ホントウの勇者

さとう

王都ブライトネーション②/目的のために・歪みの果て



 ウィゼライト・クラック 16歳…彼女は魔術学園で最強の存在となっていた


 元々かなりの才能を宿していたが、教師の指導と自らの鍛錬で成長…教師ですら彼女には適わなくなった


 そして…16歳で上級魔術師に。さらに17歳の時に王都に招集され、戦場を経験した


 彼女は後方で魔術支援と回復。正直出番はなかったが言われたとおりの役目はこなした


 敵はSSレートのモンスターの【神獣】 この時に1500人の冒険者と傭兵が出向き、なんとか倒すことが出来たが、犠牲は大きかった


 500人以上が死亡し、800人以上がケガをしたのだ…重傷者が多すぎて移動も出来ない。医者や薬草も足りずにただ死を待つだけの状態の者が何人もいた


 ウィゼライト・クラックは、この時を待っていた


 奇跡に相応しい現場……彼女はこの瞬間が必ずあると信じ、後方支援は殆ど行わずに魔力を温存していたのだ。場所も開けた戦場の広場、奇跡を起こすのは今しか無かった




 「みなさん……あなた方は必ず助かります。私を信じて下さい!!」




 魔導拡声器を使い周囲一帯に声を届ける……ほぼ全ての人間が彼女を見た


 そして……彼女は魔術を使う


 ウィゼライトが行ったのは【白】・【白】・【白】の融合ブレンド、すなわち【固有属性エンチャントスキル】の発現。神にのみ許された属性


   それが後の【白の特級魔術師 ウィゼライト・クラック】が放つ魔術


 【固有属性エンチャントスキル】・『光白治療リペアクーラティオ


 その光はウィゼライト・クラックを中心に波紋のように広がり周囲の人間を癒やす。病気は治せないが外傷に対して、人間が使える究極の癒やし。その効果は広範囲にひろがる【無垢なる光セイファート・ライフ】だ


 半径数キロメートルに渡って光は行き届き、800人全員が全快した


 この日、ウィゼライト・クラックは【聖女】として祭り上げられた




 全ては彼女の計算通りだった




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 そこから先はほぼ彼女のシナリオ通りだった


 戦いが終わり、彼女は【特級魔術師】に任命され、王都の住民から絶大な支持を受けた


 彼女はすぐに【白の大陸】を回り、大陸中の怪我人や病人を治療して回った


 彼女は大金持ちになり、欲しいものは何でも買った…貴金属、芸術品、調度品…別荘や魔導車なども買いそろえ、金で手に入る物は何でも手に入れた


 しかし……彼女は満たされなかった。何かが物足りなかった


 怪我人の治療は正直面倒だった


 魔力を節約するために、料金を設定して対応したが、それでも人間はやって来た。癒やしの魔術はそれほどの価値があるとわかっていたから料金は高いと、民衆は何の疑問も持っていなかった




 ウィゼライト・クラックが求めたのは何だろう。有名になること…お金を手に入れること




 有名にはなった…8大陸でも8人しかいない【特級魔術師】の1人として君臨し、【白】の魔術で彼女に適う物はこの8大陸を探してもきっといないだろう。しかも彼女は【聖女】として民衆に祭られ、王都には〔ウィゼライト教会〕が建設され毎日何百人もの人間が礼拝に来る。この教会がある限り、彼女はお金に困ることはないだろう


 お金……彼女はもう大金持ちと言ってもよい。大陸中から集めたお金は彼女自身がゴルドカードに入金し、秘密の金庫にしまってある。この金庫は絶対にばれる心配がない。好きな物をいつでも沢山買うことが出来る


 ならば…何がほしい?


 なぜ満たされない?


 彼女は再び悩むことになった




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 答えはすぐに出た


 彼女が欲しかった物……それは




 奇跡の賞賛…金では買えない物だった




 あのとき…【特級魔術】を使って大勢を治療したとき
 あのとき…魔術学園前で犬を治療したとき


 沢山の喝采、拍手が彼女を襲った。それは決して金で買うことが出来ない幸福で、彼女が有名になるきっかけそのものだった


 あの興奮…あの拍手をもう一度味わいたい……


 彼女はそのことばかりを感じるようになっていた


 満たされない毎日を過ごし大陸中を回る。つまらない個人の賞賛は既に聞き飽きていたし、彼女の心はその程度では満たされない…ならばどうすればいい?


 そんなことを考えながら王都に戻り、王に帰還を報告した。すると王は語る


 この近くに【魔神獣】が現れたと。そしてその【魔神獣】は既に手負いで、冒険者によって瀕死の重傷を負わされて逃げた。この周辺に潜んでる可能性があるので見つけ次第討伐せよ…と


 正直、彼女は興味がなかった
 そんな手負いなら自分が出る幕でもない。その辺の冒険者や傭兵に任せればよい




 この時はそう思っていた


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 ウィゼライトは王都から少し離れた獣人の集落へ向かっていた


 護衛は3人…全員がAランク冒険者に相当する兵士である。彼女は常に3人ほど護衛を付けて歩いていた…そして、村に向かう街道の外れで出会ったのだ


 「コイツは……ウィゼライト様、お下がり下さい」
 「コイツは…【魔神獣】です!!」


 目の前にいた【魔神獣】は、牛のバケモノだった
 大きな身体はボロボロで、悔しそうにこちらを睨み付けている




 「人間…どもめぇ……オレは貴様等をゆるさん!! オレの怒りでこの大陸を滅ぼしてやる!! 我が軍勢の力で貴様等を滅ぼしてやる!!」




 ウィゼライトは【魔神獣】の最後のあがきを聞き……ひらめいた






 「あ、そっか……簡単じゃない」






 「え?」
 「ウィゼライト様?」
 「どうされました?」






 「うん。いいこと思いついたの」






 次の瞬間、3人の護衛は爆散した




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 「……な!?」


 「あなた…大丈夫?」


 【魔神獣】は何が起きたか理解出来なかった
 目の前の女が…守られていた女が、仲間を殺した
 そして、自分を心配していたのだ


 「キサマ…何が目的だ……」
 「まぁまぁ、とりあえずケガを治してあげる」
 「何?…ぐっ…ガァァァァァァっ!?」


 【魔神獣】の胸…心臓付近に穴が開き、そこに何かを埋め込まれた


 「き、キサマァァァっ!!」
 「はいはいストップストップ………は~い。治ったよ」
 「!?……キサマ。一体」
 「ふふふ、まぁここじゃアレだし…場所変えよっか」


 1人は歩き出す……しばらくして1匹も歩き出し、林の中に入っていった




 「ここでいっか。さて……アナタを助けたのにはワケがあるの」
 「……………」
 「まぁ警戒しないで……お願いがあるのよ」
 「……………」
 「聞いてる?……えいっ!!」
 「!? グォッォォォォォォ!!!!」


 突然、【魔神獣】の胸に激しい痛みが襲う……


 「アナタの心臓付近に〔魔導核〕を埋め込んだの。私の魔力一つで簡単に殺せるから……気を付けてね?」


 「き、キサマ……悪魔め…」


 胸を押さえて苦しそうに呻く…従うしかなさそうだった




 「ねぇ、喝采や賞賛には何が必要だと思う?」


 「なに?……どういう意味だ?」


 「大勢の祝福…羨望…賞賛……ああ、注目を浴びて有名になりたい…アナタに分かるかな?」


 「知らん。人間など理解出来ん」


 「つまらないわねぇ…とにかく、何が必要か分かる?」


 「……………何なんだ?」


 ウィゼライト・クラックはにっこり笑う。その明るさはまるで少女の笑顔だった




























 「悲劇……かな」
























 【魔神獣】は黙って聞いていた




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 「悲劇があれば希望は生まれる。私が希望になれば人々は私を崇める…称える……ああ、素晴らしい」


 「それで?……キサマはオレに何を望む……?」


 「簡単よ、アナタさっき…我が軍勢って言ったわね?」


 「…………ああ」


















 「その軍勢を使って、王都を襲撃して欲しいの」


















 【魔神獣】の思考は停止する寸前だった




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 「不意打ちで王都を襲撃、そこで私が登場し希望となる……ふふふ、考えただけで面白そう。時間が必要なら与えるわ」


 「キサマ……何を考えてる?」


 「私が欲しいのは賞賛、喝采よ。それ以外はどうでもいいの」


 「…………信じていいのか?」


 「私はアナタの軍勢を信じるわ」


 「貴様···それでも人間か?」


 「ええ、私の名を大陸中に広めるにはこれしかないわ。これは私の栄光の第一歩よ···ふふふ、あなたにも協力してもらうわよ?」


 「ふん。お前に握られた命だ、協力してやる···しかし、準備に時間がかかる。構わないな?」


 「もちろんです。ふふふ、裏切るなんて考えないで下さいね? あなたに埋め込んだ〔魔導核〕は私の意思一つで爆破します」


 「チッ···忌々しい人間め。このオレを使おうとはな···しかし、オレも連中には恨みがある···くくく、楽しみにしておけ」


 「ええ、私の栄光の為のイケニエ···くくく、ハハハハハッ‼」




 「くくくっ···人間とはここまで醜くなれるのか、実に愚かで······恐ろしい」








 王都に危険が迫っていた




 それを知るものは誰1人いない





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