付けられていた
 今にも消えてしまいそうな笑顔を自分が消してしまう。その恐怖が今になって襲ってきた


 しかし、決めたのだ
 愛するからこそ真実を、ウソをついたまま別れたくないと
 それがヴリコラカスの決意であり、今は亡き本当のアートルムへの贖罪だった


 「キミは……アートルムを愛しているかい?」


 泣きそうになるのをこらえながら、ヴリコラカスは問いかける


 「あたりまえよ……アートルムは、世界で一番の……私の、夫よ?」


 その言葉はヴリコラカスを苦しめる。が…ここで逃げるわけにはいかない




 「ボクは……いや、オレは……キミの愛するアートルムじゃないんだ……!!」




 そして、真実が語られた




 ヴリコラカスは震えながら黙り込み……エーゼルを見ることが出来なかった


 ずっと騙していた。でも……愛していた。だからこそ告白した、それがエーゼルのためだと信じて


 そして、エーゼルは静かに微笑む










 「知ってたわよ、おばかさん」










 ヴリコラカスは勢いよく顔を上げた


 「私の知ってるアートルムは…気弱で、自信のなさそうな青年だったわ……」


 エーゼルはヴリコラカスの目をしっかりと見ている


 「でも…あなたは自信たっぷりで、強くて…たまにおっちょこちょいで……すぐに違うって分かった。そして……アートルムは、もういないってわかったの」


 「私はね、アートルムにちゃーんとお別れをしたわ……そして、あなたを本気で愛した。だから……あなたへの愛は本物よ?」


 ヴリコラカスの瞳から、生まれて初めて涙がこぼれ落ちる


 「エーゼル!! 愛してる……愛してる!!」


 両手を握りしめ何度も言う
 アートルムとしてではなく、ヴリコラカスとして


 「ねぇ……あなたのホントウの名前を教えて?」
 「オレはヴリコラカス……〔血の冥王・ヴリコラカス〕だ……!!」
 「ふふふ……やーっと聞けた……ねぇヴリコラカス……最後のお願いを聞いて?」
 「なんだい……エーゼル?」


 ヴリコラカスは、エーゼルが最後の時を迎えてることに気がついた




 「私の生気を……吸って?」
 「………エーゼル?」
 「私は……ずっと側にいるわ、愛するあなたの……側に」
 「……ああ。ずっと一緒だ……!!」




 ヴリコラカスの瞳が赤く染まり、血と生気を吸うためのキバが見える
 そして……ゆっくりとエーゼルの首筋にキバを当てた






 「愛してるわ……ヴリコラカス」






 ヴリコラカスは初めて、愛する女の生気を吸った





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