ホントウの勇者

さとう

王都ブライトネーション①/歪みの始まり・自覚なき悪意



 【白の大陸ピュアブライト】にも貴族は存在する


 その中の一つにして最高の権力を持つ家……クラック家


 クラック家現当主、グリエガロ・クラックは女好きで有名であった。正妻の他に愛人が42人存在し、毎日抱く女を変えて日々を過ごしていた


 中には一度抱かれてそのまま忘れ去られた者もいれば、飽きられて捨てられた者、奴隷に落ちて死んだ者と、数多く存在し、実際の愛人はゆうに100を超えたと言われてる


 そして、数多くいる愛人の1人…デミー・クラックが生んだ一人娘




 ウィゼライト・クラック




 後に彼女は【白の特級魔術師】と呼ばれる存在となる




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 彼女の生まれは【白の大陸ピュアブライト】。その中で2番目に大きい唯一魔術学園がある町、〔魔術都市エンデューロ〕であった


 クラックの名字を名乗ってはいるが生活は極貧…グリエガロ・クラックは99番目に抱き子供を授かった女のことなど既に忘れていた。なので母親であるデミーは毎日パン屋で働きに出ていた


 町の人間はグリエガロ・クラックの女好きのことを知っていたので、デミーを可哀想な女といい哀れんだ。デミーはその視線に耐えながら、幼い娘を一生懸命育てた…しかし


 「わたし…あんな綺麗な服着てみたいなぁ…」


 ウィゼライトは綺麗な物やキラキラした物が大好きで、よく河原で拾った石や、町で拾ったガラス片などを集めてコレクションし、ひどいときにはゴミ捨て場にあった洋服を拾ってきたりした…デミーはすぐにやめるように言ったが、ウィゼライトはやめようとしなかった


 「お母さん。あのキラキラはどうすれば私の物になるの?」


 ウィゼライトが指さしたのは宝石店、そこは魔導ランプの光がキラキラと輝いている…純粋な悪意がデミーを苦しめた


 「いい、ウィゼ…お金よ。お金がないとアレは手に入らないの」


 「お金?……それはなに?」


 「この世はお金で全ての価値が決まるの…私達みたいな人間はそれを手に入れる資格すらない。毎日少しづつボロボロになって、最後は消えていく……そういう運命なのよ」


 「じゃあ、この世はお金で決まるの?…どうすればお金は手に入るの?」


 「働いて働いて……仕事をして給料を貰うの。等価交換よ、働きに見合ったお金をもらうの」


 「えーっ……もっと楽にお金がほしい~っ!!」


 「全くこの子は……そうね、なら…有名になるの」


 「有名に?」


 「そうよ。有名になればお金のほうから寄ってくるわ…あなたのお父さんもそうだった。町一番の娼婦だった私に大金を払って言ったのよ。「俺はお前が欲しい」って……結局、一度抱いて捨てたけどね…」


 「???……ふーん」


 「冗談よ。マジメに働けばその分お金はもらえるわ。きっと報われる…」




 デミーはこの町で一番の娼婦として有名だったが、グリエガロ・クラックがその噂を聞きつけ彼女を買って嫁にした。しかし一度抱いただけで彼女を捨てた。グリエガロ・クラックは最後にドリーにこう言ったのだ


 「他人に抱かれた女はこういう物か……たいした物ではないな」


 そしてデミーは一晩で捨てられ、その身にウィゼライトを宿し追われた


 以前務めていた娼館も、曲がりなりにもクラックの名を持つドリーを雇うことはなくなり、ドリーは一気に地に落ちた。しかし、彼女はグリエガロ・クラックを恨んでいなかった


 娼婦は魔術を使い妊娠させないようにしてから抱かれる…なので子供を授かるのはほんの一握りの娼婦だけ、娼婦として生きる以上結婚などは夢のまた夢だからだ




 「さぁウィゼ、帰りましょう」
 「うん…」


 親子は仲良く手を繋ぎ、雪の中を帰って行った




















 「有名になれば……お金が……」




















 ウィゼライト・クラック……当時7歳




 その歪みは、すでに始まっていた




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 ウィゼライト・クラックが11歳になる頃…ドリーは娘の異変に気がついた


 「ウィゼ…それ、どうしたの?」
 「これ?…貰ったの」


 彼女の手には綺麗なブローチが握られていた
 どう見ても高価な物、おそらく数万ゴルドはするだろう


 「どこで貰ったの?……誰から?」
 「ふふ、ないしょ」


 ドリーに微笑みかけるウィゼライトは、年相応の美少女にしか見えなかった


 ドリーはそんな娘の笑顔が、少しだけ恐かった




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 ある日ドリーは、パン屋の仕事が早く終わったので早めに帰宅した…すると、帰る途中で娘を見つけたのだ


 「あのこ……どこへ?」


 ウィゼライトは人気のない道に進んでいく。そこはスラムと呼ばれる危険な場所でもあった


 「ウィゼ……!?」


 ウィゼライトはニコニコしながら奥に進んでいく…その足取りに迷いは感じられない


 しばらく歩くとウィゼライトを見失った。ドリーは結局見間違えたのだろうと自分を納得させて帰宅することにした。そして…恐ろしい轟音を聞いてしまう


 まさか……ウィゼライトが。そう思って現場に向かう


 そして……ドリーは見た






 「たっ…助けてくれぇ……頼む!!」


 「いいよ? でも……お金がほしいなぁ」


 「わ、わかった。わかったぁ…」


 「ふふふ。ありがと」






 それは……暴力だった。そしてその中心にウィゼライト・クラックがいた


 周囲には何人もの柄の悪いスラムの猛者が倒れている。中には武器を持った者や魔術を使った形跡もある。それなのにウィゼライトは全くの無傷


 ドリーは青ざめて我が子を見た……そして、聞いた




 「なんで…こんなことを……」


 「決まってるじゃない、お金が欲しいのよ。お金があれば何でも手に入る。服も、宝石も、美味しい物も……なーんでも。この裏のスラムを仕切ってるあなた達をツブせば有名になれると思ったけど……全然ダメね。こんな狭い世界じゃ誰も見やしないわ。あ~あ、つまんないの」


 楽しそうに、嬉しそうに、つまらなそうに……コロコロと表情が変わる。まだ11歳の少女の笑顔で


 「ううぁぁあああァァ!!!」
 「バカやめろぉぉぉぉっ!!!」


 1人の若者が折れた剣を持って飛びかかった
 仲間がそれを止めるが、それは仲間のためではない


 「ふふっバーカ!!」


 本当に楽しそうにそれは発動する


 そこに100を超える白い紋章が輝き、そこから無数の純白の光が飛び出した
 その場にいた全ての人間を貫いて、光は爆散……そこには誰もいなくなった


 【白】の初級魔術【光爆ライトボム


 ウィゼライト・クラックはその魔術を一瞬で100以上展開、爆破させた


 「あれ……?」


 ウィゼライトは柱の陰を見る…が、そこには誰もいなかった


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 「ただいま~っ」
 「おかえり、ウィゼ」


 ドリーはウィゼライトを笑顔で出迎えた


 「は~っ…お腹空いたなぁ…」
 「もうすぐご飯、出来るからね…」
 「うん」


 いつもの会話…いつもの笑顔。ウィゼライトは母に言った


 「ねぇお母さん…お母さんが昔、私に言ったこと覚えてる?」


 「え~? 何か言ったかなぁ?」


 「ひっどーい。忘れちゃったの……私は覚えてるよ?」


 「何かしら?……」


 「お母さんが言ったこと…有名になればお金が手に入る。そうすれば好きな物は何でも買える……あのキラキラも私の物になる」


 「………そんなこと言ったかしら?」


 「うん……ねえ、お母さん」






























 「どうしてそんなに・・・・・・・・震えているの?・・・・・・・






























 この日の夜。ドリー・クラックは全てを捨てて逃げ出した




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 母親が逃げ出しても、ウィゼライトは困らなかった


 お金は稼いだので生活には困らない。しかし…有名になるには裏社会ではなく表の舞台が必要だ


 彼女は考えた……が、そういい手は思いつかない


 彼女は自分の才能を利用しようと考えていた。それは…魔術。彼女は【白】の適性を持つ貴重な魔術を使えるが、勉強などしたことのない彼女は、自分がどれほど貴重な才能を宿しているか理解していなかった


 そして…転機は訪れた


 ある日彼女は、散歩をしながら町の中央までやって来た


 特に理由はない。ただなんとなく散歩していただけ…彼女の思考は有名になること、そしてお金を稼いでキラキラを手に入れること、それだけだった


 露店で果実水を買ってベンチに腰掛ける。すると、彼女の足下に1匹の犬が擦り寄ってきた


 「あら?……ふふ、かわいい」
 「ワンワン!!」


 彼女は生き物に特別関心を持っていない。それは人間も、動物も同様だった…しかし、自分に擦り寄ってくるものは無碍にしなかった


 しばらく犬の頭を撫でていると、周囲が騒ぎになった


 「……なにかしら?」


 たいして気にならなかったが騒ぎの中心に首を向けた……すると、そこでは魔術学園生同士がケンカをしているのが見えた


 「~~~~~っ!!」
 「~~~~~っ!!」


 何か言い争いをしているが聞こえない。すると1人が魔術を使ってもう1人を吹き飛ばした
 当然、吹き飛ばされた方も反撃…辺りは騒然となった


 「はぁ……くだらないわね…って、あ!!」


 犬は走り去ってしまった……騒ぎの中心に


 「なんだキサマは…失せろ!!」
 「キャインッ!!」


 決闘の邪魔をした犬は吹き飛ばされて動かなくなる…僅かに呼吸はしているが、口からは血を吐いて苦しんでいる。どうやら内臓を痛めたようだ


 「さて、続き……ん?」
 「なんだお前は!!」


 2人の学生魔術師の間に、ウィゼライトが割り込んだのだ
 視線の先には一匹の犬……彼女は少し気分が悪かった


 「あなた達…やめなさい」


 冷ややかに言う…周囲はどよめき困惑する


 「ふざけるな!! 決闘の邪魔を…うべっ!?」
 「失せろ!! キサマごと!!……うがっ!?」


 2人の学生魔術師は光弾に吹っ飛ばされて気を失った……


 「…………バカね」
 「クゥゥ……ゥゥ……」


 犬は苦しんでいた
 瀕死の状態で今にも事切れそうな犬を、ウィゼライトは優しく抱き上げた。その姿を周囲の人間は息を吞んで見つめていた


 ウィゼライトは別に周囲を気にしていない。彼女にとって人間は、金のなる木程度の存在だ。どれだけわめこうが、騒ごうが、彼女の心には響かなかった


 ウィゼライトは無意識に魔術を発動させる


 【白】の中級魔術 【聖母祝福オラトリオ・キュアー


 彼女が初めて使用した回復魔術だった。淡く白い光が犬を包み込み……犬はすっかり元気になって走り去った


 「全く、治療費を請求すればよかったわ」


 つまらなそうに吐き捨て立ち去ろうとした……そのとき




 周囲から大歓声と拍手の雨が降り注いだ


 「コレは……」


 流石にウィゼライトは驚いた。彼女がしたのはムカついた魔術師をたたきのめして、ケガをした犬を治療した…それだけで、民衆の心をガッチリと掴んだのだ


 「ああ、こんなに簡単だったんだ」


 有名になる
 それは人のために何かをする
 そうすれば人の心は動かされ、感動し、喜ぶ


 必要なのは奇跡


 自分の才能で奇跡を起こし、人の心を掴む。そうすれば有名になれる
 そうすればお金が沢山はいる。そうすればキラキラがいっぱい手に入る


 拍手を浴びる彼女の元に、1人の人間がやって来た


 聞けば…この魔術学園の校長という上級魔術師だ。ぜひこの魔術学園に入学してほしいとのこと


 彼女は迷わなかった。奇跡のためには力と知識が必要だ


 彼女の方針は決まった




 奇跡によって人の心を掴み、自身を祭り上げさせる




 有名になる、そして稼ぐ……




 ウィゼライト・クラック 13歳の時だった


 

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