ホントウの勇者

さとう

王都ブライトネーション⑥/安らかな日々・隠し事



 俺が〔スノウ孤児院〕の臨時職員になって2週間…波乱の毎日だった


 子供達の世話、食事の準備、一緒に遊んだりお出かけしたり…公園で雪合戦なんかもやったりした


 それ以外にも、孤児院のガタが来てるところを直したりして、日曜大工的なこともこなした。正直凄く楽しい、充実した毎日だった


 レンカ先生と協力して巨大なカマクラを作ったり、みんなで孤児院の雪かきもしたり…毎日忙しかったけど、本当に楽しい毎日だった


 レオパール達はまだ戻ってこない…副団長がケガした町まで約2週間、往復で1月は掛かる。少なくてもあと2週間は掛かる計算だ。それまではここの職員として頑張ろう


 今更だが、俺はかなりの子供好きだ。いつか…自分の子供が出来たら………考えたら凄く楽しそうだ。男の子か、女の子か……出来れば2人とも欲しい


 俺の孤児院での生活はこんな感じだった


 レンカ先生は25歳の独身女性。出身はこの町で、子供が好きだったので園長先生の所によく出向いてそのまま就職したらしい。俺から見れば…美人だけど男っ気がない、明るいお姉さんって感じだ


 一緒に働くようになって、レンカ先生は俺の接し方が変わった。なんて言うか…姉のように振る舞うのだ


 「ジュートくん。朝ご飯食べた?」
 「ジュートくん、ほら…これおいしいよ?」
 「ジュートくん、髪の毛…はい、これでいいよ」


 よく俺の世話を焼きたがる。俺もつい甘えてされるがままだ


 園長先生もやさしい。歳はまだ50歳で、健康そのもの。子供達と鬼ごっこもするし、美味しい料理は殆ど園長先生が作る。俺は宿の食事より園長先生のご飯が好きだった




 そんなある日のことであった




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 「じゃあお疲れ様で〜す」
 「ありがとね。ジュートくん」


 園長先生は今日はいない。近所の友達と近場の温泉に行ってる···たまにはのんびり、ということで俺とレンカ先生が勧めたのだ


 仕事が終わり帰宅する···レンカ先生は泊まり込んで子供達の面倒を見てる。ちなみにレンカ先生の自宅は孤児院のすぐ近く


 町を歩きながら宿に向って歩く······あ!


 「やべ···忘れた」


 今日、子供達と一緒に作ったクッキー···台所のシンクの上に置きっぱなしだ。忘れてた


 「仕方ない、取りに戻ろう」




 幸いまだ孤児院までは近いしな




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 孤児院は真っ暗だった。当然だよな、全員寝かしつけてから出てきたんだし


 俺は気配を消して忍び足で台所へ向かう···あった、子供達と作ったクッキー。ちょっと形は悪いけど味は悪くない。ちょっと甘すぎるくらいだ


 レンカ先生も寝たのかな?···少しだけ大部屋の様子を見てみるか。ゆっくり歩いて静かに大部屋の引き戸を開ける···するとそこには、レンカ先生がいた。ん?···何か小声で話しかけてる




 「う···ヒック···お母さん···レンカ先生···」
 「······大丈夫···先生はここにいるよ」




 あれは···最近入ってきた女の子だ。確か···父親が逃げて母親が病死して、行き場がなくてここに来た女の子だ。入所してまだ誰も友達がいない、心を閉ざして塞ぎこんでるんだ···レンカ先生が付きっきりで側にいるけど···


 子供達が寝てる場所から少し離れた所で布団をしき、そこにレンカ先生と2人で寝てる




 「先生···辛いよぉ···お母さんに会いたいよぉ···」


 「うん···会いたいね···」


 「先生ぇ···先生ぇ···」




 余りにも悲痛な泣き声···死んだ人間に会いたい、それが叶えばどんなに嬉しいか。叶えられるなら叶えてあげたい


 でもそれは出来ない。俺がどんなに強くても、どんな魔術を使っても···死んだ人間は生き返らない


 残された人間に出来るのはきっと···悲しみを乗り越えて前に進むことだろう。でも···あの女の子にはまだその力がない。誰かが側にいてあげないと、心が折れてしまう




 「ラナ、これを見て···」


 「······?」


 「キレイでしょう?···ほら」


 「うん···何これ?」


 「『安寧の芳香花ラハト・フラグレンツァ』って言うの···いい香りでしょ?」


 「·········う···ん」


 「ラナ、お母さんはきっと···あなたの幸せを願ってる。あなたが成長して、結婚して、子供が産まれて···そんな明るい未来をきっと望んでる···お母さんの想いを忘れないで、強く生きなさい···」


 「···お···かあ···さん···」


 「また明日······おやすみ」




 レンカ先生は、そのままラナと眠りについた




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 俺は孤児院を出て町を歩いていた


 町はまだまだ明るい···酒場は賑わい、冒険者や傭兵にとってはまだまだ夜はこれからだ


 「·················」


 俺はすぐには宿に戻ることはなかった






 レンカ先生は、何をしたんだ?






 あの時···一瞬、間違いなくレンカ先生から魔力を感じた。でも···あれは生活魔術じゃない


 考えられる可能性は······1つ。でも、それが何を意味するのか


 この2週間俺は孤児院で働いた。レンカ先生を姉みたいに感じたのは間違いない


 レンカ先生は子供達を愛してる。これは間違いない···命を掛けてもいい


 だからこそ聞くべきかもしれない、レンカ先生の真意を




 俺は1つの決意をし、宿屋に戻った




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 「さぁジュートくん。行きましょうか」
 「はい···」


 孤児院を園長先生に任せ、俺とレンカ先生は買い物に来ていた。夕飯の食材を買いに来たのだ


 「今日のメニューは〜···野菜たっぷりシチュー‼」
 「そうですね。野菜たっぷりで」


 レンカ先生はいつも明るい。まるで太陽のように、孤児院を照らしている


 「レンカ先生、買い物が終わったら···ちょっと話があります」




 だからこそ···聞くべきだ




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 俺とレンカ先生は町はずれの高台に来ていた


 ここは町はずれの公園の上にある林の中で、高台の先は開けており城壁の向こう側の平原がよく見えた




 「おお〜···いつ見てもいい景色だねぇ〜。それで、お話って何かな?」




 先生はどこまでも明るい。できればこの笑顔を曇らせたくない




 「な〜に? そんなに深刻なお話なの?」


 「レンカ先生······」


 「ん〜?」
























 「切華斬駆きりはなざんくって···知ってますか?」
























 レンカ先生の表情が···凍り付いた




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 レンカ先生は青ざめていた


 「な、なんで······あなた、が······」


 この反応······間違いないな


 「昨日の夜、先生が魔術を使うのを見たんです。でも···それは普通の魔術じゃない、神の力だった」


 「あ、ああ······」








 「レンカ先生は······〔神の器〕ですね···?」








 レンカ先生は、膝から崩れ落ちた




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 「お、お願い·········」
 「レンカ先生······?」


 レンカ先生は蹲り震えてる···両手で顔を覆い声を震わせながら俺に言った




 「お願い···誰にも言わないで‼」


 「先生······」


 「この町は···私の第二の故郷···ザンク達から逃げ出した私の安息の地。子供達の笑顔が私の生き甲斐なの······お願い」


 「·········先生」 


 レンカ先生は俺を見て必死に懇願してくる。なんで······この人はザンク達とは違うんだ?


 「先生の秘密を知ってるのは俺だけです。俺を殺せば···何も変わりません。俺は旅の冒険者、園長先生には町を出たとでも言えばいいんじゃないですか?」


 これは賭けだ···レンカ先生は優しい先生···そう思いたい


 「······そんなこと、出来る訳ないじゃない。あなたは子供達の優しいお兄さんなのよ?」


 「レンカ先生······」


 レンカ先生は涙を流しながら微笑む。俺は···なんてバカなんだよ。暴かなくていい秘密を暴いてレンカ先生を苦しめてる


 自分勝手な正義感。もしかしたらレンカ先生には何か目的があって子供達といるのかもしれない···そんなことばかり考えていた


 でも······違った


 レンカ先生は純粋に子供達を愛してる。あの孤児院は先生の帰る場所なんだ···それを俺は奪おうとしていた




 「レンカ先生······俺もなんです」


 「え······?」


 俺は······【神器ジンギ】を発動させた


 「ウソ······まさか⁉」






 「俺も···〔神の器〕なんです」









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