ホントウの勇者

さとう

酒の町バッカスビル⑤/白き守銭奴・アグニの心



 突然の来訪者に、俺たちは硬直した
 ノンレムはポカンと口を開けて入口を見つめ
 フィガロさんは何とも言えない表情で女性を見ている


 「あら?…驚かせてしまいましたか。初めまして、私は【白の特級魔術師 ウィゼライト・クラック】と申します……座っても?」


 俺はカウンター席に彼女を案内した


 「じゃ、じゃあアタシたちはこれで!!」
 「また来るから、じゃあね!!」


 ノンレムは帰ってしまう…無理ないか、でも誰であろうとお客はお客


 「お飲み物はいかがいたしますか?」
 「そうね…キツいお酒をお願いするわ」


 フィガロさんは黙々とカクテルを作る…その様子を興味深そうに聖女は見つめていた


 「どうぞ、お召し上がりください」
 「ありがとう…ふふ、評判通りのお店ね。態度もいいし、お店もキレイだし…素晴らしいわ」
 「ありがとうございます」


 聖女はなぜか俺を見つめる……なんだろう、まるで値踏みされるような…


 「やっぱり、あなた…〔ユルセド村〕にいた冒険者ね?」


 マジかよ…あの時はほんの一瞬目があっただけなのに、俺を覚えてるのか?


 「ふふふ、隠さなくてもいいわよ? あなた…私がわかるんでしょう?」
 「……【白】の……特級魔術師、ですよね?」
 「そうよ? なぜそんなに警戒してるのかしら?」


 わからない…でも、俺の中の何かが警告している




 こいつは危険だ、と………




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 初めて見たときからなんとなく気に食わなかった


 今こうして見られるとよくわかる……俺にに微笑みかける笑顔が、あまりにも胡散臭いのだ


 まるで面白いものを見つけて笑いたいけど、それを出さずに必死で堪えているような…よく見るときれいな装飾品を付けている。宝石のはまった指輪、金に輝くネックレスにブレスレット、高級そうな首飾りに長い髪をまとめてる髪留め、着てる服も装飾が施された立派なもの、いかにもセレブな服装だった。メイクもばっちり決まっているし、これなら確かに聖女と言われるだけある。正直俺の好みではないが


 「明日には王都に帰るから、最後に評判のこの店に来たの…最高ね、あなたがオーナー?」


 フィガロさんに視線を移して優しく語りかける


 「よければ王都に来ない? 私の専属でお酒を作ってくれないかしら。王都で営業できるようにお店を出す資金を提供いてもいいし、この町にいるより儲かるわよ?」


 「…………遠慮します。この町は私の故郷なので」


 「ふーん……残念、振られちゃった。お酒しかないこの町は退屈ね、貧乏な冒険者ばかりで大した稼ぎにならなかったわ、あなたもそう思わない?」


 「………さぁ、俺には分からないですね。この町は酒の町、稼ぐよりお酒を飲んだほうがいいんじゃないですか?」


 「あら……ふふふっ、そのとおりね。あなたの言うとおりだわ、あなた…おもしろいわね、お金のない貧乏人ばかり相手してたから、あなたみたいな人は新鮮よ?」


 「………そりゃどうも」


 「あら、怒ったかしら? ごめんなさいね、私の力にあやかってくる愚かな奴らの相手に疲れちゃって。まぁそのぶん私の名前が有名になってさらにお金が入ってくるから我慢しなきゃだけど、ふふふ、いずれはこの大陸だじゃなくて8大陸すべてに私の名前を轟かせてみせるわ」


 「……………」


 なんだコイツは……頭おかしいのか?
 野心の塊、コイツは魔術師としての才能を金儲けに使っている……ダメだ、絶対に好きになれそうにない


 「うふふ、少し酔っちゃったわね…言いたくないことも喋ったわ。お願い、聞かなかったことにして? これは口止め料金ね」


 そう言って聖女ウィゼライトは一万ゴルド札を5枚置いて店を出て行った。ドアの向こうに護衛らしき影が見えたので1人ではないようだ




 「いやはや……ストレスでもたまっていたのかね?」
 「多分そうですね。でも…嫌いなタイプです」
 「私もだ……」




 俺とフィガロさんは顔を見合わせ苦笑した






 俺はこの時はまだ分からなかった








 【白の特級魔術師 ウィゼライト・クラック】






























 この女の野心が、とんでもない事態を引き起こすことに




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 それから数日間は平和だった
 お客さんも途切れることなく常連さんも出来たし、フィガロさんは新しいカクテルを開発中だ


 そして、〔バー・リプラ〕には新しい従業員が入った


 「フィガロさん、オリジンカクテル2つです」
 「わかりました、ボニーさん」


 ボニーさんという20代半ばの女の人だ。この人は最初は店に通っていたが、フィガロさんに頼み込んでここで働くことになったのだ。ちなみにボニーさんは町の果物屋の一人娘で、この店で使ってる果物はボニーさんの家から仕入れている。フィガロさんはこのころからボニーさんと知り合いだったようだ


 「ジュートさん…わかりますか?」
 「うん。さすがにね…ボニーさんでしょ?」
 「はい。ボニーさんはきっとお父さんのコト……」


 予想だけど、ボニーさんはフィガロさんが好きみたいだ
 カクテルを作るフィガロさんをうっとり見つめたり、フィガロさんと目が合うと慌てて反らしてしまう。フィガロさんも意識してるらしく、2人がくっつくのに時間は掛からなそうだ


 「リプラはいいのか?…ボニーさんが、その……」
 「はい!! ボニーさんは優しくて大好きです。ボニーさんがお母さんだったらいいのになぁ」


 うーん。10歳なのにお母さんのこと完全に吹っ切れてる。たいしたメンタルの強さだ


 俺もそろそろ旅を再開するかな……ボニーさんも仕事に慣れてきたし




 今日、仕事終わったらフィガロさんに言うか




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 「そうですか……行ってしまわれるんですね」
 「ジュートさん……」


 仕事が終わり、店の中でフィガロさんとリプラに話す
 俺としては明日にでも出発したいところだった


 「スミマセン、突然…この店はもう大丈夫でしょう。ボニーさんもいるし」
 「………はい。そうだ、ジュートさんに借りたお金を返さないと……」


 そういえばそんなのあったっけ……でも


 「いえ、いりません」
 「それは、ダメです。そんなことは私が許すことが出来ません。ここまでこれたのは全てあなたの力とアイデア、あなたがいなければ私もリプラもあのスラムで死んでいた。この恩を返さずに別れることは……出来ません!!」


 うーん。そんなに熱く語られると、でも……ホントにいらないんだ


 「じゃあ返して貰いましょう。その代わり…お金ではなく現物支給でお願いします」
 「……………は?」


 そう。きっとフィガロさんはこう言うと思っていたので考えがあったのだ


 「フィガロさんが作れるだけケーキを作っていただけませんか?…もちろんお代のぶん全てです」
 「……………け、ケーキ…ですか?」
 「はい」


 実はケーキのストックがもうない
 俺が作っても出来損ないのマズイケーキしか出来ないし、ケーキは何かと役に立つ。作ったのは〔カマクラハウス〕内で保存すれば時間が経過しないから腐らないし、食べたい時に食べれる


 フィガロさんにレシピを渡したときに試しに作って貰ったら、完璧にマスターのケーキをコピーしてた。これならどこに出しても恥ずかしくない


 「わ、わかりました……作らせていただきます……?」




 フィガロさんは困惑していた……まぁそうだよな、報酬がケーキだもん




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 それから2日間、フィガロさんは店を休んでケーキを作ってくれた
 リプラもケーキ作りを手伝い、かなりの量が完成。さっそく〔カマクラハウス〕にしまいこむ
 リプラはすっかり料理好きになり、ボニーさんとよく料理をしていた


 俺の出発は今日、リプラとフィガロさんが見送ってくれた


 「また是非いらして下さい。最高のカクテルを作りお待ちしてます」
 「またね、ジュートさん」


 店の中でお別れをする。ボニーさんとは昨日のうちに別れを済ませたので今日はいない。すると、アグニが現れた


 《元気でなフィガロ!! おめぇはオレが出会った人間の中で最高の職人だ、また酒を飲みに来るからウデを磨いておけよ!!》
 「は…はい!! ありがとうございます!!」


 《リプラも…ありがとよ。楽しかったぜ!!》
 「うん、アグニ……元気でね」


 リプラはアグニの頭を撫でる……こんな光景初めて見た


 「それじゃ元気で!! また会いましょう!!」


 そうして俺は町を後にしたのだった




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 魔導車の中にはクロとアグニがいる


 《…………》


 「アグニ、泣いてんのか?」


 《ば、馬鹿野郎!! んなワケあるか!!》


 アグニが外の景色を見ながらポツリと呟く


 《人間に……あんな風に言われたの初めてだったからよ、はは…元気でね、だとよ。こんなナリのオレ様の頭を撫でて……へへっ》


 《アグニードラ……》


 「また来ようぜ、フィガロさんならすげぇカクテルを作るはずだぜ。今から楽しみにしとけよ」


 《……おう、そうだな!!》


 アグニは大声で怒鳴る


 《さーて、さっそく酒盛りといきますか。おいクロシェットブルム、いい酒を出しといてくれや!!」


 《……フフっ…仕方ないワネ》


 クロもどことなくうれしそうに言うと、尻尾をくるりと回す


 「次は〔ウールブル雪山〕か…また山越えかよ、つらいぜ」


 《文句いわないノ。アソコはそんなにキツイ山じゃないから、2日もあれば超えられるワ》


 「よし、じゃあ行きますか!!」






 俺は2度目の雪山…〔ウールブル雪山〕に向けて走り出すのだった







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