ホントウの勇者

さとう

ウールブル雪山⑥/帰る場所・白き愛



 エルルとクルルが家から出てくる気配がない…きっと上手くいったんだなと思い、ギンゲルさんの元へ行くことにした


 「あ、レオパール。お前は中に行けよ、母親なんだし話すこと沢山あるだろ?」
 「なに?……アタシは別に話すことなんて」
 「いーからさっさと行けって。娘のことは母親に聞くのが一番、クエーナさんの知らないコトはお前が話すのが一番いいからな」
 「むぅ……ま、まぁ…そういうことなら」


 そう言ってレオパールは家の中に。俺にはレオパールほどいい耳はないが、楽しそうな雰囲気を感じたのは気のせいではないだろう




 俺はその場を後にした…まずはバザルドに会わないと




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 一度ギンゲルさんの所に戻り、バザルドの狩り場はどこか聞いてみる


 「バザルドのヤツは…今日はこの山で狩りをするって行ってましたね。アイツの狩り場は集落の外れ…そうですね、ジュートさんとバザルドが戦った場所辺りです」


 なるほど、それならそこで待ってるか。家に入られる前に話が出来そうだ


 俺はギンゲルさんの家を出て早速向かうことにした……ちなみにギンガは昼寝してた


 集落を歩いていると、ちびっ子獣人が集まってきた


 「おにーさーん」
 「あそんでー」
 「おかしー」
 「あそぼー」


 うーん、かわいい。全員しっぽをふりふりしながら近づいてきた。俺は一人一人頭を撫でながら言う


 「ごめんな。今日は用事があるんだ…また明日遊んでやるからな」
 「うー」
 「わかったー」


 ちびっ子達はしょんぼりしてしまった…罪悪感。しっぽと耳が項垂れてる…しかたない


 「そのかわり、美味しいお菓子をあげよう……ほーら」


 俺は亜空間からクッキーを取り出し、一人に10枚ほどわたした


 「おおー。おいしそー」
 「やったぁ」
 「いただきまーす」
 「んん~おいしい~」


 ちびっ子達は喜んでクッキーを頬張ってる…カワイイ。孤児院の子供達を思い出してしまった


 お腹が膨れたちびっ子達は行ってしまった……この件が片づいたら、エルルとクルルも誘って一緒に遊ぼう。二人とも子供好きだし、いい遊び相手になりそうだ




 そんなことを考えながら、バザルドの狩り場に向かった




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 バザルドの狩り場の周辺に到着…俺は岩場に腰掛けてバザルドを待つことにした


 そして待つこと1時間……来た、バザルドだ


 バザルドの手には獲物らしきモンスターが縄で結ばれている。どうやら〔ブライトウルフ〕が5体ほどで、合計するとそこそこの重量のハズなのに、まるで何でも無いように担いでる


 バザルドは俺に気がつくと目を丸くした


 「これはこれはジュート殿…お久しぶりです」
 「久しぶり、あとその話し方やめろって」
 「うむむ…しかしあなたは妻の恩人……」
 「じゃあ恩人の命令だ」
 「ぐむむ…そこを付かれると……」


 めんどくせぇ…前もこんなやりとりしたっけ…


 「とにかく。こんな所じゃなくてウチに来い。食事の支度をしよう」


 あ、喋り方が戻った……なんかペースが掴みにくい


 「いや、お前に話がある…家だとマズイからここに来たんだ」


 俺は岩場に座るとバザルドにも岩の腰掛けをすすめる。バザルドはよく分かっていないみたいだがおとなしく座った


 俺は異空間からグラスを2つに高級なウィスキーを取り出す。そして、それを見たバザルドの目が輝いたのを見逃さなかった


 「とりあえず…仕事お疲れさん」
 「…すまんな」


 バザルドにウィスキーを注ぎ、俺のも注いでもらい乾杯する
 バザルドは一気に飲み干し……おかわりを所望した


 「ふう…この酒は効くな…ウマい」
 「そりゃよかった」


 バザルドは腰の袋から乾燥させた肉を取り出し囓った…そして一切れ俺に渡してきた


 「へぇ。ウマそうだな…いただきまーす」


 干し肉を囓る……かみ応えがあり噛めば噛むほど味が出る……まるでスルメだな




 しばし酒と干し肉を堪能した




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 「それで、話とは? 妻に聞かれると不味いのか?」
 「いや問題ない。問題は···心の準備だ。最初に話しておかないと、混乱するだろうからな」
 「······??」


 わけわからんって顔してる···ああ、こういうこと言うのヤダな


 「いいか······落ち着いて聞けよ?」
 「······ああ?」


 バザルドはグラスの酒を煽り一息つく






 「お前の家に、エルルとクルルがいる」






 バザルドはグラスを取りこぼした 




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 「キサマ···オレを舐めているのか‼」


 俺の胸ぐらを掴んで激昂するバザルド···そりゃそうか。死んだと思った娘が生きてる、しかも自分の家にいる何て信じられるワケないよな


 「だから落ち着け、俺が冗談でそんなこと言うワケないだろ」
 「············」


 バザルドは俺の服から手を離した。が、表情は硬い


 「······すまん」
 「いい。今、クエーナさんと一緒にお前の帰りを待ってる。一応、俺から事前に伝えておかないと混乱するからな」


 バザルドは考え込んでいる


 「そうか···生きてくれてるだけでもオレは救われた」
 「お前な···会ってもいないのにそんなこと言うなよ」
 「だが···10年だ。エルルは成長期が終わる頃だし、クルルに至ってはオレの顔すら知らん。今更オレに何ができる?」


 こいつ···もしかして


 「何お前···ビビってんの?」
 「·········そうかもしれん、いや···怖い。ははは、Sレートモンスター相手でも臆したことのないオレが、自分の娘に会うのにこんなに恐れるとは」


 何こいつめんどくさい。とにかく、いつまでもここにいてもしょうがない


 「とにかく行くぞ、お前に出来ることはある」
 「なんだと? それはなんだ···?」






 「父親だよ」






 バザルドの胸ぐらを引っ張って、俺は家に歩きだした




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 バザルドの家の前に到着


 「おい、覚悟決めろ。ここまで来たら逃げらんねーぞ」
 「·········むう」


 バザルドはキョロキョロ辺りを見回してる。すごい挙動不審だ


 「はぁ···俺が先に行くから」
 「まて‼······ここはオレの家だ。オレが行く」


 急に強気になったな。覚悟を決めたのか?


 「行くぞ‼」


 コンコン────うわぁ···こいつ、小さくドアをノックしやがった。普段は絶対やらないだろ


 「は〜い···あら、バザルド?」


 クエーナさんが明るく出迎える···後ろの俺と目があってすぐに理解したようだ


 「さぁ、入った入った。今日はごちそうよ‼」


 クエーナさんは嬉しそうにバザルドの腕を引っ張る。すると、奥からエルルの声が聞こえた


 「おかあさーん、これ味見して······あ」


 エルルは自然にクエーナさんをお母さんと呼んでる。そして今、バザルドと目があった


 「·············」
 「·············」


 硬直


 エルルとバザルドはピクリとも動かない。俺はクエーナさんを見たが、クエーナさんはニコニコしてるだけだ···さらに


 「おかあさーん、お姉ちゃーん、どーしたの······あ」


 クルルまで来た。これで親子が揃ったな···でも、この空気どうしたもんか···するとエルルが


 「あ、あの···お、おとう、さん···ですよね?」
 「え⁉ おとーさん⁉ わぁ、おっきいなぁ〜‼」


 エルルは勇気を出して言ったみたいだが、クルルはすでにバザルドの周りをグルグル回ってる。最初に緊張してたのがウソみたいだ。当のバザルドは······


 「うっ···う···おォォォォォォッ‼」


 男泣き···マジかよ


 「やれやれ···ま、これでいいのかね」


 いつの間にかいたレオパールが、肩を竦めながらそう言った




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 「それでね、その時お姉ちゃんと一緒にこう···スパっと切って倒したの‼」
 「ふふ、クルルは強いのね。しかもかわいいし‼」
 「そうかなぁ···えへへ」


 クルルとクエーナさんはクルルの冒険話で盛り上がっていた


 「なるほど···ここはこうやって解体するんですね。お父さん」
 「っ⁉ う、うむ···〔ブライトウルフ〕の肝は乾燥させて煎じると薬になる。湯で溶かして飲めばお茶にもなるしな」
 「ほう···それは知らなかったね」


 エルルはバザルドのモンスター解体を手伝い、レオパールはバザルドの知識に舌を巻いていた


 楽しい食事も終わり、家族で過ごす団欒···この時間はきっとかけがえのない大事な時間だ。するとクエーナさんが


 「所で···いつまで滞在出来るのかしら?」


 少し寂しそうにクエーナさんが言う。するとレオパールが


 「待ってくれ、アタシはこの子達を返しに来たんだ。帰るのはアタシとジュートだけだよ」


 「えっ······」
 「お、おかあ···」


 「待ちな、アタシは母親じゃない。孤児院からアンタ達を引き取った仮の保護者さ。これ以上アタシをお母さんなんて呼ぶのは許さないよ」


 その言葉にエルルとクルルが俯く。レオパールはくるりと後ろを向き黙りこくる


 「おい、レオパール······あ」


 レオパールは···泣いていた


 「アタシは行くよ、エルル、クルル···世話になったね」


 レオパールはそのまま部屋を出ようとドアに手をかけた···が、そこから動くことが出来なかった


 「······何のつもりだい?」
 「······イヤです」
 「行かないで‼」


 レオパールにエルルとクルルが抱きつき、動きを封じていたからだ


 「お兄さんが言ってました···私たちは幸せだって、お母さんが2人いるなんて羨ましいって···お母さんは···お母さんです」
 「そうだよ、ずっと一緒だったのに···行っちゃヤダよ···」


 レオパールはどうしていいかわからないみたいだ。するとクエーナさんが


 「レオパールさん。どうか···この子たちを連れて行ってくれませんか? 私とバザルドは、エルルとクルルに世界を知ってほしいんです」


 「クエーナ、ホントにいいのかい······やっと会えた娘だろ?」


 「はい。私とバザルドは···この子たちの帰る場所になればいいんです。たまに帰ってきてのんびりして、遊んで···そんな、帰る場所に」


 「チッ········」


 「お母さん···」
 「ダメなの···?」


 レオパールは頭をガシガシかいてため息をついた


 「1週間、ここにいる。帰ったら新拠点でこれからの打合せだ。エルル、クルル。しっかり甘えな」


 「······はいッ‼」
 「は〜いっ‼」


 エルルとクルルは大きな声で返事する




 これで···一見落着かな




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 それから数日は平和だった


 エルルとクルルの帰郷はすぐに集落全体に伝わり、次の日には宴になった。もちろん酒は俺が出しアグニが涙目になった。バザルドがはっちゃけて踊りだし、この日の宴は未だかつてない盛り上がりを見せて最高に楽しかった


 次の日にはエルルクルルが2人がかりでバザルドと模擬戦を繰り広げたが、エルルクルルの攻撃がかすりもせずに躱され、あっさりと負けてしまう。バザルドは嬉しそうにエルルクルルを鍛えていた


 ヤバかったのはこれを見たレオパールがバザルドに挑み、互角の勝負を繰り広げたが僅差でバザルドが勝利···レオパールがバザルドに惚れて冗談で誘惑したら、その現場をクエーナさんに見られてバザルドはボコボコにされた······レオパールも青くなってた


 バザルドとクルルは一緒に狩りに出かけ、エルルはクエーナさんと料理をして過ごし、レオパールはちびっ子たちと遊んでた···今更だがレオパールはかなりの子供好きだった


 バザルドの家の食事は毎日がパーティーみたいだ。クルルが仕留めたモンスターの肉や、エルルが作ったスープが並び、毎日が幸せだった


 俺はほとんど毎日ちびっ子たちやギンガと遊んでいた。食事には誘われたが、なるべく家族の時間を邪魔しないように努めた




 そして、1週間はあっと言う間に終わった




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 今日は出発の日···朝食を終え片付けが終わり、お茶を飲んでのんびりしてる······間もなく出発の時間


 レオパールが立ち上がり、バザルドとクエーナさんに一礼した


 「エルルとクルルはアタシが責任を持って預かる。なるべく多く帰らせるから安心しとくれ。アタシもここが気に入ったしね、許可が出れば···引退してここで暮らすのも悪くないかもね」


 「レオパールさん、その時はお待ちしてますね。エルル、クルル···気をつけてね」


 「はい。お母さん···行ってきます」
 「また帰ってくるね、その時はごちそうね‼」


 クルルは相変わらずだ···そんなこと言ったらバザルドが張り切りそうで怖い


 「······気をつけてな」


 不器用なバザルドはその一言だけ、でも···エルルとクルルの頭を大きな手で優しくなでた


 「今度は勝つからね、お父さん‼」
 「そうね、私たちもっと強くなります‼」
 「······ああ、また鍛えてやる」


 「よし。じゃあ行くか」


 俺の一言で全員が俺に向き直る。な、なんだよ···少しびっくりした


 「ジュートさん、ありがとうございます。こうして私たち家族が出会えたのはあなたのおかげです」


 「ああ。いつか必ず恩は返す」


 バザルドとクエーナさんの感謝の気持ちが伝わってくる···なんか照れくさい


 「いいって、エルルとクルルは俺にとっても妹だからな」




 そう言って笑う


 いつか必ず来よう、この雪の集落に




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 バザルドとクエーナさんと別れ、集落の人たちとも別れ歩き出す


 ここから再び王都を目指し、魔導車が走れる所まで移動する。レオパールたちはそのまま新拠点でこれからのことを決める、恐らくは【緑の大陸】で、アウラたちの手伝いかな


 俺は【黒の大陸トレマブラック】を目指すので、〔スノウ孤児院〕に別れを告げて出発する


 あと3匹···【九創世獣ナインス・ビスト】を集めたら、再び【時の大陸】に···でも、俺たちだけやれるのか?


 考えても仕方ない。とにかく今は先に進もう




 俺は前を向いて歩きだした






 この時、俺は気が付かなかった








 王都に危険が迫っている事に



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