ホントウの勇者

さとう

吸血鬼の町ヴァンピア②/脱出・【黒の特級魔術師 オニキス・オプシディアン】



 牢屋のドアは金属製、しかも結構な分厚さだ


 「さがってて」
 「え?」


 オニキスはその場で軽快なステップを踏み、勢いをつけた前蹴りでドアを吹っ飛ばした


 「さ、行くわよ」
 「は、はい」


 何事もなかったかのように歩き出す
 すげぇ、ドアにくっきりと足跡がついてやがる


 そのまましばらく歩くこと数分
 クロ曰く、ここは町から離れた古い鉱山を人間収容所に改造した場所で、攫った人間はまずこの場所へ連れて行かれるらしい
 攫った人間を男女でわけて子作りさせ、運よく孕んだ人間は位の高い吸血鬼へ献上される
 そうでない人間は、少しずつ生気を奪われ殺されるそうだ


 町の吸血鬼もこの施設のことは知ってるらしい
 連れて行かれる人間を何もせずにに見る光景が当たり前だそうだ


 「施設を制圧して人間を開放しましょう、あと数時間で私の部下が増援を連れてここに到着する手はずになってるわ。情報だとここにヴリコラカスがいるはずだけど···」


 そんな会話をしていると曲がり角でバッタリ吸血鬼に出会った。数は1人、腰には剣が差してある


 「き、貴様らどうやって···ッ⁉」
 「シッ‼」


 次の瞬間、超高速の左腕ジャブが吸血鬼の顔面を潰す
 そしてよろめいた瞬間に右のストレートが心臓を的確に貫く


 「ごっ……」


 白目を向いてそのまま倒れた
 速っ、強っ、怖っ。吸血鬼の心臓部分が拳の形に窪んでる
 しかも陥没したまま戻らない、完全に心臓が潰れてた


 「吸血鬼の弱点は頭と心臓よ。それ以外はすぐに治るから注意して」
 「は、はいっ、わかりました‼」


 オニキスは何事もなかったように淡々と歩き出す
 ちなみに死体は俺の魔術で消滅させた


 「クロ、ここにはどのくらいの吸血鬼がいる?」
 《恐らく100人前後ネ、交代で地下牢の見回りと世話、人間の出荷などをやっているワネ······ジュート》


 おっといかん、殺気が出ていたか
 人間の出荷······胸糞悪い響きだな


 「静かに、1人づつ消して行きましょう。ジュート、あなたにもやってもらうわよ」
 「ああ。任せとけ」




 こうして、俺とオニキスの隠密行動が始まった




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 落ち着け、今の俺は暗殺者アサシン


 俺は気配を消してゆっくり歩く
 近くには吸血鬼の兵士が1人見回りをしている


 指定の見回りコースがあるのだろう、同じ道をぐるぐる回りながら周囲を警戒している
 俺はゆっくりと背後に忍びより、左腕のギミックナイフを起動させた


 「·········ふぅ」


 吸血鬼兵士は立ち止まる
 ため息をついたのは疲れからか······スキあり


 「はぅっ」


 静かに心臓を一突き……声を上げる間もなく死亡した
 その様子を見ていたのか、タイミングよくオニキスが現れる


 「お疲れ様、ジュート」
 「ああ、そっちは?」


 何人始末した? と言う意味の言葉だ


 「15人、あなたは?」
 「18人、楽勝だな」


 これで30人以上の吸血鬼を始末した
 さすがにバレると思ったがなんとかなるもんだ


 「これで地下の兵士はほぼ一掃できたわね···さて、地上に出てみようかしら」
 「そうだな、確かめて見ようか」




 さーて、一度外へ出て周囲を確認するか




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 「·········なぁ」
 「·········やられた」


 俺とオニキスを待っていたのは、吸血鬼の軍団だった


 その数···200はいるかな? 
 1人1人が完全武装して並んでいて、口元には笑みが浮かべている。明らかに勝利を確信していた


 そして中央にいた吸血鬼が話かけてきた
 それと同時にオニキスが俺に呟く


 「こんにちは、人間たち」
 「5分、時間を稼いで」


 吸血鬼とオニキスは同時に言う
 時間稼ぎか······任せろ


 「こんにちは、吸血鬼さん。えーと、こんなにたくさんのお友達を連れて···これからパーティーでも?」


 俺は精一杯の笑顔で答えた。すると吸血鬼のリーダーが楽しそうに言う


 「えぇその通りです。よろしければアナタ方もいかがです?…ふふふ、きっと楽しいことでしょうね」
 「そりゃどうも。あーせっかくですけど遠慮しときます、そろそろ晩御飯の時間なんで……そろそろお暇させていただいてよろしいですかね?」
 「ふむ、それは残念。ならば……私たちだけで楽しませてもらいましょうか」


 やばい、戦闘態勢に入ろうとしてる……なんとか時間を稼がないと


 「ちょっと待った!! 聞きたいことがある……なんで人間の血を狙うんだ。今まではモンスターの血と生気を吸ってたんだろ、なんでいきなり人間を攫ったりしたんだ?」


 俺の質問は時間稼ぎ、でも…俺のホントの疑問でもあった


 「ははは、いきなりではありませんよ。我々吸血鬼と人間は長い間争っていました。我々の中で人間はエサ···道具なのです。中でも子を孕んだ若い女の生気は絶品···味わえるのはヴリコラカス様の眷属だけですがね」


 人間は······エサ


 「人間は······吸血鬼に何かをしたのか?」
 「さあ? しかし、人間の抵抗も中々しぶとい。この【黒の大陸】が我ら吸血鬼のものとなるのは時間の問題。その時は徹底的に人間を管理して効率よく至上のエサを供給出来るインフラを整備しなくては。ハハハ、忙しくなりそうです」


 「············」
 「お話はお終いです。女は捕らえ、あなたには死んでいただきましょうか」 
 「············あのさ」
 「はい?」




 「お前ら全員、ここで始末するわ」




 俺は本気でブチ切れた、そして




 「いいわ、ジュート······準備完了よ」




 オニキスから膨大な魔力が膨れ上がり、魔力が拡散した
 そして、ニヤリと笑ったオニキスが叫ぶ






 「殲滅開始せんめつかいし‼」






 そして、前列にいた吸血鬼の首が幾つか飛んだ




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 俺にわかったのは無数の黒い影が高速で移動してる所だった
 その影は人であり女、全員が黒い短剣を装備して恐るべき速度で吸血鬼を狩っていく


 さらによく見ると···全員の身体を黒いモヤが包んでいる
 そのモヤが身体機能を増幅、【黒】属性を無効化、物理攻撃すら無効化してる


 俺はオニキスを見た
 するといつの間にか2人の少女が跪き、オニキスに何かを装備させている
 それはオニキス専用の徹甲とグリーブ。オニキスが力を込めると、徹甲から剣が飛び出し、つま先からも刃が飛び出した


 「······よし、いけるわね。いくわよ、ルーミア、アミール」
 「「はっ‼」」


 オニキスが宣言するとオニキスと少女たちを黒いモヤが包む
 後でわかったことだが、これこそがオニキスの【特級魔術】




 【黒】【黒】【黒】の融合ブレンド、即ち『固有属性エンチャントスキル


 【黒の特級魔術】・『黒影無双シャドウモーメント




 効果は、この闇を纏った人間を強化し、【黒】属性と物理攻撃を無効化する
 対人戦闘に置いて最も力を発揮する強化魔術


 「すっげぇ······俺、いらないじゃん」


 俺はポツンと突っ立って戦闘を眺めてる
 このまま帰っても誰も気付かないかもしれない。すると、吸血鬼のリーダー各が叫んだ






 「こ、これが噂の〔影と闇の舞踊ブラックハーケン〕 我ら吸血鬼の最大の敵···‼」






 そう言い残し、首が宙を舞った




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 戦闘が終わると辺りは首無し死体だらけだった
 50人ほどの少女たちはオニキスの指示のもと1箇所に死体を集める


 どう見ても全員が10代、俺と同じぐらいの年齢なのに、吸血鬼の身体を軽々と持ち上げて積み重ねていく
 その近くに生首を集めてまとめていた。グロすぎる……


 「ジュート、お願い」
 「ああ」


 オニキスに頼まれ魔術を使う
 使うのは【聖母祝福オラトリオ・キュアー】だ。回復力は低いが広範囲に回復出来る魔術


 魔術を発動させると、吸血鬼の死体は全て泡となり消える
 そして衣服は燃やし、後は何も残らなかった


 「よーし、終わり」
 「集合‼」


 終わると同時にオニキスの声が響き渡った
 すると50人の少女たちが全員ビシっと並ぶ。まるで軍団みたいに…ビックリした


 「影班かげはん、町の調査は」
 「は、済んでおります。住人は全てシロ、人間を食した者はいません。保留でよろしいかと」


 「朧班おぼろはん、周囲の状況」
 「は、周囲に敵はいません。この辺りの戦力はここに集中、全て始末しました」


 「宵班よいはん……〔ヴリコラカス〕の情報の出所は」
 「申し訳ありません、団長が出発したあとに情報を洗い直した所、吸血鬼側の情報作戦だったことがわかりました……処罰を」
 「かまわない。おかげでジュートに出会えたし、200の吸血鬼を葬ることができた」


 すると50の視線が俺を射抜く
 気のせいか殺気が混ざってるような……まさかな


 「闇班やみはん、攫われた人間たちは?」
 「は、全員が別の場所へ移動させたみたいです。牢の中は誰もいませんでした」


 間に合わなかったか……むしろ、200人の吸血鬼はそのための囮だったのかも


 「ジュート、これからあなたはどうするの? 一緒に戦う約束は果たしてもらったし、ヴリコラカスはいなかったから私たちは一度王都に帰還するわ」
 「俺は……そうだな」


 ここでチラリとクロを見た、するとクロは俺の肩に飛び乗る


 《王都へはいずれ行きまショ。ワタシ達はここから北の〔レセルバ鉱山〕へ向かうワヨ。そこを抜けて〔石の町ダクレム〕へ向かいまショ》


 りょーかい。そうだ、一応聞いておこう


 「俺たちはこのまま〔レセルバ鉱山〕を抜けて〔石の町ダクレム〕へ向かう。ところで……ダクレムは大丈夫かな?」


 また吸血鬼に会いたくないし……これは重要だ
 するとオニキスが微笑んでいう


 「安心して、ダクレムは王都の管轄よ。あそこは宝石の町とも言われていて綺麗なアクセサリーがたくさん売っているのよ」


 へえ……宝石に興味はないけど行ってみる価値はあるな


 「わかった、いろいろありがとな。お前がいなかったらヤバかった……王都には向かう予定だから、また会えるかもな」
 「ええ、楽しみにしてる………」


 そう言ってオニキスは音もなく俺に近づき……その頬にキスをした


 「なぁっ!?」
 「私が出会った男の中でアナタは一番ステキだったわ」


 そう言ってイタズラっぽく微笑み


 「それでは撤収!! 王都へ帰還する!!」


 50人を引き連れて帰って行った




 ……50人から向けられた殺意は恐ろしいものだった




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 「じゃあ、〔レセルバ鉱山〕へ向かうか」
 《そうネ……フフ、アナタいつも女の子にしてやられるワネ》
 「うっせ、仕方ないだろ。俺だってびっくりだよ」




 【アウトブラッキー】を呼び出し乗り込み、クロの案内で走りだす




 吸血鬼……やっかいな敵がでてきたなぁ





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