ホントウの勇者

さとう

ウールブル雪山④/真実・白き過去



 攫われた二人の娘···まさかな


 俺の中にとある姉妹の顔が浮かぶ
 白い耳に犬しっぽ、頭を撫でると嬉しそうにはにかむ笑顔、俺がプレゼントしたナイフを嬉しそうに振るっていた姉妹


 「あの···それっていつの事ですか?」


 ギンゲルさんは不思議そうな顔をする···なぜそんなことを? って感じの顔だな


 「そうだね···アレは10年ほど前かな」
 「············」


 時間的にもだいたい合うな。もしかしてもしかするかも···なんてこった


 「気になるのかい?···なら、私が知ってる事を教えてあげようか?」


 「·······お願いします」


 「······うん。あれは10年ほど前だったかな···」


 ギンゲルさんは過去を語りだした




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 今から10年ほど前に、バザルドとクエーナさんは出会った。バザルドはこの〔ウールブル雪山〕出身で、クエーナさんは〔ツァガーン雪山〕の出身だったそうだ


 当時のバザルドは24歳。すでに〔三狼牙さんろうが〕として最強の戦士の一人だったバザルドは、いつものように〔ツァガーン雪山〕で狩りをして帰る途中だったそうだ


 ちなみに〔白牙狼〕の身体能力なら〔ウールブル雪山〕から〔ツァガーン雪山〕まで一日掛からないらしい。とんでもないな


 〔ツァガーン雪山〕を下山途中にモンスターの気配を感じてそちらに向かうと、一人で戦う女戦士を見つけたそうだ


 もちろんそれはクエーナさん。当時のクエーナさんは19歳。戦士としてまだ若いが、実力はかなりのものだったらしい


 その踊るような剣舞、白髪をなびかせて戦う姿にバザルドは一目惚れだったそうだ。そしてクエーナさんのピンチに颯爽と駆けつけてモンスターを一刀両断···クエーナさんもバザルドに惚れてしまい、2人は恋人になる


 デートは専ら雪山。共に狩りをして一夜を明かし、共に朝日を見上げ、流れる川で水遊びをして子供のように楽しんだ。そして···お互いの両親も認めて晴れて夫婦となり······子供が出来た


 バザルドとクエーナさんは大いに喜んだ。集落の獣人達も喜び、幸せの絶頂だったらしい。一人目の女の子を出産、翌年には二人目を出産···バザルドは生まれる度に男泣きしたそうだ




 そして、事件は起きた




 生まれた子供を見せる為に、バザルドとクエーナさんは〔ツァガーン雪山〕に向かっていた。もちろんバザルドは家族を守る為に装備をしっかり整えていた。クエーナさんはまだ小さな子供を抱きかかえていたので、荷物は最低限の物だけだったそうだ


 〔ウールブル雪山〕を降りて街道を歩く···すると、大きな魔導車が一台、後ろを走っていたそうだ


 バザルドは警戒した···しかし、魔導車が普通通り過ぎて、ひと安心した時だった




 突如、後ろから小さな矢が飛来し、バザルドの腕に刺さったのだ




 魔導車は囮、本命は後ろをゆっくり歩いていた人影だったのだ




 それと同時に魔導車から人間が降りてくる。それは獣人を狙った人さらい集団だったらしい。獣人は身体能力に優れているので労働力としては最適で、8大陸では獣人の人さらい集団が増えているそうだ


 バザルドは戦おうとしたが力が入らない···どうやら矢に毒が塗られていたみたいで、本来の力を出せないままボロボロにされてしまう


 この間にクエーナさんは子供と一緒に攫われそうになるが、クエーナさんも元戦士、武器はなくても体術で人さらいを何人か倒したが、子供がいたので力が出せずに拘束されてしまった


 子供を引き離され、妻を暴行されそうになったバザルドはブチ切れ、毒を無視して立ち上がり、その場にいた人間を8人ほど殴り殺したそうだ。そして、クエーナさんを助けた所で力尽き、クエーナさんはバザルドの腰からナイフを抜いて戦った···しかし、劣勢を感じた人さらい集団は、子供2人を連れて逃げてしまう···毒を受けたバザルドと、戦闘でケガをしたクエーナさんでは追うことが出来ずに逃がしてしまった


 この時からバザルドは人間を憎むようになった。クエーナさんは子供を諦められずに毎日泣き崩れ、体を壊してしまった···




 これがバザルドとクエーナさんの過去···




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 「バザルドは気さくで明るいヤツだったけど、その日を境に変わってしまった···人間を深く憎み、私達と関わろうとしなくなった」


 「···············」


 この質問はするべきなのか?


 でも···ここまでの情報から間違いないと思うけど、もしそうだったら俺は言うべきなのか? 仮にそうだったらとしたらバザルドは探しに行くと言い出しかねない。それなら名前だけ聞いて俺が見つけて連れてきた方がいいかもしれない




 「ギンゲルさん···その姉妹の名前は何て言うんですか?」




 すると、ギンゲルさんは懐かしむように言う


















 「ああ。姉がエルル、妹がクルルと言うんだ。それがどうかしたのかい?」








 どうもこうも······大当たりだよ




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 見つけてしまった···エルルとクルルの本当の両親


 これは俺の予想だが、多分攫われた2人は一度、人さらい集団が所有してる獣人奴隷に預けられて育てられ、そこから売られたのだ。エルルとクルルが母親と思っていた女性は売ったんじゃなくて手放したんだろう


 これで俺は関わらざるを得なくなった


 エルルとクルルをここに連れてきて、バザルドとクエーナさんに会わせる


 確か、ブランを王都に護衛する依頼でこの【白の大陸】に来てるはずだ。入れ違いで帰った可能性もあるし···王都で情報を集めよう。見つけたらレオパールには悪いけど、寄り道して貰おう


 レオパールはブランの護衛依頼のついでにエルルとクルルの両親を探すとも言っていた。まさか俺が先に到達するとは思わなかった···やれやれ




 明日は出発だ···今日はもう寝よう


 俺は客間に案内してもらい毛布に包まる···すると


 「あんちゃん、おれも一緒にねるっ‼」
 「···っと、よしよし···おいで」


 宴から帰ってきたギンガが飛び込んできた
 俺はその頭を優しく撫でてやる···すると、ギンガはすぐに眠りついてしまった


 俺ももう寝よう······






 宴は、ようやく終了した




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 朝起きるとギンガが俺にしがみついていた


 「おいギンガ、朝だぞ起きろ」
 「う〜〜ん···あんちゃん···ふわわ」


 頭を撫でるとさらに寝てしまう···こりゃマズイな


 「ほらギンガ、朝ごはんの時間だぞ‼」
 「ごはんっ⁉」


 ごはんで飛び起きたぞ···まぁいいか
 顔を洗って食卓に向かうと、長老とギンゲルさんと、見知らぬ女性がいた。するとギンガは


 「父ちゃん、母ちゃん、じいちゃんおはよーッ ごはんごはん‼」


 母ちゃん···なるほどな。ギンガのお母さんか


 席に着くと朝食が始まる。メニューは野菜スープと焼いた肉、木の実や果実などだ


 朝食を終えるとギンガのお母さんが果実湯を入れてくれて、全員でまったりしていた。するとギンゲルさんは


 「ジュート君、出発はいつ頃にするんだい?」
 「ええと、これからバザルドに挨拶して、その後すぐに出発します」
 「ええ〜〜っ あんちゃんもう行くの? あと一月くらいいてもいいじゃん」
 「ギンガ······」
 「ひぃっ⁉ 冗談だよ母ちゃん‼」


 ギンガは母親に頭を小突かれてる、騒がしいけど面白いヤツだな···よし、行くか


 「皆さん、本当にお世話になりました。ギンガ、元気でな」


 「あなたなら何時でも歓迎します。お時間がありましたら是非この集落へお越し下さい」


 「ジュートさん。こちらこそお世話になりました。こんなに楽しそうな息子の姿は始めて見ました、このあとの目的地は?」


 「はい。次は〔氷の町ヒョールデン〕に向かいます」


 「そうですか。なら、この集落の反対の抜け道をお使い下さい。それでかなり早く進めますよ」


 「ありがとうございます、使わせて頂きます」


 「あんちゃん···また遊べる?」


 「当たり前だろ。近いうちに・・・・・また来るからな」


 「ホントっ⁉ へへっ、約束だよ‼」


 「ああ、約束だ」


 俺はギンガの頭を撫でる···近いうちに、それはエルルとクルルも一緒に、という意味も込めたつもりだ




 ギンガ達に別れを告げて、俺はバザルドの家に向かうのだった


 
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 「出発ですか······オレとしてはまだ、あなたに借りを返していない」
 「いやいいって、あと普通に喋ってくれよ」


 昨日の一件でバザルドは丁寧に話してくる。俺としては普通の硬い喋りのほうがいい。俺も気兼ねなく喋れるし


 「そ、そうか···わかった」
 「うん。それでいい」


 クエーナさんは一応安静にしてるらしく今は寝ている。俺は昨日の件は言わないことにした。エルルとクルルを見つけたら連れてこよう、そう決めた


 「バザルド···また来るよ。近いうちに必ず」
 「ああ、待ってる。その時は乾杯しよう」


 俺はバザルドと握手して集落を出た




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 藪に覆われた道無き道を進むと街道に出た。こんなとこ普通だったら入ろうなんて思わない藪だ、これなら集落までいけないだろうな


 俺は魔導車を出して乗り込む、するとそこにはクロがいた


 《次は〔氷の町ヒョールデン〕ネ。あそこでエルルとクルルの情報を集めまショ》


 「お前···そこまで知ってんなら出てこいよ」


 《······獣人は苦手なのヨ》


 そういえばコイツ、エルルとクルルの前じゃ1回も姿を見せなかったよな。クロって意外と弱点多いな


 とにかく、次の町でエルルとクルル···〔激獣兵団シバテリウム〕の情報を集めるとしますか




 そう考えて俺は魔導車を走らせた




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 事態は、ゆっくりと進行していた






 「貴様···それでも人間か?」


 「ええ、私の名を大陸中に広めるにはこれしかないわ。これは私の栄光の第一歩よ···ふふふ、あなたにも協力してもらうわよ?」


 「ふん。お前に握られた命だ、協力してやる···しかし、準備に時間がかかる。構わないな?」


 「もちろんです。ふふふ、裏切るなんて考えないで下さいね? あなたに埋め込んだ〔魔導核〕は私の意思一つで爆破します」


 「チッ···忌々しい人間め。このオレを使おうとはな···しかし、オレも連中には恨みがある···くくく、楽しみにしておけ」


 「ええ、私の栄光の為のイケニエ···くくく、ハハハハハッ‼」




 「くくくっ···人間とはここまで醜くなれるのか、実に愚かで······恐ろしい」






 とある洞窟の地下での密会


 一人は【白の特級魔術師 ウィゼライト・クラック】


 もう一人は異形の存在だった


 身長は3メートルほどの巨体、顔は牛のような顔で頭には角が生えている。屈強な肉体は全身鎧に包まれて背中には大剣を背負っていた




 【魔神獣・バッファボーン】




 それがこの生物の名前




 一人と一匹の密会が、災厄の始まりだった



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