ホントウの勇者

さとう

デューラの宵山②/貯蔵庫・信頼度



 その後、吸血鬼に出会うことなく下層へ


 下層へ降りる階段を進むと、開けた通路に出た


 「ここは······牢屋か?」


 通路の左右には6畳ほどの部屋があり、全ての入口に鉄格子がはまっていた
 ここから見張りが厳重になり、この通路だけでも3人の吸血鬼がいる


 「やっぱりか······クソが」


 鉄格子の中には人間······しかも若い女と男、獣人が分かれて入れられてる
 通路の脇からそっと牢屋の中を覗く······ヒドい。全員が裸で入れられて、女の子は顔を抑えて泣いている。何があったのかはすぐにわかった


 こんな所、居ていい場所じゃない
 すると···吸血鬼の見張りがどうやら交代するらしく、何やら話を始めた


 「交代だ。それと、選別の時間だ」
 「わかった。じゃあオレたちは最下層の選別部屋に行く」
 「ああ、今回もなかなかイキのいい人間が入ってきた。オレたちのおこぼれも豪華になるぜ」
 「そりゃいいな。たくさん生気を喰らって〔魔性化〕できれば、新しい眷属になれる。そうすればもっとオイシイ女を喰らえる···たまんねぇな」
 「ああ、それにしてもギュステビオン様は誰に殺されたんだろうな? 死体だけが見つかったらしいが」
 「さぁな、でも相当な使い手······〔神の器〕かもな」
 「確かに···おっと、そろそろ行かないとギィーレレロ様に怒られるぜ、また後でな」
 「おう、またな」


 吸血鬼は入れ替わりで去っていく······かなりの情報を手に入れた


 まず、ここにいるのはギィーレレロで間違いない
 そしてここは吸血鬼の人間を選別する場所、恐らく他の眷属が集めた人間をここに集めて選別し、ヴリコラカスのもとへ送るのだろう。要はギィーレレロの本拠地だ


 次に···ギュステビオンがすでに死んでいたことだ
 犯人は〔神の器〕か、まさかな······でもこれで残りは2人、ギィーレレロとギョロメガラだけ、見えてきた


 新しく入って来たってことは、攫われたばかりの人が最下層に集められているってこと
 どうする······今ここで見張りを始末して牢屋を開放しても意味がない。それどころか裸でこの山を降りることになってしまう


 俺だけじゃムリか······応援が必要だ


 「……やっぱアイツらしかいないかな」


 俺の頭に浮かんだのは〔闇と影の舞踊ブラックハーケン


 「でも、こんな場所にいるワケないし···くそ、人手が足りない。一度引いて態勢を整えるか······王都に行けばオニキスたちに応援を·········」




 そこで俺は見てしまった




 「·········あの子は」




 その子は、俺とオニキスが出会った〔吸血鬼の町ヴァンピア〕の牢屋で一緒だった金髪の女の子
 全てを諦めたような目で俯き、絶望し、全てが終わるのを待ってる······そんな印象を感じる
 俺とオニキスが助けられなかった少女




 この瞬間、俺は撤退という考えを頭から排除した




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 作戦は1つ。この際、俺の正体なんてどうでもいい
 とにかく吸血鬼を全滅させて人間、獣人を開放する。ギャルマガの時は生身で倒したけど、ギィーレレロは神器で瞬殺してやる


 その後は全員を〔セーフルーム〕に入れて近くの町で服を買う、ここからだと王都だな
 そこで〔闇と影の舞踊ブラックハーケン〕に頼んで全員故郷へ帰してやる······決めた


 「まずはこのフロアを制圧する。交代したばかりだし···暫くは大丈夫だな」


 俺は両手にナイフを装備して吸血鬼の様子を伺う
 俺の位置は階段の影、牢屋は円形になっていて3人はそれぞれ弧を描きながら歩いてる
 たまに歩く方向を変えて1人から2人で一周歩き、牢屋の中をたまに確認してる······ヤルか


 俺は周回のタイミングを図りながら、階段付近で1人になる瞬間を待っていた。そして


 「······悪いな」
 「え?」


 そして、心臓を一突き······すぐに死体を階段に隠す


 「······ん?」
 「おい、どこだ?···トイレか?」


 当然気付かれるよな。でも問題ない


 「ったく、仕方ねぇ。すぐに戻るだろ」
 「そうだな。帰ってきたら言ってやれ」


 なんの疑問も持たずに歩きだす
 こちらとしては好都合だ···そのまま同じ手でさらに1人始末する···と、さすがに気付くよな


 「おいっ‼······おかしいぞ、何が···?」


 見張り吸血鬼の声に牢屋の人間・獣人たちも気が付いたようだ
 少し騒がしくなってきた···ちゃ〜んす


 「ええい、お前ら静かにしろ‼」
 「あんたもな」
 「へっ?···はうっ⁉」


 牢屋に向かって声を出していたので、問題なく背後で刺せた


 吸血鬼の身体を探って牢屋のカギを見つける
 よし、こういうのは大抵が見張りの身体にあるんだよな


 俺と同い年くらいの男女が、俺を見て言う


 「あ、あんた···まさか」
 「ああ。助けに来たぜ、おーっと静かにな」
 「ご、ごめん」


 女の子はすでに羞恥心はなく、全裸で鉄格子にしがみつく。男もブラブラさせながら言う


 「頼む、出してくれ。家に帰りたい‼」
 「お願い、お願いっ‼」
 「落ち着け、今出してやる。あとここは危険な場所だ、とりあえず全員を王都に送る。そこで〔闇と影の舞踊ブラックハーケン〕に頼んで家まで送ってやるからな」
 「ああ、ありがたい···まさか助けが来るなんて」


 とりあえず全員を開放する
 そして俺は例の金髪の女の子に向き合った


 「あの時は助けられなくてごめん······今度こそ助けるから」
 「あなた···あの時の?」
 「うん。これで家に帰れるよ」


 そう言うと女の子は静かに泣き出した······女の子は裸だったが、俺は迷わず抱きしめた




 名前も知らない女の子だけど、これ以上苦しめるワケにはいかない······戦う理由はそれで十分だ




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 このフロアにいた人数は、人数が男女12人、獣人が10人の22人


 「下のフロアにはまだいる。ヤツらは高級品って言ってた···多分、若い女の子で妊娠してる子だ」


 捕まった男の1人がそんなことを言う······なんかムカついてきた
 すると突然後ろの、下に降りる階段が騒がしくなる


 「ヤバいぞ、バレたんだ‼」


 全員が怯え始める
 すると数人の吸血鬼が武器を構え、魔力をみなぎらせ叫ぶ


 「動くな‼···キサマが侵入者か‼」


 吸血鬼の数は5人
 全員が戦闘態勢だった······もういいか、辛気臭いしさっさと終わらせたい


 俺は一瞬で神器を発動
 『錬鉄の神銃アイゼン・ブラスター』を5連射······全員の心臓を破壊して即死させた


 「悪いな···いや、悪くないか」


 銃をくるくる回してホルスターへ仕舞う。すると······全員が驚いていた


 「か、〔神の器〕······う、ウソだろ」
 「なんでココに······」
 「こ、殺さないで···お願い」


 改めて思う。〔神の器〕は恐れられ、畏怖されてる
 悲しいけど仕方ない。どう思われようと助けるだけだ


 「みんな、この中へ入ってくれ。必ず王都まで送り届けるから······信じてくれ」


 魔術を発動させ〔セーフルーム〕の入口を作る
 この中は俺が作った何もない空間だ。一応2部屋あり男女別に分けられる


 「で、でもよ······」
 「······いやよ」
 「どうするつもりなんだ···?」


 ちくしょう。誰も入ってくれない······なんか泣きたくなってきた
 どんだけ嫌われてんだよ······ん?


 「ここに入ればいいの?」


 そう言ったのは金髪の女の子
 俺をまっすぐ見て聞く···迷いがない、堂々とした声で


 「お、おい···」
 「やめなよ、どうなるか分からないよ?」


 何人かが言うが、女の子は気にしていない


 「この人は助けに来てくれたのよ、〔神の器〕···だから何? 私はこの人を信じるわ」


 女の子は堂々と言い放つ
 素っ裸なのに気にもしていない···余りにも男らしかった。女の子だけど


 「ありがとう、信じてるから······」
 「······うん。必ず守るから」


 女の子は笑顔で紋章に触れるとそのまま吸い込まれていった。俺は残りの人達を見る


 「〜〜っ。ああもう、信じるよ‼」
 「私も信じる‼」
 「オレも‼」


 次々と紋章の中に入って行く。そして最後の1人···獣人の女の子が言う


 「負けないでね」
 「······当たり前だ‼」




 最後の1人を見送り、俺は次の階層へ向かった





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