ホントウの勇者

さとう

吸血鬼の町ヴァンピア①/吸血鬼・脱出



 「じゃあ協力してくれるのね?」
 「お、おう……」


 俺は罪悪感に包まれながら、少女……オニキスの言葉を聞いていた


 「まずはしばらく様子を見るわ。見張りの動き、交代時間なんかを調べて脱出のタイミングを計りましょう。その後はこの場所の地形を調べて〔ヴリコラカス〕の場所を突き止めるわ」


 オニキスの眼は決意に満ちている……数分前に俺に抱かれたことなんてすでに忘れてるみたいな感じだった


 「あのコは……ほっときましょう」


 オニキスの視線の先には、一緒に入れられた金髪の女の子…まだ気絶してる
 俺は備え付けてあった毛布を掛けてやり、オニキスに向き直った


 「こっちに来て、早く」


 俺はオニキスに手を引っ張られ部屋の隅に移動する
 そしてオニキスに押し倒され、そのまま抱きつかれた


 「吸血鬼がなぜこんなことをさせるのか···説明するわ」


 ドアの向こう側から気配がする······どうやら見張りが来たらしい
 オニキスが身体を動かし、いかにもな動きをする




 「吸血鬼は血液と一緒に生気を吸うのは知ってるわね? 生気は、男より女の方が純度が高く、より力になると言われてるの」
 「······それで?」
 「吸血鬼が求めるのはより純度の高い生気······生気はね、年月が経てば経つほど汚れていく。だから、若ければ若いほどいい。それが産まれていない命でも」
 「······まさか」






 「ヤツらの至上の御馳走は、妊娠した若い女の生気よ」






 クソったれな話だった




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 今の話は信用出来るだろうか


 そもそもこの女の子が【特級魔術師】だと言うのがホントなのかわからない
 なぜ1人でここに来たのか、何か意図があるのではないかと疑ってしまう


 出会って数時間の男に抱かれ、この吸血鬼の町のボスを始末するから協力しろ、だなんていきなり言われて···さすがに混乱してきた


 するとオニキスが俺にキスをしてきた。迷いがない、強い決意を感じる


 「あなたに頼みたいのはここの脱出よ。その後は自由にして貰って構わない、助けが来るまで隠れててもいいし。あなたの実力なら吸血鬼に見つかっても問題ないわ」


 確かにな、あの程度の吸血鬼······って、ちょっと待て


 「なんでお前が俺のことを知ってる。まさか······」


 答えは1つしかない


 「そうよ、私もあの宿へいたの。あそこは吸血鬼の狩場の1つ、朝たまたま若い冒険者の団体が朝食を食べに来て、宿屋は喜んだでしょうね」


 俺は腰を動かしながら言う
 邪な感情はなく、現在の状況を把握するためにオニキスと話す


 「私は【特級魔術師】としてこの現状が許せない。〔ヴリコラカス〕は私が始末する」


 その言葉には強い力を感じた
 俺はオニキスを抱きしめてキス、そのまま身体を入れ替えて今度は俺がオニキスを押し倒した


 「俺も手伝うぜ」
 「え?」
 「俺は【白】の魔術を使える。アンタよりは戦闘で有利に戦える···それに、前払いで報酬を貰ったからな」
 「報酬?······あ、フフッ···そうね」


 オニキスはここで初めて笑った
 視線は俺の分身。ここまでされて、貰って···俺だけ逃げるなんてあり得ない


 「2人で〔ヴリコラカス〕を倒すわよ···期待してる」
 「任せとけ。仕事はするさ」




 再び俺たちは1つになった




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 オニキスの話はとんでもなかった


 まず、この【黒の大陸】の7割が吸血鬼によって支配されており、吸血鬼の息がかかった町では住人ぐるみでの人さらいが多発している
 狙われるのは主に若い冒険者···【黒の大陸】では危険な場所も多いので、冒険の途中で死んだものとされるケースがほとんどらしい


 【黒の大陸】の〔王都ブラックオルス〕は長年、吸血鬼との争いを続けており、吸血鬼のボスについて調べていたが、ついにボスを特定···〔ヴリコラカス〕と言う最強の吸血鬼であるとした


 レートはSS、報奨金はなんと5億ゴルド。ふざけてる···それだけ本気ということか




 オニキスは王都在中の【特級魔術師】だそうだ
 報奨金を出したのはいいが、王都として何もしないわけにはいかない
 そこで派遣されたのがこのオニキスである


 ちなみに端っこで寝てる金髪の女の子を眠らせたのはオニキスの仕業だそうだ


 この地下牢に入れられ数時間···俺はオニキスを抱きながらいろいろな話を聞いた




 そして、事態は動き出す




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 「お前···出ろ。もう自由だ」


 突然現れた見張りが、金髪の女の子を指差して連れ出したのだ


 「え、あ···あの」


 少女の視線は俺とオニキスへ······なぜ自分だけ、と言う思いと、一緒に···と言う思いが感じられた


 「······来い」
 「きゃあっ⁉」


 見張りは女の子を引っ張り無理矢理連れ出した
 マズい···どう考えてもイヤな予感しかしない


 取り残された俺とオニキスは顔を見合わせる


 「彼女はきっと···ううん、彼女だけじゃない。きっと他にもいる、恐らく···食事の時間よ」


 時間がないな、仕方ない
 オニキスは俺の秘密を知っても黙っていてくれるかな




 「オニキス、お前···俺を信用するか?」
 「何言ってるの?···私に協力してくれるんでしょ?」
 「ああ、だからこそ今聞く」
 「······信用するわ」
 「わかった。信じるよ······だから、俺の秘密をお前に見せるよ」
 「え?」




 俺は異空間から服と装備を全て出す
 【友情の約束プロメッサ・アミティーエ】を着込み、腰のベルトに【雄大なる死グロリアス・デッド】と【死の輝きシャイニング・デッド】を差す
 そして左腕に〔マルチウェポン〕装着···全てよし‼


 オニキスはその様子をポカンと見ていた
 そうだ、以前アウラと買い物した時の服が残ってたな。適当に出すか


 「ま、まさか···〔神の器〕とはね。なるほど、これがあなたの秘密…ふふふっ、面白いわね」
 「ほれ、適当に着ろよ···服のセンスに文句つけるなよ」
 「ありがとう。じゃあ遠慮なく···」


 オニキスが選んだのは、黒いデザインの服。動きやすさを重視した格闘家の服だった
 膝上のスパッツに短パン、上はタンクトップに柔道着みたいな半袖の上着を着て、長い黒髪をサイドで束ねた。コイツもしかして


 「ねぇ、武器はある?」
 「ああ、コイツでどうだ?」
 「······へぇ」


 俺が差し出したのはグラブとレガース
 間違いない、オニキスは拳闘士グラップラー


 「ありがとう。なかなかのセンスね」
 「そりゃどーも」


 いろいろ買ったけど結局使わなかった武器の1つ、グラブは革の手袋に金属パーツが組み込んであるメタルナックルで、レガースも同じ金属製だ


 「さて、どうする?」 
 「私たちだけじゃ全員を助けるのはムリね、まずはこの建物を制圧しましょう」


 えっと···助けるのはムリで制圧は可能なんですか···?


 「あ、そうだ···クロ、来い」


 そう言うとクロが俺の肩に現れる


 《呼ばれると思ってたワ。ここの地形は任せなサイ、周囲一帯を調べておいたワ》


 さっすがクロ、多分コイツならこういうことをすると思っていた
 俺の案内猫なのに自分が知らないなんて言えないからな


 「あ、あの···なんなのその猫?」
 「ん、ああ、ここの案内猫さ、さぁて行くか」


 俺は首をコキリと鳴らし、オニキスは指をポキポキ鳴らす




 さて、脱出しますかね





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