ホントウの勇者

さとう

ウールブル雪山③/宴の始まり・白の嘆き



 起きると周囲は暗く、子供達はまだ寝ていた
 ゆっくりと起き上がり家の外に出る…すると、キャンプファイアーの炎が燃え上がり周囲を明るく照らし、周りには獣人の大人達が沢山の料理を作っていた


 大きな鍋に野菜と肉のスープが満たされ、メインはキャンプファイアーの上で焼かれる巨大なモンスターの肉。さらに大量の果物や他の生物の肉も焼かれて辺りにはいい匂いが充満し始めた


 「おーい、酒はこれだけか?」
 「仕方ないだろ、数が少ないんだ」


 ん?…近くに10本ほどの酒樽が積まれてる…吞む吞まないにかかわらず少なくないか?…この集落は800人、吞まない人がいるにしても全然足りない…すると


 「やぁジュート君。すまないね、子供達の世話までしてくれて」
 「あ、ギンゲルさん」


 ギンゲルさんが現れた。手には肉の塊を持っている


 「あの…お酒、足りないんですか?」
 「ん?…ああ、仕方ないんだ。私達はほとんど人間の町に近づかないからね、酒を手に入れるのは簡単じゃ無いんだ」


 なるほどな……よし、おいアグニちょっといいか?


 《お前…どーせ酒を出せって言うんだろ? 全部見てたぜ》


 話が早いな。いいだろ?…次の町でしこたま買ってやるからよ


 《やーれやれ。お前のお人好しにも困ったもんだぜ、ただし…高級酒はダメだぞ。あと樽も全部はダメだ》


 わかったよ。サンキューな


 《気にすんな、お前にはフィガロのトコで世話になったしな》


 そーかい。そんじゃアグニの許可も貰ったところでいきますか


 「ギンゲルさん。俺の酒で良かったら提供しますよ」
 「ホントかい!? そりゃ助かるよ」


 俺はさっそく亜空間から酒を取り出す。獣人は魔術に疎いので、亜空間から取り出すところを見られてもまぁ大丈夫かな


 「じゃあ出しますね……よし、このくらいかな」


 酒が保管してある場所は広場のやや外れ、そこに何人か獣人がいたがとりあえずどいて貰う
 そして魔術を使って酒を出し積み上げた……こんなもんかな


 「このくらいあれば大丈夫ですかね?」
 「……………」


 あれ、周りが皆硬直してる……足りなかったかな?


 「あのー…ギンゲルさん?」
 「え?…あ、ああ…コレ、全部酒なのかい?」
 「はい。足りませんでしたか?」
 「いやいやいや、足りる足りる、むしろこんなにいいのかい!?」
 「はい。町でいくらでも買えるんで」
 「そ、そうかい…」


 おおげさだな。たかが日本酒と麦酒と果実酒、合計300樽くらいで
 周りがどよめいてるけど大丈夫かな?


 すると大人達が何人も俺に礼を言いに来た


 「いやぁ今日はいい酒が飲めそうだ!!」
 「ありがとよ~少年!! こんなに沢山の酒初めてだぜ!!」
 「あら、しかも果実酒まであるわ。女性も喜ぶわ」


 まぁ喜んでもらえてなによりです


 そんなことで、宴の準備は整った


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 そして宴は始まった


 大人も子供も大いに盛り上がる。子供達は肉と果実を食べ、大人達は酒と肉で盛り上がる


 俺は何度も獣人達に肩を叩かれ、いつの間にか最前列へ。隣にはギンゲルさんがいてさらに隣には長老もいる。どうやら酒の件が効いてるようだ


 獣人達が伝統の踊りや武芸が出し物として繰り広げられ大いに盛り上がり、俺もそのうち楽しんでいた


 そして、バザルドがいないことに気がついた


 「ギンゲルさん、バザルドはどこに?」
 「ああ、あいつは宴が好きじゃないんだ。奥さんと一緒に家にいるはずだよ」
 「そうですか······」


 気になってしまうのは俺のサガ。仕方ない、ちょっとだけ様子を見てくるか。イヤなヤツだけど理由がありそうだし、人間嫌いの俺が行っても逆効果だけど、あれほどの強さの獣人だ···戦った俺としてはある程度の礼は尽くしたい




 俺は宴を抜け出して、バザルドの家に行くことにした




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 「ここか······」


 バザルドの家は集落中心の広場から少し高台に登った場所にある。下を覗くと宴の様子がよくわかった


 「バザルド‼」


 俺がここにいることなんてとっくに気づかれてると思うけど、一応大声で呼ぶ······すると、家の戸を開けてバザルドが出てきた。手にはナイフを持っている


 「······何しに来た」


 不機嫌をまるで隠そうとせずにバザルドが言う


 「いや、酒を届けに来た···お前も一緒にどうだ? もちろん奥さんも」


 「帰れ。人間に施しは受けない」


 「·····わかったよ」


 ダメだこりゃ。まぁそんな気はしてたけどね。でも、俺の思いは伝えておこう


 「バザルド、お前が人間嫌いなのには理由があるんだよな? それは別にいい」


 バザルドは俺の言葉にピクリと反応した


 「でも俺はお前と戦った時···楽しかった。こんなに強いヤツがいるなんてって、ワクワクしたんだ。だから、一人の戦士としてアンタを尊敬してる」


 「明日には出ていくよ、だからこの酒は餞別だ···ここに置いておくよ」


 俺は酒を岩の上に置いて立ち去ることにした···すると


 「······待て」


 「······ん?」


 バザルドが俺を引き止める




 「·····上がっていけ」




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 「おじゃましまーす······」
 「···なんだそれは?」


 俺の挨拶はバザルドに不審がられた
 どうやらこの世界に「おじゃまします」はないらしい


 「座れ」


 バザルドが椅子を勧めてくれる
 バザルドの家は普通の2階建てで、1階がリビングと台所、2階が寝室らしい···すると、2階から誰かが降りてきた


 「あら、いらっしゃい···バザルドのお友達かしら?」


 うおお···すっげぇ美人の獣人女性だ。この人がバザルドの奥さんか
 長い白髪をゆったり束ねた線の細い女性だ。年齢は20代前半くらい···けど、獣人の見た目と年齢は比例しないんだよな


 「クエーナ···寝ていろ」
 「大丈夫。今日は気分がいいの···外は宴で盛り上がってるからかしらね」


 クエーナと呼ばれた女性はニッコリ笑う···うーん、可愛さと儚さが混じり合ってものすごくキレイだ


 バザルドは薄くため息をつくと戸棚から小さな木のコップを3つ取り出す。俺が高級ブランデーを渡すと静かに注ぎ、俺にコップを1つ渡した


 「お前が戦士として振る舞うのなら戦士としてオレも返す···それは人間も獣人も関係ない、戦士としての流儀だ」


 「それでいいよ···乾杯」


 「ふふふ···乾杯」


 クエーナさんも嬉しそうに乾杯する




 少しキツイ酒だったが···何故かとても美味しかった




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 酒が入ったバザルドは少し饒舌になった


 「ふん、お前は···人間にしてはいいヤツだ。戦士として認めてやろう」


 「そりゃどーも。アンタも悪いヤツじゃないな、そこは認めてやろう」


 「アハハ、二人とも似たようなコト言ってるわよ?」


 「ぬ?······」
 「え?······」


 話してみると意外と気が合う。強いモンスターを倒した話や狩人としての半生なんかを聞いていたら、意外と時間が経っていた···すると


 「う···ゲホゲホ···ハァ、ハァ···」
 「クエーナ‼···しっかりしろ‼」


 クエーナさんが胸を抑えてセキをした······苦しそうにして顔色も悪い


 「クエーナは肺の病なんだ···薬草も効きにくい、何とか町の薬を手に入れなければ······」


 「バザルド······無理はしないで、あなたに何かあったら···あなたまで・・・・・居なくなったら私は···」


 えーと、これって俺が治していいパターンだよな


 「ちょっといいかバザルド···クエーナさん、身体を楽にして下さい」


 俺はクエーナさんを抱えるバザルドを押しのけてクエーナさんを椅子に座らせる


 「おい、何を‼」
 「いいから黙ってろ······」
 「ハァ、ハァ···あの···?」


 見た感じ肺の病気だけだな。顔色は悪いけど病気を治して安静にすれば大丈夫だな。よし、魔力を集中させて……


 「【白】の上級魔術、【完全なる状解ディスオール・ヘレナ】」


 淡い光がクエーナさんを包み込み······その身体を癒やした


 「よし。どうですか?」
 「······あ、あら? 何ともないわ、むしろ凄く楽になったし、体がとても軽いわ‼」


 よし。これで完治だな


 「あとは栄養をとって安静にして下さい。病気は治りましたけど無理はしないで下さいね」


 するとバザルドが俺の肩を掴んでブンブン揺すってきた


 「おい‼ どういう事だ⁉ 治ったのか? クエーナの病は治ったのか? 今のは魔術か? 何をしたんだ‼」


 「お、お、お、おち、おちつけ‼」


 「あ、ああ。スマン······」


 俺は事情を説明する···俺の魔術でクエーナさんの体の悪い部分が消えたこと、もう大丈夫なこと···するとバザルドは


 「よかった···よかったなぁクエーナ···ううう、おおおおおォォォォォォンン‼」


 お、男泣き······めっちゃガチで泣いてる


 「ああ···ありがとう、ありがとうございます」


 クエーナさんも嬉し泣きをする
 バザルドはクエーナさんを抱きしめてさらに男泣きをする······感動の場面だけど正直うるさい、声デカ過ぎだろ


 「じゃあ俺は帰るわ、じゃあなバザルド」


 「お待ち下さい‼」


 バザルドが真剣な表情で俺に向き直る。その瞳にすでに涙はなかった


 「ジュート殿、今まで数々の非礼ここにお詫びする。この度は妻を救って頂き、誠に感謝致します」


 「······気にしないで。人間も悪いヤツだけじゃないってこと、分かってもらえたらそれでいいよ」


 「·········それは」


 うーん。クエーナさんも黙っちゃったし、バザルドの人間嫌いの闇は深そうだ


 「······とにかく、おやすみ。また明日挨拶に来るよ」 




 そう言ってバザルド宅を後にした




 宴はまだ続いていた


 
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 今日の宿は長老宅、つまりギンガの家だ


 宴はまだ続いていたが俺は帰宅し、水を貰うため台所へ向かう···するとそこにギンゲルさんが水を飲んでいた


 「やぁジュート君、バザルドには会えたかい?」
 「はい。一緒に酒を飲んできました」
 「なんと!? あのバザルドとかい…大したもんだ」


 ギンゲルさんによると、バザルドは腕は立つが無愛想で、誰かと酒を飲むなんて殆どなかったらしい。バザルドはいつも病気の奥さんと一緒に過ごしているそうだ


 俺はギンゲルさんにクエーナさんの病気のことを話す


 「えぇ⁉ クエーナさんの病気を治してきた⁉」
 「はい。俺の魔術で何とかなりました」
 「はぁ〜······君は本当にスゴいな···」


 ギンゲルさんは感心して俺を見てる···なんか照れるな


 「いやぁ···でも、まだ人間嫌いは治らないみたいですけどね」


 俺は冗談めいたつもりで言ったが、ギンゲルさんは悲しそうな顔をして答えた


























 「それは仕方ないさ···あの夫婦は生まれたばかりの娘を2人、人間に奪われたからね」




























 その言葉は何故か俺の中に深く刺さった



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