ホントウの勇者

さとう

ウールブル雪山①/野獣の力・白き咆吼



 「ここが〔ウールブル雪山〕か?……なんか普通だな」
 《それでいいのヨ。天気もいいし、速く登りまショ》
 「そうだな。今日中に頂上までいこう」


 ウールブル雪山は穏やかな気候で日差しも温かい。しかし、人が登るような山ではなく道がない。林の間をかき分けるように進んでいく


 斜面はなだらかで急な崖こそあるがよほどのことが無い限り問題無い。日差しも強いし防寒具もあるし、チョット暑いくらいだった。それとモンスターもいない。いや、いるんだろうけど出てこない……たぶん人間を知らないから出てこないのか、それとも単純にいないのか


 考えても仕方がないのでゆっくり山登りをした




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 頂上まで半分の所で少し休憩することにして、近くの岩場に腰掛ける


 「ふう……ここは穏やかでいいな」
 《そうネ……アラ?》


 クロが何かに気付いたのか、歩き出して何かを咥えてきた


 《見てコレ……》
 「なんだそりゃ?」


 それは「矢」だった


 《コレはモンスターのホネを削って作った矢ネ。まだ新しいワ……近くで誰かが狩りをしてるカモ》


 矢を調べると、鏃の部分は動物のホネで出来ている。羽には鳥の羽をむしって付けたような、店ではなく手作りで一本づつ丁寧に作った感じだ


 「ふーん……まぁこれだけ広い山なんだし、誰か狩りぐらいするだろ」
 《……そうネ。じゃあ行きまショ》


 たいして気にすることもなく、俺とクロは再び歩き出した




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 山の頂上は眺めもよく空気も澄んでいるので気持ちがいい。頂上は開けた空間で山小屋とか建てたら儲かりそうな気がする。今日はここに泊まって明日下山することにした


 魔導車を出して中で休む。カレーの作り置きがあったので今日の晩ご飯はそれにするか……ご飯を炊いてクロのために魚を焼き晩ご飯の時間になった


 《………妙ネ》
 「ん?……どうした?」


 食事を終えてまったりしているとクロが突然語る


 《……妙な気配を感じるワ。なんだか…妙な》
 「えぇ?……そうかな、俺は感じないけど」


 クロは俺より感覚が鋭い。目に見えない何かを感じてるらしい


 「とにかく今日は休もうぜ。明日になったら考えよう」
 《……そうネ》


 とにかく今日は休もう……傾斜がそんなにキツくないとはいえ山登りに違いない。明日には下山だから体力は回復させなきゃな




 俺はランプを消して眠りに落ちた




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 朝起きて朝食を食べて下山の支度をして魔導車をしまう
 いざ下山、と思っていたらクロが言い出した


 《ジュート、こっち…昨日の気配を感じるワ》
 「そっち?……うーん……わかった。行ってみるか」


 クロが案内したのは下山ルートから外れた林の中
 藪の中をかき分けながら進む、こんなとこ普通は絶対に通らないだろうな


 しばらく進んでいると、岩場に着いた


 「ここは……行き止まりじゃん」
 《……待って、ココ……通れるワ》


 高さ20メートル以上の壁のような岩場が続いていて先には進めそうにないが、クロが示した先に隙間がある。よく見るとそこは藪で自然に隠されていて、まるでここから先の道を封鎖してるようだった


 《ドウする?…ここから先は関係無いワ。アナタに任せる》
 「うーん。でも、こういうの見せられると冒険心がうずくというか…」


 ここまで案内しといて引き返すのもなぁ…もしかしたらお宝があるかもしれない


 「よし!! 行ってみよう」
 《そうネ。そう言うと思ったワ》




 俺は藪をかき分けて岩場に入る……さて、何があるのかな




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 岩場の通路は狭く暗かった。けど…すぐに明るくなった


 「…っと。ここは…?」


 岩場からでた先は、普通の林だった……が


 《ジュート、コレ……》
 「ああ。足跡がある、しかもまだ新しい」


 人の手が加えられた林だった
 そのまま進むと明らかに違った。切り倒された木に、薪に加工された木の束、地面は踏みしめられて固く歩きやすい


 「1人じゃ無いな……かなりの人数が暮らしてる」
 《エエ、集落でもあるのかしらネ?》


 しばらく進んでいると大きな広場に出る。遮蔽物がなく円形の広場だ……


 俺は立ち止まり……【雄大なる死グロリアス・デッド】と【死の輝きシャイニング・デッド】を抜いてクロに言う




 「クロ……隠れてろ」




 それと同時に、数十本の矢が飛来した




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 俺は矢を全て回避して距離をとり、矢が飛んできた方向に視線を合わせる……すると、何人か武装した人間が飛び出してきた。そういえばこんな展開、エルフの地でもあったよな


 襲撃者の人数は8人、全員が金属製のナイフで武装し、俺に対して迫ってくる


 そして俺は見た。彼ら全員に共通する特徴を


 「まさか……〔白牙狼びゃくがろう〕?」


 その呟きに襲撃者の顔色が変わった
 白い耳とふさふさの白尻尾……間違いないよな


 「あ、あの…っ!?」
 「排除する…!!」


 聞く耳持たないみたいだ…襲撃者が全員襲いかかってきた




 ……やるしかない、か




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 俺も思考を切り替えて完全な戦闘モードになる


 「悪いけど倒させてもらうよ」
 「っ!?」


 ナイフの使い方は上手いがまだまだ俺の敵じゃない
 俺はザンクの動きをマネしてナイフを振るってみる


 手首、腕関節、肩関節を駆使した変幻自在の斬撃


 1人と正面から対峙すれば左右から隙を狙って上手くナイフを振るってくる。この人達連携も上手い…まるで集団での戦闘、いや…狩りになれた動きだ


 俺も多人数の戦闘経験があるが、この人達ほどの連携は取れていなかった。1人に集中すれば倒せるが仲間がそれを許さない。相手は8人で上手くローテーションを組んで俺に迫ってくる


 相手の狙いは俺の体力を削ること、力尽きたところで確実に息の根を止めに来るだろう


 さらに厄介なのはこの人達には油断がない。一人一人が精密な機械のようで、8対1だからといって全く油断していない……これが〔白牙狼〕か




 だったら、俺はさらにその上を行くだけだ




 俺は1人の男性と剣劇を繰り広げ、周囲の状況を確認した
 後ろに4人、左右に2人、正面に1人が待機している、左右の2人がスキを伺って俺に攻撃を繰り出そうとしていた


 「くらえ、【紫】の中級魔術、【雷撃の針サンダーブリッツ】!!」


 「ぎゃがぁぁぁっ!?」
 「ぐぎゃぁぁぁっ!?」


 俺はわざとスキを作り、左右から襲いかかってきた2人に雷撃の針を10発ほど浴びせ行動不能にする……あと6人


 「チッ…きさ…まっ!?」
 「動揺したな?」


 正面で剣をぶつけていた1人が僅かにぶれる、その瞬間にナイフの柄を腹に思い切り当てて眠らせた……あと5人


 残りのヤツらの場所を把握する、すると4人が向かってきて最後の1人が逃げ出したのだ


 これほどの使い手が逃げる……ちがう、仲間を呼びに行ったのか!!


 俺は〔マルチウェポン〕の短弓に矢をつがえて、向かってくる4人に対して魔術を使う


 「【黒】の中級魔術、【床闇之沼ダスク・マーシュ】!!」


 「なにぃっ!?」
 「うおおぉっ!?」
 「ちいぃっ!!」
 「くそがぁっ!!」


 黒い紋章が広がり沼が現れる
 沼の中に3人は肩まで引きずり込まれて動きを止め、最後の1人は紋章の手前で急停止した


 俺はそのスキに短弓で狙いを定めて……放つ
 距離は20メートル…ギリギリだ


 「くらえっ!!」


 矢は高速で風を切り、男性獣人の足を貫通した


 「ぐあああっ!?」


 そのままゴロゴロ転り、足を押さえて動かなくなった
 俺は最後の1人に向かって言う


 「………まだやるか?」


 できればもうやめて欲しい…そういう意味をこめた問いかけだった…しかし


 「当然だ、我らは誇り高き〔白牙狼〕…命を賭けて戦う!!」


 こりゃ厄介だ……こっちの事情を話そうにも聞いてくれそうにない


 俺は再びナイフを構えた……すると












 「やめろ……今のお前じゃ勝てない」


 「っ!?…バザルド!!」












 新手の〔白牙狼〕が現れた……勘弁してくれ




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 バザルドと呼ばれた獣人は注意を俺に向けつつ語る


 「ポグト、コイツはオレが引き受ける。お前は同胞達を頼む」
 「クッ……分かった。頼んだぞ!!」


 ポグトと呼ばれた獣人は、倒れた獣人達のもとへ向かっていく


 「キサマが何者かは知らんが……この地に入って生きて帰れるとは思うなよ…行くぞ!!」
 「ちょっ、ちょっと待って……うおおっ!?」


 速い!! バザルドは双剣を構えて一気に俺の所へ向かってくる
 距離は20メートルはあるのに2秒もかからず俺に斬りかかってきた


 俺は高速の斬撃を躱す……が、スピードが速すぎて全てを躱しきれない。俺もナイフで斬撃を受け流すが……かなりキツイ、そもそものパワーが段違いだ


 なんとか距離を取って相手を観察する……


 バザルドは身長は2メートルを超えた巨漢で、年齢は20代後半くらい、白い髪に耳としっぽ、白い毛皮の上下の服に腰に大きなナイフを2本装備している。腕はむき出しで丸太のような太さの筋肉で覆われ、下半身もかなりの強靱さが見て分かる、しかも全身白なのでこの雪原地帯では保護色の役割を果たしているので動きが見えづらい


 恐ろしい使い手だ……殺らなきゃ殺られる!!


 「ほう…いい顔になったな。オレを殺すか?」
 「さぁね…アンタはそうなんだろ?」


 その言葉が合図となり再び激突……動きが速すぎて魔術を使うヒマがない!!


 「ぬぅぅんっ!!!」
 「しまっ……がっあぁっ!?」


 ほんの一瞬のスキを付かれて、みぞおちに強力なケリを喰らってしまった。その衝撃でナイフを2本とも吹っ飛ばされた……呼吸が、マズイ!!


 「ふんっ…終わりだぁ!!」


 バザルドは蹲る俺に向かって双剣を振り下ろした……ココだ!!


 「くっら…えぇぇっ!!」
 「っ!? なにぃっ!? ぐううっ!!」


 武器がない俺にバザルドは僅かに油断した


 そのスキを付いて俺はバザルドの剣の振り下ろしに合わせてカウンターで飛び上がり、左手のギミックナイフでバザルドの右肩を貫いた…これは効いたはずだ!!


 「へっ……油断…したな!!」
 「くっ…!!」


 正直俺もヤバい……腹が痛くてズキズキする
 【雄大なる死グロリアス・デッド】と【死の輝きシャイニング・デッド】はコイツの後ろに、よく見ると周りの8人が復活してる…【床闇之沼ダスク・マーシュ】もいつの間にか解除されていた


 マズいな……【神器ジンギ】を使うしかない……!!


 俺は【神器ジンギ】を使おうと魔力を込めようとして、さらに新手の気配を感じた












 「みんなやめてよぉぉっ!! その人は悪い人じゃないよぉっ!!」












 どこか聞き覚えのある子供の声…俺は、いや、この場にいる全員がその声の主を見た


 「ギンガ!!……下がっていろ!!」
 「イヤだ!! その人は父ちゃんの命の恩人なんだ!! 敵じゃないよっ!!」


 この子は……〔ツァガーン雪山〕で助けた獣人の子供、ギンガじゃないか!?


 「ギンガ!! 久しぶりだな!!」
 「ジュートあんちゃん、久しぶり…まさかここで会えるなんて…」


 ギンガは大人達をすり抜けて俺の所へ来る…俺は周囲を警戒しつつギンガの頭を撫でてやった


 「わふ……へへへ」
 「父ちゃんはあの後どうだ? 元気か?」
 「うん。元気だよ、あんちゃんにお礼が言いたいってさ。集落の入り口が騒がしいってみんなが騒いでさ、こっそり様子を見に来たらまさかあんちゃんだなんて……ホントびっくりしたよ」


 ギンガはしっぽをパタパタさせながら嬉しそうに言う……すると


 「離れろギンガ!! その人間は侵入者だ!!」
 「やだぁっ!! やるんなら…おれが相手だっ!!」


 ギンガは腰から短い短剣を抜いて構える……こんなに小さくても〔白牙狼〕なんだな。でも、この子に戦わせるワケにはいかない……


 「ありがとなギンガ……俺も本気で行く」
 「あ、あんちゃん?」


 俺の纏う空気の変化に反応してギンガは身構える……すると




 「やめよ、双方とも剣を納めるのだ!!」




 今度は老人の獣人が現れる……もう勘弁してくれ。すると、他の獣人達が剣を納めた…が、俺はまだ警戒を解かずにそのまま観察した


 「人間よ…わしはこの集落の長を務めるガルモンと言う。そなたがギンガの父、ギンゲルを救ったというのに間違いはないかの?」


 「そうだよっ、あんちゃんが父ちゃんを救ってくれたんだ!! それはおれがほしょーするっ!!」


 俺はギンガの頭を撫でて黙らせると、長老のガルモンさんに言う




 「その通りです。俺はギンガの父親を助けました……こんな風に」


 「えっ…!?」
 「なっ…!?」
 「これは…!?」


 俺は怪我をさせた獣人に狙いを定めて【聖母祝福オラトリオ・キュアー】を使う。この魔術なら広範囲に回復が効く。その分、回復力は落ちるがこのくらいの怪我なら問題無いはずだ


 バザルドの怪我も治り、ついでに俺の腹も治す……すると、1人の男性が長老の隣から現れて俺に近づいてきた。この人はもしかして……


 「あなたに……ずっと礼が言いたかった」
 「父ちゃん!!」


 やっぱり、ギンガの父親か。怪我も治って元気そのものだな…よかった


 「立ち話もなんじゃ、我らの集落に案内しよう。皆もそれでよいな……?」


 「「「はいっ!!」」」


 獣人達の同意が得られたようなので集落に案内される




 「ふん……」




 バザルドは俺を睨み付けていたけどね……





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