ホントウの勇者

さとう

氷の町ヒョールデン②/寄り道・始まり



 〔ウールブル雪山〕から再び〔氷の町ヒョールデン〕に戻ってきた…観光地なだけあって混んでるな


 町の入り口で魔導車を降りて歩く…まずは宿を取り、あとは自由時間だ。出発は明日の朝、それまでは各自自由にしてよし、と言うことで俺は部屋でのんびりしていた…すると


 「お兄ちゃーん。遊びにいこ~!!」


 なんとなくクルルが来そうな気はしてた。エルルはマジメだから部屋でおとなしくしてるだろう。だってこの町2回目だし…初日に観光したし、お土産も買ったし……まぁクルルはそんなの関係ないか


 「仕方ないな、じゃあ…少しだけな?」
 「うん!!」


 そんなわけでクルルと町へ……時間的にはまだ朝の10時くらいだからいい時間帯だな




 少し小腹も空いたし…露店でも見て回るか




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 「よしクルル、なんか食べるか?」
 「うん!! あ、あの〔ブライトオークの腸詰め〕が食べたい!!」
 「お、ウマそうだな…よーし行くか!!」


 なんだかんだで俺も楽しんでしまう……やっぱ観光地はいいな。そんな感じでしばらくクルルと町を散策したのであった




 「お兄ちゃん、ここから氷の中に入れるみたいだよ?」
 「お、えーと、〔氷の湖底トンネル〕だってさ。凍った湖にトンネルを掘ってその中を歩けるようにしたみたいだな……よし、入ってみよう」
 「やった!!」


 このトンネルは前来たときは気がつかなかった、なので今回は行ってみることにしたのであった


 「おお、凄い……こんなに透き通った氷で強度は大丈夫なのかな?」
 「わぁ~…おいしそうなお魚がいっぱい」


 俺とクルルの感想はまるで違う……クルルは花より団子だな


 トンネルの中はかなり涼しかった。氷の厚さは数メートルはあるが、不純物がないためものすごく透き通っている。ホントウに湖の中を歩いてるみたいだ


 トンネルは地下通路みたいになっていて横幅が広く、周囲には観光客が溢れていた……この世界にカメラやスマホがあれば間違いなく写真をとってるな


 「お兄ちゃん、ここに説明書きがあるよ」
 「お、どれどれ……なるほど、そういうことか」


 ここの氷は自然の力ではなく、どうやら神の力で凍った物らしい。その神は【氷神リディニーク】…つまり、氷寒の中の神様が作った氷みたいだ……もし、もし氷寒がここの氷を溶かしたら……全てが湖の底に……うおお、おっかねぇ




 俺は何故か早足でトンネルを抜けたのだった




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 俺とクルルは宿に戻ってきた。時間はどうやらお昼過ぎ、俺とクルルは外で済ませてきたのでそのままゆっくり休むとしよう


 そういえば…宿の名前〔レイド・ニーク〕……リディニーク、なるほど、もじってるのか?…すると、部屋からエルルが出てきた


 「あれ?…二人ともどこへ?」
 「ああ、外で観光してきた」
 「うん。ついでにゴハンも食べてきた」
 「ええっ!? そ、そんな……ずるい。お母さんはどこかに行っちゃったから二人を誘おうかと思ってたのに……」


 なんてこった、このままじゃエルルが一人メシになっちまう……かくなる上は


 「え、エルル。ゴハンなら俺が一緒に食べるよ」
 「……いえ、いいです…無理しないで下さい」
 「いや、実は食べ足りなくて…露店にでも行こうかと思ってたんだ」
 「そうなの? お兄ちゃんいっぱい食べてたじゃん」


 コラクルル!! 余計な事言わない!!


 「よーし。じゃあ行こうか、エルル何食べる?」




 俺はエルルの手を引いて再び町へ……こりゃお腹壊すかもな




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 【白の大陸】のとある洞穴···ここに、一人の女魔術師が護衛も付けずにやって来た。彼女はウィゼライト・クラックと呼ばれる【特級魔術師】だった




 「準備は整ったかしら?」




 彼女が声をかけるのは人間ではない。その姿はまるで雄牛···三本の角を生やした3メートル以上の巨漢。全身を鎧で包んだ意思を持ったモンスター


 【魔神獣・バッファボーン】である




 「抜かりはない、すでに我が軍勢は我の指揮下に入っている···命令1つで意のままだ」


 「そう···なら、間もなく始められるわね」


 「ああ、くくく···オレを追い詰めた王都の連中を皆殺しにしてやる···ぐっ⁉ がっああっ⁉」


 「皆殺し···それはダメよ。ある程度は始末していいけど、国を動かすには人間が必要なの···ああ、奇跡を起こし···聖女として国を手に入れる···なんてこと、ああ···なんてこと」




 ウィゼライトは身体を震わせながら恍惚の表情を浮かべる···苦しみに悶えるバッファボーンはその様子を見て呟く




 「異常者め······己の私欲の為に他者を平然と犠牲に出来るとは、これだから人間は恐ろしい」




 バッファボーンは改めて人間の恐ろしさを感じた。そして思う···やはり神は正しかった。この世界は神の楽園であるべきだと


 バッファボーン自体の戦闘力はせいぜいSレート。実力よりも厄介なのが、モンスターの統率・洗脳の能力だった


 【魔神獣】は意思を与えられた【神獣】で、その力は個別で別れる。戦闘に特化した者もいれば、統率力に優れた者···バッファボーンは後者であった




 「決行は明日······私の聖女、いや···聖女王としての最初の1歩が······ああ、なんてこと···」


 「·········」




 バッファボーンはもうどうでもよかった


 暴れられればとうでもいい、と


 〔王都ブライトネーション〕は間もなく血に染まる




 一人の魔術師の欲望によって




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 翌日正午······王都上空は、無数の紋章に包まれた


 事態を把握してない者は空を見上げ


 魔術師は、その紋章の色に愕然とした


 町を覆い尽くす数千の紋章から、突然現れるモンスター


 城壁の外からも現れ、大型のモンスターが壁を破壊しようと暴れだす


 その様子を、ウィゼライトは笑みを浮かべて眺めていた






 「さあ、栄光の始まりよ···‼」






 狂ったような笑みを浮かべて




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 「もうすぐ王都に到着だな···」
 「そうだねぇ···」


 俺の隣にはレオパールがいる。エルルとクルルは後部座席で仲良く寄り添い眠ってる···かわいいな


 「ジュート、アンタにはホントに世話になった。何か礼ができればいいんだが」
 「いらね。だって俺が好きでやったことだしな、それにバザルドたちを見つけたのは俺だし、会わせようと考えたのも俺だ」
 「······やれやれ、アンタはホントにかわいくないね」
 「そりゃどーも」


 最高の褒め言葉だ。さすがレオパールだぜ


 王都まであと少し······だが、俺とレオパールはヘンな物を見つけた




 「······おい、レオパール」
 「ああ、なんてこった···」




 俺とレオパールが見たのは、王都の上空に輝く紺色の紋章だった


 「エルル、クルル、起きな‼」


 レオパールの怒号で飛び起きる2人




 間違いなく、嫌な予感しかしなかった





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